第二十話『功夫娘娘』(脚本)
〇豪華な王宮
月蝕の祭祀から、数日後──。
朝堂の玉座には晨国皇帝・李万寧が座し、手枷を嵌められた三名を見下ろしていた。
その横に立った寒月が、手にした文書を広げる。
寒月「宰相・尹文忠(いんぶんちゅう)、淑妃・尹梅花、およびその侍女・子蘭」
誰もが深く、頑なに顔を上げようとはしなかった。
寒月「陰謀を巡らせ、朝廷を混乱に陥れたことを認めるか」
淑妃「認めます」
子蘭「梅花さま!」
淑妃「私たちは負けたのです。 今更何を隠し立てしても、無駄でしょう」
寒月「何が目的だった。 おまえの口から説明しろ」
淑妃「私の姉・・・かつての太子妃を殺した、皇后への復讐です。そして、『秘花宝典』を取り返すこと」
寒月「崔皇后に太子妃を殺害した事実はない」
淑妃「そのようなこと、信じられるはずがありません」
寒月「だがおまえは、太子妃殺害の証拠を突き出すという手段を選ばなかった。何もないからだ」
淑妃「・・・・・・」
沈黙した淑妃をちらりと見て、寒月は再び文書に視線を落とした。
寒月「徳妃を巻き込んだのは何故だ」
淑妃「人の寄り付かない太子妃宮は、修行場としてうってつけだったのです」
淑妃「まさか肝試しが行われ、そのうえ上級妃が紛れ込むとは思いもよりませんでしたが」
寒月「偶然だったと?」
淑妃「ええ。殺すつもりもありませんでした。 私は皇后ただ一人を手にかけることができれば、それで良かったのですから」
寒月「皇后への殺意を再び認めたな」
尹宰相「計画したのは私なのだ!」
思わず口を開いた尹文忠に、寒月は冷たい視線を投げる。
寒月「許可なく口を開くな」
尹宰相「・・・っ」
皇帝「朕が許す。申せ」
尹宰相「・・・我が娘・桜花(おうか)が死した月蝕の夜に、崔皇后の悪徳を糾弾する計画を立てたのは私」
尹宰相「天罰に見せかけて、崔皇后を殺害するつもりでした。梅花は、私の指示に従い動いたに過ぎませぬ」
淑妃「父上」
押し殺した声で、淑妃が父の言葉を遮ろうとする。
尹宰相「殺害に失敗しても、皇后を廃位に追い込む計画だったのです」
尹宰相「その後、かつての太子妃である桜花に皇后としての諡号(しごう)を賜り、名誉を復するはずでした」
皇帝「上手くいくとでも思っていたのか」
尹宰相「梅花に寵愛はなく、私も老いた」
尹宰相「手ごまとして子蘭を潜り込ませることのできる後宮解放令、そして月蝕のある今こそ、最後の機会だったのです」
寒月「子蘭、おまえはなぜ尹氏の計画に加担した」
子蘭「・・・・・・」
寒月「黙り込むか。では代わりに、私が言おう」
寒月「おまえは太子妃の元侍女・明蘭(めいらん)だな? 計画に加担した動機は、十分にあるだろう」
淑妃「何もかも、すでに調べ上げていたのですか」
寒月「晨国の御史台(ぎょしだい)を、見くびらないでもらおう」
淑妃「・・・なるほど。 ではもう、申し上げることはございません」
皇帝「寒月、各人の罪状を読み上げろ」
寒月「尹文忠、数度に渡る刺客の手引き。 皇帝陛下および皇后の命を危険にさらす計画を主導した罪」
寒月「尹梅花、徳妃・姫金糸を襲い、また皇后とその侍女の命を狙った罪」
寒月「子蘭、皇后にまつわる虚言の流布、『秘花宝典』の窃盗、および謀反の計画に加担した罪」
寒月「尹氏よ、族滅(ぞくめつ)は免れないぞ」
最も重い刑罰を口にしても、三名の罪人はいかなる感情も表に出しはしなかった。
〇豪華な王宮
寒月「報告は以上となります」
寒月が昼間の出来事を伝えると、皇后は一つ頷いた。
皇后「これで一件落着ね」
その場に同席していた徳妃が、何故か誰よりも疲れたようなため息を漏らした。
徳妃「はぁあぁあ・・・安心しましたわ・・・!!」
徳妃「これを預かれと言われたときには、誘惑にかられそうに──いえ、あたくしに守り切ることができるか、不安でしたのよ!」
玉兎「え・・・これって、『秘花宝典』ですか!?」
徳妃「ふふん、そうよ。 娘娘に信頼されているあたくしは、秘伝書を預かる大役を任されたのですわ!」
玉兎「すごいです! かっこいいです!」
徳妃「そうでしょう、そうでしょう! おーっほっほっほ!」
皇后「金糸がわたくしを嫌っていることは有名だったもの。まさかあなたに預けるとは思いもよらなかったのでしょうね」
玉兎「なるほど・・・玉兎も思いつきませんでした! 『秘花宝典』は本当に盗まれたのだとばかり!」
皇后「敵を騙すには、まず味方からよ」
徳妃「そんなことより、娘娘! あたくしは娘娘のことをさらにさらに見直したのですわ!」
皇后「あら、何のこと?」
徳妃「何って、月蝕の祭祀ですわ! 優美に舞いながら、まさか矢を! 素手で! 受け止めるだなんて!」
皇后「うふふ、あんなの朝飯前よ」
徳妃「その後の立ち回りも、なんと美しかったか・・・凛々しいお姿がこの目に焼き付いておりますわ!」
徳妃「侍女だけでなく、まさか娘娘も武芸者だったなんて!」
黄色い声を上げる徳妃に、皇后は悠々と応じる。
皇后「当然でしょう? 皇后たるもの、陛下をお守りする最後の盾となれるよう、武芸を身に着けておかねば」
徳妃「あ、あたくしも今すぐ実家に手紙を出しますわ!」
徳妃「武芸の師範を手配してもらいますの! 今に後宮の大流行となるはずですわ・・・!!」
皇后「・・・大流行?」
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やり取りが逐一可愛かったこの2人の漫才も見納めになると思うと……あぁ😢
最後の最後まで可愛い件😇
事件は一件落着ではありますが、やはり時代的に族滅は免れないと思うと淑妃さん……(最終話で『実は許してもらった!』となるかなと若干思ってはいるものの、多分ない😅)。