私立桜田高校演劇部 ~春は舞台で青く色づく~

YO-SUKE

第七話「春が嫌いになってしまった」(脚本)

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〇生徒会室
  放課後の部室。
  三鈴は真っ白なノートを前にして、頭を抱えていた。
海東三鈴「ぐぬぬ・・・書けぬ。 一体何を書いたらいいのやら・・・」
青野沙也加「どうしたの? あれ」
小山内陽菜「大会用の台本」
小山内陽菜「うちの部は代々、部長が台本書くことになっててさ。張り切って取り組み始めたんだけど」
摂津亜衣「台本を書くってそんなに大変なのか?」
平井智治「はい。銀河鉄道の夜とか、星の王子様みたいな古典作品を脚色するのだってすごく難しいんですけど・・・」
小山内陽菜「大会ではオリジナル作品のほうが評価されることが多いからね」
小山内陽菜「でもモチーフ(題材)選びで苦労してるみたい」
平井智治「どんな話で行くかっていうモチーフは、一番重要な部分ですもんね・・・」
海東三鈴「もうダメだー!」
海東三鈴「ちょっと私、気分転換に校庭走ってくるっ!」
小山内陽菜「ちょっ・・・! 運動部に迷惑かけないでよ!」
青野沙也加「モチーフ選びか・・・」

〇花模様
  第七話「春が嫌いになってしまった」

〇公園のベンチ
  帰宅中、沙也加はベンチでノートを広げている三鈴を見つけた。
青野沙也加「ねえ」
海東三鈴「わっ! な、なによ!」
青野沙也加「なんでこんなところで書いてるの?」
海東三鈴「家だと集中できないってだけ」
海東三鈴「てか前から思ってたんだけどさ、私、一応先輩なんですけど。敬語も使えないわけ?」
青野沙也加「使って欲しい?」
海東三鈴「今さらいい」
青野沙也加「わかった。それじゃまた」
  去って行こうとする沙也加。
海東三鈴「って薄情かよ!」
海東三鈴「なんかこう、もう少し助けようって気持ちないわけ!?」
青野沙也加「お腹空いてイライラしてるんじゃない? ごはん食べなよ」
海東三鈴「雑っ!」
海東三鈴「よーし分かった、ご飯食べようじゃないか!」
青野沙也加「?」

〇二階建てアパート

〇アパートの台所
  台所に立って食事の支度をする三鈴。
  沙也加はテーブルの前で、ご飯をガツガツと食べる三鈴の父と弟を見つめていた。
海東慎吾「姉ちゃんのご飯おいしいでしょ?」
海東忠司「こら。馴れ馴れしくするんじゃない。 うちの息子がすみません」
青野沙也加「いや、私は別に」
海東忠司「ところで青野さん、サインください」
青野沙也加「は?」
海東忠司「いやぁー。あの青野沙也加さんと食事をできるなんて一生に一度だろうから。ハハハ」
海東三鈴「ちょっと! お父さんのほうがよっぽど馴れ馴れしいじゃない」
海東忠司「今日までダメな娘だと思っててすまん。 お前は世界一の孝行娘だ!」
海東三鈴「調子いいんだから」
海東三鈴「それより、ご飯食べ終わったら私たちは台本書くから、邪魔しないでよね」
海東慎吾「えー。テレビ観たかったのに」
海東忠司「俺も青野さんと台本書くぞ!」
海東三鈴「お父さんはいらない!」

〇ダイニング(食事なし)
  リビングには仏壇が置かれていた。
  そこには、優しそうな女性の遺影が飾られている。
青野沙也加「・・・・・・」
海東忠司「良かったらこれ、どうぞ。 いま三鈴、洗いものしてるから」
青野沙也加「ありがとうございます」
海東忠司「いつも三鈴に振り回されて大変でしょ」
青野沙也加「はい。もう慣れましたけど」
海東忠司「ハハハ。青野さんは正直だなぁ」
青野沙也加「あの・・・仏壇の写真って三鈴のお母さんですか?」
海東忠司「ああ、三鈴が七歳のときだったかな」
海東忠司「妻がお花見の帰り道に事故で亡くなって、それ以来男手一つで育ててきたんだ」
青野沙也加「・・・・・・」
海東忠司「春が来る度にお母さんのことを思い出して泣いて・・・あの子はすっかり春が嫌いになってしまった」
青野沙也加「そうだったんですね・・・」
海東忠司「でも演劇に出会って、青野さんのような友達と一緒にいるようになって、随分明るくなったように思う」
青野沙也加「いや、私なんてまだ出会ったばかりで何も──」
海東忠司「三鈴のことをこれからもよろしくね」

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