君の隣に僕が生きてる

咲良綾

エピソード1.古い写真(脚本)

君の隣に僕が生きてる

咲良綾

今すぐ読む

君の隣に僕が生きてる
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇山奥の研究所
シアン「マゼンタおねえちゃん、 どうしていなくなったの?」
シアン「おかあさん、会いたい・・・」
黒川鎖衣「シアン。処置の時間だ」
シアン「鎖衣・・・ 僕はいつまでここにいるの?」
黒川鎖衣「・・・今は生きることだけ考えるんだ。 マゼンタのようにはなるな」
シアン「・・・・・・」
黒川鎖衣「痛みが強くなってるな。ほら、行くぞ」
シアン「・・・ただ生きるだけの命なんていらないのに」

〇病室のベッド
小牧穂多美「これでよし、と。 ほら、わたしが育てたひまわりはどう?」
  わたしは小牧穂多美(こまきほたみ)。
  16歳の女子高生だ。
芳田節奈「華やかね。元気が出そう!」
  この人は伯母の芳田節奈(よしだせつな)。
  病気で一週間ほど前から入院している。
芳田節奈「外は暑そうね」
小牧穂多美「もう、大変よ。毎日暑くて焦げちゃいそう。 明日で補習が終わるから、そしたらちょっと楽になるかな~」
  節奈おばちゃんとはかれこれ5年、
  同居している間柄だ。
芳田節奈「穂多美。 ちょっと、頼みがあるの」
小牧穂多美「頼み?うん、何?」
芳田節奈「私の机の鍵のついた引出しに、データディスクとUSBが入ったA4サイズの封筒があるの」
芳田節奈「それを、ある場所へ持っていって欲しいの。 補習が終わって、本格的な休みが始まってからでいいから」
小牧穂多美「いいけど・・・ある場所って、どこ?」
芳田節奈「住所はここ。あとで地図検索してみて」
小牧穂多美「結構遠いね。郵送じゃいけないの?」
芳田節奈「とても大事なデータだから、そういうわけにはいかないのよ。 自分で持って行くにも、私はこんな状態だし」
小牧穂多美「治ってからじゃ、ダメなの?」
芳田節奈「穂多美・・・」
芳田節奈「・・・お願いできるかしら」
小牧穂多美「うん、わかった」
芳田節奈「ありがとう。これ、机の鍵」
芳田節奈「データは、福成章介という人に渡してね」
芳田節奈「それから、何か聞かれても、私のことはできるだけ話さないで」
小牧穂多美「病気のこととか?」
芳田節奈「そう。幸せにやってるから、そっとしておいて欲しいって」
小牧穂多美「その人、節奈おばちゃんの昔の恋人?」
芳田節奈「いいえ。残念ながら、私の一方通行だったわ」
芳田節奈「研究所勤めをしていたころの上司なの。 研究一筋で、私はただの助手でしかなかった」
小牧穂多美「・・・・・・」
芳田節奈「どうしたの?」
小牧穂多美「今までそういう話になるとはぐらかしてばかりだったから、ちょっとびっくりした」
芳田節奈「そうね。 穂多美ももう、子供じゃないから」
小牧穂多美「大人って認めてくれるの?」
芳田節奈「ある程度はね。 もう1人でご飯も作れるし、 ひまわりも育てられるし?」
小牧穂多美「・・・やっぱり、子供扱いしてる」
芳田節奈「気のせい、気のせい。 じゃなかったら、こんな大事なこと頼まないわ」
小牧穂多美「そんなに大事なデータなの?」
芳田節奈「ええ。もしかしたら人の命がかかっているかもしれないの」
小牧穂多美「命って・・・ 節奈おばちゃんは、昔何の研究をしていたの?」
芳田節奈「・・・行けばわかるかもしれないわ」
芳田節奈「でも、そこへ行くことも、その場所も、そこで見たことも、私以外には誰にも言っちゃダメ。いい?」
小牧穂多美「う、うん・・・わかった」
小牧穂多美「それじゃ、家に帰って封筒を確認したら、 また連絡するね」
芳田節奈「ありがとう。よろしくね」

〇病室の前
  節奈おばちゃんは頭が良くて、なんだかんだと難しい研究をしていたことは知ってる。
  データの中身は、わたしが見てもちんぷんかんぷんなんだろうな。
  行けばわかるかもって・・・なんだろう?

〇総合病院
  母の姉である節奈おばちゃんと初めて
  会ったのは、小学2年生のとき。
  私生児としてわたしを産んだ母は、
  少し派手で明るい人だった。
  だから、落ち着いた節奈おばちゃんは地味な気がして、姉妹だと言われても不思議だった。
  あとから、目鼻立ちで言えば節奈おばちゃんは随分きれいな人で、母とも似ていると気づいたけど。

〇駅のホーム
  わたしが10歳のときに、母は結婚をした。
  わたしの姓は芳田から小牧に変わった。
  小牧さんはいい人だった。
  でも、お父さんと呼ぶのは気がひけた。
  それからほどなく、母は妊娠した。
  小牧さんはとても嬉しそうで、
  毎日はしゃいでいた。
  お腹の子供は妹だった。
  わたしも妹ができるのは嬉しい。でも。
  生まれてからの扱いの差は、目に見えている。

〇線路沿いの道
  節奈おばちゃんはわたしの様子を見て、
  うちにおいでと言ってくれた。
  わたしは妹が生まれる前に、中学受験を口実に節奈おばちゃんの家に移ることにした。
  それからの生活は、とても楽しかった。
  節奈おばちゃんとは、気が合った。
  家族とも丁度いい距離感が保てる。

〇白いアパート
  そうして5年が過ぎた、今年の春。
  節奈おばちゃんの体が、重い病気に侵されていることがわかった。
  わたしはどうして、好きな人のそばにいることができないんだろう。

〇怪しい部屋
小牧穂多美「ええと、この引き出しよね」
小牧穂多美「あっ!」
小牧穂多美「あーあ、引き出しの中に鍵落としちゃったよ~」
小牧穂多美「うーん。奥に転がって行ったな・・・ あれ?これって、写真?」
小牧穂多美「わあ、かわいい。 右は、子供の頃の節奈おばちゃんかな」
小牧穂多美「あれ?でも、裏に日付が・・・ 『1998/8/16』。 今は2008年だから・・・10年前?」
小牧穂多美「じゃあ、節奈おばちゃんなわけないか。 似てるけど・・・誰だろう? 男の子は見覚えない顔だな」
小牧穂多美「まあ、いいか。 詮索とか趣味じゃないし」
小牧穂多美「封筒って、これかな」
小牧穂多美「うん、中身もちゃんと入ってるね」
小牧穂多美「これを届ければいいのね。 福成章介・・・か。どんな人だろう?」
  次回へ続く
  訪れた山奥の研究所で、
  穂多美が見たものは・・・?
  
  次回 エピソード2.研究所

次のエピソード:エピソード2.研究所

コメント

  • テンポよく展開が進んでいく作品はないですが、そのゆったりの中に情緒間や、キャラクター性が見られて、飽きものではなかったですね。少し朗読しながら読んでいたのですが、キャラクターに入りやすさを感じました。ゆっくりと情緒を大切にしながらすすむ物語の感じ。朗読の練習がてら楽しみます

  • 未履修でした。冒頭のファンタジーな雰囲気と現実の二層が自然に配置されてて、謎もあって。二話が読みたくなる一話でした。
    そして地の文が割とある!貴重!
    と、はしゃぎながら読んでました。地の文も変わらずテキストが洗練されてて綺麗です。

  • 情緒的な部分とミステリーさが混じった奥深いストーリーが待っているように感じました。叔母の過去、写真の男の子、それが少しづつ解き明かされた時、主人公はどういう想いでいるのか気になります。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ