第九話 足掻け(脚本)
〇秘密基地の中枢
冴木(さえき)「被験者はいつ来るの?」
牧野(まきの)「今日中には来るはずです。 鍵と一緒に」
冴木(さえき)「承知しました。 出迎える部屋の用意をお願いします」
牧野(まきの)「はい。分かりました」
〇山並み
大樹町──「宇宙のまちづくり」を標榜し、航空や宇宙分野での実験や飛行試験を積極的に誘致し、
主に大樹町多目的航空公園でJAXAや大学などの研究機関が実験を行っている。
〇大きい研究施設
〇施設内の道
樹(いつき)「ホントにここで終わりなんだよな」
優心(ゆうしん)「この研究施設の冴木さんに鍵を渡せば、ミッションコンプリートだよ」
蒼斗(あおと)「三郎は、冴木さんに会ったことある?」
三郎(さぶろう)「ねえよ。 こんなところに来るのも初めてだ」
三郎(さぶろう)「歌舞伎町のボスは潔癖な上に秘密主義でな。余計な話しは一切しないんだ」
名倉(なぐら)「被験・・・ あー、トー裏キッズのみなさん? お待ちしていました」
名倉(なぐら)「研究施設内では、衛生管理のために外部のヨゴレを全て落としてからお入りいただきたい」
名倉(なぐら)「まず、エアー室で身体中に付いたヨゴレを吹き飛ばし、着替えていただいてから、冴木にご面会願います」
〇近未来施設の廊下
樹(いつき)「スゲエ!SF映画の廊下みたいだ」
蒼斗(あおと)「こちらはロケットの研究施設なんですか?」
名倉(なぐら)「ぐふふ、鋭いですね! よくお分かりで・・・」
蒼斗(あおと)「まあ、大樹町といえば。 民間ロケットの積極的な打ち上げ場所としても有名ですよね」
名倉(なぐら)「そうです! 積もる話は後ほど・・・」
名倉(なぐら)「さあ、この部屋に入ると特殊なエアーで全身が洗われますよ。 皆さんでどうぞ!」
〇魔法陣のある研究室
樹(いつき)「どこから風が出るのかな?」
三郎(さぶろう)「俺も入るぜ」
名倉(なぐら)「きっ、君は容量オーバーだから、次ね、次」
三郎(さぶろう)「グスン・・・この旅で10キロは痩せたのに!」
蒼斗(あおと)「あの、スミマセン。 エアーに入る前にちょっと良いですか?」
名倉(なぐら)「ンッ? まあ、いいでしょう」
樹(いつき)「蒼斗・・・まさか、ココで俺たちを切り捨てるつもりなのか?」
優心(ゆうしん)「とりあえず、従うフリをしようか。 いざとなったら僕が隙をつくから、樹は逃げて!」
蒼斗(あおと)「待たせたな! じゃ、お願いしますね」
名倉(なぐら)「ゴホン・・・了解しました。 では、改めてスイッチ・オンです!」
〇黒
勢いの良い風が全身に吹き付けられた
〇黒
その風と同時に卵の腐ったような匂いも部屋に充満して、俺は気持ちが悪くなった。
「ガスだ!」
遠くで蒼斗がそう言ってたように聞こえたけど、
その時はもう遅かったんだ。
〇近未来の開発室
樹(いつき)「何だここは!? 手枷と足枷がされているッ」
樹(いつき)「蒼斗!優心!」
樹「クッ、眠らされている!? 三郎!三郎は居ないのか!?」
冴木(さえき)「あのふくよかな方なら、別室で待機してもらってるよ」
冴木(さえき)「みんな同じ量の麻酔を吸い込んだはずなのに、君だけ目覚めるなんて、興味深いね」
樹(いつき)「誰だ!?」
冴木(さえき)「自己紹介が遅れました。 この研究所の所長、冴木です」
冴木(さえき)「正式には、NEOJAXA(新・宇宙航空研究開発機構)の改造型HTVにおける有人宇宙輸送機の開発部門責任者だよ」
樹(いつき)「全然意味が分からない。 ──何かの間違いじゃないのか?」
樹(いつき)「俺たちはトー裏で歌舞伎町のヤクザにミッションを任されただけなんだ。 金のプレート『鍵』を集めろって」
冴木(さえき)「君たちが寝ている間に確かに受け取ったよ。これがないと、このプロジェクトは動かないんだ」
冴木(さえき)「文字通り、宇宙輸送機の発射抑制装置にもなっていてね。 これをセットして完了・・・!」
冴木(さえき)「あと、君たちは無関係じゃない」
冴木(さえき)「ちょっと脱線するけど、 宇宙飛行士志願者は、宇宙開発先進国の中で、日本が1番少ないんだ」
冴木(さえき)「なぜなら、日本政府は冒険心のない、面倒くさがりの、頭の固いオジサンばかりだからさ」
冴木(さえき)「今は空前の民間企業のロケット戦争なのは知っている?」
樹(いつき)「確かここに来たとき、蒼斗が言っていた」
冴木(さえき)「民間企業の開発を抑制したいけど、政府自体は各国の摩擦を避けて、表立って有人宇宙輸送機の開発は出来ない」
冴木(さえき)「だから、裏で秘密裏に準備してきた」
冴木(さえき)「ヤクザのサポートで、有人宇宙輸送機の開発と実証実験をすることにね!」
樹(いつき)「ヤクザが宇宙開発に金と手を貸していて、それが裏では政府公認・・・? 頭の悪い俺でも、ちょっと嫌な答えが見えてきたぜ」
樹(いつき)「俺らを、そのロケットに乗せる気なのか?」
冴木(さえき)「そう!そうなんだよ」
冴木(さえき)「君たちに乗ってもらう最新型の宇宙輸送機はね、」
冴木(さえき)「今流行りの金持ちを乗せる大型の宇宙輸送機と違って、小型でローコスト、ローエネルギーの最新型なんだ!」
冴木(さえき)「この実証実験で、間違いなく日本はロシア、アメリカ、中国を抜いて宇宙開発でトップに躍り出る!」
冴木(さえき)「ロケット開発は軍事的にも評価が高いから、そちらの方面でも引く手あまただ」
冴木(さえき)「弱小国日本がついに、世界のリーダーになる日が来たんだよ!!」
冴木(さえき)「君たちがその礎を築くんだ。 素晴らしいと思わない?」
樹(いつき)(マッドサイエンティストだっけ? まさにコイツだな)
樹(いつき)「生きて帰る保証はないよな?」
冴木(さえき)「あれ? 報告では、死にたがりの3人って聞いたけど」
冴木(さえき)「リストカットのコ、親に虐待されていたコ、自殺願望のコ」
冴木(さえき)「違ってたかな?」
冴木(さえき)「自殺願望のコは、歌舞伎町のヤクザに自分たちの情報流すから、自分以外は助けてくれって言ったらしいけど」
冴木(さえき)「被験者は多いほどデータ取れるし、この輸送機は3人乗りだから、勝手に減らされると困るんだよね!」
樹(いつき)「蒼斗・・・やっぱり裏切ってなんかいなかったのか・・・良かった!」
樹(いつき)「このまま、俺たちを縛り付けて、もう宇宙に打ち上げる気なのか?」
樹(いつき)「最期に2人にお別れくらい、言わせてくれよ」
冴木(さえき)「打ち上げは明日なんだ。 君が目覚めたのが想定外だっただけで・・・」
冴木(さえき)「手枷は外せないけど、眠っている仲間にお別れを言う時間はあげようか」
冴木(さえき)「どうせ何もできないから、研究所を自由に歩き回っても、構わないよ」
〇宇宙船の部屋
樹(いつき)「どこ見ても、逃げられそうな出入り口は無かった」
樹(いつき)「このままロケットに乗せられて、宇宙の塵になるのかよッ・・・」
思えば奇妙な人生だった。
17年間両親に虐待されて、
家出した先のトー裏に、
自分の居場所と友達を見つけたのに
今はなぜか、
明日、月に向かうロケットの
被験者になっている。
樹(いつき)「こんな人生・・・糞食らえだ・・・」
涙が目に溜まって、上を見上げた時
──天井の換気口が目に入った。
樹(いつき)「あの空気孔のダクト・・・どこに繋がっているんだ?」
〇化学研究室
名倉(なぐら)「私は別のプロジェクトだから、君たちのチームのことは良く分からないが」
名倉(なぐら)「ほんっとーに冴木所長は、あの低知能たちをH2000に乗せる気なのだな」
牧野(まきの)「本来の有人宇宙輸送機の実証実験であれば、自然科学のスペシャリストが選出されるはずですもんね」
牧野(まきの)「ただ、今回のプロジェクトはコストダウンで難易度が高い上に、訓練をしていない人間がターゲットですからね」
牧野(まきの)「実験動物並の人間が確保できればいいんでしょう」
名倉(なぐら)「だが、低コストでも再利用できる宇宙輸送機がテーマだろ? 彼らが帰還したら一躍ヒーローじゃないのか?」
牧野(まきの)「帰還できる可能性は50%ですね」
牧野(まきの)「今までの実験実験では、月にまでは行けても帰還の時に大気圏で燃え尽きてしまっていました」
牧野(まきの)「冴木所長には言えませんが、僕たちは今回も成功すると思っていません」
名倉(なぐら)「今回の改良ごときでは、弱点を補えないか・・・」
〇ダクト内
樹(いつき)(帰還する可能性は50%・・・)
樹(いつき)(くそ、くそ、負けたくない!負けたくない!)
樹(いつき)(もう、誰も頼らずに俺自身の力で皆を助け出す!!)
〇研究施設の守衛室前
守衛「冴木所長はアポ無しじゃ会いませんよ! 出直してください」
訪問客「そんなこと言わずに〜」
守衛「警察!? ど、どうぞ。地下5階です」
充(あたる)(もう刑事は辞職したが、殺人未遂の裁判が始まる前に最後まで働いてやるぜ!)
充(あたる)(スッポンの充から逃げられると思うなよ!)
〇黒
役者は揃った。
後は飛ぶだけだ。
まさかこんな展開になるとは思ってもいませんでした🤭
いや~これは目が離せません❗どんどん読み進めちゃいます😆✊
最後の目的地は宇宙への出発地点…こんな壮大なプロジェクトだったとは。確率50%、高いといえなくもないですが… いよいよクライマックスですね。
大樹町のロケットが出て、これで大樹町のみならず北海道を巡った必然性が出ましたね!他の打上げ地点として種子島もありますが、こちらだと、奄美・屋久島など離島巡りのサマーリゾートになりましたしね(笑)
クドリャフカのような扱いの3人、宇宙に旅立つことになってしまうのか注目ですね。そして三郎の運命や如何に!?(←三郎ばかり注目する歪んだ読者)