GoToフェス!(1)(脚本)
〇廃倉庫
ヒナ「イー。アル。サン」
ヒナ「イー。アル。サン」
ヒナ「・・・ハッ!」
ヒナ「思い出した!あいつだ!」
ヒナ「こうしちゃいられねえっ!」
第四話 GoToフェス!
〇廃倉庫
下等遊民「結局、ヒナ君の言ったことを忠実に守って練習するしかないんじゃないかな?」
下等遊民「頭の重さ、姿勢、右手の重心。これを意識しつつ」
蓬莱合唱団「帝都節歌いなよ」
リバーサイドクイーン「違う違う。パッションだよパッション」
リバーサイドクイーン「理屈倒れの男ほど、魅力のないヤツはいないわ」
蓬莱合唱団「ねえ、帝都節歌えば」
下等遊民「ふん。何事も基本が大切なのだよ」
下等遊民「勢いだけで動いてはろくな結果を招かない」
下等遊民「何ごとも熟考に熟考を重ね・・・」
リバーサイドクイーン「あんた○○だろ」
下等遊民「な、何を」
下等遊民「ど、ど、ど、ど、○○ちゃうわ!」
蓬莱合唱団「○○って何?」
リバーサイドクイーン「ほら、配給。順番回ってくるよ」
蓬莱合唱団「へへ。お先~」
アーチスト「まあ彼が○○かどうかはさておき、口に出して歌うことは楽器の修練において重要なファクターではある」
アーチスト「バイオリンもしかり」
アーチスト「脳も体の一部である。全身の運動能力を最大限利用しない限り芸事音曲絵画文筆なにひとつ極めること能わず」
義孝「ふむ。その辺りは武芸と変わらんのだな」
蓬莱合唱団「バロンの口から武芸ときたか~」
アーチスト「ヒナにボコられて川辺で泣いてたバロン君の口から武芸とはね」
義孝(バロンという男、情緒弱すぎだろう)
一兵卒「次の者。椀を出せ」
義孝「う、うむ」
義孝「・・・」
一兵卒「なんだ?それ以上はないぞ」
義孝「いや、そういうことではなくて」
一兵卒「?」
義孝「最近、憲兵司令殿が爆発事故に巻き込まれたらしいな」
一兵卒「だからなんだ?」
義孝「いや、この顔にピンとくるところはないかねと思ってだな」
一兵卒「?」
義孝「君、階級は?」
一兵卒「やかましい!配給を受け取ったらとっとと帰らんか!」
義孝「も、申し訳ない」
義孝(みじめだ)
義孝(なんだこんなもの。投げ捨ててやろうか)
「どいたどいたどいた!」
義孝「ああああああ!汁があああああ!」
義孝「俺の汁がああああ!」
ヒナ「うるせえ!急いでんだ!どけ!」
ヒナ「どいたどいたどいた!」
義孝「夕飯・・・」
〇役所のオフィス
「ごめんくださいましー」
「ごめんくださいましー」
木場「少尉殿!」
最上「何だ!」
木場「ちょっと忙しいので出て頂けますか!」
最上「なあ木場君。その態度、もしここが司令部だったら鉄拳制裁どころの騒ぎではないぞ」
最上「髪型も含めてな」
木場「失礼いたしました」
木場「私、木場曹長は現在、職務中にも関わらず非番と称し帝都日報の女性記者と接触していた上司の代わりに行った残務整理の皺寄せで」
最上「分かった分かった!出る出る出る!」
最上「髪型も似合ってるぞ」
猪苗代「どうもでございます」
最上「どうしたのかな~お嬢ちゃん?迷子かな?」
最上「ここは交番じゃなくて分駐所といって兵隊さんの・・・」
猪苗代「存じております」
猪苗代「それに私、成人しております」
最上「こ、これは失敬・・・」
最上「・・・えっと」
木場(年齢が分かりませんな・・・)
最上(パッと見、性別すらもな・・・)
猪苗代「私、こういうものでございます」
やまのて新聞記者、猪苗代麻呂美
最上(やまのて新聞?)
木場(発行部数の少ない弱小新聞社ですよ)
猪苗代「はい。取るに足らない弱小新聞社です」
猪苗代「そして一応は女性でありますです」
猪苗代「年齢は、引かないとお約束して頂けるのであればお答え致しますのです」
最上(滅茶苦茶耳いいな)
木場(軽く恐怖すら感じます)
猪苗代「職業柄常にアンテナは張っております木場荘助曹長(絶賛婚活中)どの」
木場「し、仕事に戻らないと」
木場(怖っ!)
最上「すまんな。俺もあいつも顔に出るタチで」
猪苗代「お気遣いなく。悪口影口白眼視には慣れておりますのです」
猪苗代「むしろ優しくしておきながら途中で切り捨てる方がつらすぎるのであります」
最上(あんたの心の闇なんて聞いてないし)
最上「で、その猪苗代記者がなんの御用ですか」
猪苗代「大芸能博爆発事故・・・」
猪苗代「いえ、爆発『事件』の犯人とおぼしき人物を知っておりますです」
最上「な、なんだって!?」
猪苗代「そちらの情報と引き換えに、色々とお教えしてもやぶさかでなく存じます」
最上「引き換えだと?」
最上「憲兵を侮るな女!」
最上「国家安寧の為の情報提供は、臣民の責務である!」
最上「無条件で協力するは当然であろう!」
最上「場合によっては逮捕して力ずくで聞き出しても・・・」
最上「まあ待て待て待て!」
最上「木場君。お茶お出しして」
最上「あと羊羹あっただろ」
木場「少尉のそういう所、自分、好きであります」
〇商店街
「ごちそうさまでした」
〇役所のオフィス
猪苗代「それではまずこれをご覧ください」
最上「写真?」
〇王宮の入口
「なんだこれは?」
「測天學といいます」
猪苗代「帝国大学教授西村光國博士が開発した芸能的人造人間です」
最上「これが一体爆発事件と何の関係がある?」
猪苗代「何の関係もありません」
最上「私をからかっているのか?」
猪苗代「聞かれたから答えたのです」
最上「もういい。何も聞かん。説明だけしてくれ」
猪苗代「少尉。この写真の後ろに映っている人物に見覚えは?」
最上「あっ!」
〇役所のオフィス
最上「猪苗代さん!どこでこの写真を!」
猪苗代「芸能博の取材をしていた所、偶然に」
猪苗代「この人物が来栖川司令である事は既に存じております」
猪苗代「私が聞きたいのは隣の男。見覚えは?」
最上「知らん。ただの呼び込みではないのか?」
猪苗代「それが、誰も知らないのです」
最上「え?」
猪苗代「この男、芸能博の関係者ではありません」
猪苗代「どこからか紛れ込んで、来栖川司令を爆発事故が起こった・・・」
猪苗代「・・・いえ。爆発を起こす予定の劇場へと誘導したと推察します」
最上「そ、そんな。まさか・・・」
猪苗代「少なくともこの人物の身元が割れない限りその可能性は充分あります」
猪苗代「そしてもう一枚」
〇王宮の入口
猪苗代「これはニャンギマリといって芸能博のマスコットキャラクターで」
最上「話を進めてくれ」
猪苗代「この写真は先ほどの写真より2時間ほど前に撮ったものです」
猪苗代「人ごみの中をよくご覧ください」
〇役所のオフィス
最上「これも閣下・・・」
最上「いや、そんなはずはない。二時間前はまだ陸軍省にいたはずだ」
猪苗代「やっぱり」
最上「え?」
猪苗代「この人物はバロン吉宗といいます」
最上「バロン吉宗・・・」
猪苗代「蓬莱街の道化師。通称、仮面のバロン」
猪苗代「蓬莱街で裏は取ってあります」
最上「この男がバロン吉宗だと!?」
猪苗代「ご存じで」
最上「確かによく見ると軍服も違うような・・・」
猪苗代「おそらくは衣装でしょう」
最上「いや、そんな、まさか・・・」
猪苗代「そのまさかです」
猪苗代「権力の上層と末端、決して交わる事のない二人の男が同じ顔をしていたのです」
最上「なんという事だ・・・」
最上「正直、言葉もない」
最上「だが、写真は事実を示している。あなたが捏造でもしてない限りは」
猪苗代「何のために私が捏造を?」
最上「そうだな。根拠がない」
最上「今の所はな・・・」
猪苗代「さすが憲兵さん。疑い深いですね」
最上「ああ。だから誰も彼も離れていった」
最上「離れていったんだ・・・」
猪苗代「・・・」
猪苗代「では、今の所はお互い肚を探りつつで結構です」
猪苗代「知りたがりの新聞記者と疑い深い憲兵さんで、結託しませんか?」
猪苗代「来栖川司令暗殺事件を解明するために」
最上「あけすけな言い方だな」
猪苗代「八方美人でいるほど落ちぶれちゃあいませんです」
最上「いいだろう。組もう」
猪苗代「賢明です。私、使える人間です」
猪苗代「そうですね。まずインチキ呼び込みの身元を割りましょう。もしも反権力活動家の中にあの顔があれば」
最上「閣下が事故にみせかけ暗殺された可能性が出てくる」
猪苗代「活動家や犯罪者の資料を調べて頂けますか?」
最上「分かった。何百何千捜査資料があろうとも一枚残さず調べ上げてやる」
最上「閣下の敵討ちになるかも知れんからな」
猪苗代「ありがとうございます」
最上「礼を言わねばならんのはこちらの方です。猪苗代女史」
猪苗代「さんでいいです。女史なんてガラじゃないんで」
猪苗代「私はただ、事実が知りたいだけです」
猪苗代「デモクラシーなどに興味ありません。知りたいのは本当のこと。その為に記者をやっておりますのです」
猪苗代「思想も哲学も真実すらも自分だけのもの。その時々で変節する」
猪苗代「ですが事実は不動です。自業自得から目を背けない強さがそこにはあります」
最上(自業自得か。身に沁みるな)
猪苗代「ま、編集長には分不相応な仕事ぶりだと、怒られてばかりですけどね」
最上「女権拡張・・・急務ですな」
猪苗代「そういうの。下らないです」
猪苗代「それでは失礼いたしますです」
猪苗代「あ。そうだ」
猪苗代「もし宜しければ今度、少しの間だけ護衛をつけて頂けませんか?」
最上「護衛?」
猪苗代「もう一度蓬莱街をじっくりと取材してみたいので」
最上「バロン吉宗ですね。分かりました。手配致しましょう」
猪苗代「ありがとうございます」
猪苗代「この取材、少尉さんにとっては吉報となるかも知れません」
最上「え?」
猪苗代「では、ごめんくださいまし」
最上「・・・というわけだ木場君」
最上「猪苗代女史の警護を頼む」
木場「私、この先しばらく書類整理が山積みで」
最上「書類整理なら私が変わろう」
木場「お言葉ですが着任したての少尉殿では時間がかかりすぎるかと」
最上「き、君という男は。もしや警護対象を容貌で区別しているのではないか?」
木場「それはこちらの台詞です。少尉が警護して差し上げればいいでしょう」
最上「いや、君が警護しろ。命令だ」
木場「私は忙しいのであります。ナイトの役目はお譲り致します」
最上「クソだな君は!」
木場「お互い様であります!」
猪苗代「失礼します。鞄を忘れたもので」
「これですね。どうぞどうぞ」
猪苗代「どうもどうも」
「・・・」
猪苗代「お二人とも、クソですね」
「・・・」
〇荒廃した教会
「・・・」
ヒナ「うおりゃあああ!」
ヒナ「ここにいたんかい探したぜ!じっと手を見るーズ!」
トラ「ちょっと静かにしてくれねえか」
ヒナ「なんでえ本なんか読んで気取りやがって」
トラ「別に気取るために読んでんじゃねえ」
ヒナ「ぷぷっ・・・」
トラ「あ?」
ヒナ「それって手書きの本ですかあ?」
ヒナ「ぼくのかんがえたさいきょうのものがたりですかあ?」
ヒナ「はい怒った~すぐ怒った~」
ヒナ「ヘイヘ~イ。かかってこ~い」
トラ「・・・」
「フッ・・・」
ヒナ「てめえら!今、フッ・・・つったか!」
トラ「これはトマースモアーの翻訳だ」
ヒナ「・・・トマト?何?」
デンキ「外国の本を根室先生が翻訳してくれたんだ」
デンキ「学のない僕らでも理解できるようにね」
ヒナ「根室!そうだ根室の話だ!」
ヒナ「思い出したんだよアイツの正体!」
ヒナ「オイラ達、一度アイツに会って」
トラ「一年前、来栖川男爵邸でだろ」
ヒナ「な、何でそれを・・・」
「決まってる。僕自身が思い出したからだよ」
「可愛らしいジプシーちゃん」
ヒナ「出やがったなインテリモボ野郎」
根室「根室清濁というのはペンネーム」
根室「本名は校倉倫太郎。親がつけた取るに足りない名前さ」
根室「そしてこれはトマトじゃない」
根室「トマス・モア著『ユートピア』」
根室「僕達若者を真の自由へと誘う聖書だ」
ヒナ「聖書?」
トラ「ああ、聖書だ」
デンキ「聖書だ」
活動家「聖書だ」
活動家「聖書よ」
〇キラキラ
「自由。平等。団結。解放」
「自由。平等。団結。解放」
ヒナ「何言ってんだよ・・・お前ら」
ヒナ「い、意味わかんねえよ!」
〇荒廃した教会
「逃げないで」
桜子「もう逃げ回らなくていいのよ。大人たちの横暴から」
根室「権力者の支配から」
トラ「俺らの金を奪うヤクザどもから」
デンキ「僕達を蔑ろにするエリートどもから」
『自由。平等。団結。解放』
『自由。平等。団結。解放』
ヒナ「それが・・・自由?」
〇黒
『本当にそうなの?』
『バロン・・・』