転落から始まる幼なじみ系ヒロインの魔王討伐譚 

ロトック

第二話 メッセージなんて残さないで(脚本)

転落から始まる幼なじみ系ヒロインの魔王討伐譚 

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〇怪しげな酒場
  クラウスから呪詛のような言葉を
  浴びせられ、心の中に言いようのない
  しこりが残りつつも、
  酒場の裏口からそっと、
  サイクロプス討伐を祝した宴へ
  戻ると─────
リミカルド・ヒヨク「すまないねデレニス クラウスと仲のいい君にあんな事を 任せてしまって」
  『空白の継ぎ手』のリーダーである
  リミカルドは、こう言ってくれた。
デレニス・ツンヴェイル「私が戻ってくるの、ここで 待ってたんだ・・・・・・」
リミカルド・ヒヨク「本来であれば勇者の僕が やるべきことを、任せてしまったからね」
  私たちの討伐報告を聞きつけ、
  駆けつけてくれた街の人や
  同業の冒険者が開いてくれた祝宴──
  その賑わいを離れ、リミカルドは裏口の
  扉の横で待っていてくれたらしい。
  第二話 メッセージなんて残さないで
  では、『空白の継ぎ手』の
  サイクロプス討伐を祝して〜〜〜?
  イェーーーーーイ!!
  盛り上がってる人たちの、賑やかで
  暖かい祝福の渦。
  その声色と比べても、目の前の
  リミカルドには特別酔いが回ってる
  様子もない。
デレニス・ツンヴェイル「でも、リミカルドが気負う必要ないからね」
デレニス・ツンヴェイル「元はと言えば三年前に、 無理やり連れてきた私の落ち度なんだし」
デレニス・ツンヴェイル「・・・・・・クラウスは 宿の荷物取って出ていくって」
リミカルド・ヒヨク「そうか・・・・・・」
リミカルド・ヒヨク「別れの挨拶でまた喧嘩が起きるかも しれないし、彼の判断は正しいと 思うよ」
  リミカルドの物言いには、
  こんな形の別れを惜しむ気持ちを
  感じられながらも、
  浮かべた柔らかな笑みにはどこか、
  余裕も感じられた。

〇ヨーロッパの街並み
  ・・・・・・謝罪の一言もなく
  出ていく厄介者を、
  「それも正しい判断だ」と
  断じてしまえるなんて。

〇怪しげな酒場
  このおおらかさはひとえに、
  私たちを引っ張るリーダー役なのと
  もう一つ。
  ────彼が選ばれた≪勇者≫だという
  ところから来るのだろうか。

〇黒背景
  リミカルドは現人類の中でも、
  たった10人しか選ばれないジョブ
  ≪勇者≫の1人である。

〇教会の中
  神様に仕える神樹の巫女の託宣によって、
  世界中からこの神樹の街ユグドルートへ
  集められた≪勇者≫たち。

〇荒野
  その武勇は決して伊達ではなく────
  各々がリーダーとして
  パーティーを率い、
  数々の困難な討伐依頼を
  成功させている。

〇怪しげな酒場
  私はこの『空白の継ぎ手』の中では
  いなくなったクラウスを含め、
  リミカルドが一番冷静かつ的確な
  判断を下せる人物だと思っている。
デレニス・ツンヴェイル(ついさっきクラウスを追い出す時でさえ 感情的になっちゃった私には、)
デレニス・ツンヴェイル(少し憧れちゃうなぁ・・・・・・)

〇黒背景
クラウス・ネファリウス「俺の抜けた『空白の継ぎ手』は近々 崩壊する」
クラウス・ネファリウス「故郷で仕事を探す準備でもしておけ」
  あのパーティーの中じゃ、
  お前が一番才能なかったんだからな

〇怪しげな酒場
デレニス・ツンヴェイル(・・・・・・憧れるなんて思ったそばから 疑うのもなんだけど)
デレニス・ツンヴェイル(幼なじみにあんな態度取られて、 感情的にならない人っている!?)
デレニス・ツンヴェイル(あんなの、涼しい顔してるリミカルドに だって流石に無理なんじゃないの?)
デレニス・ツンヴェイル(大体なんなの、あの捨て台詞?)
デレニス・ツンヴェイル(私たちのパーティーって今 ≪ゴールドⅤ≫ランクなのに?)
デレニス・ツンヴェイル(明日の依頼を片付けたら、 いよいよ伝説の≪プラチナ≫ランクの 仲間入りでしょ!?)
デレニス・ツンヴェイル(そんなパーティーのエースだけど私!?)
デレニス・ツンヴェイル「ダメだ、 やっぱ意味わかんないアイツ・・・・・・」
  ────あっ
リミカルド・ヒヨク「・・・・・・クラウスに、 また何か言われたのかい?」
デレニス・ツンヴェイル(しまった漏れてた・・・・・・ アイツの事考えたのがよくなかった)
デレニス・ツンヴェイル「ま、まぁ恨み言みたいなのは でもそんなの、今聞いたって面白くも ないでしょ?」
  自分で招いた自業自得とはいえ、
  こんなくだらない話を引きずる訳
  にはいかない。
デレニス・ツンヴェイル(ましてや私への当て付けとはいえ、 パーティーの不幸の暗示だなんて!)
デレニス・ツンヴェイル(そんなの、絶対に言わない方がいい!!)
リミカルド・ヒヨク「・・・・・・そうだな、今は 飲んで忘れてしまおうか」
リミカルド・ヒヨク「愚痴なら僕が聞くよデレニス あそこへ座ろう」
  酒場の中央で沸き立つ人だかりから、
  一番遠く離れた席を指差しそう言った。
  気が立っている私に配慮してか、
  あまり人のいない隅の席を選んでくれて
  いる。
デレニス・ツンヴェイル(私の態度で察して、 自然な流れで誘導してくれて・・・・・・)
デレニス・ツンヴェイル「やっぱり、 リミカルドは大人だなぁ・・・・・・」
  ────でも。
デレニス・ツンヴェイル「・・・・・・今はいいかな」
デレニス・ツンヴェイル「ごめんね、ちょっと飲めそうにないから 一人になろうかなって」
  今はきっと、何をしてもアイツの顔と
  言葉がよぎってしまうと思う。
  そしてその度にまた、
  苛立ってしまうだろう
  ────これが今日で済めばいいけど、
  明日も引きずってたら?
  いや、明後日もかもしれないし、
  もしかしたら一週間・・・・・・
  ────まさか、このままずっと?
  ・・・・・・ともかく、このまま
  あふれる感情を我慢できなくなるよりも、
  今だけでも一人になって、
  気持ちの整理をして。
  少しでもケリをつけて、
  出来るだけ心の奥底へしまいたい。
リミカルド・ヒヨク「そっか、一人の方が気持ちも 落ち着くかもしれないな」
リミカルド・ヒヨク「それじゃあ僕は、 ユグドルート総合ギルドの職員へ 挨拶しに回ってくるよ」
  ・・・・・・リミカルドはそう言うと、
  クラウスの件で煮え切らない私の
  そばに近づいて────
リミカルド・ヒヨク「今日はお疲れ様 デレニス」
  そうそっと告げて、
  そのまま宴の賑わいの中に
  消えてしまった。
  リーダーとはいえ周りに気を遣いながら、
  みんなの嫌がる事を率先して
  行って・・・・・・
  クラウスという厄介者で、今日という
  日まで迷惑を掛けてしまったのが
  本当に申し訳なくなる。
デレニス・ツンヴェイル(・・・・・・)
  ────私は何かリミカルドに、
  もっと言わなきゃないことあるんじゃ
  ないの?
  そう思うといても立っても
  いられなくなり、リミカルドを
  追いかけようとしたのだけれども。
キャドニス・インディーチェ「おっ、ちっすちっすデレニスー、 あの陰気で殺意バチクソなパラディン 追っ払ったー?」
オットー・サンディエール「おい少しは気を使えって! あんな奴とはいえ、一応デレニスの 幼なじみだったんだぞ!」
  それよりも先に聞き覚えのある声が二つ、
  前方から私の方へ寄ってきた。
キャドニス・インディーチェ「キヒヒ・・・幼なじみだからって あんな変なのに気ぃ使っちゃダメだよ」
キャドニス・インディーチェ「────アイツ、勘違いしちゃうかもよ?」
デレニス・ツンヴェイル「あ、あはは・・・・・・ 私、アイツに気を使ったつもりは ないんだけどね」
  トゲのある言い回しに気怠げな喋りを
  しているのは、非戦闘職である
  ≪バックパッカー≫の少女キャドニス。
  ・・・・・・なんと、
  私と同い年らしい。
オットー・サンディエール「だからキャドニスお前、 言い方ってもんがな!」
オットー・サンディエール「・・・・・・まぁ、なんだ おっさんには若いもんのアレコレは イマイチわかんねぇけどよ」
オットー・サンディエール「男ってのはなんの拍子に 変わっちまうかわかんねぇってのが、」
オットー・サンディエール「おっさんの俺が唯一言えることだな、 うん」
キャドニス・インディーチェ(またおっさん語りを始めるし・・・)
  ・・・・・・こちらの本来は
  嗜める側のはずが、いつの間にか
  毒に飲み込まれてるのが、
  『空白の継ぎ手』では最年長である、
  自称おっさんのオットー。
  今日もいかにも後衛職の
  ≪アーチャー≫然とした格好をしている
キャドニス・インディーチェ「しょげてないかちょっと心配で 顔を見にきたけど・・・・・・」
キャドニス・インディーチェ「とりあえず、大丈夫そうで ウチは安心したかな〜」
オットー・サンディエール「じゃっ、俺たちは戻るぜ 本当に顔見にきただけだからよ」
  ────ん?
  オットーの後ろ姿、
  何か・・・・・・
デレニス・ツンヴェイル「ちょっと待ってオットー」
デレニス・ツンヴェイル「その首の後ろの傷って・・・・・・」
デレニス・ツンヴェイル「もしかして今日クラウスが やったあの・・・・・・っ!」
オットー・サンディエール「・・・・・・あー、その、 サイクロプスだよアレも結構強かったろ」
オットー・サンディエール「その時の傷だぜこれは」
デレニス・ツンヴェイル「いいえあの戦闘は一分も 掛からなかったし、私たち後衛には 一切攻撃来なかったもの」

〇けもの道
  ────オットーの負った傷は、
  一瞬で終わってしまったサイクロプス戦で
  出来たものではない。
  むしろその後の・・・・・・
  口論の最中に突き飛ばした
  クラウスのせいで出来たのだ。
オットー・サンディエール「またお前・・・・・・ リミカルドの作戦無視して・・・・・・!」
オットー・サンディエール「いくら自分が目立ちたいからって、 役割の無視は仲間の命に関わんだぞ!!」
クラウス・ネファリウス「・・・・・・・・・・・・」
オットー・サンディエール「毎回毎回・・・・・・ 何か言ってみろよないい加減・・・・・・」
オットー・サンディエール「なんか言ってみ────」
  激情に駆られたオットーが
  クラウスの重鎧の胸元を掴もうとした時、
  ────あろうことか、クラウスは
クラウス・ネファリウス「【シールドバッシュ】」
オットー・サンディエール「は?」

〇けもの道
オットー・サンディエール「いってぇ・・・・・・ 吹っ飛んだだけとはいえ・・・・・・」
オットー・サンディエール「あいつ、マジかよ・・・・・・ 俺を殺す気だったのか・・・・・・?」
  神様の加護によって、人間同士での
  攻撃スキルは必ず不発になる。
  そのおかげでオットーは、
  ただ盾で突き飛ばされただけで
  済んだのだけれど・・・・・・
  クラウスはこのことを知らないのか、
  ────それともわざとなのか。
  今日のこの事件で私も愛想が尽き、
  先ほどの追放宣言に至ったのである。

〇怪しげな酒場
デレニス・ツンヴェイル「本当にごめんなさいオットー! 私があんな奴をパーティーに 入れたばっかりに・・・・・・」
オットー・サンディエール「いやいやお前が謝ることじゃねぇよ 悪いのはあいつなんだしな」
オットー・サンディエール「幼なじみだからって お前が気負う必要ないだろ?」
キャドニス・インディーチェ「おっさんもさっき言ってたっしょ? 若い男はなんの拍子に変わるか わかんないってさ」
キャドニス・インディーチェ「まー若気の至りってやつ?」
デレニス・ツンヴェイル「そっ、それでも・・・・・・」
オットー・サンディエール「正直あいつには謝って欲しかったが・・・」
オットー・サンディエール「まっ、おっさんの人生には よくある話だから気にしてねぇよ」
オットー・サンディエール「うん、マジでよくある」
キャドニス・インディーチェ「まるで超気にしてるみたいな 口ぶりなってっし」
キャドニス・インディーチェ「フォロー下手すぎるでしょおっさん」
オットー・サンディエール「えっ マジか・・・・・・」
オットー・サンディエール「ほ、本気で気にしてないからなデレニス!」
オットー・サンディエール「うんマジで! ホントホント!!」
  言葉だけじゃ伝わらないと思ったのか
  身振り手振りも混じえてまで、
  否定の感情を躍起になるオットー。
  そしてその様子を見て
  自分も慌ててしまうキャドニス。
デレニス・ツンヴェイル「・・・・・・」
デレニス・ツンヴェイル「ふふっ・・・・・・ありがと二人とも」
デレニス・ツンヴェイル「オットーが気にしてないってのは、 私でもわかったわ」
オットー・サンディエール「・・・・・・あのよ、 無理にここにいなくていいんだぜ」
オットー・サンディエール「リミカルドには伝えとくから、 もう先に宿屋行って今日は寝てな」
キャドニス・インディーチェ「なんならウチ、 ここにある料理程度なら真似できるよ」
キャドニス・インディーチェ「・・・・・・キヒヒッ」
オットー・サンディエール「それは流石に 集まってくれた人たちに失礼だろ・・・」
デレニス・ツンヴェイル「・・・・・・」
デレニス・ツンヴェイル「そうね・・・・・・」
デレニス・ツンヴェイル「お先に失礼するわ、 ごめんねみんな」

〇ホテルのエントランス
「おやデレニスちゃん、クラウスくん一人で 故郷に帰っちゃうんだって?」
「それでさ、泊まってた部屋に忘れ物 あったんだけどねぇ?」
  私が宿に着くと、いつも顔を合わせて
  いる受付のおかみさんが、
  顔を見るなりこう切り出し、
  クラウスの忘れ物を持ってきてくれた。
デレニス・ツンヴェイル(あいつ、 また忘れてる・・・・・・)
デレニス・ツンヴェイル(何か嫌なことがあると、 いつも大事な物を忘れるんだから・・・)
デレニス・ツンヴェイル(・・・・・・)
デレニス・ツンヴェイル(────そういえば)

〇ヨーロッパの街並み
クラウス・ネファリウス「総合ギルドに話をつけたら一度、故郷に 戻るのもいいな」
クラウス・ネファリウス「母さんに会った後は、どこか遠い所でまた冒険者というのも悪くない」

〇ホテルのエントランス
  ────あのときアイツ、なんで
  あんなわざとらしく言ってたんだろ。
  憎たらしいほどに白々しすぎて、
  逆にスッと頭の中に入ってしまった。
デレニス・ツンヴェイル「・・・・・・」

〇ヨーロッパの街並み
  私を怒らせるため、
  ってのは間違いないはず。
  でもそれって、別にわざわざ
  自分の予定を言う必要ってないよね。
  私が色々言われた腹いせに闇討ちとか、
  絶対しないとは限らないじゃない。

〇ホテルのエントランス
  ────まさか、
デレニス・ツンヴェイル(私に聞いて欲しかった、とか?)
デレニス・ツンヴェイル(・・・・・・)
デレニス・ツンヴェイル(もしかしてこれ、 届けに行ったほうがいいのかな・・・)
デレニス・ツンヴェイル(・・・・・・・・・・・・)
  ────うん

〇ヨーロッパの街並み
デレニス・ツンヴェイル「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・!」
  もうこの街の中にはいないかもしれない。
  ────でも。

〇草原の道
  生まれ育った故郷へ帰るつもりなら。
  ────必ず、あの道を通るはず。

〇ヨーロッパの街並み

次のエピソード:第三話 コイにドラゴンを呼ばないで

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