第八話「逃げて欲しくなかったから」(脚本)
〇生徒会室
放課後の部室。
三鈴は台本の執筆が上手くいかず、相変わらず机の前で頭を抱えていた。
海東三鈴「ダメだ・・・こんな台本なら小学生でも書ける・・・まるで響かぬ・・・」
平井智治「三鈴さん大丈夫ですかね・・・?」
摂津亜衣「昨日より深刻になっているな」
小山内陽菜「沙也加、三鈴の家に行って台本作り手伝ったんじゃないの?」
青野沙也加「そうなんだけど、昨日書いたのもパッとしなかったんだ」
小山内陽菜「はぁ・・・しょうがない」
小山内陽菜「今日はみんなで気分転換でもしようよ。ね、三鈴」
海東三鈴「でもまだ脚本もできてないのに──」
青野沙也加「だったら私、いいところ知ってるんだけど」
海東三鈴「・・・いいところ?」
〇花模様
第八話「逃げて欲しくなかったから」
〇草原の道
演劇部の五人は、近くにある大きな自然公園にやってきた。
公園の桜は既に散って、地面にはピンクの絨毯が広がっている。
摂津亜衣「ほらっ! どうだ?」
平井智治「ちょっ、亜衣さん! ボール飛ばしすぎですよ!」
小山内陽菜「亜衣! そっちにボール返すよー」
青野沙也加「・・・遊ばないの?」
海東三鈴「いいところってここ?」
青野沙也加「うん。桜がきれいな場所だから」
海東三鈴「もうほとんど散ってるじゃん」
青野沙也加「やっぱり、春がテーマだと難しい?」
海東三鈴「正直なとこ・・・嫌な気持ちにしかならないかな」
青野沙也加「・・・・・・」
ボールが三鈴の足元に転がって来た。
小山内陽菜「三鈴~! こっちに投げてよー」
海東三鈴「・・・・・・」
青野沙也加「取ってあげれば?」
海東三鈴「沙也加が取りなよ」
青野沙也加「ったく、しょうがないな」
青野沙也加「行くよ~!」
沙也加がボールを投げると、ボールは明後日の方向に飛んで行ってしまった。
小山内陽菜「ハハハ! 沙也加、どこ投げてんのよ」
平井智治「青野さんにも苦手なことがあったんですねえ」
青野沙也加「くっ・・・もう一回!」
三鈴をその場に残して、沙也加も陽菜たちの方へ走っていった。
海東三鈴「・・・いいもん。私は書くだけだから」
地面に座ってノートを取り出す。
そのとき、飛んできたボールが、ノートを弾き飛ばしてしまった。
海東三鈴「!?」
小山内陽菜「あっ、今のはわざとじゃ──」
海東三鈴「もうっ! なんなのよ、あんたたち」
小山内陽菜「ご、ごめん」
海東三鈴「こっちはいい作品を作るために真剣に悩んで考えてるの」
海東三鈴「気分転換とか言って、自分たちが遊びたいだけじゃない」
摂津亜衣「三鈴。私たちは──」
海東三鈴「あー! みんな嫌!」
海東三鈴「てかプンプン怒ってる自分がいちばん嫌だ~!」
三鈴は落ちたノートも拾わず、走ってどこかに消えてしまった。
小山内陽菜「あ~あ、行っちゃった」
平井智治「大丈夫、ですかね?」
摂津亜衣「なわけないだろ。探しに行こう」
青野沙也加「・・・私に任せて。 ちょっと二人で話してくる」
〇公園のベンチ
沙也加が辺りを見回しながらやってくると、ベンチに座る三鈴の姿を見つけた。
沙也加も三鈴の隣に腰かける。
海東三鈴「横に座らないで」
青野沙也加「ごめん。怒らせるつもりはなかった」
海東三鈴「・・・・・・」
青野沙也加「私も、みんなも、三鈴のことを心配してる。それくらいわかるでしょ?」
海東三鈴「台本ないと始まらないもんね」
青野沙也加「そうじゃない。三鈴が仲間だから」
海東三鈴「あんなに楽しそうに遊んでたくせに」
青野沙也加「違う。私は──」
海東三鈴「聞いたんでしょ? 私が、春を嫌いな理由」
海東三鈴「それなのに、こんなとこ連れて来るのって残酷だと思わないの?」
青野沙也加「三鈴に逃げて欲しくなかったから」
海東三鈴「なにそれ・・・そういうのお節介だよ」
立ち去ろうとする三鈴を、沙也加が引き留める。
青野沙也加「待って・・・! 見てもらいたいものがあるの」
沙也加は三鈴の手を取って歩き出す。
海東三鈴「ちょっ! な、なんなのよ・・・!」
〇黒
沙也加は三鈴の手を引っ張るようにして、グイグイと丘を登っていく。
海東三鈴「沙也加! いい加減にしてよ!」
青野沙也加「うん・・・ここだ」
海東三鈴「・・・?」
〇桜の見える丘
丘の上には、遠くの山々に美しい桜並木が広がっていた。
海東三鈴「すごい・・・まだあんなに桜が咲いてるなんて」
青野沙也加「向こうの山は遅咲きなんだよ。 だから今がピークなの」
海東三鈴「こんな場所があったんだ・・・」
青野沙也加「特等席。私ね、春になると必ずこの場所に来るんだ」
青野沙也加「でも・・・やっぱりお節介だったかな」
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