君の隣に僕が生きてる

咲良綾

エピソード3.節奈の過去(脚本)

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咲良綾

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〇研究開発室
  研究所を訪れた穂多美は、そこで
  クローンの研究が行われていたことを知り、
  写真の少女の正体に思い当たる。
  それは・・・
小牧穂多美「伯母のクローンも、いるんですね?」
黒川鎖衣「!」
小牧穂多美「写真を見たんです。 さっきの子と一緒に写ってる女の子。 節奈おばちゃんにそっくりだけど、日付がおかしかった」
黒川鎖衣「節奈さんが見せたのか?」
小牧穂多美「いえ、偶然見ただけですけど」
黒川鎖衣「・・・そうか。 彼女はマゼンタというが、残念ながら3年前に亡くなった」
小牧穂多美「えっ」
黒川鎖衣「クローン技術はまだ発展途上だ。 その中で生み出された彼らは不完全体。 総じて、オリジナルより短命だ。 体力的にも劣る」
黒川鎖衣「シアンが少し興奮しただけで眠ってしまったのは、そういうことだ」
小牧穂多美「・・・・・・そんな」
黒川鎖衣「ヒトクローンの研究については、長いことその正当性について議論されている」
黒川鎖衣「しかし研究の題材としては非常に魅力的だ。 そのため、他国に先駆け、秘密裏に研究を進める目的でこの研究所が設立された」
黒川鎖衣「そこで作られたのは、不完全なクローン体。 研究が公になれば、人体実験だと激しい非難を浴びるだろう」
黒川鎖衣「加えて、2000年にはヒトクローンの研究を禁止する法律も施行された」
黒川鎖衣「そういうわけで、この研究所の存在は以前にも増して極秘とされている」
小牧穂多美「それを、わたしに話してもいいんですか?」
黒川鎖衣「節奈さんは、君にこの場所のことを明かし、 届けものを預けた」
黒川鎖衣「つまり君は秘密を守れる、信用に足る人物だということだ」
黒川鎖衣「そしてその福成章介に宛てられた届けものは、十中八九、クローン研究に関わる資料だ」
黒川鎖衣「それがクローンの欠陥を補完する研究ならば、シアンの命に関わる」
黒川鎖衣「僕は福成章介ではない。 だが、研究成果を活用できるのは僕だけだ。 お願いだ。僕を信用して、それを預けて欲しい」
  どうしよう・・・
  節柰おばちゃんも、命にかかわるかもしれないと言っていた。
  わたしにデータを託したのは、きっとあの男の子を救うためなんだ。
小牧穂多美「じゃあ、お願いします。まずは本当に研究の資料かどうか、確認してみてください」
黒川鎖衣「わかった」
小牧穂多美「・・・・・・」
「・・・ねえ」
小牧穂多美「あれっ、君、さっき・・・」
シアン「一瞬落ちちゃったけど、すぐ目が覚めた。 それより、お願いがあるんだけど」
小牧穂多美「お願い?」
シアン「僕も連れてって」
小牧穂多美「連れてってって・・・どこに」
シアン「おかあさんのところに」
小牧穂多美「えええええ!? だ、だめよ、そんなの!」
シアン「落ち着いて。 僕も興奮するわけにはいかないんだ」
小牧穂多美「あ、ああ・・・ 興奮するとさっきみたいに寝ちゃうんだっけ?」
シアン「それもあるけど」
シアン「これはただのわがままじゃなくて、 まじめなお願いなんだ」
シアン「これ、見てくれる?」
小牧穂多美「何?腕・・・?」
小牧穂多美「な、何これ・・・! 腕が両方とも青紫のまだらになってる」
シアン「体中穴だらけだよ。もっと見る?」
小牧穂多美「ううん、いい」
シアン「鎖衣はいじめてるわけじゃなくて、僕を長生きさせようとしてるだけだってわかってる。 でも、正直つらい」
シアン「僕は、こうやって薬漬けにされながら、この建物で一生を終えるんだ」
シアン「僕は非合法な実験体だから、仕方ないことなんだけど・・・」
小牧穂多美「そんな・・・」
シアン「でも、おかあさんにもう一度会いたいって望むくらい、僕にも許されないのかなって思うんだ」
シアン「10年待ってて、やっと来たんだ。 おかあさんに繋がる君が」
小牧穂多美「10年って・・・あなた、何歳?」
シアン「14歳」
小牧穂多美「4歳のときに別れて、それからずっと?」
シアン「うん」
小牧穂多美「でも、節奈おばちゃんは本当のお母さんってわけじゃないんでしょう?」
シアン「それは・・・僕は鎖衣のクローンだから、遺伝子的な繋がりはないよ。 だけどおかあさんから生まれたんだ」
小牧穂多美「えっ? クローンって、人間から生まれるの?」
シアン「母体は必要だよ。 おかあさんは、研究者としてだけじゃなくて、母体としてここに入所したんだよ」
  ・・・衝撃だ。
  クローン研究というものを、甘く見ていたかもしれない。
小牧穂多美「じゃあ・・・マゼンタっていうクローンも?」
シアン「うん」
小牧穂多美「お腹を痛めて、産んだんだ・・・」
  節奈おばちゃん、そんなことまでして研究を・・・
  それは、科学者としての好奇心?
  それとも、福成章介を愛していたから?
シアン「そして、僕にすっごく優しくしてくれたんだ。 本当のおかあさんみたいに」
小牧穂多美「それは・・・ それは、忘れられなくて当たり前だよ。 遺伝子とか関係なく、お母さんだよ」
シアン「そうだよね。 ただの母体じゃないよね。 おかあさんだよね」
小牧穂多美「でもわたしと一緒に行くこと、黒川さんが許してくれるかな?」
シアン「鎖衣は許さないよ。 だから隙を見て君に頼んでるんだよ」
小牧穂多美「え・・・つまり、脱走・・・」
シアン「僕1人では無理なんだ。 僕は本当に、外の世界を知らないから」
小牧穂多美「この建物から出たことないの?」
シアン「庭くらいなら出るよ。 でも、それだけ」
シアン「テレビも、電波が入りにくいし、光の刺激が強すぎるからってあんまり見せてもらえない」
シアン「おねえちゃんと遊ぶのが楽しかったから、僕はそれでも良かったんだけど・・・」
小牧穂多美「おねえちゃん?」
シアン「マゼンタおねえちゃん。 3年前にいなくなっちゃった」
小牧穂多美「あ・・・」
  ずっとここで閉鎖的な生活をして、遊び相手も亡くして・・・
  どれだけ淋しい思いをしたんだろう
  病気の節奈おばちゃんと、
  短命と言われるこの子。
  今を逃したら、もう会えないかもしれない。
  だめだ。
  胸がぎゅっとして、耐えられそうにない。
  ここに残して帰れない
小牧穂多美「・・・わかった。協力するよ」
シアン「ほんと?」
小牧穂多美「うん。一緒に行こう。 節奈おばちゃんのところへ」
  この選択が正しいのかわからない。
  でも、シアンの瞳に希望の光がともるのを見て、正しくなくてもいいと思った。
  次回へ続く
  研究所からシアンを連れ出す
  決意を固めた穂多美。
  しかし、体力のないシアンは・・・
  
  次回、エピソード4.脱出

次のエピソード:エピソード4.脱出

コメント

  • だめだ、もう今から泣けて仕方ないです。
    あかんやろこんなん。
    ミステリー+ヒューマン。
    そうか、納得。
    しかし精度が段違いです。

  • ゲームのほうは知らないのですが…。背後に闇があり各人にそれぞれ事情もある壮大なストーリーのようですが、とても切なくもドキドキする展開の話です。

  • 命とは繫がりとは正しさとは、って色々考えさせられますね。

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