君の隣に僕が生きてる

咲良綾

エピソード7.再会(脚本)

君の隣に僕が生きてる

咲良綾

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〇病室のベッド
  発作を起こして倒れたシアン。
  穂多美は助けを求めて節奈の元へ向かう──
小牧穂多美「節奈おばちゃん!」
芳田節奈「・・・穂多美?どうしたの」
小牧穂多美「あ・・・あのね、シアンが、シアンが」
芳田節奈「落ち着いて。シアンがどうしたの?」
小牧穂多美「シアンの具合が悪そうなの。でも、お医者さんに見せるのはダメだと思って」
芳田節奈「シアンは、どこにいるの?」
小牧穂多美「病院の、前・・・車の中」
芳田節奈「福成教授は?」
小牧穂多美「研究所にはいなかったの。 代わりに、黒川鎖衣さんって人がいて」
芳田節奈「鎖衣くんと来てるの?」
小牧穂多美「ううん。シアンは研究所を抜け出してきたの」
小牧穂多美「今は、鎖衣さんの友達っていう人が見てる。 でもその人は、シアンの秘密を知らないの」
小牧穂多美「ねえ、どうしたらいい?」
芳田節奈「車椅子を出して! シアンのところに行くわ」
小牧穂多美「わかった」

〇病室の前
芳田節奈「穂多美。 シアンが世間に極秘の存在だっていうことは、わかってるのよね」
小牧穂多美「う、うん」
芳田節奈「連れ出せばどうなるか、わかっていたの?」
小牧穂多美「どうなるかって・・・」

〇大きい病院の廊下
芳田節奈「あの研究所、入所チェックは厳しいけれど、 出るときのチェックはそんなに厳しくなかったでしょう」
小牧穂多美「うん」
芳田節奈「それは普通なら、抜け出すはずがないからよ。あの子は研究所でしか、生きられないんだから」
小牧穂多美「え・・・? 体が弱いだけじゃなくて?」
芳田節奈「まず、シアンは臓器の機能が不完全なの。 それから、通常の人間より細胞の老化が激しい」
芳田節奈「だから、それを補助したり抑制したりする薬剤の投与が必要なの」
芳田節奈「点滴では間に合わないから、透析機械のような特殊な設備が必要なのよ」
芳田節奈「目的別に、昼短時間と就寝時の長時間、毎 日処置をしているはずよ」
小牧穂多美「毎日・・・」

〇エレベーターの中
芳田節奈「シアンはもう14歳・・・ 処置を続けていても、生存が危ぶまれる年齢に差し掛かってるわ」
芳田節奈「一日でも処置を怠ったら、命が危ないと思う」
小牧穂多美「あ・・・わ、わたし、知らなくて」
芳田節奈「穂多美を責めるつもりはないわ」
芳田節奈「信用してあの研究所の場所をあなたに明かした以上、私がちゃんと詳細を話しておくべきだったのよ」
小牧穂多美「・・・・・・」

〇病院の待合室
小牧穂多美「どうしよう、わたし・・・」
芳田節奈「シアンが望んだのよね?」
小牧穂多美「そうだけど」
芳田節奈「だったら責任とかごちゃごちゃ考えるのはよしましょう」
芳田節奈「来ているのはシアンだけ? マゼンタは?」
小牧穂多美「マゼンタは・・・ 3年前に亡くなったんですって」
芳田節奈「・・・・・・っ!」
芳田節奈「覚悟はしてた。 20歳まで生きられたら奇跡だと思ってた」
芳田節奈「でも、間に合うと思いたかった・・・」
小牧穂多美「節奈おばちゃん・・・」

〇総合病院
芳田節奈「シアン、私のこと恨んでるんじゃない?」
小牧穂多美「どうしてそう思うの」
芳田節奈「私は、あの子たちを捨てて逃げたから」
小牧穂多美「・・・シアンは、節奈おばちゃんの思い出をずっと大切にしていたよ」
小牧穂多美「名前もちゃんと覚えてるけど、「おかあさん」って呼んでる」
芳田節奈「・・・・・・!」
小牧穂多美「見えてきた。あの車よ」
久我山時夫「穂多美ちゃん!先生は?」
小牧穂多美「ちょっと事情があって、呼べなかったの」
久我山時夫「なんだって!?」
小牧穂多美「シアンの様子は?」
久我山時夫「意識は戻ったけど、苦しそうだ。 そっちの人は?」
小牧穂多美「わたしの伯母で、シアンのおかあさんよ」
久我山時夫「あ、それは・・・どうぞ、こっちです。 後部座席に寝かせてます」
小牧穂多美「シアン、節奈おばちゃんよ!」

〇タクシーの後部座席
芳田節奈「シアン・・・!」
シアン「あ・・・おかあさ・・・?」
芳田節奈「これ、私の薬だけど、この成分ならシアンの症状にも効果があるはずよ。 シアンに飲ませてあげて」
小牧穂多美「うん、わかった。時夫さん、水持ってたよね」
久我山時夫「ああ、これ」
小牧穂多美「ありがとう」
小牧穂多美「シアン、こっち向いて」
シアン「う、げほっ」
小牧穂多美「くっ。シアン、動かないで」
久我山時夫「やりにくそうだな。手伝おうか」
小牧穂多美「いい、大丈夫」
  ぱくっ
久我山時夫「おい、なんで穂多美ちゃんが飲んで・・・あっ」
  ごく
小牧穂多美「よし、飲んだ」
久我山時夫「ひゅ~、大胆」
小牧穂多美「からかわないで!緊急事態なんだから」
芳田節奈「穂多美、シアンの頭を高くしてあげて」
小牧穂多美「あ、はい」

〇総合病院
小牧穂多美「ちょっと、落ち着いたみたい」
久我山時夫「だな」

〇タクシーの後部座席
シアン「ほた・・・・・・おかあさんは」
芳田節奈「ここよ、シアン」
シアン「おかあさ・・・おかあさん」
小牧穂多美「シアン、わたしが手伝うから無理して起き上がらないで」
小牧穂多美「時夫さん、節奈おばちゃんに手を貸してシートに座らせて」
久我山時夫「わかった」
小牧穂多美「はい、シアン。おかあさんの膝まくらよ」
シアン「おかあさんだ・・・」
芳田節奈「大きくなったわね、シアン」
シアン「おかあさん、僕、ずっと聞きたかったことがあるんだ」
芳田節奈「何?」
シアン「おかあさんは、どうしていなくなったの?」
芳田節奈「それは・・・ ごめんなさい。私が弱かったからよ」
芳田節奈「初めは、研究のために自分の体を捧げるのは崇高なことだと思ってた。これは人類のための価値ある実験なんだって」
芳田節奈「でもいざ生まれた命を前にすると日々愛しさが募って、自分の間違いに気づいたの」
芳田節奈「私は自分を犠牲にしたんじゃない。 生まれてくるあなたたちを犠牲にしたんだって」
芳田節奈「でも気づいたときには戻れなかった。 あなたたちはもう、生きているんですもの」
芳田節奈「恐ろしかったけれど、あなたたちを死なせたくないなら続けるしかなかった」
芳田節奈「マゼンタの欠陥をどうにかしたいと二例目に臨んで、でもあなたにもマゼンタと同じ欠陥があるとわかって、精神的に限界だった」
芳田節奈「とうとう、あなたたちの命に関わるようなひどいミスを犯して、責任を取ると言って研究所を飛び出したまま、戻れなくなったの」
シアン「よかった。 僕のこと、嫌いになったんじゃなかったんだね」
芳田節奈「そんなわけない・・・! でも、何か研究成果を出してからじゃないと戻れないと思って」
芳田節奈「そのうちに体がこんなことになってしまって、あなたにも淋しい思いをさせて、無理をさせてしまって・・・」
芳田節奈「全部私の独りよがりだったのよ。ごめんなさい」
シアン「うん。淋しかった。会いたかったよ。 でも僕、謝って欲しくて会いに来たんじゃない」
シアン「僕ね、生きてる実感がないまま死ぬのは嫌だった。死ぬ前にちゃんと、自分の意思で生きたって思いたかったんだ」
シアン「僕、今生きてるよ。 ほたに出会って、おかあさんにも会えて」
シアン「だからもう・・・」
芳田節奈「ダメよ、シアン。 満足しないで、もっと生きるためにあがいて」
シアン「あがくって?」
芳田節奈「方法がわからなくても、諦めないで必死に頑張るってことよ」
芳田節奈「穂多美、シアンを研究所に連れて戻って」
小牧穂多美「うん」

〇総合病院
小牧穂多美「時夫さん、研究所までお願いできる?」
久我山時夫「ああ、もちろん」
久我山時夫「・・・っと、電話だ。はい、もしもし」
久我山時夫「え? 鎖衣!?お前、鎖衣か!?」
小牧穂多美「!?」
久我山時夫「なんでシアンと一緒にいるってわかったんだ? 丁度今、シアンが大変なことになっててさ」
久我山時夫「穂多美ちゃん? ・・・ああ、うん。代わるよ」
久我山時夫「鎖衣から電話だ」
小牧穂多美「はい、穂多美です」
黒川鎖衣「『今、どこだ。節奈さんのところか?』」
小牧穂多美「はい。わたしがシアンを連れ出しました、申し訳ありません。 でも、どうして時夫さんと一緒にいるって」
黒川鎖衣「『僕にはシアンの感覚が伝わる』」
  そういえば、シアンがそんなことを言っていた。
黒川鎖衣「『ごくたまに、聴覚まで伝わることがある。  それを手がかりにした』」
黒川鎖衣「『それより、さっきは随分とひどい波だった。  発作を起こしたな』」
小牧穂多美「はい」
黒川鎖衣「『節奈さんに代われるか?』」
小牧穂多美「ええと・・・ちょっと待ってください」
芳田節奈「・・・もしもし、節奈です」
芳田節奈「久しぶりね。ええ、応急処置はしたわ。 渡したデータは見てくれた?」
芳田節奈「・・・活用できないって、どういうこと? マゼンタのことは聞いたけれど、サンプルは残っているはずでしょう」
芳田節奈「・・・どうしたの、歯切れが悪いじゃない」
芳田節奈「・・・電話じゃ埒が明かないわね。 私もそっちに行くわ」
小牧穂多美「え、節奈おばちゃん!?」
芳田節奈「大丈夫よ、あなたのお友達が車で連れて行ってくれるみたいだし。 ・・・そうよね?時夫くん、だっけ」
久我山時夫「あ、はい。俺はそのつもりですよ」
芳田節奈「そういうことだから、話はあとでじっくり聞かせてもらうわ。 じゃあね」
芳田節奈「穂多美、外泊許可を取りに行くわよ」
小牧穂多美「でも・・・!」
芳田節奈「大丈夫よ、無理はしないから。 あなたもシアンを助けたいんでしょう?」
小牧穂多美「それは、もちろんだけど」
芳田節奈「だったらすぐに手続きしましょう。 主治医は説得してみせるわ」
小牧穂多美「わかった、わかったから! 時夫さん、シアンをお願いします」
久我山時夫「ああ、任せろ」
  次回へ続く
  シアンの命を救うために、鎖衣が
  乗り越えなければならない過去とは──
  
  次回 エピソード8.痛み

次のエピソード:エピソード8.痛み

コメント

  • この流れで一回会ってしまうと最後は…
    まずい。大変まずいです。

    外泊許可を得てくるあたりが流石です。
    こう、秩序が崩れないんですよね。
    無断離院になるなと思ってたところでちゃんとフォローが入りました。

  • やっとおかあさんに会えてよかったです。よかったですが…これで皆幸せとはならないようで…

  • 命、親になるということ…いろいろ考えさせられますね。切ないBGMとシアンの言葉に胸がグッとつかまれます。

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