align(アライン)(脚本)
〇殺風景な部屋
???「伊知賢くん」
???「伊知賢 明来 訓練生」
???「ああ、そこにいたのか」
???「試験の結果は、もう聞いただろうね?」
???「不満だろうが、わかるね。決して 君を蔑ろにしているんじゃないんだ」
???「むしろ、アライメントとして将来有望な 君にこんなことを告げるのは」
???「私としても苦しい。断腸の思いだ」
???「落ち着きなさい。それでも私達は イエスと言うわけにはいかないんだよ」
???「君には致命的な『弱点』がある。 それは君自身が誰よりよく知っているだろう」
???「現実世界に戻れなくなると知っていて みすみすノアに送り出すことはできない」
???「だから、君を特級アライメントとして 認めるわけにはいかない」
???「なに? 別のアライメントからサポートを受ければ?」
???「おいおい。君ともあろう者が、 正気で言っているのかな」
???「君は今、他人に自分の命を一切任せる と言ったんだぜ?」
???「しかも毎回!任務のたび! コンディションその他に関わらず!」
???「まあ一度落ち着け。 そしてゆっくり考えてみたまえ」
???「きっと君の選ぶ相棒は優秀な人間だろう。 その相方が”失敗した時のこと”をね」
???「ふふ、怖くないって顔しているな。確かに 君としては本望かもしれない」
???「だが、どうだろう。 君にその覚悟はあるだろうかね?」
???「君を受け入れてくれた優しいパートナーを」
???「君を殺した重罪人に堕とす覚悟は」
〇サイバー空間
電脳空間『ノア』は
よく”クラゲのよう”だと表現される
※イメージはイカで代用しています
だだっ広い電脳空間の頭をもたげ
インターネットの海を漂う
無数の足を現実社会にからみつけて
操作する巨大なクラゲだ
枝振手(えぶりで)(そしてバグは、たとえるなら巨大クラゲの 『足の部分』に巣食う病原体)
枝振手(えぶりで)(虫食いができた足は、現実社会との つながりが弱くなり制御不能に陥る)
枝振手(えぶりで)(だが、クラゲの”頭”に影響するバグは これまで発見されなかった)
枝振手(えぶりで)(どんなに大きく悪質なバグがあっても ノア内部の環境は正常であり続ける)
枝振手(えぶりで)「その筈だ。 少なくとも、これまではそうだった!!」
枝振手(えぶりで)「だからこそ、バグを見つけるのが あんなにも難しかったんだ」
枝振手(えぶりで)「それがどうだ! どうなっているんだコレは!?」
動悸が激しい隊員「こちらチーム・マナティ! バグと思しき暴走熱を発見!!」
動悸が激しい隊員「セット!」
動悸が激しい隊員「ソース読解率83%! 異常プログラムの範囲指定、確認!」
動悸が激しい隊員「すぐに解消を試み──ッつぅ」
本当は逃げたい隊員「ま、また”かわされ”た────」
本当は逃げたい隊員「いや違う。”外し”たんだ。 バグとは別の場所にワクチンを打った」
本当は逃げたい隊員「ただのデータが逃げるはずない・・・・・・」
本当は逃げたい隊員「でも何故。こんなに『分かりやすい』 異常なのに、なんで外す?」
動悸が激しい隊員「────バグからの逆侵食を感知。 パーソナルデータの保持率91%に低下」
動悸が激しい隊員「やむを得ません。 一旦、接続を切ります」
動悸が激しい隊員「なんて厄介なバグなの。 うるさくて、乱暴で、聞き分けが悪くて」
動悸が激しい隊員「常識が通じない。 まるで駄々をこねる子どもみたい」
動悸が激しい隊員「そこにいるのが分かっているのに 捕まえられないなんて、一体どういう事なの」
動悸が激しい隊員「すみません。一度、離脱します」
動悸が激しい隊員「パーソナルデータを修復し次第 すぐに復帰を」
本当は逃げたい隊員「よ、よし! なら、これはどうだ!? データスキャンでバグの位置を特定する」
本当は逃げたい隊員「普通これだけハッキリ見えているなら スキャンは不要なはずだが」
本当は逃げたい隊員「これでワクチンを打つ位置を しっかり確定できれば・・・・・・!」
本当は逃げたい隊員「ん?え、あれ・・・・・・? 手応えが全くない」
本当は逃げたい隊員「そんなはずは、だって 確かに異常信号が目の前に」
本当は逃げたい隊員「プログラムは全て正常・・・・・・? そ、そんなバカな。そんなはずが」
本当は逃げたい隊員「う、うわあぁぁぁっっっ!?」
枝振手(えぶりで)「バカッ!何やっている!!」
枝振手(えぶりで)「一度引け!総員撤収だ! このバグは今までと様子が違いすぎる」
枝振手(えぶりで)「ログアウトだ。対策を練り直すぞ」
本当は逃げたい隊員「し、しかしそれではタイムロスが」
本当は逃げたい隊員「・・・・・・わかりました」
本当は逃げたい隊員「すぐに戻ります。リーダーも一緒に離脱を」
枝振手(えぶりで)「俺は後だ。いいから早く行け!」
枝振手(えぶりで)「・・・・・・・・・・・・」
枝振手(えぶりで)(間違いない。バグはここにある。 疑う余地もないほどハッキリと感じる)
枝振手(えぶりで)(大きい。しかもどんどん侵食している)
枝振手(えぶりで)(急速にコードのバグ化が進行した? それともこうなるまで見つからなかったのか)
枝振手(えぶりで)(今までとは性質が異なる、新しいタイプの バグが生まれている・・・・・・)
枝振手(えぶりで)(・・・・・・あるいは、バグが育つまで ノアがその存在を隠していた可能性は)
枝振手(えぶりで)(いや、まさかな)
枝振手(えぶりで)(しかし、これだけ成長が早いとなると 長期戦は益々こちらが不利だ)
枝振手(えぶりで)(せめて応援が来るまでに、少しでも 勢いを削いでおいた方がいい)
枝振手(えぶりで)(部下には任せられない。危険だ。 なら────自分が────)
枝振手(えぶりで)「・・・・・・・・・・・・」
明来(あくる)「聞こえるか枝振手!」
明来(あくる)「そっちから爆発音が聞こえた! 何かあったのか!?」
枝振手(えぶりで)「この声は」
枝振手(えぶりで)「伊知賢! よりにもよってこんな厄介な時に!」
枝振手(えぶりで)「アイツに首を突っ込まれたら、事態が 更にややこしくなる」
枝振手(えぶりで)「帰れ伊知賢! お前の相手をしているヒマはな」
枝振手(えぶりで)「・・・・・・・・・・・・」
枝振手(えぶりで)「・・・・・・いや、待てよ」
枝振手(えぶりで)「相手はあの伊知賢だ。 まともに語っても話が通じん」
枝振手(えぶりで)「ならひとつ、こちらも裏をかいてやるか」
〇電脳空間
同じ頃。ノアの別ブロック
見えない壁に阻まれたまま、明来は
ただ声を張り上げ怒鳴り続けていた
明来(あくる)「おい枝振手! 聞こえてんなら返事しやがれ!」
明来(あくる)「何かトラブルなら、オレもそっち行って サポートを────」
枝振手(えぶりで)「問題ない!こっちはいたって絶好調だ!」
明来(あくる)「ん、この声────」
枝振手(えぶりで)「嘘だと思うなら来てみろ!ただし お前の出る幕は!これっぽちも!ない!!」
枝振手(えぶりで)「安心してゆーっくり顔を出すんだな! はっはっはー!!」
明来(あくる)「間違いない。枝振手の声だ。 オレの声に気づいたな」
明来(あくる)(珍しいな。いつもの枝振手なら、)
明来(あくる)(絶好調だろうがピンチだろうが オレを寄せつけようとなんてしない)
明来(あくる)(あんな大声で、こっちに来いなんて 口が裂けたって言うもんか)
明来(あくる)(まるでいつもと言っていることが逆────)
明来(あくる)(・・・・・・逆?)
明来(あくる)「あ────」
明来(あくる)「あ、あ、あ!」
明来(あくる)「そ、そうか! 反対!真逆!なんで気づかなかったんだ」
明来(あくる)「ずっと気になっていた違和感はこれだ」
何もないところで障害物にぶつかる。
壁があるはずのところで何にも触れない。
そう。全部『逆』なんだと思えば
つじつまが合ってくる
明来(あくる)(理由はまだ分からないけど、 ここは視覚情報が”おかしく”なってるんだ)
明来(あくる)(でも全くバラバラってわけでもない。 法則性がある)
明来(あくる)(完全な無茶苦茶にはできてないんだ。 そこを足がかりにすれば)
ノアが見せる視覚情報では、右手に壁。
左手側には何もない。
目を閉じて、ゆっくりと両手を広げる。
明来(あくる)「・・・・・・・・・・・・」
明来(あくる)「・・・・・・・・・・・・」
〇サイバー空間
枝振手(えぶりで)「あー楽勝だ楽勝!」
枝振手(えぶりで)「この活躍、誰にも見せられないのが 残念だなーっ!!」
枝振手(えぶりで)「・・・・・・・・・・・・」
枝振手(えぶりで)「よし。これくらい言っておけば 十分だろう」
枝振手(えぶりで)「さて、」
枝振手(えぶりで)「よーし落ち着け。 落ち着いて狙うんだ枝振手 直常」
枝振手(えぶりで)「問題ない。大丈夫、大丈夫だ」
枝振手(えぶりで)「こんなにハッキリくっきり見えているんだ、 打ちもらすわけがない」
枝振手(えぶりで)「よしんばこのバグが特別なものでも」
枝振手(えぶりで)「自分は特級アライメント。 絶対に対処できる・・・・・・」
枝振手(えぶりで)「そう、この程度のトラブル恐るるに足らず」
枝振手(えぶりで)「心頭滅却。猪突猛進。 蝶のように舞い蜂のように・・・・・・」
明来(あくる)「いや、”そこ”じゃねーだろ。狙うのは」
明来(あくる)「うわ。 ってか、手めっちゃ震えてるじゃん」
明来(あくる)「やめとけやめとけ。 そんなんじゃ当たりゃしないって」
明来(あくる)「ただでさえお前、決め打ちするの 昔から下手くそじゃん?」
枝振手(えぶりで)「伊知賢・・・・・・」
枝振手(えぶりで)「なんでここにいる・・・・・・!?」
明来(あくる)「はー? なんでも何も、そっちが呼んだんだろう?」
枝振手(えぶりで)「呼んで!ない!」
枝振手(えぶりで)「大体、さっきのは言葉の綾という奴で」
枝振手(えぶりで)「? なんだ?」
明来(あくる)「いや、やっぱり誤魔化そうとするんだな って」
明来(あくる)「さっきのアレはヒントだったんだろ? ここの『異変』をオレに知らせるための」
枝振手(えぶりで)「う、ん?」
明来(あくる)「でもま、今日はそれでもいいや」
明来(あくる)「おかげで大事なことに気づけたわけだし。 これは借り1にしておく」
明来(あくる)「っし、じゃあやるか」
枝振手(えぶりで)「やる、って、何を?」
明来(あくる)「何、ってそりゃ決まってるじゃん、 バグ退治だよ、バグ退治!」
明来(あくる)「ここでは、目に見えているものと 実際の位置関係が”逆”になっている」
明来(あくる)「感覚があてにならない以上、 ”ひとり”じゃバグを解消するのは難しい」
明来(あくる)「だから、」
横目で通信機の状態を確認する。
響からの応答はまだない。
明来(あくる)(音声通話は妨害されてるっぽいな)
明来(あくる)(じゃあ『音を介さない』ならどうだ)
通信機の横に並んだボタンを押す
赤、緑、緑、黄、赤
『返事』はすぐにあった
明来(あくる)(緑、緑、黄、赤、黄)
明来(あくる)(────よし!)
明来(あくる)「協力しよう、枝振手。 ふたりなら・・・・・・いや違うな」
明来(あくる)「”3人”なら、このバグにだって対抗できる」
待ってました✨
ノアの全体構造が枝振手の比喩表現のおかげで分かり易かったです!
位置情報が真逆だとは、電脳世界ならではの仕様を生かした巧みな表現に思わず『なるほど!』と声を上げてしまいました!
枝振手達はバグの反対側を狙ってたのですね……つまりバグに背中を見せていた!?🫢あぶな💦
毎度、枝振手が絡むと賑やかになりますね〜(ニヤニヤ)
エブリデイ イズ ベリーファン!
続きを待ってます!