「鬼の巣くう家」第一話(脚本)
〇断崖絶壁
工藤 赤士(くどう あかし)「着いたぞ・・・」
車から降りる一行──
小林 海戸(こばやし かいと)「ここが・・・」
工藤 赤士(くどう あかし)「あぁ、俺の実家。 地元の人たちが言う──」
〇立派な洋館
『鬼ヶ島御殿』だよ
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「ほう、ここが・・・」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「はてさて、どんな鬼が出るのやら──」
〇レトロ喫茶
小林 海戸(こばやし かいと)「えーっと・・・」
工藤 赤士(くどう あかし)「おーい海戸!こっちこっち」
赤士の声に気付き、席に座る小林。
小林 海戸(こばやし かいと)「赤士、久しぶりだな!何年ぶりだ?」
工藤 赤士(くどう あかし)「えーっと確か、最後に会ったのが2年前くらいか?」
小林 海戸(こばやし かいと)「もうそんなになるのかぁ。懐かしいなぁ」
小林 海戸(こばやし かいと)「それで、いきなりどうしたんだ?」
工藤 赤士(くどう あかし)「あぁ、その事なんだけど・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「なんだよ、もったいぶって」
工藤 赤士(くどう あかし)「・・・風の噂で聞いたんだけど」
工藤 赤士(くどう あかし)「今お前、探偵の助手してるんだろ?」
小林 海戸(こばやし かいと)「え?あぁ、そうだけど・・・」
工藤 赤士(くどう あかし)「その・・・実は」
工藤 赤士(くどう あかし)「お前の所の探偵事務所に相談したい事があるんだ!」
小林 海戸(こばやし かいと)「え!?」
工藤 赤士(くどう あかし)「いきなりですまん!」
小林 海戸(こばやし かいと)「あ、あぁいや、ウチの事務所的にも依頼が来るのはありがたいんだけど・・・」
工藤 赤士(くどう あかし)「じゃあ―」
小林 海戸(こばやし かいと)「ただ!」
小林 海戸(こばやし かいと)「ウチの先生──」
小林 海戸(こばやし かいと)「枢木さんはちょっと厄介な人なんだよ」
工藤 赤士(くどう あかし)「厄介?」
小林 海戸(こばやし かいと)「そのぉ、面白そうな依頼しか受けないんだ」
工藤 赤士(くどう あかし)「面白そうな、依頼?」
小林 海戸(こばやし かいと)「ようは自分の気に入った依頼しか受けないってこと・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「そのせいで全然、依頼料が入らないし! 迷子の犬を探す依頼を僕に丸投げしたり!」
工藤 赤士(くどう あかし)「お前も苦労してるんだな・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「ホント!大変なんだよ!」
工藤 赤士(くどう あかし)「その先生に気に入ってもらえるかは分からないけど、話だけでも聞いてもらえないかな?」
小林 海戸(こばやし かいと)「ん~・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「わかったよ。とりあえず今から事務所に行こうか」
工藤 赤士(くどう あかし)「えっ、今から行ってもいいのか?」
小林 海戸(こばやし かいと)「たぶん大丈夫。あの人いつも暇そうにしてるから」
小林 海戸(こばやし かいと)「どうせ事務所で居眠りでもしてるよ」
〇応接室
小林 海戸(こばやし かいと)「せんせーい!枢木先生!どこですかー?」
小林の声に反応しソファから身を起こす枢木
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「んん、いきなり大声をあげて何事だね・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「あ、そこに居たんですね、先生」
小林 海戸(こばやし かいと)「依頼者が来てますよっ」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「依頼?まさかまた犬猫を探せと言うんじゃないだろうね。それなら君が―」
小林 海戸(こばやし かいと)「違いますよ!」
小林 海戸(こばやし かいと)「とりあえず、こいつの話を聞いてください!」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「こいつ・・・?」
工藤 赤士(くどう あかし)「あ、どうも、工藤赤士って言います」
工藤 赤士(くどう あかし)「小林とは学生時代からの付き合いで―」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「ふむ、なるほど・・・」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「小林くん、珈琲を淹れてくれるかな? 君はこちらに座りたまえ」
小林 海戸(こばやし かいと)「あっ、はい・・・」
〇応接室
小林が珈琲を各々の前に出す。
小林 海戸(こばやし かいと)「はい、珈琲」
工藤 赤士(くどう あかし)「ありがとう・・・」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「さて、工藤くん 早速、君の依頼というのを聞かせて頂こうか」
工藤 赤士(くどう あかし)「はい、実は・・・俺の実家に気味の悪い手紙が届いたんです」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「ほう、手紙かい?」
工藤 赤士(くどう あかし)「はい、それがこれなんですけど・・・」
そう言うと赤士は自分のカバンからしっかりとした装丁の封筒を取り出した。
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「これは、なかなか立派な手紙だね」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「さて、中身は・・・?」
封筒を開く枢木。
その中身には奇妙な詩が書かれていた。
鬼は死んだ、どうして死んだ。
白い鬼は首はね死んだ。
赤い鬼は磔(はりつけ)死んだ。
黒い鬼は焼かれて死んだ。
最後の鬼は貫き死んだ。
悪い鬼は全員死んで
見事、鬼退治は達成される。
小林 海戸(こばやし かいと)「な、なんですかこれ?鬼退治?」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「『鬼』というキーワードに何か心当たりは?」
工藤 赤士(くどう あかし)「・・・あります」
工藤 赤士(くどう あかし)「俺の実家は建築業をやってるんですけど地元では結構、有名なんです」
工藤 赤士(くどう あかし)「いうなれば町の名士って奴で・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「えっ!そうだったの!?」
小林 海戸(こばやし かいと)「赤士ってもしかしてお坊ちゃん?」
工藤 赤士(くどう あかし)「お坊ちゃんじゃねぇよっ」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「それで?町の名士と鬼にはどんな関係が?」
工藤 赤士(くどう あかし)「あぁー、その・・・」
工藤 赤士(くどう あかし)「うちの会社は祖父が一代で築き上げたんですけど、その祖父──」
工藤 赤士(くどう あかし)「工藤金太郎は目的の為なら手段を選ばない人というか・・・」
工藤 赤士(くどう あかし)「黒い噂もあったりで町の人の中には爺さんの事を陰で『鬼』って呼んでる人もいて・・・」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「なるほど、不特定多数に恨まれている可能性があり」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「その中の誰かがこんな奇妙な手紙── まあ、一種の脅迫状を送ってきたんじゃないか、と」
工藤 赤士(くどう あかし)「家族はただのイタズラだろうって気にしてないんです」
工藤 赤士(くどう あかし)「前にもこういう事はあったって。 でも、俺なんか嫌な感じがして・・・」
枢木 京太郎(くるるぎ きょうたろう)「ふむ・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「それにしても初めて聞いたな、お前のそんな話・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「そういえば赤士が自分の事を話してる所、あんまり見た事なかったっけ」
工藤 赤士(くどう あかし)「まあ、そんな状況だったからガキの頃から周りに腫れ物にさわるように扱われてきて」
工藤 赤士(くどう あかし)「それが嫌で町を出て離れた学校に通うようになったんだよ」
小林 海戸(こばやし かいと)「なるほどなぁ」
工藤 赤士(くどう あかし)「自分の家が陰で『鬼ヶ島御殿』って呼ばれてるのなんて誰だって嫌だろ」
小林 海戸(こばやし かいと)「うっ・・・それは確かに・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「って、あれ?先生?」
いつの間にかいなくなった枢木に気付く小林。
小林 海戸(こばやし かいと)「どこ行ったんですか?先生!」
すると部屋の奥から枢木の声が聞こえる。
二人とも何をしている!
早く出かける準備をしなさい!
小林 海戸(こばやし かいと)「えっ!?この依頼受けるんですか?」
もちろんだっ!私の琴線にビビッと来たぞ!これは面白くなる!
小林 海戸(こばやし かいと)「面白くって・・・」
小林 海戸(こばやし かいと)「赤士、ホントにこんな人に頼んでいいのか?」
工藤 赤士(くどう あかし)「あ、あぁ、いや・・・頼む!」
工藤 赤士(くどう あかし)「何もなければそれに越したことはないし、もし何かあれば力になってほしい!」
小林 海戸(こばやし かいと)「はぁ、しょうがないなぁ・・・」
おいっ、私の靴下は何処にあったかな?
小林 海戸(こばやし かいと)「靴下がどこにあるかくらい把握しておいてくださいよっ先生っ」
〇黒
こうして、僕と先生は工藤赤士の依頼で赤士の実家『鬼ヶ島御殿』へと向かうことになった。
だがそこで待ち受けていた物は鬼退治と呼ぶにはあまりに凄惨で残酷な復讐の物語だったのだ──
「鬼の巣くう家」第一話fin──
同級性が久しぶりに再会し、たまたまカイト君が探偵事務所で働いていたというのも何かの縁だったんのかもしれませんね。先生がピーンときたといっているのだから、問題解決するに決まっています!
先生はおもしろい依頼だと受けてしまいましたが…なんだかイヤな予感がバリバリしますね。
鬼退治というこの件は、何が起こるんでしょうか。
なんだか恐ろしい感じがするんですが…。
確かに依頼を受けるなら面白いに越したことはありませんが…。
はたしてこの依頼は受けてよかったと思えるのか…。
でもだいぶ変わった先生のようですので、どんな目に合っても受けてよかったと思うのかもしれませんね。