第十二話『太子妃宮の幽鬼』(脚本)
〇御殿の廊下
皇帝によって禁域とされた、旧太子妃宮。
見張りに立つ宦官の目をかいくぐり、玉兎は暗闇に包まれた殿舎にやすやすと侵入した。
玉兎「さて」
玉兎(思えばこの場所には因縁がありますね)
玉兎(先輩たちに井戸に落とされたのもここ、肝試しに来たのもここ・・・でも、中に入るのは初めてです)
玉兎「・・・目が慣れてきましたね。 どこからでもかかってこい、ですよーっ」
荒れた室内を見回し、玉兎は早速調査を開始した。
玉兎「それにしてもお部屋がいっぱいありますね。太子妃さまはどこで過ごされていたのでしょうか?」
玉兎「何もない・・・こっちもない・・・」
玉兎「こっちは侍女の部屋でしょうか? 少し狭いですね」
玉兎「それに──変なにおいがします」
玉兎(ここは殿舎の中でも奥まっていますから、少しなら問題ない・・・ですよね)
玉兎は周囲を見回して、小さな蝋燭に火を点けた。
頼りない火が照らしだすのは、焼け跡の残る床。
玉兎「これは──まだ、新しい?」
床に這いつくばるようにして、玉兎は辺りを手探りする。
伸ばした指先に、触れるものがあった。
玉兎「・・・本? ま、まさか──あの幽鬼の秘伝書!?」
慌てて焼け残りの書物を拾い上げ、懐に押し込んだその時。
〇霧の中
──スゥッ。
生温い風が吹き抜け、蝋燭の火が消える。
玉兎「誰ですっ!?」
玉兎(気配がなかった・・・!!)
玉兎の前に立つのは、白くぼんやりとした人影。
幽鬼「・・・・・・」
玉兎(火を点けたのは失敗でした・・・よく見えません。ですが──)
玉兎「そこにいるのが太子妃さまならば──。 一手ご指導願いますっ! いざ!!」
飛び出した玉兎に対して、幽鬼は受ける構え。
玉兎「はぁっ!」
幽鬼「・・・・・・」
一手、二手と拳を交えるなかで、玉兎は確信していた。
玉兎(この幽鬼、やはり女人ですね。 そして──かなりできます!)
幽鬼「・・・ふっ!」
突如として殺気が膨れ上がる。
優雅に振り上げられた白い足が、不規則に揺れ──玉兎の左腕を強かに打った。
――ゴッ!!
玉兎「・・・っ!!」
玉兎(殺す気です。徳妃さまの時とは違う・・・っ! このまま玉兎が倒されれば、娘娘が危い──!)
玉兎は鋭く息を吐き出し、痛みを逃がす。
幽鬼「・・・・・・」
玉兎「・・・あなたが本気だというのなら、こちらもそうさせていただきますよ」
練り上げた内力を拳に込める。
玉兎「闇討ちなど卑怯な手、玉兎は許しません。あなたが太子妃だというのなら、正々堂々勝負をしてください!!」
叫び声とともに繰り出される、玉兎の重い拳。
その手には確かに、肉を打つ感触があった。
幽鬼「う・・・っ!!」
衝撃に吹き飛ばされた幽鬼の体が、窓を破る。
玉兎「まだまだ!!」
追撃しようと追いかけた玉兎だったが──
〇御殿の廊下
玉兎「・・・え?」
忽然と、幽鬼は姿を消していた。
玉兎「ど、どうしてですかーっ!?」
宦官・一「・・・なんだ? 物音がしなかったか?」
宦官・二「女の声が聞こえたぞ!」
玉兎「はうあっ!? し、失敗です・・・! 逃げないとっ」
玉兎(突然消えるなんて、やっぱり幽鬼はひと味違います!)
玉兎「でも、確かに殴った感覚はあったんですよね・・・」
〇皇后の御殿
玉兎「と、いうことがありまして」
寒月「・・・待て。見張りに姿を見られたのか!?」
玉兎「いえ、宦官が駆け付ける前に逃げました!」
寒月「はぁ。もし見られたら、おまえに疑いがかけられるかもしれないんだぞ。迂闊すぎるだろう」
玉兎「それは謝ります・・・が!! 達人の幽鬼は確かにいたんですよーっ!」
玉兎「しかも、かなり強いです! 玉兎も重いやつをどかっと食らってしまいました!」
寒月「それで、なぜはしゃいでいるんだ・・・?」
玉兎「それはもちろん、幽鬼の武術は見たことのないものだったからです! なんだか不規則な軌道で、舞のような戦い方でした!」
寒月「女人だということは間違いないのか」
玉兎「はい! ですがあの蹴りときたら・・・! 見事でしたねえ。玉兎も本気を出さざるを得ませんでしたよ!」
玉兎「でもやっぱり、しばらく戦っていないと勘が鈍りますね」
寒月「怪我は?」
玉兎「はい?」
寒月「重いやつをどかっと食らったんだろう。 怪我はないのか?」
玉兎「あ、はい! 骨が折れました!」
寒月「そうか、無事なら──何だと?」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
「骨が折れました!(笑顔)」可愛いっす……😇
「(この程度の怪我で心配?)」みたいな言い草、キャラの人生が透けて見えて好きです……いやぁ( ´∀`)❤