宜(脚本)
〇住宅街の公園
真山由花(──また、あの子か)
前に一度会話した青年が公園にいた。
変な体勢でベンチの下を覗き込んでいる。
猫「ミャー」
久宝水輝「ああ、もう!」
久宝水輝「おいこら、暴れるな!」
猫「ミャオ──!!!!」
久宝水輝「ったく、もう逃げられないぞ」
真山由花「──だ、大丈夫!?」
久宝水輝「あ、ちょうど良かった!!」
久宝水輝「はい、これ」
真山由花「──見つけてくれたんだ、ありがとう」
猫「シャーッ──!!!!」
久宝水輝「・・・・・・嫌われちゃいました」
真山由花「怪我してない?」
青年の右腕の引っ掻き傷から血が滲んでいる。
久宝水輝「大したことありません」
真山由花「絆創膏あるから、手出して──」
久宝水輝「こんなの大した傷じゃないんで──」
青年はポケットに手を突っ込んだ。
真山由花「そう、良かった・・・・・・」
久宝水輝「僕、猫の扱いに慣れてなくて」
久宝水輝「その子で間違いないですか?」
真山由花「ええ、首輪も確かに探していた子です」
久宝水輝「良かった」
久宝水輝「残念──お出かけは終わりだぞ」
猫「シャーッ!!」
真山由花「コラ!」
真山由花「見つけてくれてありがとう」
久宝水輝「お姉さん、刑事さんみたいだ──」
真山由花「え?」
久宝水輝「今日はスーツ、着てるから」
真山由花「ああ、これ?」
真山由花「そうねぇ・・・・・・」
真山由花「そんなところね」
久宝水輝「え、当たりなんですか?」
真山由花「私は真山 由花、警視庁の刑事よ」
真山由花「困ったことがあればいつでも連絡して」
久宝水輝「本物の刑事さんか・・・・・・」
久宝水輝「僕は、久宝 水輝(くぼう みずき)──」
久宝水輝「芸術大学3年の暇人です」
真山由花「暇人ね・・・・・・」
真山由花「なら、どうかしら?」
真山由花「お礼に食事でも?」
久宝水輝「え?」
真山由花「もちろん、飼い主も一緒に」
久宝水輝「──いいんですか?」
真山由花「え?」
久宝水輝「僕、お金ないんですけど・・・・・・」
真山由花「──ああ、」
真山由花「ええ、もちろん」
真山由花「ご馳走するわ」
久宝水輝「では、お言葉に甘えて──」
〇テーブル席
飯島みやび「さてさて、ミャーちゃんを見つけてくれて」
飯島みやび「真山が食事に誘う男の子とはどんな子でしょう──?!」
真山由花「ちょっと!」
真山由花「その言い方やめてよ」
飯島みやび「え? 何か間違ったこと言った?」
真山由花「違ってはないけど」
真山由花「別の意味を含んでるように聞こえましたもので?」
飯島みやび「え?? 別の意味って??」
真山由花「え、その・・・・・・」
真山由花「少し──気になるというか・・・・・・」
飯島みやび「はい!!」
飯島みやび「『気になる』いただきました!!」
真山由花「は!?」
真山由花「だから、そう意味じゃ!!」
真山由花「あ、」
飯島みやび「ぬぁ!!」
飯島みやび「あの子!? あの子なの!?」
久宝水輝「こんにちは、真山さん」
真山由花「こ、こんにちは」
飯島みやび「こんにちは! はじめまして!! 私、ミャーちゃんの飼い主の飯島 みやび、真山とは幼馴染で何でも知ってるからね!!」
久宝水輝「はじめまして」
真山由花「みやび、その前に彼に言うことあるじゃない?」
飯島みやび「ちょっと、ちょっと、真山、何よこの爽やか男子。悪くない、悪くないけど──ヒモまっしぐらって感じ」
真山由花「はいはい、分かりましたから」
久宝水輝「あの────」
真山由花「ごめんね、こっちの話」
真山由花「好きなもの何でも頼んで」
久宝水輝「じゃあ────」
〇テーブル席
(ケーキにタバスコを大量に!!)
飯島みやび「それ、美味しい??」
久宝水輝「とっても、美味しいです!!」
(そうなんだあ)
真山由花「それで、みやびは今年も行かないつもり?」
飯島みやび「来週のこと?」
真山由花「そうに決まってるでしょ」
飯島みやび「行かないわよ」
久宝水輝「何かあるんですか?」
真山由花「ええ」
飯島みやび「明日──父の命日なの」
真山由花「私の昔の上司で──」
飯島みやび「仕事ばかり・・・・・・」
飯島みやび「家庭なんてほったらかし」
飯島みやび「挙句、狂人に殺されちゃうんだから──」
飯島みやび「ろくでもない父親だった」
真山由花「また、そんなこと言って──」
飯島みやび「だって、本当のことだもん」
飯島みやび「私が産まれる寸前に、仕事行ったんだから!!」
真山由花「私は飯島さんの気持ちわからなくないな」
飯島みやび「久宝くん!」
久宝水輝「はい?」
飯島みやび「真山は、こんな奴だけど末永くよろくね!!」
真山由花「ちょっと──!?」
久宝水輝「ああ」
久宝水輝「はい」
真山由花「久宝くんも返事しないでいいから!」
〇マンション群
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飯島みやび「──助けて」
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「──助けて、お父さん!」
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