君の隣に僕が生きてる

咲良綾

エピソード4.脱出(脚本)

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咲良綾

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〇研究開発室
  黒川鎖衣にデータを託した穂多美。
  その隙にやってきたシアンの願いを受け入れ、
  研究所から連れ出すことにするが──
黒川鎖衣「確認したが、間違いなく研究資料のようだ。 責任をもって預からせてもらうよ」
小牧穂多美「あ、はい。よろしくお願いします」
小牧穂多美「では、わたしはこれで・・・」
黒川鎖衣「こんなところまで来たんだ、簡単なものでよければ食事くらい振舞うが」
小牧穂多美「いえ、大丈夫です。ゆっくりしてたらバスがなくなっちゃいますから」
黒川鎖衣「それでは、バス停まで送って行こう」
小牧穂多美「ありがとうございます、でも結構です。 自然いっぱいの山道を歩く機会なんて滅多にないから、楽しいし」
黒川鎖衣「そうか・・・。では、気をつけて。 水分はちゃんと持ってるか? 良ければこれを持って行きなさい」
小牧穂多美「あ、ありがとうございます」
  無愛想だけど、意外に親切なんだな。
黒川鎖衣「それと、これは僕の名刺だ。 節奈さんに、できれば連絡して欲しいと伝えてくれ」
小牧穂多美「わかりました。では、失礼します」

〇林道
小牧穂多美「はぁ~、どきどきしたわ」
シアン「うまくいったね!」
小牧穂多美「でも、そんなに難易度高くなかったわね。 わたしがいなくても抜け出せたんじゃないの?」
シアン「抜け出せても、お金がないからバスに乗れないんだよ」
小牧穂多美「そっか・・・ずっと研究所にいるんじゃ、お小遣いもらっても使い道ないもんね」
シアン「お金、足りる?」
小牧穂多美「うん、交通費くらいは大丈夫だよ」
小牧穂多美「足りなくなったとしても、途中で投げ出したりしないから安心して」
シアン「ありがとう、頼もしいな」
シアン「あ。そういえば僕、 まだちゃんと君の名前聞いてない」
小牧穂多美「あ・・・そっか。 わたしの名前は、小牧穂多美よ」
シアン「こまきほたみ・・・ こまきが上の名前で、ほたみが下の名前?」
小牧穂多美「うん、そう」
シアン「こまきほたみ・・・ほたみ・・・」
シアン「言いにくいから、『ほた』にする」
小牧穂多美「え、『贅沢な名前だね』ってこと? わたし、風呂屋で働かされるの?」
シアン「・・・・・・?」
小牧穂多美「ごめん。 君、アニメとかあんまり見てないんだったね」
シアン「『ほた』って呼び方、ヘン?」
小牧穂多美「ううん、ヘンじゃないよ。 二文字に略すの、可愛いと思う」
シアン「じゃあ、僕のことは『シア』って呼ぶ?」
小牧穂多美「それは略す意味があまりないような・・・ 『シアン』でいいじゃない。呼びやすいし、響きがきれいで好きよ」
シアン「ほんと? へへ、初めて名前ほめられた」
  可愛いなぁ。なんだか急に弟ができたみたい。
  妹の日乃香(ひのか)はどうしてるかな。
  しばらく会ってないけど、幼稚園、頑張ってるかしら。
  今は幼稚園も夏休みだよね。
  今年のお盆はどうしようかな・・・
シアン「ほた、待って。歩くの速い」
小牧穂多美「あ、ごめん」
  シアンは歩き慣れてないんだよね。
  先は長いのに、もう息があがってるみたい。
  大丈夫かな・・・
  そうだ。
小牧穂多美「はい、シアン。背中に乗って」
シアン「え?」
小牧穂多美「おんぶしてあげる」
シアン「いいの? ほた、疲れない?」
小牧穂多美「長くは無理だと思うけど、ちょっとだけね」
シアン「じゃあ、ちょっとだけ・・・」
小牧穂多美「よいしょ」
シアン「だ、大丈夫?重くない?」
小牧穂多美「うん、大丈夫」
シアン「・・・ほた、いいにおいがする」
小牧穂多美「え?あ、えっと、シャンプーかな?」
シアン「好きなにおい」
小牧穂多美「そ、それはどうも・・・」
  そういえば、体密着しちゃってるよね、これ。
  な、なんか、意識したら急に恥ずかしくなってきた・・・
  すり
  うわ~、首もとに鼻こすりつけてくる・・・!
  シアンに他意はないのよね、
  それはわかってるけど。
  でもなんていうかこう、力いっぱいくっつかれると・・・
  ずし・・・
  えっ?急に重く・・・
シアン「すぅ・・・」
小牧穂多美「わぁ、シアン!寝ないで! 重いぃ~っ!!!」

〇バスの中
小牧穂多美「ふう。 なんとか、バスに乗れた・・・」
小牧穂多美「シアン、大丈夫?」
シアン「はぁ、はぁ、はぁ・・・ う、うん」
小牧穂多美「よく頑張ったね。はい、お水」
シアン「ありがとう」
小牧穂多美「横になって休むといいよ。 膝枕してあげる」
シアン「ひざまくら・・・」
小牧穂多美「嬉しそうな顔しちゃって。 甘えられるのがよっぽど嬉しいんだな」
  きれいな顔。髪も少し長いし、女の子みたい。
  そういえばこの子、黒川さんのクローンなんだよね。
  黒川さんも昔はこんな感じだったのかな。
  黒川さん、シアンがいないの気づいたかな。
  バスが麓につくまでに追いつかれなければ、なんとかなるはず。
  我ながら、無謀なことしてるな。
  でもどうしても、この子のこと、放っておけなかったんだよね。
シアン「ほた」
小牧穂多美「ん?どうしたの?」
シアン「ほたはおかあさんと一緒に暮らしてるんだよね」
小牧穂多美「あ・・・うん」
シアン「おかあさんって、今何をしてるの?」
  そうだ、連れ出すのに夢中で肝心なことを忘れてた・・・!
  この子、節奈おばちゃんが病気だってこと、知らないんだ。
シアン「・・・ほた?」
  会わせるなら、事実を伏せるのは無理だ。
  ごめん、節奈おばちゃん。
小牧穂多美「あのね。 節奈おばちゃんは、今病院にいるの」
シアン「病院で働いてるの?」
小牧穂多美「ううん。入院してるの」
シアン「入院って・・・・・・病気?」
小牧穂多美「うん」
シアン「どんな病気?」
小牧穂多美「どんなって・・・」
シアン「死ぬの?」
小牧穂多美「!」
シアン「僕、間に合わないかもしれない?」
小牧穂多美「ううん、そんなにすぐどうこうってことは」
シアン「そう。良かった」
  あれ?意外にあっさりしてる?
シアン「・・・・・・」
シアン「ほた、大丈夫?」
小牧穂多美「え?」
シアン「なんだか、泣きそうな顔してた」
小牧穂多美「・・・そう?」
シアン「ほたは、おかあさんが大好きなんだね」
小牧穂多美「シアンも、大好きなんじゃないの?」
シアン「大好きだよ」
小牧穂多美「じゃあ、どうしてそんな、落ち着いてるの? ショックじゃないの?」
シアン「僕は、絶対に会えなくなる前に会えるのが嬉しい。 今はそれだけ考えてたらいいと思う」
小牧穂多美「でも・・・」
シアン「僕がショックを受けたら、鎖衣に気づかれちゃうから」
小牧穂多美「え?」
シアン「僕が何か強く思うと、鎖衣に伝わっちゃうんだ。 今はもらったデータに夢中だと思うけど、伝わったら僕の様子を見に行くでしょ」
小牧穂多美「伝わるって・・・テレパシー?」
シアン「よくわかんないけど。クローンと本体の間で、たまにあるらしいよ」
小牧穂多美「へえ・・・」
シアン「ほた。 おかあさんは、ほたから見てどんな人?」
小牧穂多美「そうねえ。 とっても優しくて、頭が良くて、大人かな。 あ、そうだ。写真あるよ。 この前携帯で撮ったのが・・・」
シアン「あ、待って」
シアン「今見たら、冷静でいられないかもしれないから、会うまでとっておくよ」
小牧穂多美「そっか・・・」
シアン「でも、あのね、ほた。 おかあさん、髪の毛真っ白の顔しわしわになってたりしないよね?」
小牧穂多美「あはは、大丈夫! 10年前より老けたかもしれないけど、面影ないほど変わってはいないと思うよ」
シアン「そう・・・よかった」
シアン「僕、ちょっと寝るね」
小牧穂多美「うん」
小牧穂多美「・・・・・・」
  感情にまでプライバシーがないってどんな感じだろう。
  なるべく穏やかな気持ちでいさせてあげたいな
  なでなで
  さらさらした髪をなでると、シアンの表情が穏やかになるのが嬉しい。
  そのまま、バスを降りるまでなで続けた。

〇オフィスビル前の道
小牧穂多美「さて、どうしよう」
小牧穂多美「最寄り駅で電車に乗るより、タクシーで一駅分移動する方が見つかるリスクが低いかな?」
久我山時夫「あれ、鎖衣?」
小牧穂多美「え?」
久我山時夫「な、わけないか。 でも似てるな。 子ども・・・にしてはデカイな」
久我山時夫「あんた、黒川鎖衣って知ってるか?」
シアン「え・・・」
  次回へ続く
  突然現れた、鎖衣の知人らしい男。
  彼は一体何者なのか──
  
  次回、エピソード5.時夫

次のエピソード:エピソード5.時夫

コメント

  • シアンを背負って歩いて吐息がかかるシーンが何故か妙に…作者のボルテージが上がってる気が…いや、気のせいですね。
    そっか、ゲームからのスチルだから立ち絵のスカートと柄が違うんですね。自然すぎて二回目まで気づかなかったです。スチルをカメラのカット割りみたいに使えて羨ましい。
    シアンはクローンだからそっくりですよね。昔の知人から声掛けられるとか…いや、良くできてますね。

  • シアンの動きが可愛いですね😆💕ピョコピョコ🎵
    膝枕スチルも愛おしさ全開でした!

  • シアンの膝枕と寝顔かわいい😆
    おんぶのところピョコピョコするの、本当におんぶしてるみたいで良かったです。

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