デスゲームに参加したくないので小料理屋始めました!

AAKI

予約4.富田 勝とアスパラのベーコン巻き(脚本)

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〇広い厨房
朝生 葉大「あ・・・」
朝生 葉大「・・・・・・」
  葉大は、眼の前の客に声をかけようとして言葉を飲み込んだ。
富田 勝「・・・」
  客の男性も、ハシを止めてかすかな上目遣いで
  男の名は富田 勝。
  やや冴えない感じの少し太り気味な男性である。
富田 勝「何、か?」
富田 勝「僕の顔に何か、ついてたかな?」
  若干の鼻声で、言い淀む葉大に聞いた。
朝生 葉大「いえ、何かお話を、と」
  葉大は首を横に振りつつそう申し出る。
富田 勝「話ぃ?」
富田 勝「何を話せって・・・?」
  勝は目を左右に泳がせて拒否しようとする。
  黙々と料理を食べていた様子からわかっていたが、デスゲームの参加者の共通点を探る作業は初っ端からつまづく。
朝生 葉大「そう、ですね・・・」
朝生 葉大「初対面でこんなことを聞くのはどうかとは思いますが、富田さんのことをですね」
  さすがに突っ込んでいきすぎたか、富田は目を丸くして戸惑っている。
富田 勝「な、なんで俺のことなんて・・・?」
富田 勝「どうせ、俺みたいな冴えないヤツがデスゲームなんかに参加しているのがおかしいって、思ってんだろ?」
朝生 葉大「そ、そんなことありませんよ・・・!」
  急に卑屈なことを言い出した男に、葉大も慌ててなだめようとした。
富田 勝「何が違うっていうんだ!?」
富田 勝「ただのライン工の何がおかしい?」
富田 勝「自堕落だから太ってるとでも思ってるんじゃぁないか!?」
  勝の態度は逆上とか“切れ”るの方に移っていってしまう。
  こうなると、言葉で落ち着かせることはできないかもしれなかった。
朝生 葉大「え、えっと、とりあえず次の料理を・・・」
  話題を一旦切って、料理を作り始める。
富田 勝「ふん・・・」
  勝としても、食欲が優先されたのか一線を超えずに終わらせた。
  仮に殴りかかったところで、勝てる見込みがないというのもわかっていたからである。
  なにせ、この小料理屋『人生』の代金は武器や武力だ。
  念のためなのか用意されたいくつかの武器を見れば萎縮するというもの。
朝生 葉大「お待たせしました」
  少しして、パチパチと油を弾くジューシーなメインディッシュが提供された。
富田 勝「ベーコンと、アスパラ」
  動物脂に絡められた肉と野菜のコラボレーションを前に、男の口元も少しばかりほころぶ。
朝生 葉大「アスパラのベーコン巻きです」
朝生 葉大「アスパラが太くて柔らかい甘味の強いものなので、塩コショウのみで仕上げました」
富田 勝「ごくり・・・」
  説明を聞いただけで生唾が出てきてしまう。
  立ち上る湯気が鼻孔をくすぐり、待ちきれないとばかりにハシでつまみ上げ口に運ぶ。
富田 勝「美味しい」
朝生 葉大「良かった」
朝生 葉大「アスパラって、育つのに2~3年かかるんです」
  食べている勝に、ポツポツと語りかける。
富田 勝「?」
  理解しかねながらも咀嚼を続ける客。
朝生 葉大「1年目だって食べられなくないですが、細くて頼りないんです」
朝生 葉大「何度も切り取って、新しく出てきた太い芽をもっと太くしていくんです」
富田 勝「何を言って?」
  勝は、図りかねたその解説の意図を聞こうとする。
  葉大は構わずに続けた。
朝生 葉大「良く知る野菜の中では、お店に並ぶのは何年も育てられてからの変わったものなんです」
朝生 葉大「いえ、ただの雑学なんですけどね」
  そこでまた話題を切った。
富田 勝「そう、かい」
富田 勝「ごちそうさま」
  勝は未だ理解していない様子でアイサツすると、適当に代金となる武器をカウンターにおいていく。
  武器とはいっても、文房具にみる黄色い柄のハサミだが。
朝生 葉大「ありがとうございます」
朝生 葉大「またのご来店をお待ちしております」
  一応は予約のバインダーを視線で示すが、記入していかないのは、気まぐれにくるつもりなのだろう。
  今回だって、食糧室で食べ物を物色しているところを、時間が空いていたから葉大の方から誘ったくらいだ。
  勝は、来たときに集めていた果物や水を抱えて出ていこうとする。
朝生 葉大「立派なものじゃないですか」
富田 勝「え?」
  出ていこうとする勝の背中に声をかけた。
朝生 葉大「どんな仕事だって誰かがやらなければ世界は回らないんです」
朝生 葉大「何が上か何が下かなんて考えるだけ野暮でしょう?」
朝生 葉大「それぞれが動かなければどこかが上手く回らなくなる」
  何かを聞き出すのには早すぎたと思い、そういう下心もありつつ関係を築いていこうとする。
  勝が他の誰かに劣っているなんてことはないと伝えようとする。
朝生 葉大「皆、何年も積み重ねて太くなっていくんですから」
  すぐに芽が出ないとしても、それはアスパラのように太く育つため力を蓄えているのだと。
富田 勝「・・・あぁ、そうだね」
  勝は見ず知らずの料理人に諭され、卑屈になっていた自分を少しばかり恥じた様子だ。
富田 勝「ちょっとばかり卑屈になりすぎていたのかもしれない」
富田 勝「怖いからあまり部屋から出ないつもりだけど、また機会があれば寄らせてもらうよ」
  葉大の言葉と料理を気に入ってくれたようだ。
朝生 葉大「えぇ、またのご来店をお待ちしております」
  葉大はいつものように彼を見送った。
  葉大は片付けをしながら考える。
  大した情報は得られなかったが、変わらないという点では1つ。
  これまで出会ってきた人物は、少なくとも方言などの訛はなく標準語だ。
  都内か周辺の出身だろう。
  都内の何かを中心として、参加者が集められている可能性は大いにあった。
  職業についてはほぼ共通点はない。
  そこまで頭の中でまとめたところで、次の客がやってきた――。

〇広い厨房
芹沢 鴨姫「今日も美味しそうな香りが漂っているね」
  楽しげに入ってきたのは鴨姫。
  いつになくボロボロの衣装をまとっての来店だ。
  ドレスコードがあれば即退店を促すところである。
朝生 葉大「・・・」
  目のやり場に困ったというのもあるが、少しイジワルをしたくて葉大は目をそらす。
芹沢 鴨姫「おやおや~、お客様だぞ~?」
  自身の格好など気にしない様子で、食糧室とは違う方向から入ってきた彼女はそらされた視線の前へとやってくる。
  もったいないレベルの恵体には違いないが、少しばかり直視するには痛々しい姿だ。
  怪我と返り血で汚れた姿をチラリと見て、また別の方へと目を向けるのだった。
朝生 葉大「せめて手洗いうがいぐらいはしてください」
芹沢 鴨姫「どうかしたのかい?」
芹沢 鴨姫「何か怒らせるようなことでも・・・?」
  鴨姫は困った様子で周囲をウロウロとする。
朝生 葉大「えぇ、まぁ、そうですね」
芹沢 鴨姫「まさか、カラアゲを一個余計に摘んだのに気づいていたんだね!」
朝生 葉大「えぇ・・・そんな小ズルいことをしてたんですか・・・」
  育ちの方は悪くないと思っていただけに、鴨姫の意外な告白についつい驚いてしまった。
芹沢 鴨姫「ウソだよ」
朝生 葉大「・・・・・・」
  見事にカマをかけられたようだ。
芹沢 鴨姫「葉大は単純だねぇ」
芹沢 鴨姫「葉大の、その人を疑わないところ好きだよ」
  やはり勝てないと悟る葉大。
朝生 葉大「疑っても仕方ないというか・・・まぁ、ちゃんと芹沢さんのことについて聞かなかったのは俺の落ち度ですね」
  鴨姫に煽られて、不機嫌だった理由を暴露する。
芹沢 鴨姫「あぁ、そういうこと」
芹沢 鴨姫「ごめんごめん、すっかり私の全てをさらけ出した気になっていたよ」
朝生 葉大「わざと話してくれてなかったわけでなくてよかったです」
  忘れていたことに呆れはするが、聞かなかった葉大の落ち度なのでさておくとする。
芹沢 鴨姫「けれど、私に興味を持ってくれて嬉しいよ!」
朝生 葉大「そ、そういうわけでは・・・全くないわけではないですが」
  美女に微笑まれて、ドギマギしてしまう。
  性質として距離が近いだけで、そんなことは微塵も思っていないのだろうと考え平静に対応する。
芹沢 鴨姫「ん?」
芹沢 鴨姫「何か?」
  最後まで聞き取られていなかったようだ。
朝生 葉大「いえ、何でもないです」
朝生 葉大「それはそうと、何をなさっている方なんです?」
  年齢を聞くのはいささか失礼なので、仕事から確認することにした。
  住所とかでもよかったかもしれない。
  順番だ。
芹沢 鴨姫「OLだけど?」
  あっさりと答えられた職業は予想しづらいものだった。
  これほどまで、一般的な名称が似合わない人物も少ないだろう。
朝生 葉大「オーエル、ですか・・・」
芹沢 鴨姫「なんだい、その釈然としませんって顔は?」
  ついつい年齢を聞く以上に失礼な表情をしてしまった。
  さすがの鴨姫も頬を膨らませてみせる。
  そんな表情も可愛らしいのだが、身だしなみとあっていないので冷静さを保てた。
  刺激的と刺激的をかけわせると0に近づくのは不思議である。
朝生 葉大「い、いえ、そんなことは・・・」
  上手くごまかすこともできなかったため、苦笑いを浮かべて流そうとした。
芹沢 鴨姫「まぁ、いいよ」
芹沢 鴨姫「悪気はないんだろうしね」
  なんとか許してもらえた。
  鴨姫の不機嫌は置いとくとしても、本当に共通点なんてものは何もなさそうに思えた。
朝生 葉大「年は皆バラバラだろうから聞かないとして、出身地なんかはどうなんです?」
芹沢 鴨姫「25歳だけど、それほど気にすることかい?」
朝生 葉大「え?」
  葉大は、気遣いをあっさり一蹴され戸惑う。
  確かに、彼女が一般的に言われるデリカシーを気にするタイプかと言われると、違うのだろう。
朝生 葉大「ま、まぁ、大抵の女性は気にするというか・・・」
芹沢 鴨姫「そういうものか」
芹沢 鴨姫「どうせ生きていたら年などとるのに、いつか死ぬというのに」
  年齢なんて感じさせないみずみずしい唇を小さく動かして乾いた哲学を吐き出す。
芹沢 鴨姫「あぁ、おっと、確か出身地の話だったね」
芹沢 鴨姫「住処を教えるなんて恥ずかしいけれど、誰でもない葉大の頼みだし・・・」
  わざとではない本気のためらいを見せながら、鴨姫は自分の家について話そうとした。
朝生 葉大「あ、ざっくり都道府県とかぐらいで良いです」
  市区町村より下はいらないと切り捨てた。
  放っておくと、電話番号や郵便番号まで話しそうだったのだ。
芹沢 鴨姫「・・・こほん」
  咳払いしてあらゆる番号を飲み込んだ。
朝生 葉大「隣の県ですか」
  鴨姫の口からわずかに漏れた市は都内からほとんど離れていなかった。
芹沢 鴨姫「個人情報の範囲に共通点はなさそうなのはわかったね」
  参加者の全員とまではいかないものの、数人が都内付近ということを除いて別々の場所で生まれ育っている。
  鴨姫の言う通り、現在の個人情報に関しては何ら参加者の共通点とならないだろう。
朝生 葉大「そうなると、手がかりがまったく掴めそうにないですね」
芹沢 鴨姫「うむ」
芹沢 鴨姫「これは、命がけで薫ちゃんの情報を得ようとしたのが無駄になったかもね」
  とんでもないことをあっけらかんと言ってのける。
朝生 葉大「あ、その怪我って・・・」
  ちゃんと情報を集めようとしてくれていたことを知って、葉大はこれまでの発言を申し訳なく思った。
芹沢 鴨姫「気にすることはないよ」
芹沢 鴨姫「どうせ、いずれは決着させなければいけないんだしね」
  心配する葉大に反して笑う。
  さらに、どんな話をしたかとか、この怪我はどうやれれたのかを、ゆっくりと語りだす。

〇洋館の廊下
芹沢 鴨姫「それで、薫ちゃんはどこ住みなのさ?」
芹沢 鴨姫「どこ中?」
芹沢 鴨姫「もしかしておな中?」
  壁に背をしなだれかけた鴨姫が声を張り上げて聞く。
根木 薫「うるせぇよ!」
根木 薫「馴れ馴れしくするんじゃねぇ!」
根木 薫「同じ中学校なら、お前みたいなの覚えてねぇのが不思議なぐらいだっつーの!」
  壁の対面にいる薫から返ってきた答えは辛辣なものだった。
  怒りよりも呆れの方が勝っているように感じられた。
芹沢 鴨姫「そんなこと言わずに・・・薫ちゃんについて教えて欲しいな」
根木 薫「あぁぁ?」
根木 薫「知ってどーすんだ?」
根木 薫「殺る気あんのかてめぇ?」
  殺し合いの気概を問われる。
  当然、その気がなくなったわけではない。
芹沢 鴨姫「大丈夫」
芹沢 鴨姫「単に葉大任せにしておくのも申し訳ないと思ってね」
芹沢 鴨姫「生きて薫ちゃんのことを伝えるつもり」
  鴨姫の返答に薫は破顔する。
根木 薫「そうかい!」
根木 薫「そんだけの気概があるならさぞ殺ったときは気持ち良いだろうなぁ!」
芹沢 鴨姫「じゃあ、再開しようか」
芹沢 鴨姫「後1時間で予約の時間だからね」
  早く勝つか逃げおおせるかしなければ食べそびれてしまう。
  ただ、そうそう簡単に決着できるものではない。
  何かジュース缶のようなものが転がってきた。
  手榴弾だ。
  しかし、尾を引いている煙を見て爆発する類のものではないとすぐに気づく。
芹沢 鴨姫「ごほっ!」
  だからといって、悠長にしていられるわけではなかった。
  鎮圧に使われるようなものではないのだろうが、十分に煙たいのである。
  ここは館の2階にある小部屋。
  AN-M18――スモークグレネードの噴煙が室内をカンバスに変えるのに10秒と必要なかった。
芹沢 鴨姫「けほけほっ!」
  M18が飛んできた方とは別の扉へと逃げようとした。
  進行方向の煙が動く。
  カンバスを裂いて出てくる短剣を、ナイフで受け止めた。
  腕力で鍔迫りあっても勝てないため受け流して後ろに跳んだ。
根木 薫「お、良く受けたじゃんねぇ!」
根木 薫「いや、血――どこをやった?」
芹沢 鴨姫「っ!」
芹沢 鴨姫「右肩だね・・・こほっ」
  薫に問われて素直に答えた。
  二の腕の上部をかすめただけで、深くはないと判断した。
根木 薫「さーて、どこかなぁ」
  さすがの親愛なるハンターも、血の臭いを追って煙の海から鴨姫を見つけ出すことはできないようだ。
芹沢 鴨姫「ふっ!」
  この海の中では呼吸もままならないため、こちらからも攻勢に出ることにする。
根木 薫「そこ!」
根木 薫「って、ナイフだけ!?」
  薫の声を頼りに投げたナイフは見事に彼女の気を奪い、弾く間だけの時を与えてくれた。
  駆ける。
  短剣を持った方の手を掴み、引きずり下ろしながら飛ぶ。
  両足を薫の首に絡め地面に押し倒す。
根木 薫「ぐがっ!」
  良いダメージだが短剣を落とさせるにはたりない。
  しかし、片手はきっちりホールドいているためもう片手で受け取ることはできない。
根木 薫「こんの!」
  仕方なく片手のスナップだけで短剣を操り鴨姫を切る。
芹沢 鴨姫「っ!」
  それでも、ロックを外すほどの傷を与えることはできなかった。
根木 薫「が、ぐ・・・」
  朱と蒼を交互に繰り返す顔色を見るに、薫に残された時間もあまりなさそうだ。
  足首を絡めてのチョークがキレイにきまっているのは、何か心得でもあるかのよう。
  他にもある武器はボウガンか手榴弾。
根木 薫「まだ片手が・・・」
芹沢 鴨姫「それはさせない!」
  さすがに手榴弾は自分も巻き込むため扱えないと踏んでいたため、ボウガンを装填するのさえ防げば良い。
根木 薫「引っ張んな、バカ!」
芹沢 鴨姫「やだ!」
  肩掛けのベルトを引っ張って邪魔をする。
  殺し合いも、二人がやるとじゃれ合いに見えてしまう。
  このままでは頸動脈を締められて落とされてしまうだけだ。
  そう考えた薫は撃つのは諦めた。
芹沢 鴨姫「さぁ、言え!」
芹沢 鴨姫「薫ちゃんのことを赤裸々に!」
根木 薫「誰が言うかぁ!」
  矢だけを握りしめ、怒声と一緒に鴨姫の足にお見舞いする。
芹沢 鴨姫「あぎっ!!」
  さすがにこれにはホールドも緩んだ。
根木 薫「ごほっ・・・げほっ!」
  追撃する余裕もなく、鴨姫の手足から逃れると息を整える。
根木 薫「はぁ、はぁ・・・これだから殺りがいがあるってもんだ・・・けほっ」
芹沢 鴨姫「せめて、薫ちゃんの出身地くらい聞いておかないと手土産もない状態だからね」
  そのちゃん付け呼びもだよぉ!
根木 薫「そのちゃん付け呼びもだよぉ!」
  鴨姫が拾い上げたナイフと、薫の短剣がまた火花を散らした。

次のエピソード:予約5.花・エディブルとダシ巻き卵

コメント

  • 今回のお料理はアスパラベーコン巻ですか!個人的には、ブロック状のベーコンを脂と風味が出るまで焼いて、その脂をからめて焼いたアスパラが好きです。あっ喧嘩売ってないので許してください……
    デスゲームの謎のほうも、情報収集段階ですね。少しずつでも明らかになるのを楽しみにしています。

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