マッチングアプリ 『4cLets』

花柳都子

マッチングアプリの質問(脚本)

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〇綺麗な部屋
  『マイページ』の作成を行います。
  このページは非公開情報ですので、
  質問には正直にお答えください。
浅葱寧々「(・・・非公開情報?)」
浅葱寧々「(”明かさないことをお約束します”って書いてあったのは、このことかな・・・)」
浅葱寧々「(で、その肝心の質問は──)」
  あなたが重要視したい項目を
  以下から選んでください(複数回答可)
  【容姿に関する質問】
  □中性的 □ワイルド □真面目
  □高身長 □筋肉質  □細身
  □清潔感 □個性的  ・・・
浅葱寧々「・・・・・・!?」
浅葱寧々「(思ってたより直球な質問だなぁ・・・)」
  【性格に関する質問】
  □話し上手 □聞き上手 □明るい
  □冷静   □優しい  ・・・
浅葱寧々「(・・・容姿や性格かぁ)」
浅葱寧々「(それももちろん大事なんだろうけど、答えにくい質問・・・)」
  無難な回答を考えれば考えるほど、
  何が正解なのかわからなくなる
  あくまで『私の』回答であって、誰に口出しされることでもないんだろうけど・・・
浅葱寧々「(その人の一部分だけを見て全てをはかるようで、気が引けるなぁ・・・)」
  ──実際、人にはいろんな顔がある
  本当に結婚を目的とするなら、軽い気持ちでこんなこと選べるはずがない
  とはいえ、こんな序盤で躓いている場合でもないか──
浅葱寧々「(最初の選択肢、変えられないのかな・・・)」
  ここでは選択肢の変更を行うことができます
  選択肢を変更しますか?
  はい いいえ
浅葱寧々「(・・・あれ? なんだ、変更できるんだ)」
浅葱寧々「(・・・はい、と)」
  【※ERROR※】
  現在のあなたのステータスでは
  変更することができません
浅葱寧々「エラー!?」
浅葱寧々「(”現在のあなたのステータス”ってなんのこと?)」
浅葱寧々「・・・・・・」
  機械音痴なうえに、ネットでの交流に免疫も耐性もない私には何もかもが難易度の高い作業だった
  それでも後戻りするわけにはいかない
浅葱寧々「よし」
  私は改めて『マイページ』の編集画面に向き合う
浅葱寧々「(要するに、自分の好みを具現化するってことだよね・・・?)」
浅葱寧々「(まるで、ゲームや漫画の登場人物ができあがりそうな感じがするなぁ──)」

〇講義室
  ──数年前、寧々の大学時代
仁科美来里「おはよう、寧々!」
浅葱寧々「美来里、おはよう」
仁科美来里「ねえ、見て見て♪」
浅葱寧々「なに?」
仁科美来里「私の推しの『SMS』!」
浅葱寧々「SMS? なにそれ、推しからメールでも来るの?」
仁科美来里「あはは、違う違う!」
仁科美来里「──あぁいや、まあ似たようなもんだけど」
仁科美来里「私だけの言葉をくれるっていうなら、強ち間違いでもないから」
浅葱寧々「あ、そう・・・」
浅葱寧々「それで? なんなの『SMS』って?」
仁科美来里「『スペシャルマイスタイル』! このゲーム、私の選択肢で推しを好みの姿にできちゃうの」
浅葱寧々「──どういうこと?」
仁科美来里「あのね、このゲームはいわゆるイケメン育成ゲームなんだけどね」
仁科美来里「二次元に存在する天使や悪魔みたいなキャラクターたちが三次元に擬人化して一つ屋根の下で暮らす話なの私はそこのお手伝いさんで」
浅葱寧々「・・・ちょっと待って、三次元に擬人化ってそれ二次元の話だよね?」
仁科美来里「え、うん、そうだよ?」
浅葱寧々「──続けて?」
仁科美来里「私の選択肢次第で彼らが友達になったり恋人になったりするんだけどサポートするって名目で容姿や性格を思い通りにできちゃうわけ」
浅葱寧々「あぁ、つまり、その姿が──」
仁科美来里「そう! それが、『SMS』!」
浅葱寧々「・・・私だけの言葉をくれるっていうのは?」
仁科美来里「性格や私との関係性が変われば、私への言葉も変わるでしょ?」
仁科美来里「推しが同じキャラクターでも、プレイヤーみんなが同じ姿にするとは限らないから──」
浅葱寧々「私だけの推しの姿──『SMS』になるってことね?」
仁科美来里「正解!」
浅葱寧々「そもそも、そういうのってどういうきっかけで推しになるの?」
仁科美来里「きっかけかぁ・・・」
仁科美来里「・・・んー、顔かな!」
浅葱寧々「えっ、性格とかじゃないの・・・?」
仁科美来里「そりゃ性格とか生い立ちとか、知れば知るほど推し欲は強くなるし、最終的にはそういうの全部含めて好きになるけど・・・」
仁科美来里「ヴィジュアルだって大事! そもそも顔も好きじゃなきゃ、推しにはならないでしょ」
浅葱寧々「──顔『も』ね」
仁科美来里「そう、顔『も』! 私は三次元の男に興味はないけど、キスもできない人と結婚はできないなって思うし」
浅葱寧々「・・・そう、だね」
仁科美来里「一般的なイケメンとか美人とかの話じゃなくて、単純に好みの問題ね」
仁科美来里「──そう、私の中の天使と悪魔が囁くの」
浅葱寧々「・・・は?」
仁科美来里「『顔で選ぶなんてよくない』『どうせ顔が好みなんだろ』・・・」
仁科美来里「『ほら、もっと僕(俺)のことをよく見て(ろ)よ』──ってもう・・・きゃあぁぁぁ」
浅葱寧々「あぁ・・・はいはい」
浅葱寧々「(ゲームの中の台詞なんだろうな・・・)」
仁科美来里「ねえわかる!?天使も悪魔も自分のことだけ愛して欲しいのだから人間である私との解釈の違いに苦しみながら真正面からぶつかって」

〇綺麗な部屋
  大学時代の友人、仁科美来里──
  卒業してから数年経った今でも推し活にご執心で、相変わらず愛の対象はもっぱら二次元
  静香とはまた違う雰囲気だけど、サバサバしてるところとか、自分らしさを大事にするところとかはよく似てる
浅葱寧々「(静香にも、あんな風に誰かを愛していた時期がちゃんとあったんだよね・・・?)」
浅葱寧々「(そういえば静香もよく言ってたっけ)」
桜庭静香「そんなのただの『解釈の違い』なんだから気にすることないじゃん!」
浅葱寧々「(私がクラスメイトを傷つけてしまったかもって思い悩んでる時、そうやって笑い飛ばしてくれた)」
  実際その時は私の考えすぎで、件のクラスメイトはけろっとしてたけど
  何でもかんでも『解釈の違い』で済ませちゃうのが、静香のいいところでも、悪いところでもあった
  でも、決して他人を蔑ろにしているわけじゃなくて、相手のことをちゃんと見ている子だった
  あの時だって、文字通りクラスメイトと私の『解釈の違い』を示してくれた言葉になったのだから──
浅葱寧々「うん、静香ならきっとそう考えるはず・・・」
  似ているところがあっても、静香と美来里が全然違う人間であるように
  たった一言でその人の全てをはかることができないように
浅葱寧々「(『顔』にも、いろいろあるってことだよね)」
  それでも私は、誰かに答えを知られるのが恐くて、潔く決められないのだけど・・・
桜庭静香「別に知られたっていいじゃない、『私は私』なんだから──」
浅葱寧々「『自分に嘘つくことないよ』、でしょ?」
  私は生前の静香と過ごした日々を思い返しながら、静香の選びそうな選択肢にチェックを入れた
  最後に──
  あなたが『顔』から思い浮かべる言葉は何ですか?
浅葱寧々「(えっ、自由記述?)」
浅葱寧々「(しかも、ずいぶん抽象的な質問──)」
浅葱寧々「・・・・・・」
  私は悩みに悩んだ末、最後の無理難題をようやく入力し終え、スマホを置いた
浅葱寧々「(あとは、『マッチング開始』のボタンを押すだけだ──)」

次のエピソード:マッチングアプリの罠

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