タワーディフェンス・レーヴァテイン dominate_ep8

R・グループ

第1話 文明の最前線(シビライゼーショナル・フロントライン)(脚本)

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〇宇宙空間
エリス「“敵”、距離いくつ?」
クッキー「距離52mAUだよっ!」
エリス「正吾! ドライブ全開! 一気に前線を突破してくれ」
エリス「俺のレーヴァテインでフラグボスを仕留める!!」
セリカ「よっしゃまかせとけ! 爆走してやるぜっ!」
  頭上にエリスと表示されている少女が長距離砲のアナログスコープをのぞき込む。
  “彼”は僅かな点に狙いを定めた。
エリス「──ッ!!」
  標的に命中
  敵衛星(フラグボス)は四散した。
  <ミッション・コンプリート>
「おっしゃあ!!」
セリカ「やっぱ、海斗の射撃はパネェな! タマがキュンと縮まったぜ!!」
クッキー「海斗くんにロングレンジさせたら 日本一だよねっ!」
エリス「いやぁ~絶ポジ(※絶好のチャンス) 作ってくれたおかげだよ!」
「あははははーっ!!」
セリカ「レーヴァテインの量子加速射撃は観測で誘導するんだろ?」
エリス「そうだよ 量子の波動と粒子の二重性を利用して弾を加速させるんだ」
クッキー「レーヴァテインは砲手の集中力で当たる確率がぜんぜん違うっていうよね」
エリス「で──俺はこの必殺技を "シュレーディンガー・ショット" と名付けたんだ!」
セリカ「なんだそりゃ?」
クッキー「量子猫の人?」
エリス「シュレーディンガー博士は古の大戦で砲兵士官だったんだ」
エリス「それにあやかった」
クッキー「海斗くんは相変わらず面白い事知ってるね!!」
セリカ「完全に厨二病だな」
「あはははー!!」
エリス「よーし、次のステージ行くぜッ!」
セリカ「おう!」
クッキー「がんばるよぉ!」

〇VR施設のロビー
  『カレイジャス・ストロングホールド』
  (Courageous Stronghold)通称CSh。
  タワーディフェンスゲームと呼ばれる
  拠点防御型のオンラインゲームだ。
  太陽系に接近する恒星“グリーゼ710”
  この星に住む“敵”が地球に向かって隕石を飛ばしてくる。
  巨大隕石が地球に衝突すれば人類は滅亡しゲームオーバー。
  プレイヤーは地球を守るため宇宙基地シオンベースの戦士(クルー)となって戦うゲームである。
クッキー「今日のロビーは混んでるねー」
セリカ「今晩アプデだからなー」
エリス「スクランブルの順番待ち 長そうだな・・・」
  ミッションを終えるとアバターに設定された衣装へ戻ってロビーに移動する。
  このSFアサルトゲームは女性アバターしか選択できないという珍しい特徴があった。
  常に美少女の姿でプレイする設定が評判となり、プロチームもある人気ゲームである。
  ロビーには100人ほどのプレイヤーが次のミッション開始を待っていた。
エリス「来週土日の札幌大会に備えてもう少しランクを上げておかないと──」
セリカ「今のオレたち日本で100位前後だろ? 一次予選免除ぐらい十分狙えそうだ」
クッキー「ボクたちならいけるって!」
  彼らがプレイしているのは3人乗りの航宙艇『カレイジャス』で敵を撃破するミッションである。
エリス「月島海斗、県立豊原高校2年生」
エリス「エリスというアバターで砲撃を担当する攻撃手(アタッカー)」
セリカ「善通寺正吾(ぜんつうじしょうご)、同じく2年」
セリカ「セリカというアバターで航宙艇を操縦する操縦手(ソーサー)」
クッキー「九鬼雄太(くきゆうた)、2年」
クッキー「クッキーというアバターで索敵を行う観測手(ディーバー)」
  eスポーツが盛んになったこの時代、コンピューターゲームも学生活動の一環として認められていた。
  彼らはアサルトゲーム部の生徒である。
  放課後、いつものように部活動でゲームをしていた。
エリス「大会はボイチャだしコントローラーも正規品だからなぁ・・・」
クッキー「練習が必要だね!」
  CShはVoC(ボイスチェンジャー)を搭載しており、リアルタイムでマイクの音声を人気声優の声に変換できた。
  VRゲームは2Dゲームに比べれば没入感は高いものの、VRゴーグルや3Dコントローラーの操作にはかなり慣れが必要である。
  神経とゲームを直接リンクするようなフルダイブタイプのゲームはまだない。
  <スクランブル>
セリカ「おっ!? 次のミッション始まるぞ!」
エリス「よしみんな行くぞ!!」
「バトルユニフォームチェンジ!!」
セリカ「気合入れるぜ!!」
クッキー「がんばるよぉ!」
エリス「いくぞッ!!」

〇学校の部室
月島海斗「あ、あれ?」
善通寺正吾「なんだよ!? 筐体の電源が落ちてるぞ!!」
九鬼雄太「どうしちゃったのかなぁ?」
筑波神楽耶「ちょっとあなた達! 下校時刻をとっくに過ぎてるでしょ!!」
筑波神楽耶「部活動の終業時間を過ぎたので 教室の電源を落とさせてもらったわ」
筑波神楽耶「筑波神楽耶(つくばかぐや)、豊原高校2年、生徒会長」
筑波神楽耶「成績優秀、容姿端麗、面倒見が良く、多くの生徒から人気者である」
筑波神楽耶「日本共和国でも有数の名家の生まれで両親は世界を統治している連邦議会で働いているらしい」
筑波神楽耶「だが、アサルトゲーム部からすれば天敵ともいえる存在である」
月島海斗「生徒会長・・・」
善通寺正吾「まーた うるせぇのが来たぜ」
月島海斗「来週の大会に備えて練習が必要なんだよ!」
善通寺正吾「他の部活だって夏の大会に備えて活動延長してるじゃねーか!」
九鬼雄太「学校だと回線を3つ使えるから練習しやすいし・・・」
筑波神楽耶「ゲームなんて自宅に帰ってからやりなさいよ!」
筑波神楽耶「それにあなた達 学校の回線を独占してるでしょう!!」
筑波神楽耶「他の部活から生徒会に苦情が来ているのよ!」
  海斗たちは抗議したが
  生徒会長は頑(がん)として譲らない。
善通寺正吾「ちっくしょー・・・ 鉄の女が・・・」
九鬼雄太「生徒会長は絶対に意見を曲げないよね」
月島海斗「仕方ない 今日は帰るしかないか・・・」
筑波神楽耶「・・・」
  神楽耶は部室内に貼られている
  CShのポスターに目を留める。
筑波神楽耶「このポスターは風紀違反よ。 明日までに処分しなさい」
「ええーっ!!」
月島海斗「CShのポスターは俺たちのアバターで作られた世界にひとつだけの物で・・・」
善通寺正吾「有料ユーザーだけが1つだけ貰える非売品なんだぞ!!」
筑波神楽耶「ここは学校よ! 公共の場なのよ!」
筑波神楽耶「AIが描いた卑猥なポーズのポスターなんてイヤらしい!!」
筑波神楽耶「こんな不潔で汚らわしいものを学校に置かないでちょうだい!」
善通寺正吾「相変わらず男のゲームに理解のない女だぜ・・・」
九鬼雄太「取りつく島が無かったね・・・」
月島海斗「じゃあ・・・家で繋いで練習しよう!」
善通寺正吾「よっしゃ! そうしようぜ!!」
九鬼雄太「そうだね! じゃあCShのロビーでまってるよぉ!」
  いったん決断したら男の身支度は早い。
「じゃあ、また後で!」
  短い会話で別れの挨拶を交わすと、それぞれの自宅へ急いだ。

〇アパートのダイニング
月島海斗「ふー 帰宅して飲むガラナはうまいなぁ!」
月島海斗「さっさと夕食を食べて ゲームにログインしないと・・・」
海斗の父「海斗、ちょっと待ちなさい。 話があるんだ」
月島海斗「な、なに!? なんだい父さん」
海斗の父「勉強は1日1時間やるお父さん達との約束だろう? もう一週間サボってないかい?」
月島海斗「CShの大会が終わったらまとめてやるよ・・・」
海斗の母「海斗くん 来年には受験生なのよ」
海斗の母「遊ぶのはいいけど お母さん、約束通りのお勉強もして欲しいわ」
月島海斗「・・・」
海斗の父「海斗、ゲームが好きなのはわかるがしっかり勉強もしなさい」
海斗の父「ちゃんとした大学に入ってからやればいいだろう」
月島海斗「CShはeスポーツとしてプロチームもあるんだよ!」
月島海斗「eオリンピックの種目にもなってるし・・・」
海斗の父「そのプロになれるのはどれぐらいなんだ?」
月島海斗「えっと・・・ スポンサーがつけば・・・」
  海斗は口ごもる。
  プロゲーマーへの道は大学受験より遥かに険しい。
  しかも、eスポーツ業界はゲームの広告になる人気アイドルやトークの上手いユーチューバーを起用する場合が多い。
  "ゲームが上手いだけの人"では食べていけない世界である。
海斗の父「海斗、勉強してから遊びなさい」
月島海斗「わかったよ・・・」

〇男の子の一人部屋
月島海斗「はぁ・・・ 正吾と雄太に伝えないと・・・」
  海斗は友人たちにメールで不参加を伝えた。
  そして1週間分溜まっていた参考書を開く。
  1日1時間単位で勉強するタイプの有名な教材だ。
  彼はペンを取るが、CShのアップデートが気になってぜんぜん頭に入らない。
月島海斗「はぁ・・・ ゲームやりたいなぁ・・・」
月島海斗「・・・」
  それでも海斗は黙々と与えられた範囲のノルマをこなす。
月島海斗「ふー やっと終わった」
  時計を見ると日付が変わっていた。
月島海斗「もうアプデはとっくに終わってるだろうなぁ・・・」
  海斗はスマホを取り出し
  CShの公式サイトやSNSで情報を集める。
月島海斗「おや? メテオ君からDM来てる・・・」
  メテオ君とは4年くらい前からよく一緒にオンラインゲームをプレイする仲間だ。
  SNSには『やっと就職決まった!!これで好きなだけ遊べるぜ!』とDM(ダイレクトメッセージ)が着信していた。
月島海斗「メテオ君は大学生だったのか・・・」
  直接会ったことは無いが、海斗が中学1年の時、メテオ君は大学1年だったことになる。
月島海斗「メテオ君は受験勉強してちゃんと大学入ってから俺と遊んでいたんだな・・・」
月島海斗「とりあえず褒めておくか・・・」
  海斗は『社畜乙!またスマクラしようぜ!!』と返事を送った。
月島海斗「メテオ君の人生は順調なんだなぁ・・・」
  オンラインだけとはいえ、最も交流の深かった友人が社会を進んでいる。
  海斗は自分の将来に不安を覚えた。
月島海斗「受験かぁ・・・」
  受験、大学、就職、結婚、子育て、生涯年収、老後・・・
  平和な時代にはそういう社会のレールがすでに敷かれている。
  海斗は『イヤ』と断れない性格だった。
  社会の圧力には屈するし、周囲に促されれば素直に従う。
  だが、ゲームの世界は彼に自由を与えてくれた。
  危険に満ちた戦場
  世界を守るという使命
  敵を倒す技術を高める向上心
  勝利によって得られる報酬と賞賛
  これらは平和な世界には無縁なものだ。
月島海斗「ゲームの大会でどれだけ活躍しても・・・社会は認めてくれない・・・」
  海斗は気晴らしに好きなアイドルグループ『S&PR500』の曲を流す。
  そして壁は貼ってある海斗が推しのアイドル、白石愛生(しろいしあき)の水着ポスターに視線を移した。
月島海斗「札幌大会の本戦には『S&PR500』の"あき"ちゃんが来るんだっけ・・・」
月島海斗「会いたいなぁ・・・」
  男子であれば誰でも
  熱いバトルとかわいい女の子に憧れる。
  日頃は従順で温厚な彼も
  そういう気持ちは人一倍強かった。
  しかし海斗がいくら努力しても
  CShのアバターのような美少女とは会えない。
  アイドルのようなかわいい女の子と付き合うこともない。
  かといって、海斗は異世界や輪廻転生のような非現実に逃げる気もない。
  現実とはそういうものだ。
  そう自分を納得させるしかなかった。
月島海斗「ふー・・・」
月島海斗「1戦ソロプレイしてスカッとするか!」
  海斗はVRゴーグルを取り出すと
  少しの間だけログインすることにした。

〇VR施設のロビー
  海斗のアバター『銀髪の処女エリス』
  αラグナ族という世界で最も強力な”VAF”という特殊な力を持つ種族である。
  そして海斗が自分好みの容姿を登録したアバターだった。
  海斗は慣れた動作でフレンドのログイン状況やアプデの更新情報をチェックする。
エリス「さすがに正吾も雄太もいないなぁ・・・」
エリス「もう寝ちゃったか」
エリス「えっと・・・どうやらソロプレイ用の新ミッションが追加されたみたいだな」
  CShには3人乗りの航宙艇『カレイジャス』の他に、1人乗りの単座機『ヴァルキリー』を使うソロミッションもあった。
エリス「よし、今日はソロでやってみるか!」
  海斗はミッションを選択して待機する。
  あとは開始を告げる『スクランブル』を待つだけだ。
エリス「ソロは久しぶりだけど、しっかり稼がないとランクに影響するからな・・・」
  <スクランブル>
エリス「おっ、来たみたいだな!」
エリス「バトルコスチュームチェンジ!!」
エリス「よっしゃ! 気合い入れるぜ!!」
エリス「いくぞッ!!」

〇宇宙空間
エリス「くらえッ!」
エリス「──次ッ!!」
エリス「いいぞ!!」
  ゲームに集中していると悩みも吹き飛ぶ。
  とにかく今日の海斗は絶好調だった。
  どんどんスコアが重ねられていく。
  時間にして30分
  あっという間に時は過ぎた。
  <ミッション・コンプリート>
  すぐに今回の成績ランキングが表示される。
エリス「えっ、俺がランク1位!? まじか!?」
  海斗は驚愕(きょうがく)する。
  世界の全プレイヤーの中で1位である。
エリス「1位・・・ すげぇ・・・」
  海斗は勝利の余韻で恍惚(こうこつ)とした気分になる。
  海斗は狙撃が得意だったし
  練習も欠かさなかった。
  その日頃の努力が実ったわけだ。
  だが、すぐに現実的思考に引き戻される。
エリス「まぁ、アプデ直後でまだ情報が無いだけだよなぁ・・・」
  オンラインゲームの攻略情報はすぐにネット上で拡散される。
  海斗のスコアなど世界中のプロゲーマーによって簡単に塗り替えられてしまうだろう。
  だが、逆にいえば今が個人の資質を示せる機会ともいえる。
エリス「やっぱ、俺って凄いんじゃないか?」
  海斗が己惚(うぬぼ)れていると
  突然、表示が切り替わった。
  <あなたは自分の力で未来を切り拓きますか?>
エリス「えっ? なんだこのメッセージ!?」
  何度もプレイしているが一度も見たことのない選択肢だ。
エリス「まぁ、世界1位だもんな── レア報酬とか手に入るのかな?」
エリス「いや、トップランカー用のエクストラマップとかかも?」
エリス「まぁ、何でもいいや! 今日はどこまでも挑戦してやる!!」
エリス「俺は自分で自分の道を切り拓いてやるぞ!!」
  明日の学校とか、月末のテストとか
  やらない理由はいくらでも見つけることができる。
  そんな先のことなど全て忘れ、ひたすら目の前の勝利を目指し邁進(まいしん)する。
  そこには、いつの時代にも変わらない
  『男の性(サガ)』があった。

〇実験ルーム
月島海斗「あれ・・・ ここは?」
ユニックス「『イ=ス』システム作業終了」
ユニックス「ようこそシオンベースへ ここはメディカルスペースです」
月島海斗「ああ、リスポーン地点か・・・」
  気が付くとシオンベースの医務室(メディカルスペース)で横になっていた。
  ゲーム中で戦闘不能になると戻される場所である。
  目の前には女性のT属(※この世界のアンドロイド)が円錐形の装置を操作していた。
月島海斗「あれ? 俺、ゲームオーバーになったっけ?」
ユニックス「入れ替わりは正常に成功したようね」
ユニックス「ではチュートリアルの担当者を呼んでくるわ」
ユニックス「ここで待機していて頂戴」
月島海斗「は、はい」
  海斗はすぐに異変を感じる。
  周囲をかなりリアルに感じるのである。
月島海斗「コントローラーがない?」
  3Dコントローラーを握っていると自分の手を見る事は出来ないはずだった。
  しかし、今は自分の手を確認できる。
  よく見ると海斗の手は男性のゴツゴツしたものからスベスベした手に変わっていた。
月島海斗「ボイスチェンジャーを使っていないのに女の子の声だ・・・」
  声だけではない。
  身体を起こすと長い髪が顔に被さる。
  前髪ももみ上げも海斗が今まで経験した事のない長さになっている。
  さらに大きな変化に気が付く。
月島海斗「胸がある!?」
  自分の胸が弾む感触は、男である海斗にはまったく経験のない新鮮な感覚だった。
月島海斗「俺がアバターの服を着てる!?」
  VRゴーグル越しに自分の姿を見た場合でも
  自分の姿はアバターが着ている服が映る。
  しかし、今はどうやら実際に自分がその服を着ているようだ。
月島海斗「スカート履いてるなんて・・・」
  海斗が課金してエリスに着せたカジュアルウェアだが、現実には一度も履いたことのないスカート。
  そしてその先から伸びている艶やかな両脚は、男性のそれとはまったく違うものだった。
  しかも、豊かな胸が視界を遮り、屈まないと下半身が見えない。
月島海斗「どうなってるんだ・・・」
  恐る恐る手を伸ばし、スカートの上から股間を弄(まさぐ)ってみる。
  しかし、いくら探しても彼のモノに触れることはできない。
月島海斗「ない・・・」
  いや"無い"のとは少し違った。
  海斗の性器は小さく折り畳まれ、股の間に埋め込まれてしまったような感覚がある。
月島海斗「なんか妙だ・・・」
  海斗は男性的な欲望で興奮していた。
  しかし下腹部の外見は今まで性的に興奮してきた時のような反応は何もおきていない。
月島海斗「勃っているような感覚はあるのに・・・」
月島海斗「ど、どうなってるんだろう・・・」
  海斗は今までとまったく違う感覚に"そこ"がどうなっているのか直接確認したいという強い好奇心が湧き起こる。
月島海斗「ま、まぁ自分のアバターだし何をしてもいいよね・・・」
  緊張しながらスカートの裾をゆっくりとたくし上げていく。
  その時──
リスミー・マクマード「どうやら作戦に参加する 最後の挑戦者が到着したようね」
月島海斗「うわっ!!」
リスミー・マクマード「こんばんは、月島海斗くん。 女の子の調子はどうかしら?」
月島海斗「どうして俺の本名を・・・」
リスミー・マクマード「君のことはなんでも知っているわ」
リスミー・マクマード「私は教養課長のリスミー・マクマードです。 新兵の教育を担当しています」
月島海斗「あ、あの・・・ ここはどこなんですか?」
リスミー・マクマード「ここはシオンベース 人類最果ての砦よ」
月島海斗「シオンベースって・・・ カレイジャス・ストロングホールドの?」
リスミー・マクマード「そうよ あなたはこの基地のクルーに志願したの」
月島海斗「夢・・・いや これってゲーム世界に転生したとかいうやつですか?」
月島海斗「それともフルダイブのゲームに呑み込まれたとか・・・」
リスミー・マクマード「どちらも違うわ。 ここは現実よ」
月島海斗「これが現実!?」
リスミー・マクマード「あなたは地球を破壊しようと企む"敵"から人類を守るためにここに来たの」
月島海斗「"敵"だなんて・・・」
月島海斗「大戦も終わって世界はどこも平和なのに・・・」
リスミー・マクマード「"グーリゼ710"は現実に存在する恒星よ。 太陽系にまっすぐ向かってきている」
リスミー・マクマード「私たちの時代にこの星が最接近することになったの」
月島海斗「知っています。 恒星アアルの学術的名前ですよね」
月島海斗「YouTubeで見ましたし、wikiにも書いてあります」
月島海斗「でもその星は太陽の1光年付近を通過するだけで地球に影響はほぼ無いって・・・」
リスミー・マクマード「”グリーゼ710”には知的生命体がいた。 それは明白な敵対的意志で私たちを滅ぼそうとしている」
リスミー・マクマード「それが私たちの"敵"よ」
リスミー・マクマード「その予兆を掴んだ私たちの祖先は 136万年も前から戦いの準備をしてきたのよ」
月島海斗「136万年前って・・・ とっくに滅びた化石文明時代のことでしょう?」
月島海斗「文明が復活したこんな平和な時代に"敵"なんて・・・」
リスミー・マクマード「"敵"は私たちの事情なんて考慮してくれないわ」
月島海斗「・・・」
月島海斗「でも、どうして俺が選ばれたんですか?」
リスミー・マクマード「私たちは戦う勇者を集めているのよ」
リスミー・マクマード「侵略してくる"敵"から人類と地球の未来を守る戦士をね」
リスミー・マクマード「戦い方の基本を学び、戦士として適性のある人材を見つけるのがCShというゲームなの」
月島海斗「CShの設定が現実にあったってことなんですか!?」
リスミー・マクマード「そうよ。 あなたは選ばれ自ら戦いへの参加を希望した」
リスミー・マクマード「だからこのシオンベースに用意されていたエリスの身体とあなたの身体を交換したの」
リスミー・マクマード「精神交換『イ=ス』システムを使ってね」
月島海斗「そ、そんなことが・・・」
リスミー・マクマード「あなたが使っているアバターの身体はシオンベースのクルーになればもうあなたの物よ」
リスミー・マクマード「その顔、スタイル、女の子のすべてがあなたの物になるわ」
リスミー・マクマード「もちろん君の大好きな銀髪もね」
月島海斗「エリスの身体が・・・ 俺の・・・」
リスミー・マクマード「ふふふ 他に何か質問はあるかしら?」
月島海斗「設定だとシオンベースのある準惑星と地球は光の速度で2週間ぐらい離れているはずです」
月島海斗「いったいどうやって通信を・・・?」
リスミー・マクマード「海斗くんは詳しいわね」
リスミー・マクマード「精神交換や地球との通信は『量子絡み合い』を利用したエンタングルメントラインを使用しています」
リスミー・マクマード「だからどんな距離でも一瞬で通信できるわ」
  量子絡み合い(エンタングルメント)
  物理用語である。
  SF作品ではワープのような事ができると扱われることがあるが、実際は質量のある物質を転送することは極めて困難だという。
月島海斗「エンタングルメントは送信側と受信側が予め解除キーを持ってなければいけないはずですけど・・・」
リスミー・マクマード「そうよ 私たちはこの準惑星を地球近くからここまで運んできたの」
リスミー・マクマード「100年もかけてね」
月島海斗「・・・」
リスミー・マクマード「それではミッションについて説明する前に、そっちの部屋でバトルユニフォームに着替えて来てね」
月島海斗「き、着替えってるって・・・ 装備コマンドがないですし・・・」
リスミー・マクマード「自分で着替えるのよ。 当たり前でしょう?」
リスミー・マクマード「ではロビーで待っているわ」
月島海斗「き、着替えるって・・・」
  ロビーへの移動はゲーム内ならロード画面になるシーンだった。
  衣服の変更もコマンドひとつでできる。
  しかし現実のシオンベースでは当然のごとく扉や通路で繋がっている。
  海斗はリスミーに示された更衣室のドアを開けて入ってみた。

〇魔法陣のある研究室
「うわっ!?」
月島海斗「あっ!?」
李維新「いきなり入ってくるなよ・・・ びっくりするだろ」
月島海斗「あっ! す、すいません!!」
  女子更衣室と間違えて入ってしまったと考え、海斗はあわてて立ち去ろうとする。
アルベルト・カザン「着替えるところはここで合ってるよ。 僕たちもクルーの挑戦者なんだ」
月島海斗「えっ・・・」
李維新「お前の服はお前のアカ番(※アカウント番号)のロッカーだよ」
月島海斗「あ、ああ・・・ ありがとう」
  海斗は2人をなるべく見ないようにしながら自分のロッカーを探す。
  しかし海斗は着替え中の女子の姿など見たこともないため、恥ずかしさのあまりなかなか探し当てることができない。
李維新「別に恥ずかしがる必要ないだろ!! お前もどうせ男なんだろうし!」
アルベルト・カザン「まぁ身体は完全に本物の女の子だけどね」
月島海斗「そ、そういわれても・・・」
  やつと自分のアカウント番号のロッカーを見つける。
  そこには『ヴァルキリー』や『カレイジャス』に乗り込む為のバトルユニフォームがハンガーに掛けられていた。
月島海斗「も、もしかして・・・ この服を脱がないと着替えられない!?」
  当然の事だが、緊張している海斗はその当然を理解するまでに時間がかかった。
李維新「お前何やってんだよ! 作戦開始まで時間がないんだぞ!!」
李維新「とっとと脱げよ」
月島海斗「そ、そんなこと言ったって・・・」
  海斗は強く促されたため、恥ずかしそうにしながら服を脱ぐ。
  脱ぐだけなら特に難しいことはない。
  だが下着姿になったエリスが鏡に映ると、その衝撃的な姿に固まってしまった。
李維新「この程度でビビる臆病者が戦場で役に立つのかね・・・」
アルベルト・カザン「李くんってばぁ・・・」
月島海斗「あ、あの・・・ こ、この服はどうやって着れば・・・」
  バトルユニフォームはワンピースタイプで複数の付属ベルト、そして太腿丈まであるハイサイブーツのセットで構成されている。
  海斗は女物の服なんて着たことは無いし、丈の長いブーツも履いたことは無い。
アルベルト・カザン「僕が手伝ってあげるよ」
月島海斗「あ、ありがとう・・・」
李維新「お前、自分で服も碌(ロク)に着れないのか? 赤子かよ」
李維新「まぁ、合格できるように頑張れよ」
アルベルト・カザン「もー 李くん!」
アルベルト・カザン「現実はゲームみたいに簡単に着替えられないから大変だよね」
月島海斗「・・・」
  2人に促され、海斗はなんとか着替えることができた。
  ロッカーに備え付けられた鏡には、間違いなく海斗がCShで使用していたアバター『銀髪の処女エリス』の姿がある。
月島海斗「ほ、本物のエリスだ・・・」
  海斗はエリスの髪や顔に触ろうとする。
李維新「おい!! 正式にクルーにならないと その身体はまだお前のモンじゃねーよ!!」
李維新「お触りはミッションに成功してからだ」
月島海斗「えっ・・・」
アルベルト・カザン「そうだね。 えっと、僕はアルベルト・カザン。 君の名前は?」
月島海斗「月島海斗・・・」
アルベルト・カザン「海斗くんかぁ 僕の兄さんもカイトっていうんだ」
アルベルト・カザン「このシオンベースのベテランクルーなんだよ!」
アルベルト・カザン「で、彼が李維新(リーウェイシン)くん 彼はお父さんがクルーなんだ」
李維新「こんな奴、どうせ落ちていなくなるんだから紹介なんてしなくていーよ」
李維新「それより時間かかりすぎだぞ。 もうミッションが始まっちまう! 急げ!」
アルベルト・カザン「海斗くん、僕たちも行こう! 合格目指して頑張ろうよ!」
月島海斗「あ、ああ・・・ よろしく・・・」
  海斗は戸惑いながら
  更衣室を出て後を追った。

〇VR施設のロビー
月島海斗「女の身体で走るといつもと違う感じだ・・・」
  海斗は股の間に障害物がないだけで歩いた感覚がまるで違う事を体感する。
月島海斗「女の方が歩きやすいんだな・・・」
  出撃ロビーには20人ほどの待機中のクルーがいた。
  ゲームではチャットで賑わう場所だが、今は実際の声での会話が行われている。
アルベルト・カザン「もうだいぶ集まっているね」
李維新「俺たちが最後だな」
リスミー・マクマード「みんな揃ったようね。 それでは始めるわ」
リスミー・マクマード「これから単座機『ヴァルキリー』による 実戦での最終試験をおこないます」
リスミー・マクマード「あなた達には"フラグボス"から放たれる隕石を処理するというミッションが与えられるわ」
リスミー・マクマード「ヴァルキリーの操作方法や搭乗する機体はCShとまったく同じ」
リスミー・マクマード「この戦闘で6位以内のスコアを獲得した者をシオンベースの正式クルーとして認めます」
リスミー・マクマード「未達成の場合この星での記憶は封印処理して地球に戻される事になります」
月島海斗「6位以内・・・」
リスミー・マクマード「何か質問はあるかしら?」
李維新「リスミー教官 今回は敵衛星のフラグボスを破壊する必要はないんですよね?」
リスミー・マクマード「そうよ 単座機の火力では準惑星の衛星軌道上に入り込んだ敵衛星を破壊できません」
リスミー・マクマード「今回は隕石群の阻止だけ。 実戦でもゲームと同様に落ち着いた対処能力が問われるわ」
李維新「わかりました」
アルベルト・カザン「このミッションをクリアすれば 明日の敵衛星撃破作戦に参加できるんですよね?」
リスミー・マクマード「ええ。 今後も私たちと一緒に戦ってもらう事になるわ」
アルベルト・カザン「よーし、頑張らないと・・・」
リスミー・マクマード「それでは最終確認をします」
リスミー・マクマード「今回はゲームじゃない、実戦よ。 隕石と衝突すると死ぬわ」
リスミー・マクマード「リスポーンは無い。 本当の死よ」
リスミー・マクマード「自分で世界を切り拓こうという志(こころざし)がある勇者は挑戦して」
リスミー・マクマード「他人に世界の運命を委ねたい人生を選ぶならこの場で引き返すことを勧めるわ」
李維新「我がスザク一門の誇りに賭けて 必ず戦士になってみせます!!」
アルベルト・カザン「僕もここで戦いたいです! 地球の家族を守るために!!」
  ロビーにいた美少女たちは
  次々と参加意志を表明していく。
  元々ゲーム内の高難易度ミッションで選抜されたメンバーだろう。
  始まる前から諦める者、帰還を希望する者はいなかった。
月島海斗「俺は・・・」
月島海斗「や、やります! 俺は俺のアバターを自分の物にしたいです!」
  海斗の正直な発言にロビーは笑い声に包まれた。
シオンベースのクルー「なんだアイツ、女の身体が目当てかよ」
シオンベースのクルー「地球を守るとか、軍人になるプライドとかねーの?」
リスミー・マクマード「いいのよ海斗くん 『正義の為に敵と戦いたい』『好みの女の子がほしい』」
リスミー・マクマード「その願いは男として何も恥ずかしい事ではないわ」
リスミー・マクマード「現実や真実から逃げない。 戦士に求められる必要なスキルよ」
  <スクランブル>
  ゲーム内のミッション発生と同じ警報音が鳴る。
  戦闘開始の合図だ。
リスミー・マクマード「それでは作戦開始します 各自出撃!!」
「了解!!」
  ゲームと同じなのでみんな慣れている。
  誰ひとり躊躇することなく射出ポッドに乗り込んでいった。

〇宇宙戦艦の甲板
  射出ポッドに入ると慣れた手つきで初動設定を開始する。
  操作はゲームと同じなので問題ない。
  もちろん、VRゴーグルや3Dコントローラーはなく、自分自身がアバターの女の子になっている違いはあった。
  特にシートベルトを締めると、豊満な身体を締め付ける圧迫感がある。
月島海斗「ベルトが食い込む感覚が・・・」
  設定を終えると射出ポッドはドックのヴァルキリーと連結され、機体はカタパルトに移動する。
月島海斗「うわっ・・・ 身体が軽く・・・」
  すると突然、身体が浮くような感覚が起きる。
  重力がほとんどなくなったのだ。
  カタパルト以外のシオンベース内では疑似重力装置が使われていて地球と同じ重力が維持されている。
  CShのゲームシステムでは知っていたが体感するのは初めてだった。
オペレーター「エリス機スタンバイOK カタパルトクリア 発進しますか?」
月島海斗「出撃準備よし!! ヴァルキリー発進します!!」
オペレーター「エリス機スタート!!」

〇宇宙空間
  現実の世界ならシオンベースから射出される際、相当なG(重力)が身体にかかるはずだ。
  だが、ほとんど感じない。
  電車が発車する程度の揺れである。
  この世界の女性には処女だけが持つ"VAF"という特殊な力があり、重力の負荷や危険な放射線などを防いでくれる。
  そして単座機は“VAF”の力を集積して大砲やエンジンにエネルギーを供給していた。
月島海斗「ここが地球から2500AU彼方の宇宙かぁ・・・」
  1AUは太陽と地球の距離。
  ここはその2500倍の遠方、太陽系外縁(トランスネプチュニアン)といわれるエリアだ。
  周囲は暗黒の宇宙
  小さな星々が点々と見えるだけ。
  海斗は太陽の方を見る。
  地球に46億年もの間、エネルギーを与え続けている太陽も、この宇宙の彼方では-10等星ほど。
  次に"敵"の星の方を見る。
  現在の"グリーゼ710"は太陽系から1光年付近にあり、太陽の次に明るい-2.5等星の輝度を持っていた。
  地球からは赤く禍々しく光って見えるので、文明復活後の人々は『凶星アアル』と呼び畏れている。
月島海斗「よし、ゲーム通りの手順で・・・」
  海斗は量子レーダーを使って周辺の索敵を行う。
  衛星や隕石は自ら光を発しない。そのためモニターしないと発見できない。
月島海斗「あれが"敵"が送り込んできた衛星か・・・」
  シオンベースが置かれる準惑星、その周回軌道に"敵"が送り込んできた衛星をポイントする。
  この敵衛星(フラグボス)が"グリーゼ710"方向から流れ来る隕石群を飛ばしてくるのである。
  隕石には氷、岩、鉄でできた種類があり、それぞれ対応が異なる。
  破壊するためには、索敵しながら隕石を識別し、正確に攻撃していかなくてはならない。
月島海斗「うーん・・・3人乗りのカレイジャスなら鉄岩でも一撃なんだけどなぁ・・・」
月島海斗「ヴァルキリーだと火力不足だ・・・」
  単座機は威力が弱く射程も短い電磁加速機関砲(コイルマシンガン)しか装備していない。
  また、索敵と操縦を同時に行うためクルーの負担も大きかった。
  海斗が得意とする観測誘導(ダブルスリット)射撃はアナログスコープを使い高い集中力を求められる。
  警戒と機動を同時に行いながらはできない。
シオンベースのクルー「なんだよ 楽勝じゃねーか!」
シオンベースのクルー「どんどん前に出てスコア稼いだ方がいいな!」
  "敵"の攻撃は緩慢(かんまん)だった。
  ヴァルキリー隊は散発的に飛んでくる岩を捕捉して破壊するだけ。
  単調な作業である。
シオンベースのクルー「これじゃあビギナー以下の難易度だ!」
月島海斗「・・・」
  海斗はいつも最も高い難易度でプレイしている。
  このレベルのミッションであれば欠伸(あくび)が出るほど簡単だった。
  現実の世界の敵は難易度調整してくれない。
  海斗が手を出さなくても隕石は他の単座機によって順調に処理されている。
  海斗機はたいした戦果もないまま戦場のやや後方で全体を眺めていた。
月島海斗「・・・」
  そして──
  戦闘開始から約20分後のことだった。
月島海斗「なんだろう・・・あの岩だけ形が違うような・・・」

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次のエピソード:第2話 勇者の戦友(ブレイバリー・カムラッド)

コメント

  • 非常好的作品

  • 完全に異次元に持っていかれました。世界観が半端ないですね。サービスシーンが若々しくて、逆に爽やかです。まさかの展開で次回も楽しみです。

  • ((👦三⚡️三👩))

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