エピソード1(脚本)
〇高級一戸建て
激しい蝉の鳴き声。
家の前に『便利屋パシリー』と書かれた軽バンが停まっている。
〇シックなリビング
小走駿太郎「ハッシリ〜、パッシリ〜、おいらはコバッシリ〜♪」
帽子をかぶり直し、汗を拭く小走。
ペドロ「ワン!」
小走駿太郎「ひい!」
小走駿太郎「おい、太! ぜってぇ放すんじゃねぇぞそいつ」
只野太「大丈夫だよ駿ちゃん」
犬を撫でる只野。
只野太「この子とってもいい子だから」
小走駿太郎「良い子だろうが悪い子だろうが犬は犬」
小走駿太郎「人間様の敵だ」
武井早希「あっつーい」
うちわを扇ぎながら入ってくる早希。
武井早希「まだ直らないんですか? 喋ってばかりいないで、ちゃんと手を動かしてくださいね」
小走駿太郎「は!?︎」
小走駿太郎「ちゃんとやってるでしょ!」
小走駿太郎「もう終わるし。 ほら、見てよ!」
大げさにエアコンのカバーを動かす小走。
武井早希「お客様に向かってなんですかその態度は?」
小走駿太郎「なにー!」
小走駿太郎「あったまきちゃったもんね」
小走駿太郎「もうやーめた」
椅子から降りる小走。
武井早希「なんですって?」
小走駿太郎「今日は35℃を超えるんだってよ。 干からびないように気をつけな」
只野太「ちょ、ちょっと駿ちゃん」
武井早希「あなた、それでも本当にパシリ屋?」
小走駿太郎「パシリ屋じゃなくて便利屋パシリーだっつーの」
武井早希「そんなんじゃ、お金払わないわよ」
小走駿太郎「え、何言っちゃってんの?」
小走駿太郎「時間分と交通費はきっかり請求させてもらうんで」
武井早希「でもエアコンは直ってないです」
小走駿太郎「だーかーらー」
小走駿太郎「直るか直らないかは関係ないの。 ちゃんと契約書読んでる?」
武井早希「あんなの読んでません」
小走駿太郎「読んでようが読んでなかろうが、武井早希ってあんたの名前きっちり署名してんだから。 契約は成立してんだよ」
武井早希「そんなの知りません。 直らないならお金は払いません」
只野太「駿ちゃん、落ち着こうよ」
小走駿太郎「ったく、近頃のガキは」
小走駿太郎「親の顔が見てーわ」
武井早希「親は・・・」
小走駿太郎「ん?」
武井早希「・・・関係ないでしょ」
小走駿太郎「なんだって? はっきり言えや!」
只野太「もう二人とも!」
只野太「武井さんも、ね。 軽い冗談ですから」
ペドロ「ワンワン!!︎」
只野の腕から犬が飛び出して小走のもとへ走っていく。
小走駿太郎「うわー!」
小走のポケットからリモコンが落ちる。
小走駿太郎「た、助けてくれ〜」
武井早希「ナイス! ペドロ!」
小走のバタつく足でリモコンのスイッチが押されると、「ピッ」と音が鳴り、エアコンが動き出す。
〇黒
パシリ屋小走駿太郎
〇田園風景
『便利屋パシリー』と書かれた軽バンが走っている。
〇停車した車内
只野太「もう勘弁してよね。 僕の生活だってかかってるんだから」
小走駿太郎「俺は悪くねーよ」
小走駿太郎「あのブスが突っかかってきたんだから」
只野太「そう?」
只野太「僕は可愛いと思うけどな武井さん。 あのプルンとした唇が特に」
小走駿太郎「性格がブスってことだよ。 ありゃー結婚できねーぜ」
只野太「武井さんだったら、僕はしたいなぁ」
小走駿太郎「やめとけやめとけ」
小走駿太郎「ったく、どんな教育受けたらあんなにへそが曲がるんだ」
只野太「そういえばさ、武井さんのご両親って何してるのかな?」
小走駿太郎「知らねーよ。 どうせ詐欺師とか汚職刑事とかだろ」
只野太「またまたー」
只野太「武井さん、親とうまくいってないのかなー」
小走駿太郎「ん? なんで?」
只野太「だって、駿ちゃんが親の顔が見てみたいっていった時、ちょっとひるんでたでしょ」
小走駿太郎「そうか?」
小走駿太郎「ま、金さえもらえればどうでもいいや。 もう二度と会うことはねーだろうし」
只野太「お金もらえたのは僕のおかげ」
只野太「今回はちょっと取り分多くもらうからね」
小走駿太郎「アホ!」
小走駿太郎「俺が取った仕事だから分け前はロクヨンだろ」
小走駿太郎「ルールはルール」
お金を分けて只野に渡す小走。
只野太「ケチ!」
只野太「そんなにお金いっぱい貯めてどうすんのさ」
小走駿太郎「聞いちゃう?」
只野太「はいはい。 1億貯めて南の島でのんびり暮らすんだっけ」
小走駿太郎「パシられるのはビジネス!」
小走駿太郎「俺の長いパシリ人生の終焉の日は近いぜ」
只野太「ごくろうさま」
小走駿太郎「おっ、着いたぞ」