当店は夢喰いバク様の食べ残しで甘い汁を啜る素敵なお店です。

さやいんげん

変人との遭遇(脚本)

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〇けもの道
蕪木翔太「ハアハア・・・んで、オレ、走って!?!? ここ、どこ!?」
  翔太は足を止め、周囲を見渡す。
蕪木翔太「誰もいない。 でも・・・兎に角逃げないと。 捕まったら・・・捕まる?誰に? ーーーん?何だあれ?」
  数メートル先に、いかにも怪しいですよと言わんばかりの、発光する紙が落ちている。
蕪木翔太「何だこれ!?地図!? 何で光って!? うう、キモい、けど!」
  翔太は恐々その怪しい地図を手に取る。
蕪木翔太「この辺りの地図かな。 もしかして、ここ山の中? この印なんだ?」
蕪木翔太「北ってどっち!? わかんねええよおおお!!」
  翔太が不安から思わず大きな声を上げると、それまで静かだった森が覚醒した。風もないのに、森全体が明らかにざわめき出す。
蕪木翔太「ひいいいい!?!? 何!?誰かいる!!!!いっぱいいる!!!! オレもしかして四面楚歌!?!?」
  翔太は地図を握りしめたまま、闇雲に走り回る。
  暫くすると、また眠りにつくように森が静かになった。
蕪木翔太「ハアハア・・・なんなんだよ・・・ とりあえず、地図・・・」
蕪木翔太「あれ!? 印・・・移動してる!?!?」
渡川童夢「そうですよ~! 地図と迷ったんですけど、万が一翔太くんが方向音痴だったらーって、ナビにして正解でしたねぇ!」
蕪木翔太「あはは。 確かにオレ方位磁石ないと北すらわかんないや」
渡川童夢「ふふふ。 さっきの悲鳴、目覚まし時計のアラームにもってこいですよ!」
蕪木翔太「まじかー! 聞こえちゃいました!? はっずーーー・・・・・・・・・・・・」
蕪木翔太「・・・・・・・・・・・・だれ?」
渡川童夢「申し遅れました! 私、貴方のナイトメア言い値で買い取ります(追記アリ)でお馴染み! 悪夢バイヤーの「童夢」と申します!」
蕪木翔太「・・・・・・。・・・・・・ぴ」
渡川童夢「おやぁ? 翔太くん、恐怖のあまりスイッチ切れちゃいました?」
渡川童夢「でもそろそろ起きてください? 彼らが追い付いてきちゃいますよ?」
蕪木翔太「ぎゃああああああああ!!!!」
  翔太は何テンポも遅れて叫び声を発し、突然背後から現れた男から飛び退いた。
蕪木翔太「だ、だれだれだれだれだれ!?!?」
渡川童夢「だからぁ。私は」
  男がのんびりと口を開くと同時に、さらに背後から地を這うような呻き声が響き渡る。
渡川童夢「あらら。 翔太くんがあまりに騒ぐし、目立つ地図なんて拾うものだからあ。 予定より早く、私の後ろにも、君の真後ろにも」
渡川童夢「いらっしゃいましたよ?」
  翔太は叫び出したい気持ちをぐっと押し込め、後ろはあえて振り向かなかった。
  そして、嫌らしく笑う男の手を引いて走り出す。
渡川童夢「おや、私も一緒に連れていってくださると! 翔太くんは優しいですねえ!」
蕪木翔太「あああ、貴方は敵ですか?味方ですか? 彼らって何ですか? オレら捕まったらどうなるんですかあああ!!!!」
渡川童夢「質問責めですね! いいでしょう! 貴方が味方だとおっしゃるならば、味方になりましょうぞ!!」
蕪木翔太「ハアハアハア・・・! あ、ありがとうございます?」
渡川童夢「彼らは最近の流行ですと、人喰いの怪物ですかねえ? バク様たち、飽きちゃったーって言いやがるんですよー・・・・・あっ!!!」
蕪木翔太「なななな何!?!? あああ!! こや、小屋!!!! あそこ行きましょ!!!!」

〇暖炉のある小屋
  小屋の戸は鍵が掛かっていなかった。
  翔太は中が無人なのを確認してから、緊張感がまるでない男の背を押して中に入った。
  扉や窓を家具で塞ぎ、その隙間から外を伺うも、霧が深く何も見えない。
蕪木翔太「ハアハアハア。 無理に引っ張ってすいません。 怪我してないですか?」
渡川童夢「はい! 非常に楽しかったです!」
蕪木翔太「ハアハアハあれ? 悪夢・・・夢? 童夢、さん? さっき悪夢がどうたらって言いましたよね?」
渡川童夢「あのパニック状態でよくぞ! 流石若い脳をお持ちで! そうです、私、皆様から悪夢を買い取ることを生業としております!」
蕪木翔太「オレ今までハアハア言ってたんですけど、意識してみたら、苦しくないんです」
渡川童夢「では翔太くんは何かしら別の要因で息を荒げて・・・よもや、私に欲情を抱いておられる!?」
蕪木翔太「あ、それはないです。 あと試しに、オレを殴ってください。 そんでもって、一応小声でお願いします」
渡川童夢「渾身のボケを瞬殺した挙げ句、特殊性癖に付き合わせる上に、怒涛の要求の数々! 俄然私もドキドキしてきました!」
蕪木翔太「はぁ。もういいや」
  この状況を楽しんでいる様子の童夢に見切りをつけ、翔太は己の拳で自身の頬を力の限りで殴った。
蕪木翔太「あはは。やっぱり痛くないや。 これ夢かぁ」
渡川童夢「夢をみてると自覚する、明晰夢にしてしまったんですか? せっかくスリルが味わえるのに」
蕪木翔太「たしかに! 夢ってわかったら怖さ半減した気がします!」
渡川童夢「翔太くんはホラーはお嫌いで?」
蕪木翔太「嫌いっていうか、苦手で。 妹と一緒なら・・・」
  翔太は突然言葉を切ると、まじまじと童夢の顔を覗き込み首をひねった。
渡川童夢「いやはや、なんですかもー! 照れちゃいますよー!」
蕪木翔太「いや、何で折角二人で怪物から逃げるっていう美味しいイベントで、相方があなたなんだろなって。ネットで目にした芸能人かな」
渡川童夢「もしかして、私より『四枚切りの花嫁』のブレッドちゃんがよかったとか思ってます!? ひどい!大の大人が本気で泣きますよ!」
蕪木翔太「何でオレの推しキャラ知って!? って、そうかオレの夢なんだからか!」
渡川童夢「あ、いえ、私は貴方の夢の中の住人ではありませんよ。 貴方の夢に無断でお邪魔して、買い取り交渉をしている最中です♪」
蕪木翔太「あー・・・はいはい」
渡川童夢「あー!信じてませんね! あとこれは裏家ぎょ・・・あ、いえ、サービスなんですが」
  急に声のトーンを落とした童夢に、翔太は思わず耳を寄せた。
渡川童夢「極上の悪夢を売ってくださった方には、貴方の理想のスイートドリームをもれなくプレゼント! 絶賛キャンペーンちゅ・・・!」
  ガンッ!ガン!ゴリッ!
  カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
蕪木翔太「ぎゃあっっ!?!? これは夢夢夢!!!! 怖くないーー!!!!」
渡川童夢「窓に何か貼り付いてますね」
  童夢が指差す方に、翔太はゆっくりと顔を向ける。
美羽?「おに、、、、ち゛ゃ、、、ん こここここここここここ、あ、、け゛てぇ ああああああああけてあけてあけてあけた?」
  カリカリカリカリカリカリカリカリ。
  ごりごりごりごりごりごり。
  キーキーキーキーザリザリザリザリ。
蕪木翔太「美羽!?!? 絶対違うけど、美羽似の君!!!! やめろ!!!!爪が剥がれちゃうから!!!!」
  翔太は叫ぶと、今まで積み上げた家具を退けて、ドアノブに手をかけた。
渡川童夢「開けちゃいますか? 間違いなくムシャムシャされますよ? ほら、彼女涎すごいですし」
蕪木翔太「オレの夢に巻き込んでしまってごめんなさい。 オレが完食されるまでに、どうか遠くまで逃げて!」
渡川童夢「では、私の交渉は失敗ということですね」
蕪木翔太(あ、まだその悪夢バイヤーの設定いきてるんだ)
蕪木翔太「ごめんなさい! モドキでも妹が出てくる夢は売れないので!」
渡川童夢「承知いたしました」
  最後の家具を退け、翔太は勢いよく外に出た

〇木の上
  翔太の世界はすぐに反転した。
  美羽モドキが頭にかじりついたため、バランスを崩して地面に転がったのだ。
蕪木翔太(あー、やっぱり美羽じゃなかったか。夢でもいいから、美羽と喋りたかったな。はっ!あの人大丈夫か!?)
  童夢の安否を確認しようと瞳を動かせば、大量の何かから楽しそうに逃げ回る姿が目に入る。
蕪木翔太「童夢さん!!!!」
渡川童夢「御気遣いなく! 私を求めて必死な皆様が愛らしくて、つい遊んでしまいました!!」
渡川童夢「では、翔太くん! またご縁がありますように! おやすみなさい!」
  元気に手を振ると童夢は忽然と姿を消した。
  翔太はその虚空を、頭を半分齧られながらボンヤリと眺める。
蕪木翔太(理想のスイートドリームか)
  迫る鋭利な歯をなぜか愛しく思いながら、翔太は目を閉じる。
蕪木翔太(それが美羽のためになるなら、売ってもよか──)
  ガリッッ!!!!

次のエピソード:悪夢バイヤーのお仕事。ごく稀にこんな日もあります編。

コメント

  • 悪夢の買い取りサービスっていいですね。
    しかも腰が低くて話しやすそうな人ですし。
    私は買い取って欲しいなぁと思いましたが、彼は売りたくないと。
    妹さんが理由にあるためのような感じがしますが…どうなるんでしょう。

  • 悪夢を食べる発想が斬新で面白かったです!夢から夢へ潜っていくお話、大好きです!

  • 悪夢ビジネスなるものがあるとは!悪夢ってなんの予兆もなく突然見たりすることありますが、夢と気づいた瞬間、怖さがやわらいでなんだか冷静になれるのってあるあるですね。

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