君の隣に僕が生きてる

咲良綾

エピソード8.痛み(脚本)

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咲良綾

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〇研究開発室
  ついに節奈と再会したシアン。
  鎖衣からの電話を受け、節奈も一緒に
  研究所へ戻ることになったが──
小牧穂多美「シアンの処置、まだ終わらないのかしら・・・」
久我山時夫「もうすぐ終わるだろ。 鎖衣を信じて、落ち着こうぜ」
  研究所に着くと、シアンはすぐに処置室へ運ばれた。
  節奈おばちゃんは、別室で休んでいる。
小牧穂多美「・・・・・・。 ごめんなさい」
久我山時夫「ん? 何が?」
小牧穂多美「生き別れの兄弟とか、鎖衣さんを探してるとか、嘘ついてて」
久我山時夫「ああ、節奈さんがシアンの母親って言われたときは、マジで腹違いの隠し子かと思ったよ!」
久我山時夫「でも二人の関係は極秘事項だったわけだし、俺は鎖衣に会えたし。気にするな」
小牧穂多美「でも時夫さんにはほんと、迷惑かけちゃって申し訳な・・・ふがっ」
  鼻をつままれた。
久我山時夫「俺は趣味で付き合ってるんだって言ったろ。 面白いからやってんの。それに・・・」
久我山時夫「そういうときに言う言葉は、 「ありがとう」だろ?」
小牧穂多美「・・・ありがとう」
久我山時夫「よし」

〇研究開発室
小牧穂多美「節奈おばちゃん・・・体は大丈夫?」
芳田節奈「ええ。しばらく休ませてもらって、移動の疲れも落ち着いたわ」
久我山時夫「顔色が良くなりましたね」
久我山時夫「じゃあ俺、入れ違いで仮眠とってくるわ。 昨日あんま寝てないし」
小牧穂多美「うん、お疲れ様」
芳田節奈「シアンの処置はまだ時間がかかりそう?」
小牧穂多美「うん・・・節奈おばちゃん、ごめんね」
芳田節奈「何が?」
小牧穂多美「ずっと、わたしはどうして好きな人のそばにいられなくなっちゃうんだろうって思ってた」
小牧穂多美「でもそれは多分、わたしが間違えてるからなの」
小牧穂多美「変な意地を張って家族に遠慮したり、浅はかな気持ちでシアンを連れ出したり、節奈おばちゃんに無理をさせたり」
小牧穂多美「わたしがもっとちゃんとしてれば、節奈おばちゃんも病気になんか」
芳田節奈「穂多美、それは違う」
芳田節奈「人が正しければ全部解決するなんて、そんなこと絶対にない」
芳田節奈「間違えても諦めないことが大事なのよ」
芳田節奈「私も諦めないわ。たくさん間違えたけど、諦めない。自分の命も、シアンの命も、穂多美の幸せも」
芳田節奈「それに私は、 あなたが間違えたなんて思ってない。 わたしはあなたを信頼してるし、尊敬してる」
小牧穂多美「節奈おばちゃん・・・」

〇研究開発室
小牧穂多美「鎖衣さん!」
黒川鎖衣「待たせたな。今できる処置はすべてやった」
小牧穂多美「シアン、どうですか?」
黒川鎖衣「もう安心とは言えないが、今は落ち着いて眠っている。しばらくは大丈夫だろう」
芳田節奈「お疲れ様。 やっとお話ができそうね」
芳田節奈「電話でも聞いたけど、マゼンタのサンプルがないって、どういうこと?」
黒川鎖衣「・・・サンプル自体は残してありますが、ここにはないんです」
芳田節奈「じゃあ、どこに」
黒川鎖衣「教授が保管しているはずです」
芳田節奈「教授はどこにいるの?」
黒川鎖衣「・・・・・・」
芳田節奈「わからないの?」
黒川鎖衣「・・・居場所はわかります」
芳田節奈「ねえ、教授と何があったの? あんなに仲が良かったのに」
黒川鎖衣「あの人は、マゼンタを殺しました」
芳田節奈「どういうこと・・・?」
黒川鎖衣「耐えられるはずもない実験で、彼女は命を落としたんです」
黒川鎖衣「あの人のことを考えるだけで、吐き気がする」
芳田節奈「・・・場所を教えて。私が行くわ」
小牧穂多美「節奈おばちゃん!そんなの無理だよ」
芳田節奈「シアンの命がかかっているのよ」
小牧穂多美「じゃあ、わたしが行く! サンプルをもらってくればいいんでしょう?」
芳田節奈「穂多美に渡してくれるわけないでしょう」
黒川鎖衣「・・・待ってください、 僕は行かないとは言ってない」
黒川鎖衣「ただ、穂多美さんを借りていいですか。 一人では、感情を抑える自信がない」
小牧穂多美「え、わたし? 時夫さんじゃなくて?」
黒川鎖衣「この状態のシアンを置いていくんだ。 知識のある節奈さんと、力があって車も出せる時夫は置いて行きたい」
  わたしは役立たずだけど、付き添い程度ならつとまるってことか・・・
  まあいいけど。
小牧穂多美「あの、行く前にちょっとだけシアンの様子を見ることはできますか?」
黒川鎖衣「ああ。周囲の機器に触れないようにしてもらえれば構わない」
小牧穂多美「節奈おばちゃんも行く?」
芳田節奈「穂多美は出かけるから急ぐでしょう。 私はあとからゆっくり行くわ」

〇近未来の手術室
小牧穂多美「・・・・・・」
  何本もついた管が痛々しい。
小牧穂多美「毎日、毎日・・・寝るときも、こんなのいっぱいくっつけてたんだね」
  手を握るくらいは、いいよね?
  ぎゅ
小牧穂多美「わたしの生きる力とか、吸い取っちゃってよ。 シアンは、頬を染めて笑ってくれなきゃ、だめだよ」
小牧穂多美「こんな生気のない顔のままじゃ嫌だ・・・」
小牧穂多美「鎖衣さんと一緒に、絶対にサンプルを持って戻ってくるから。 頑張って、シアン」

〇山奥の研究所
黒川鎖衣「じゃあ、シアンと節奈さんを頼む」
久我山時夫「合点承知。任せなさい!」
黒川鎖衣「帰りは夜になると思うが・・・」
久我山時夫「大丈夫大丈夫。俺、明日も仕事休みだもん。 あるもの好きに食っていいんだろ?」
黒川鎖衣「酒は飲むなよ」
久我山時夫「えー」
黒川鎖衣「えー、じゃない」
久我山時夫「冗談冗談、わかってるよ」
久我山時夫「んじゃ、時夫ちゃん待ってるから、浮気しちゃダメよ、ダーリン☆」
黒川鎖衣「気色悪いこと言うな!!」
黒川鎖衣「まったく・・・行くぞ、穂多美」
小牧穂多美「あ、はい。 ・・・え?」
黒川鎖衣「なんだ」
小牧穂多美「い、いえ」
  男の人に呼び捨てされるのって、初めてかも。
久我山時夫「鎖衣~、早く帰ってきてねぇ~!」
黒川鎖衣「手を振って追いかけてくるのはよせー!」

〇車内
小牧穂多美「あの・・・鎖衣さん」
黒川鎖衣「なんだ」
小牧穂多美「マゼンタのサンプルって、研究上貴重なものなんですよね。 研究所から出しても良かったんですか?」
黒川鎖衣「良くはないな」
黒川鎖衣「だが、持っていくと言われたときには何もできなかった。僕には扱えないし、近くにあることも耐えられなかったから」
黒川鎖衣「僕は科学者としては三流なんだよ。 情を切り分けることができない」
黒川鎖衣「僕はね。マゼンタを愛していたんだ」
小牧穂多美「・・・えっ」
小牧穂多美「恋人だったんですか?」
黒川鎖衣「いや。僕の一方的な感情だ。 彼女は、教授に夢中だった」
  シアンの話とも一致する。やっぱりマゼンタは、福成教授が好きだったのか
  そういえば、シアンは他にも色々言ってたな。好みの話とか・・・
小牧穂多美「あの、クローンの好みって、オリジナルに引っ張られるんですか?」
黒川鎖衣「まあ、多少そういうこともあるだろう。 でも人を形作るのは遺伝子情報だけではないからな。独自の個性は出てくる」
小牧穂多美「じゃあクローンが必ずしも同じ人を好きになるわけではないんですね」
黒川鎖衣「ああ。 クローンだから同じ道を通るとは限らない」
黒川鎖衣「シアンが僕のようになるのを危惧しているのなら、その心配はしなくていい。 僕が14の時とは随分違う」
小牧穂多美「鎖衣さんが14歳の時って、どんな感じだったんですか」
黒川鎖衣「あんなに無垢ではなかったし、勉強ばかりしていたな」
黒川鎖衣「12で身寄りがなくなった僕を引き取ってくれた教授に気に入られようと必死でね」
黒川鎖衣「教授は研究一筋で、知識と教養がないと会話についていけなかった。だが、話の通じる相手には相好を崩す」
黒川鎖衣「マゼンタも教授の歓心を買おうと、必死で勉強していたよ。節奈さんと同じで地頭が良いから、成長は目覚ましかった」
黒川鎖衣「そのうち教授の助手までやり始めて・・・」
黒川鎖衣「・・・はぁ」
黒川鎖衣「ちょっと、止まっていいか。 電話する」
小牧穂多美「はい」
黒川鎖衣「もしもし、時夫か」
黒川鎖衣「節奈さんに、シアンの右腕の様子を見るよう言ってくれ」
黒川鎖衣「点滴の針を刺し直した方がいいと思う。酸素レベルも上げて欲しい。それから、腰のクッションを直してやってくれ」
黒川鎖衣「じゃあ、頼んだぞ」
黒川鎖衣「・・・ふぅ」
小牧穂多美「あの、どうかしたんですか?」
黒川鎖衣「シアンの感覚が伝わってきただけだ。 すぐに良くなる」
  感覚共有の話は何度か聞いた。
  あのときは深く考えなかったけど、まさか
小牧穂多美「もしかして、シアンの痛みを鎖衣さんも共有してるんですか?」
黒川鎖衣「ああ。でも痛みを感じるだけで体の機能は正常だ。心配ない」
小牧穂多美「心配ないって・・・」
  痣だらけの腕を見せてくれたシアン。
  発作で苦しんでいたシアン。
  あの全てを、鎖衣さんはずっと共有していたというのか。
黒川鎖衣「心配ないと言っただろう。 経験が長いからな。痛みから意識を切り離すのは得意だ」
小牧穂多美「鎖衣さん。 鎖衣さんの痛みを教えてください」
黒川鎖衣「え?」
小牧穂多美「鎖衣さん、体の痛みも心の痛みも、一人で抱えてるんでしょう。それをそばで何もわからずに見てるのは嫌です」
小牧穂多美「わたしに付き添いを頼んだのは、部外者の未成年がいれば、教授と会っても深い話を避けられると思ったからじゃないですか?」
小牧穂多美「でもわたしは、逃げの策じゃなくて支えになりたい。ちゃんとサポートしたい」
小牧穂多美「今のままじゃ、鎖衣さんを何から守ればいいのかわからない」
黒川鎖衣「・・・君は、マゼンタと似てるな」
黒川鎖衣「彼女も庇護欲が強かった。 大人びた目で、芯の強さをぶつけてきた。 ずっと年下なのに、妙な安心感があって・・・」
黒川鎖衣「・・・・・・」
黒川鎖衣「いいだろう、話そう。 そうするのが正しいことなのか、わからないけれど」
  次回へ続く
  鎖衣が話す、マゼンタの身に起きたことと
  福成教授の罪とは──
  
  次回 エピソード9.確執

次のエピソード:エピソード9.確執

コメント

  • 皆が少しずつ違った痛みをそれぞれに抱えている。それを感じ、支えようと出来る強さを持っている彼女は生きるための強さを持っている人かもしれないですね。

  • 緊迫感がすごいから、時夫さんの存在に助けられる(^▽^;

  • この回は泣く…!
    時夫さんがいいさじ加減でコメディを入れてくれた。

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