第二話 推しの供給過多(脚本)
〇貴族の部屋
◆前回のあらすじ◆
乙女ゲームが大好きな上水流めぐりは
夢の中でゲーム『GarnetDance』の
悪女ソウビとなった。
ソウビ・アーヌルス(はぁ・・・、 広間は盛り上がってるなぁ・・・)
階下から陽気な笑い声が聞こえる。
その中で、ひときわよく通るのは
ヒナツの声だ。
ソウビ・アーヌルス(原作通り、ヒナツは あっさりと王になっちゃった)
チヨミの実家アルボル家の下働きから
その能力を買われ重用されるようになり、
チヨミと地位を得た、時代の寵児ヒナツ。
そして王殺しの奸臣フリャーカを
討ったことで
今のヒナツは完全に救国の英雄となった。
ソウビ・アーヌルス(民衆にしてみれば、 自分たちに近い立場だった人間が 見事に成り上がったのが 痛快なんだろうな)
人々に望まれ、
ヒナツはこの国の王となった。
今宵はその宴が催されている。
ソウビ・アーヌルス(いや、ここに 王家の正当な血を引く人間が いるんですが?)
ソウビ・アーヌルス(それにヒナツの戦功は、 チヨミの立てた戦略の たまものなんですが!?)
主人公チヨミとしてプレイしていた時は、
そこまで引っかからなかった設定に、
妙にモヤッとする。
ソウビ・アーヌルス(まぁ、実際の歴史でも、 女の扱いなんてこんなもんだけど)
不意を突かれたとはいえ、
家臣によって討たれた王家の人間より、
時代の寵児を民衆は望むのだろう。
ソウビ・アーヌルス「はぁ~あ」
ベッドに勢いよく腰かける。
ソウビ・アーヌルス(ラニ、もう寝たかな)
牢から出され、
自分の元いた部屋に戻されたとはいえ、
今の立場は客人に近い。
この城の主は今や、ヒナツなのだから。
ソウビ・アーヌルス(妹の様子を見に行くくらい、 許されるよね?)
ソウビ・アーヌルス(ちょっと行って来よう)
〇洋館の廊下
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿、しつれ・・・」
ソウビ・アーヌルス「おびゃあああああああ!?」
ソウビ・アーヌルス(うぉー、びっくりしたびっくりした! 推しが3Dになって目の前に出現した!!)
ソウビ・アーヌルス(今までも視界には入ってたけど、 こんな不意打ちで至近距離なんて 反則だろ!!)
ソウビ・アーヌルス(心臓止まるかと思った。 だめだ、手足震えてる。 心臓が限界の動きしてる!)
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿? お加減でも悪いのでしょうか?」
ソウビ・アーヌルス「ストップ! ストーップ!!」
テンセイ・ユリスディ「!?」
ソウビ・アーヌルス「それ以上近づいたら、私は・・・」
ソウビ・アーヌルス「死ぬ! (推しの供給過多で!)」
テンセイ・ユリスディ「・・・っ」
テンセイ・ユリスディ「失礼いたしました」
テンセイ・ユリスディ「前王の命令による婚約でしたが、 ソウビ殿がそこまで自分を 厭うておられるとはつゆ知らず」
ソウビ・アーヌルス「へ? い、いとう?」
テンセイ・ユリスディ「ご安心を。 前王が身罷られた今、 ソウビ殿はもはや自由の身」
テンセイ・ユリスディ「自分も束縛はいたしますまい」
テンセイ・ユリスディ「今すぐ下がりましょう。 ヒナツ王がソウビ殿を呼んでおられるのを 自分は告げに参ったまで」
ソウビ・アーヌルス(あれ? もしかして誤解させた?)
テンセイ・ユリスディ「では、御免」
ソウビ・アーヌルス「ちょちょちょ、待って! ちがぁう!!」
テンセイ・ユリスディ「?」
ソウビ・アーヌルス「私がテンセイを嫌いとか、ないし! 顔が良すぎて、びっくりしただけだから!」
テンセイ・ユリスディ「はぁ・・・」
テンセイ・ユリスディ「顔、ですか・・・」
ソウビ・アーヌルス「あと、声も! 匂いもいい! オーラが空気を浄化してる!!」
テンセイ・ユリスディ「・・・・・・」
ソウビ・アーヌルス(いやぁああ、何を言ってるんだ私は! テンセイ、完全に面食らってるよ・・・!)
テンセイ・ユリスディ「フッ」
ソウビ・アーヌルス「え? 笑った?」
テンセイ・ユリスディ「いえ、申し訳ございません。 ソウビ殿の印象が、 これまでとあまりにも違うもので」
ソウビ・アーヌルス(やっべ)
テンセイ・ユリスディ「今までソウビ殿は、二人でいても 静かに口をつぐんでおいでのことが 多くございましたから」
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿が、 このように親しみやすく 楽しい方だとは存じませんでした」
ソウビ・アーヌルス(ソウビ、イメージ壊してごめんな!)
テンセイ・ユリスディ「もう少し早く、 今のあなたを知っていれば・・・」
テンセイ・ユリスディ「・・・いえ、 最後まで知らずにいた方が 良かったのかもしれません・・・」
ソウビ・アーヌルス「?」
テンセイ・ユリスディ「・・・・・・」
テンセイ・ユリスディ「宴席までお連れ致します。 ソウビ殿、お手を」
ソウビ・アーヌルス「あっ、はい!」
ソウビ・アーヌルス(うわぁああああ!! テンセイと手を重ねちゃった!!)
ソウビ・アーヌルス(手、おっきい! それにあったかい! 体温高いんだなぁ・・・)
ソウビ・アーヌルス(あぁ、 幸せ過ぎてクラクラしてきた・・・)
テンセイ・ユリスディ「ソウビ殿? もしや牢に囚われていた時の疲れが まだ取れていないのでは?」
テンセイ・ユリスディ「体がおつらければ ヒナツ王には、ソウビ殿はすでに お休みになられたと伝えますが?」
ソウビ・アーヌルス「えっ? ううん、大丈夫!」
ソウビ・アーヌルス(テンセイと手を取り合う、 このひとときをまだ終わらせたくない)
テンセイ・ユリスディ「ならば、よろしいのですが・・・」
ソウビ・アーヌルス(前回は、 テンセイに抱きしめられながら 胸を剣で貫かれたけど)
ソウビ・アーヌルス(あんな悲しい抱擁、二度とごめんだ)
ソウビ・アーヌルス(幸い、今の私は テンセイの婚約者なんだから、 恋を成就させられるよね?)
ソウビ・アーヌルス(バッドエンドしか待ってない ヒナツなんて放っておいて、 テンセイに一直線だ!)
ソウビ・アーヌルス(それまでは、 この夢から覚めませんように・・・)
第二話 推しの供給過多 ──終──
第三話へ続く
推しが三次元で目の前に。確かに供給過多ですね。親しみやすい主人公のおかげで、自然と物語に没入できるのが、すごいなあと感心してしまいました。勉強になります。
推しが3Dで目の前に!確かにテンションがアレなことになりますね!めぐりことソウビ(あれ、逆?)のリアクションにも納得ですね。自分なら過呼吸になりそうですw
テンセイの髪型や雰囲気が似てるので、頭の中で蜻蛉切様に変換されております。きっと実物は筋肉増し増し……!
ああわかる!目の前にきたら爆発する!
手を取る?むりじゃ!わたしのことは壁と思ってくだされ!!(安心しましょう、実質壁です)