第十八話『いざ決戦! 月蝕の祭祀(一)』(脚本)
〇後宮前の広場
夕暮れ時を過ぎ、辺りが暗くなる中。
夜空を照らしていた満月が、徐々に細ってゆく。
──月蝕の祭祀、当日。
皇帝「そのような天のめぐりとわかっていても、月が欠けていくとは奇妙な光景だな」
尹宰相「そうですな。陛下の御代が今宵のように暗くならぬよう、皇后娘娘にはしっかりと舞を奉納していただかねば」
皇帝「皇后は舞の名手だ。朕は楽しみだが、宰相はそうでもないようだな」
尹宰相「近頃の後宮の騒ぎに、蝕が重なるとは。 この不吉な天意を、まさかわからぬとはおっしゃらないでしょう」
皇帝「政ではあれほど星や卜占を馬鹿馬鹿しいと言う宰相が、天意は信じると?」
尹宰相「陛下の御代が安泰であることを願うゆえの言葉です。私が信じようと信じまいと、民草は天を畏れるでしょう」
皇帝「災害や失政、さらには官吏の不正、そして過去の不幸な出来事まで。・・・すべてを、皇后のせいにしたいのだな」
尹宰相「・・・何のことやら」
皇帝「宰相、朕は皇后を愛しく思っているのだ。あれを失うわけにはいかぬ」
尹宰相「まさか陛下の口から、そのような言葉を聞く日が来るとは。ですがその想いを受け取るべきだったのは──」
皇帝「月が消える。もう、口を閉じるがいい」
尹宰相「・・・・・・」
〇後宮の一室
真っ白い絹で作られた衣を着せられ、あでやかな化粧を施される。
「玉兎」から「皇后」に変わり、背筋を正した。
玉兎「一人で着付けをするの、大変でしたよね。ありがとうございます、麗華さん」
麗華「私は影で支えることしかできないもの。 今日ばっかりは、あなたのことを頼りにしているわ」
玉兎「えへへっ、頼りにされるのって嬉しいですね!」
麗華「・・・本当に、気をつけなさいよ。 大怪我したって、面倒見てあげないんだから」
玉兎「大丈夫です。今日の玉兎は、みなさんのおかげで無敵ですから!」
玉兎が意気込んだ時、着替えのための控室に小宝が駆け込んできた。
小宝「おい!」
麗華「ちょっと、声もかけずに入ってこないでよ!」
小宝「それどころじゃ・・・今さっき、淑妃さまが急病にかかって退席されたのだ!!」
玉兎「そうでしょうね」
小宝「ああ、落ち着け玉兎! おまえを脅すわけじゃないんだがな、こりゃ一波乱あるぞ!!」
玉兎「はい、わかっています」
小宝「いいか、深呼吸だ。 肩の力を抜いて、それから・・・」
麗華「小宝、うるさいわよ。 玉兎はずっと落ち着いてるじゃない」
小宝「そ、そうか!」
玉兎「玉兎は大丈夫です。気を集中したいので、少しの間一人にしてもらえますか?」
麗華「戸の前にいるわ。 何かあったらすぐに呼んで」
麗華と小宝が出ていくと、玉兎は鏡の中の自分と向き合った。
玉兎の頭をよぎるのは、父の手で滝壺に突き落とされたあの日のことだった。
玉兎(破門を受けたあの日から・・・玉兎は奔月門の技を封印してきました)
玉兎(一子相伝、門外不出。だからこそ玉兎は、死ななければならなかった。弟に、生きていてほしかったから)
だが、と玉兎は拳を握り締める。
玉兎(玉兎の本領は、誰かから盗んだ武芸ではありません。武人として向き合うのなら──奔月門の技を使いましょう)
〇後宮の一室
玉兎「──玉兎を信じてください」
寒月「・・・・・・」
玉兎「無茶はしません。今度こそ、約束します。だから──」
寒月「おまえを信じる」
玉兎「寒月さん!」
寒月「私はおまえを信じる。だから、娘娘と『秘花宝典』のことは任せておけ」
〇後宮の一室
後宮の殿舎に隠れている娘娘は、寒月が護衛することになっている。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
ベストタイミングで矢が……!!!😭
……音もエフェクトもないのに、躍動感を感じたり情景が浮かんでくるのが凄いです……!