行き詰まる3人の物語

ヤマ

エピソード7(脚本)

行き詰まる3人の物語

ヤマ

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〇レトロ喫茶
  21:00
  増田は店の表に「close」の札を立てた。
  これで邪魔は入らないだろう
藤本真(ふじもと まこと)「それで、刑事さんは・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ああ、自己紹介がまだだったわね。 私は青井。青井聖樹っていうの。よろしくね」
藤本真(ふじもと まこと)「カッコいい名前ですね。よろしくお願いします」
原 玄(はら ひかる)「あ、俺は後輩の原玄っす。 よろしくね〜、マコトちゃん」
藤本真(ふじもと まこと)「あ、はい」
増田朔(ますだ はじめ)(反応うっす)
増田朔(ますだ はじめ)「えーと、俺はコンビニでも自己紹介はしたけど」
藤本真(ふじもと まこと)「はい。増田さんですよね。覚えてます」
増田朔(ますだ はじめ)「覚えててくれてありがとう」
増田朔(ますだ はじめ)「ただ、俺は喫茶店のマスターだけじゃなくて 探偵業もやってるんだ」
増田朔(ますだ はじめ)「やっぱりこう・・・元刑事だから、 この手の業界からオファーが絶えなくてね」
原 玄(はら ひかる)「喫茶店の経営が赤字だから、 副業で探偵業をやってるだけじゃないっすか!」
増田朔(ますだ はじめ)「うるせえ!」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「ええと、私のことは・・・ 自己紹介をするまでもなく、 ご存知なんですよね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ええ、まあ」
  青井が頷くと、藤本はチラリと増田の方を見遣った。
増田朔(ますだ はじめ)(ああ、俺が伝えたってバレバレか)
増田朔(ますだ はじめ)(抜けてる子だと思ってたけど、 お察し能力はある方なのかな)
藤本真(ふじもと まこと)「じゃあ、本題に入りますね」
藤本真(ふじもと まこと)「青井さんは、連続してる刺殺事件の捜査をしていて、私がその事件について何かを知ってると・・・そう思ってるんですよね?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ええ、その通りよ」
藤本真(ふじもと まこと)「そう思う理由が、私が描いた絵にあると。 そういうことですよね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ええ」
藤本真(ふじもと まこと)「結論から言います。 私は、事件については本当に何も知りません」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「でも・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「じゃあ、あの絵は何かって話ですよね。 事件現場を見たとしか思えない絵を、 どうやって描いたのかと」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ええ、そうね」
増田朔(ますだ はじめ)(何か、最初の印象と違って割と論理的な喋り方するんだな)
藤本真(ふじもと まこと)「あの絵は、夢で見た光景を描いたものです」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「夢?」
藤本真(ふじもと まこと)「はい。昔からなんですけど・・・ 私、人が亡くなる夢を見ることがよくあるんです。すごくリアルに」
藤本真(ふじもと まこと)「それで、夢で見た内容を絵に描いたりメモを取るようにしてて」
藤本真(ふじもと まこと)「昔は、嫌な夢と現実を区別しようと思って、 記憶の整理の為にただ描くだけだったんですが、」
藤本真(ふじもと まこと)「漫画家を目指すようになってから、 夢の内容を漫画のネタに使うようになったんです」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「それが、結果的に実際の事件現場そのままの絵になったってこと?」
藤本真(ふじもと まこと)「そういうことになりますね」
原 玄(はら ひかる)「ええっ!?じゃあ、マコトちゃんって予知夢とか見れる人ってこと?」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「刑事さんなら、こんな話を真に受けるわけにはいかないでしょ?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「それは、まあ・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「でも、あなたの言葉が本当なら、 今まで不可解だったことに納得がいくわね」
増田朔(ますだ はじめ)「・・・・・・・・・・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「いいえ、そうじゃないわね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「藤本さん、あなたの言葉を信じるわ」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
原 玄(はら ひかる)「じゃあ、 マコトちゃんが見た夢の内容に合わせて、 俺らは証拠なり犯人なりを捜せば良いってことっすよね」
原 玄(はら ひかる)「えーと、確かストーカー殺人の話でしたっけ」
藤本真(ふじもと まこと)「あ、それは違います」
原 玄(はら ひかる)「え?」
藤本真(ふじもと まこと)「私が夢で見るのは、あくまで断片的なものなんです。夢で見た絵面に合わせて、ストーリーは適当に作るんです」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「じゃあ、ストーカーの話は事件とは関係無いってこと?」
藤本真(ふじもと まこと)「はい。あの事件に関して私が夢で見たのは、 雨の中で滅多刺しにされて倒れてる女性と、」
藤本真(ふじもと まこと)「血の付いた包丁を持ってる黒いフードを被った男性の姿、それだけです」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「犯人の顔は見なかったの?」
藤本真(ふじもと まこと)「仮面を付けてましたから」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ああ・・・だから漫画の中でも最後まで犯人の素顔が描かれてなかったのね」
藤本真(ふじもと まこと)「すみません。捜査のお役に立てなくて」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「いいえ。とても興味深い話だったわ。 聞かせてくれてありがとう」
原 玄(はら ひかる)「ねえねえ、マコトちゃんってさ、 自分が予知夢を見てる自覚ってあるの?」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「さあ、なんとも」
藤本真(ふじもと まこと)「いつも予知夢を見てるってわけじゃないと思いますし。殺人事件の夢を見たところで、自分が関わってるわけでもないですから」
藤本真(ふじもと まこと)「正直なところ、実感は薄いです」
原 玄(はら ひかる)「そっかあ。ま、そりゃそうだよな」
原 玄(はら ひかる)「あ、そう言えば夢の記録を付けてるんだよね? もし良かったら、それも見せてくれないかな」
原 玄(はら ひかる)「もしかしたら、事件解決のヒントになるような何かが描かれてるかもしれないからさ」
藤本真(ふじもと まこと)「そう言われると思って、持ってきました」
藤本真(ふじもと まこと)「このノート一冊に直近1ヶ月分ぐらいの夢の内容を記録してます」
原 玄(はら ひかる)「おお、気が利くねえ!ありがとう!」
藤本真(ふじもと まこと)「それにしても、なんだかんだで 皆こういう話に興味あるんですかね」
増田朔(ますだ はじめ)「皆?」
藤本真(ふじもと まこと)「今日、漫画の持ち込みの件で出版社に行ったんですけど、そこの編集の人にもすごく聞かれたんですよ」
増田朔(ますだ はじめ)「それって、この前の名刺の人?」
藤本真(ふじもと まこと)「はい。夢で見た内容を作品に落とし込んでいることを伝えると、とにかく予知夢のことを根掘り葉掘り聞かれちゃって」
藤本真(ふじもと まこと)「作品のことより予知夢の話ばかりで、なんだかなぁって」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ・・・まあ、そうだなあ。 うん、そういう話って気になるからね」
増田朔(ますだ はじめ)(今日はやけに暗いと思ったが、原因はそれだったのか)
増田朔(ますだ はじめ)(そういえば飯野恵一とかいう編集者、)
増田朔(ますだ はじめ)(この子の素性について、俺の調査結果に納得してなかったけど、一体何を考えてるんだろうな)
藤本真(ふじもと まこと)「じゃあ、用は済んだので私はこれで」
増田朔(ますだ はじめ)「あ、折角だし、もう一杯コーヒーでもどう?面白い話を聞かせてくれたお礼に奢るよ」
藤本真(ふじもと まこと)「ありがとうございます。 でも、これからバイトなので。 もう行かないと」
増田朔(ますだ はじめ)「え、今から?」
藤本真(ふじもと まこと)「今日は遅番なんです。 結構割りが良いんですよ」
増田朔(ますだ はじめ)「そっか。じゃあ、またおいで。 コーヒー一杯はサービスにしておくから」
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
藤本真(ふじもと まこと)「ありがとうございます」
藤本真(ふじもと まこと)「じゃあ、さようなら」

〇レトロ喫茶
  藤本が店を出て行った。
  その後、店内に残った3人で彼女が置いていった夢日記を見た。
原 玄(はら ひかる)「おお〜、いっぱい描いてますね」
原 玄(はら ひかる)「この間の滅多刺しのやつの他に、 線路に突き落とされる人とか、 通り魔事件みたいな絵もありますね」
増田朔(ますだ はじめ)「とは言え、あくまで夢で見たものを絵に描いてるだけだからな」
増田朔(ますだ はじめ)「本人も言ってたが、全てが予知夢ってわけでもないだろうし・・・」
原 玄(はら ひかる)「あ、この撲殺死体、この間俺たちが担当した事件のやつとそっくりっすよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「本当だ。メモもある。 お金のことで揉めてるって・・・合ってるわね」
原 玄(はら ひかる)「凄え。やっぱり本物なのかな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「かと思えば、ケーキを食べてるだけって感じの平和な絵もあるわね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「・・・ん?小さく当たりって書いてる」
原 玄(はら ひかる)「あ、ここにも当たりって書いてるっす」
原 玄(はら ひかる)「・・・この絵って、青井さんに似てるっすね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「え?私ってこんなに目をつり上がらせてる?」
原 玄(はら ひかる)「この間、マコトちゃんに詰め寄った時がこんな感じでしたよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ええ・・・やば。気を付けよう」
原 玄(はら ひかる)「じゃあ、この当たりって書いてるのは、 実際に夢の内容が現実になった時のものってことですかね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そうみたいね」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あれ?でも、日井美衣が滅多刺しにされてる絵には当たりって書いてないわよ」
原 玄(はら ひかる)「書き忘れたんじゃないっすか」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ああ・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「あ!分かった」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「え?どうしたんですか、急に」
増田朔(ますだ はじめ)「当たりって書いてある絵と 書いてない絵の違いが分かった」
原 玄(はら ひかる)「予知夢が当たったか当たらなかったか、でしょ」
増田朔(ますだ はじめ)「それもあるが、当たりって書いてる絵は、 主観的な絵になってるんだ」
原 玄(はら ひかる)「主観的?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ああ、言われてみれば確かに」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「ケーキを食べてる様子は手元だけの絵だし、 迫ってる私の顔は・・・ もうちょっと可愛く描いて欲しかった」
原 玄(はら ひかる)「これでも大分マシに描いてると思・・・」
原 玄(はら ひかる)「グボッ」
増田朔(ますだ はじめ)「で、他の絵は傍観者みたいな構図になってる。 通り魔事件の絵も、滅多刺しの死体の絵も」
増田朔(ますだ はじめ)「なんて言うか、ドラマとか映画のワンシーンみたいな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「なるほど。でも、それって どういう意味があるんでしょうか」
原 玄(はら ひかる)「あれじゃないっすか。 実際に自分で体験するタイプは主観的な絵になるんじゃないっすか」
増田朔(ますだ はじめ)「確かに。そう考えるのがしっくりくるよな」
増田朔(ますだ はじめ)「その上で、現実になった夢の絵に当たりって書いてるんじゃないかな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「うーん」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あれ・・・?」
増田朔(ますだ はじめ)「どうした?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「最後のページ、真っ黒に塗り潰してますね」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ・・・夢の中で真っ暗な状態にでもなったのかな」
原 玄(はら ひかる)「えーと、塗り潰しの前のページはどうなってますか?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ!仮面を付けた黒いフードの男!」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、滅多刺し事件の犯人っぽい奴か」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「そいつが包丁を振り上げてる・・・けど、 ねえ、ちょっと待ってよ。これ・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「凄く、主観的な絵に見えるんだけど」
原 玄(はら ひかる)「えっ!?」
増田朔(ますだ はじめ)「確かに、青井の言う通りだ。 今にも自分に向けて包丁が振り下ろされようとしてる」
原 玄(はら ひかる)「それで次のページが真っ黒に塗り潰されてるって・・・ なんかヤバくないっすか?」
増田朔(ますだ はじめ)「・・・・・・!」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あの子、何で私達にこのことを言わずに出て行っちゃったのよ!」
増田朔(ますだ はじめ)「とにかく、すぐに彼女の後を追いかけよう」
増田朔(ますだ はじめ)「確か、バイトに行くと言ってたな。ビジネス街のコンビニだ」

〇商店街
  慌てて店を出る。
  外は大粒の雨が降りしきっていた。

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