クレプロ

サトJun(サトウ純子)

バブルボールとお饅頭(脚本)

クレプロ

サトJun(サトウ純子)

今すぐ読む

クレプロ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇通学路
矢島幹夫「僕は、人が嫌いだ」
矢島幹夫「いや、実際は嫌いでは無い。 ただ、人が発している膜に触れると、全身がビリビリ痺れるのだ」
  僕は、これを「マンバブル」
  と呼んでいる。
矢島幹夫「猫は人間より高いところにいると余裕が出てくるというけど、本当だな」
  屋根の上でドッシリと横たわったまま、ジトっと見下ろして来る野良猫を見て、幹夫はそう思った。
  この一本道を真っ直ぐ行けば、商店街にでることができる。
矢島幹夫「あの猫。普段は目が合うと、おどおどと逃げていくのになぁ」
  幹夫は軽く深呼吸をすると、猫に微笑みかけながらゆっくりと通り過ぎた。

〇店の入口
矢島幹夫「お、おはようございます!」
月岡紘子「あ、幹夫さん。 おはようございます」
矢島幹夫「妙子さんじゃない!」
月岡紘子「今、妙子さんじゃない!って思いましたよね?」
矢島幹夫「・・・あ、あ、いえ、その・・・」
月岡紘子「妙子さんは急遽現場が入ったので。 私が代わりに店番してます」
矢島幹夫「そ、そうなん・・・ですね。 お、つかれ、さまです」
矢島幹夫「・・・あ、ちょっと焼きそばの匂いがしてる。また、焼きそばパン食べたな」
  幹夫は軽くお辞儀をすると、クリーム色の壁に擦らないように体を横にして店の裏側へ回った。

〇事務所
  ここは手作りパン屋、Deニッシュの事務所。
  しかし、ここはただのパン屋ではない

〇謎の扉
  ここで働いている従業員は全員
  重厚な扉の向こう側にある
  クレセントムーン・プロダクションの
  所属タレントでもある。

〇事務所
矢島幹夫「お、おはようございます!」
三ツ橋榎月「え、え、えっーっ!? みーくん!? なにぃ!また、戻したん!?」
矢島幹夫「だ、から・・・これが、僕なんです」
三ツ橋榎月「あの、グレーパーマにカラーコンタクト、似合っていたのに・・・」
矢島幹夫「も、もう、撮影・・・終わりましたから」
三ツ橋榎月「・・・もったいない」
三ツ橋榎月「・・・あ、でも、なんか雰囲気変わった?」
三ツ橋榎月「・・・」
三ツ橋榎月「マンバブルだ! バブルボールじゃなくなってる!」
矢島幹夫「わ、わかります?」
矢島幹夫「・・・」
矢島幹夫「じ、実は、僕・・・まだよくわかっていないのですが」
三ツ橋榎月「・・・おいおいおいおい」
  榎月は小さくため息をつきながら、塩入りであろうアイスティーを、ストローをよけて口に流しこんだ。
矢島幹夫「ば、バブルボール、ではな・・・い、とは?」
三ツ橋榎月「んっと・・・ なんて言ったらいいのかなぁ」
三ツ橋榎月「今までは幹夫は完全にバブルボールの中にいたんだけど、今は・・・」
三ツ橋榎月「頭が出ている感じ?」
矢島幹夫「あ、頭が出てい・・・るって、 榎月さん、見えて、い・・・」
如月弥生「幹夫さん。おはようございます」
如月弥生「・・・」
如月弥生「・・・ところで、なんで榎月さんがここでくつろいでいるんですか?」
三ツ橋榎月「なんか仕事ないかなーって思って・・・」
如月弥生「・・・」
如月弥生「じゃ、Deニッシュの店番、代わってもらえます?妙子さんの現場が長引きそうなので」
如月弥生「それに、これ以上紘子さんの無愛想な接客は見ていられない・・・」
三ツ橋榎月「いいっすよ。俺、愛想だけは自信あるんで」
如月弥生「幹夫さんは、今日中にこの資料をまとめておいてくださいね」
矢島幹夫「・・・また、マンバブルの話が途中になっちゃった」

〇結婚式場のレストラン
  ──撮影の時もそうだった。
月岡紘子「そうですよねー!きゃははっ」
矢島幹夫「え、紘子さん。演技だと、あんな風に笑えるんだ・・・」
矢島幹夫「事務所にいる時と全然違う。 やっぱり女優さんなんだなぁ」
「はい!カーット!オーケー!」
矢島幹夫「あ、素になった」
「じゃ、次のシーン行きますよー!」
矢島幹夫「わ、笑った!瞬時に!」
月城芳江「はいはいはーい! 今、うちのみーくんがカメラのケーブルをうまく誘導してくれてましたーっ!」
月城芳江「さっきも、反射板の位置、直してくれてましたよーっ!」
月城芳江「監督ぅ!そこでボケーっとしているアシスタントの分、みーくんに上乗せしてくださいねー!」
矢島幹夫「よ、芳江さ・・・ん」
矢島幹夫「鼻、の、頭に な、生クリーム、つ・・・いてます、よ」
月城芳江「しーっ!」
  芳江は、手にしているバッグの中から、
  引き出物のサンプルらしいカステラを取り出し、口に押し込んだ。
矢島幹夫「どこから持ってきたんだか・・・」
月城芳江「今の紘子チャーン、目立つでしょ?」
矢島幹夫「は、はい。華やか・・・だから、です・・・か?」
月城芳江「ブッブー!」
月城芳江「今、紘子チャーンは広範囲にシャボン玉をとばしているの。みーくんの言うところの・・・」
月城芳江「・・・」
月城芳江「サンバブル?」
矢島幹夫「ま、マンバブル、です」
矢島幹夫「え、今度はバウムクーヘンを取り出した」
月城芳江「いつもは自分の中に仕舞い込んでるからねー。紘子チャーン」
月城芳江「みーくんは自分を守る為だけに使ってるでしょー」
月城芳江「お饅頭が、餡子を隠しているのと同じー。 何が入っているのか、外からだとわからなーい!」
矢島幹夫「み、見えて、る・・・ので、すか? マンバブル」
月城芳江「え?逆に、みーくんは見えてないの? そんなにあるのに?」
月城芳江「・・・」
矢島幹夫「・・・今度は紅白饅頭か」
月城芳江「あ、そか! 幹夫チャーンは肌で感じるタイプだったわねー」
月城芳江「もっと、わかりやすくしてあげるー」
矢島幹夫「・・・頭を叩かれた。 それも、饅頭を持ったままの手で」
月城芳江「はい。少しだけ膜を除けてあげたわ!」
矢島幹夫「”膜を除ける”って・・・」
矢島幹夫「・・・あっ!」
矢島幹夫「・・・」
矢島幹夫「わかりやすくなったけど、見えはしないかな・・・」
月城芳江「みんな感じ方が違うから、気にすることないわよー」
月城芳江「全然大したことじゃ無いしー。 それで死ぬわけじゃ無いしー」
月城芳江「・・・あっ!」
月城芳江「監督ぅ!お昼ご飯、どこ行きますー?」
矢島幹夫「行っちゃった・・・」
  でも。
  少しだけ、ほんの少しだけ。
  辺りが明るく鮮明になった気が。
  ──した。

〇事務所
矢島幹夫「マンバブル。電気の膜のようなモノだと勝手に思っていたから、まさか、見えるモノだとは・・・」
月岡紘子「・・・ふぅ。疲れた」
矢島幹夫「お、お、お、お疲れ・・・さま、です!」
月岡紘子「原材料聞かれたから、事細かく説明していたら」
月岡紘子「「もういいです」って帰っちゃったお客さまがいて」
矢島幹夫「まさか、それ。全部説明しようとしたんじゃ・・・」
月岡紘子「ホント、失礼しちゃう!」
矢島幹夫「・・・」
矢島幹夫「・・・確かに、感じない。 あの時のマンバブル」
月岡紘子「・・・」
矢島幹夫「あ、焼きそばパン。 ・・・ですよね」
月岡紘子「・・・なんです?」
矢島幹夫「あ、いえ、な、なんでも・・・ないです」
月岡紘子「・・・」
月岡紘子「これのことですか?」
矢島幹夫「そ、それです! どうやって、いる・・・のですか?」
月岡紘子「・・・」
月岡紘子「”どうしてる”って聞かれても、勝手に出ちゃうものだし・・・」
月岡紘子「全然特別では無いですよ。 みんな持ってるし」
矢島幹夫「み、みんな持って・・・いる?」
如月弥生「幹夫さん! 突然で申し訳ないですが、手伝ってもらえます?」
矢島幹夫「は・・・はい」
如月弥生「とりあえず、一緒に来てください!」

〇謎の扉
  ──そういえば、最近
  マンバブルで気絶する事が
  なくなった気がする。
  そして、気がつくと僕は
如月弥生「良かった。間に合いそう」
矢島幹夫「今度はなんなんだ?」
三ツ橋榎月「・・・」
三ツ橋榎月「はい。三ツ橋です」
三ツ橋榎月「・・・はい。そうですね。 そろそろ、いいタイミングかと」
「大丈夫です。 全て計画通り進んでいますので」

次のエピソード:【番外編】天才を見た(弥生語り)

コメント

  • あれ? あれ? あれ? マンバブルの秘密がわかると思ったら…… 計画!? 何が起きてるの? 気になります❤

  • 店の前に来た時「あ、妙子さんじゃない❗」と私も言ってしまいました(笑)みーくんと思う事が同じ😆
    次話はシリアス展開なのでしょうか?ドキドキ😵💓
    最後のファンタジーっぽいみーくんが気になります✨

ページTOPへ