エピソード10.マゼンタ(脚本)
〇おしゃれな居間
福成教授の家を訪れた鎖衣と穂多美。
マゼンタの写真を見て動揺する鎖衣に、
福成は真実を語り始める──
福成章介「ヒトクローン欠陥修復の一番の鍵は、同遺伝子かつ正常であるオリジナルの細胞だ」
福成章介「だが君も知っての通り、クローンは正常な細胞と相容れない、独特のエラーを抱えている」
なんか、難しい話が始まったぞ・・・
福成章介「ただ、雌雄であれば障害なく両方の要素を融合させることができる。 受精という、人体の奇跡によってね」
福成章介「シアンと同じかつ正常な遺伝子を持つ、鎖衣。 シアンと同じ欠陥を持つ、マゼンタ」
福成章介「二人の要素を合わせ持った細胞なら、シアンの欠陥を修復できる。 そして、マゼンタにも有効である可能性が高い」
要するに、鎖衣さんとマゼンタの受精卵を使えば、拒絶反応問題をクリアできるってことか。
福成章介「我々は、受精卵を欠陥修復可能な形態まで育てる手法をまだ確立できていなかった」
福成章介「しかし、それは生体外における話だ。 クローンの生体内で行うならば、自然と問題は解消される」
福成章介「つまり、マゼンタは自分が母体になり体内で受精卵を育てれば、欠陥修復可能な細胞を持つ個体を育成できることに気付いたのだ」
〇研究開発室
福成章介「無茶だ。君の体への負担が大きすぎる」
マゼンタ「でも、何もしなければいずれ二人とも死にます」
福成章介「受精卵を育成する手法が確立すれば希望はある」
マゼンタ「それが間に合うかどうかわからない。 特に、私の命にはあまり猶予がない」
マゼンタ「教授だってわかっているでしょう。 これが一番の近道だって」
福成章介「・・・・・・」
マゼンタ「危険があることはわかっています。 でももし私がダメでも、シアンは助けられる」
マゼンタ「私は何かを成したいんです。 この命に意味が欲しい。 もちろん、生きることは諦めてません」
マゼンタ「私は、シアンを助けたいし、自分も生きたい。 そのための実験です。お願いします」
福成章介「しかし、鎖衣が・・・」
マゼンタ「鎖衣には黙っていてください。 純粋なあの人に罪を負わせたくない」
〇研究開発室
福成章介「マゼンタ、話が違う」
マゼンタ「でも嫌です、どうしても嫌! 私はどうなってもいいから、 この子を殺したくない!」
福成章介「君は生きたいんじゃなかったのか? それに、鎖衣に無断で継続するのは」
マゼンタ「そうですね。 鎖衣は、きっと許してくれない・・・」
マゼンタ「私はずっと、教授に認められたかったんです。節奈よりすごいって思われたかった」
マゼンタ「でも鎖衣は、私をそのまま見てくれるんです。 実験体でも節奈の代わりでもなく、私を」
マゼンタ「それに気づいたら、強欲になってしまった」
福成章介「・・・彼と話をしなさい」
マゼンタ「わかりました」
〇廊下のT字路
マゼンタ「鎖衣」
黒川鎖衣「マゼンタ、どうしたんだ」
マゼンタ「私、鎖衣に、 どうしても話さないといけないことが・・・」
黒川鎖衣「マゼンタ!?」
〇研究開発室
黒川鎖衣「教授!マゼンタが」
福成章介「! すぐに処置室へ」
〇近未来の手術室
黒川鎖衣「どうして突然こんな状態に」
福成章介「・・・妊娠中絶手術を行う」
黒川鎖衣「えっ。今、なんて」
福成章介「こうなったのは妊娠が原因だ。 やはりクローンの体には無理だった」
黒川鎖衣「ちょっと・・・待ってください。 マゼンタが? 一体、誰の子を」
福成章介「お前の子だ」
黒川鎖衣「なん・・・で」
福成章介「手を動かせ! 早くしないと危ない」
〇近未来の手術室
黒川鎖衣「教授!僕はこんなこと、聞いてない!」
福成章介「言っていないからね。 お前は反対すると思った」
黒川鎖衣「なん・・・だって・・・ふざけるなよ・・・」
声が聞こえる。
黒川鎖衣「あんたに節奈さんの代わりがいないように、 僕にもマゼンタの代わりはいないんだ!」
誰より私を見てくれる、
私だけを見てくれるあなた。
まだ伝えてない。
伝えたいのに、口が動かない。
マゼンタ「・・・鎖衣・・・」
黒川鎖衣「マゼンタ!!」
すごい顔。
温かい涙が降ってくる。
黒川鎖衣「行くなマゼンタ! しっかりしろ!」
そんな顔で泣かないで。
愛しすぎて泣いてしまう。
私の命に光をくれた人。
幸せになって。
どうか、幸せになって。
黒川鎖衣「マゼンターーー!!!」
〇廊下のT字路
福成章介「マゼンタの体は、もう少し耐えられると思っていた。私の失態だ」
黒川鎖衣「・・・許さない。 あんたを一生許さない」
福成章介「恨むなら恨め。 だが鎖衣、彼女の遺したものは研究上貴重なサンプルだ。これを使えば、シアンも」
黒川鎖衣「ふざけるな! クローンの命をなんだと思ってるんだ。 研究のためなら何をやってもいいのか?」
黒川鎖衣「あんたは、マゼンタを殺したんだ! そんなものを使ってシアンを治療するなんて認めない。絶対に認めない!」
福成章介「鎖衣・・・」
〇おしゃれな居間
黒川鎖衣「・・・そんな。マゼンタは・・・」
福成章介「私を許さなくてもいいが、 彼女の想いは受け取ってやって欲しい」
福成章介「幸い、シアンの状態はそこまで深刻ではなかったので、お前に任せて研究所を出て、私は欠陥修復移植の研究に集中した」
福成章介「もう少しで、研究が完成しそうなんだ。 そうすれば、胎児サンプルを使わなくても」
黒川鎖衣「・・・・・・完成しています」
福成章介「え?」
黒川鎖衣「ここにいる穂多美さんが、節奈さんの研究データを届けてくれました」
黒川鎖衣「受精卵から欠陥修復可能な形態にする方法や、処置の経過予測まで、完璧です」
福成章介「節奈くんが・・・!」
黒川鎖衣「研究所を離れてからの10年、ずっと研究を続けていたのでしょう」
福成章介「そうか・・・ 節奈くんは、研究を続けていたのか」
福成章介「そのデータを見せて、シアンの処置をさせてくれるか?」
黒川鎖衣「そのことで話があります。 シアンが今朝、重篤な発作を起こしました」
黒川鎖衣「対処的な処置はしましたが、僕の技術では限界がある。教授の助けが必要です」
黒川鎖衣「どうぞ、よろしくお願いします」
鎖衣さん・・・
福成章介「ならば、すぐに行こう。 同行させてもらえるか?」
黒川鎖衣「はい。車に節奈さんの研究データを移したノートパソコンがあるので、道中チェックしていただきます」
福成章介「ああ、わかった」
福成章介「穂多美さん、だったね」
小牧穂多美「は、はい」
福成章介「節奈くんが君にデータを託して届けさせたということは、もしかして、節奈くんの状態にも問題があるんじゃないか」
小牧穂多美「・・・はい」
黒川鎖衣「でも、まだ生きてる」
福成章介「・・・・・・」
黒川鎖衣「生きてるなら、遅いことはありません」
福成章介「鎖衣。 お前も生きているな」
黒川鎖衣「・・・・・・」
福成章介「訪ねてきてくれてよかった。 今まで静観しかできなくて、すまなかった」
黒川鎖衣「研究所に運ぶサンプルの準備をしてください。 節奈さんは、研究所で待っています」
福成章介「そうか。わかった」
小牧穂多美「鎖衣さん、ちゃんと話せて良かったですね。 やっぱり、わたしは何にも出来なかったけど」
黒川鎖衣「してたじゃないか」
小牧穂多美「え?」
黒川鎖衣「途中からずっと、両手で俺の左手を握ってただろう。すごい力だったぞ」
小牧穂多美「あっ。い、痛かったですか」
黒川鎖衣「ああ。痛かった。お前、爪も伸びてるな」
小牧穂多美「ご、ごめんなさい!」
黒川鎖衣「お陰で胸の痛みがどこかに紛れてしまった」
小牧穂多美「・・・え?」
黒川鎖衣「僕はマゼンタやシアンのために怒っていると思っていたが、ただ、拗ねていただけなのかもしれないな」
黒川鎖衣「マゼンタを亡くした痛みももちろんある」
黒川鎖衣「でも、一番耐えられなかったのは、 信頼していた教授に裏切られた痛みだ。 支えを失って孤独だった」
小牧穂多美「わたし、教授はきっと、 鎖衣さんが大事だから本当のことを 黙ってたんじゃないかと思いました」
黒川鎖衣「・・・そうだな」
鎖衣さん、すっきりした顔をしてる。
次回へ続く
わだかまりを解いた鎖衣。
そして福成と節奈は再会する──
次回 エピソード11.帰還
鎖衣がぁー!!(´;ω;`)泣き顔にやられました💦
こんなすれ違いがあったなんて・・・けど本当に、これは時間が必要でしたね・・・
今だからこそ、誤解が解くことができて、色々と受け入れることができたんでしょうね・・・
鎖衣には本当に幸せになってほしいです・・・
もちろんみんなも・・・
電車で読んでて泣きました。マゼンダが事切れるタイミングが誤解を生む最悪の瞬間でした。こりゃ恨まれますわ。
そしてエピソードを加えると人に対する印象が変わっていくのが凄いですね。
受精卵をマゼンダが引き受けなきゃならなかったのも、節奈さんが居なくなったタイミングで…、なんて緻密!
マゼンタ〜!!
福成教授の不器用な優しさにもホロリな回でした。
てっきり嫌なヤツだと思っていたのに、ダンディすぎ!
みんなが助かると良いのだけど…。