君の隣に僕が生きてる

咲良綾

エピソード11.帰還(脚本)

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咲良綾

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〇山奥の研究所
  マゼンタの想いを知り、
  福成教授と和解した鎖衣は、
  教授を連れて研究所へと戻る──
久我山時夫「お帰りなさぁ~い! あ~な~た~っ!」
黒川鎖衣「気色悪い出迎えはやめろーっ!」
小牧穂多美「ただいま、時夫さん。 その様子だと、シアンは無事みたいですね」
久我山時夫「ああ。俺がしっかりお世話したからな」
小牧穂多美「良かった・・・」
黒川鎖衣「ところでどうして白衣なんだ」
久我山時夫「だってせっかくの機会だもん、 着てみたいじゃん? どうだ?俺様の白衣の天使ぶりは」
黒川鎖衣「天使ではないな」
福成章介「賑やかだね」
久我山時夫「あ。初めまして~。 鎖衣の唯一無二の相棒で、時夫といいます」
黒川鎖衣「いや、そこまでは・・・」
久我山時夫「えーっ! 時夫ちゃん傷つくぅ! 一方通行?この愛は一方通行なの?」
小牧穂多美「時夫さん、 鎖衣さんのこと好きすぎですよね・・・」
福成章介「ははは。鎖衣にもこんな友達がいたのか」
黒川鎖衣「教授は研究にかかりきりで、学校行事にも顔を出しませんでしたからね」
福成章介「これは痛いところを突かれたな」
黒川鎖衣「ともかく、中に入ろう。 時夫、荷物を運ぶのを手伝ってくれ。 急いで処置環境を整える」
久我山時夫「はいはい、やっぱり俺のこと必要なんじゃん~」
黒川鎖衣「言ってろ」

〇研究開発室
小牧穂多美「こっちです。 節奈おばちゃん、福成教授を連れてきたよ」
芳田節奈「教授・・・」
福成章介「節奈くん、久しぶりだな。 ・・・体調を崩していると聞いたが」
芳田節奈「ええ、ご心配をおかけしてすみません」
芳田節奈「教授は、お元気そうですね。 少し雰囲気が丸くなったみたい」
福成章介「そうかな。 まあ、君がいなくなってから色々考えたよ。 私がどんなに研究一辺倒で、視野が狭く理解に欠けていたか」
福成章介「君はクローンたちへの愛情のあまり、 研究に支障をきたしていた」
福成章介「だから私はそういうものは切り捨てなければならないと心に定めていた」
芳田節奈「でも、確かに私は、 私情に走って冷静さを失っていましたから。 ご迷惑をおかけしました」
福成章介「私はね、君のことは言えないんだよ。 君がいなくなってから、 研究が手につかなくなってしまったんだ」
芳田節奈「えっ・・・まさか、教授が?」
福成章介「全く情けないことにね。 思ったより大きかったんだ。君の存在は」
  え、えっと・・・
  これわたしがいていいのかな。
  でも、二人の前を通らないと
  外に出れないんですけど。
福成章介「それから、ただの研究対象だった クローンの存在が変わった」
福成章介「君に生き写しのマゼンタが、私の慰めだった」
福成章介「愛情を注ぎ、応えられることを覚え、 それは今までと違う研究の意欲となった」
福成章介「ただ、マゼンタのことは、 混乱させてしまった」
福成章介「つい、君と比較するようなことを言っては、 君を越えようと奮起するマゼンタを微笑ましく思っていた」
福成章介「それがどんなに残酷なことか、気づきもせずに」
福成章介「マゼンタは自分だけを見てほしい、 認められたいという思いを恋心と混同して 心を病ませていた」
福成章介「科学者のエゴで命を弄ぶだけでは足りず、 傍にいる人の心も大事にできない。 自分という人間に絶望したよ」
芳田節奈「まだ、絶望しているんですか?」
福成章介「いや。 私は間違いを犯した自分を過去にしたい」
  待って、待って。
  見つめ合わないで。
  わたしがいます。
  わたしもいるんですよー!
黒川鎖衣「教授、処置室の準備ができました。 シアンを見てください」
福成章介「ああ、わかった」
  ああー!ありがとう、鎖衣さんーーー!
福成章介「節奈くん、また改めて話をさせてくれ」
芳田節奈「はい」
芳田節奈「・・・あら?穂多美、いつからいたの?」
  やっぱり見えてなかった・・・
久我山時夫「穂多美ちゃーん、何も食ってないだろ? 時夫ママの手料理食わない?」
小牧穂多美「あ、そういえば」
  色んなことがありすぎて、空腹を忘れていた。

〇綺麗な会議室
久我山時夫「穂多美ちゃん、シアンの顔は見たか?」
小牧穂多美「ううん。あっという間に処置に入られたから」
久我山時夫「そうか。 まあ、鎖衣は状態を確認するだけって 言ってたから、すぐ終わるだろ」
久我山時夫「シアンの様子は落ち着いて 意識も戻ってるから、安心しな」
小牧穂多美「うん」
久我山時夫「鎖衣、すっきりした顔してたな」
小牧穂多美「うん。教授とちゃんと話ができたから」
久我山時夫「それは良かった」
小牧穂多美「時夫さんが鎖衣さんのこと純粋って言ってたの、わかる気がしました」
久我山時夫「だよなー、守りたくなるタイプ?」
小牧穂多美「ほんとに・・・ 時夫さんの能天気パワーで守って欲しい」
小牧穂多美「ほんとにもう・・・」
久我山時夫「どうした、穂多美ちゃん」
小牧穂多美「大変だったんですよ~! なんで5年も放っておいたんですか!!」
久我山時夫「え!? だから俺、心配して探してたんだって」
小牧穂多美「それでも見つけてくださいよ、 本気出してなかったでしょ!」
久我山時夫「本気出したらストーカーだろ・・・」
小牧穂多美「ひどいよ、あんなのに1人で耐えてたなんて」
久我山時夫「うん、それはあとで俺もじっくり聞くから。 穂多美ちゃん、大変だったな。任せてごめんな」
小牧穂多美「え、わたしは何も・・・」
久我山時夫「よしよし。よく頑張った。 まだ子供なのに頼られて、しんどかったよな」
小牧穂多美「子供扱いしないで」
久我山時夫「未成年様だろうがよ。立派な子供だ」
久我山時夫「穂多美ちゃん、デキる子だから頑張っちゃうんだよな。でも君は甘えていいお子様なんだよ。もっと大人に甘やかさせろ?」
小牧穂多美「知らないよ・・・甘え方なんて」
久我山時夫「そうか? さっき俺に無茶なこと言って プンプンしてただろ?」
久我山時夫「そういうのどんどん出してけよ。 節奈さんとか、親とか」
小牧穂多美「親・・・」
久我山時夫「まあ、甘えさせる余裕のない大人も 時にはいるけどさ」
久我山時夫「そういうときは時夫さんのところに来いよ。 パフェとか奢っちゃうぞ」
小牧穂多美「パフェ・・・」
久我山時夫「お、目が光ったな?」
小牧穂多美「わたしが親とちゃんと向き合えたら、 メールするからパフェを奢りに来てください」
久我山時夫「俺が行くんかい!」
小牧穂多美「そしたら、時夫さんに焼肉奢ってって、 親におねだりします!」
久我山時夫「えーーー!! まじかーーー!! 行く行くーーー!!!」

〇綺麗な会議室
黒川鎖衣「穂多美」
小牧穂多美「鎖衣さん! シアンは?」
黒川鎖衣「体の方はもう心配いらない。 『ほたに会いたい』、だってさ」
小牧穂多美「行ってきます!」
久我山時夫「よう、お疲れ」
黒川鎖衣「寝ていいか」
久我山時夫「その前に食えよ」

〇近未来の手術室
小牧穂多美「シアン!」
シアン「ほた。 ほた、こっちきて」
  器具が外されている。顔色もいい。
シアン「僕、ほたの夢を見てたよ」
小牧穂多美「どんな?」
シアン「僕が苦しいなって思ったら、 ほたが手を握ってくれたの。ぎゅーって」
小牧穂多美「あっ・・・」
  それはもしかしたら、
  鎖衣さんの手を握ったから・・・?
シアン「力が強くて爪もちくちくして痛かったけど、 『頑張って』って気持ちが伝わってきて、 そしたら苦しいのが治ったんだ」
  シアンがこちらへ伸ばしてきた手を、
  爪がたたないようぎゅっとにぎりしめた。
シアン「やっぱり、夢より現実がいいや」
  頬を染めて嬉しそうに笑うシアン。
  この顔。この顔が見たかった。
シアン「ほた、泣いてる?」
小牧穂多美「うん。会いたかったよ、シアン」
シアン「僕も。 明日もその次も、ずっとほたに会いたい」
  明日も、その次も、10年先も、50年先も。
  この笑顔が続く未来が拓けますように。
  マゼンタ・・・あなたの命は、きっと続くよ。
  次回へ続く
  想いを繋げて、わたしたちは生きる。
  
  次回最終回 エピソード12.未来へ

次のエピソード:【最終回】エピソード12.未来へ

コメント

  • 教授とせつなさんの突然のラブコメw
    そしてとてもいい意味でKYのときおさん。この人は鎖衣とほたちゃんの精神安定剤ですね!
    それにしても、シアン、元気になって良かった~。

  • 時夫さん、リライトされてたんですね!
    中の人まんまでいいですね😄
    シアンの笑顔正義!

  • おおおおお~。
    前回の緊迫感からのこのほっこり感。それにしても時夫さんいいキャラや……

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