10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在日ミグランス人

第5話 蹂躙(脚本)

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〇荒野
  先に断っておく。
  僕は人を殺す事に対して、余り抵抗がない。
  とは言え快楽殺人鬼の類ではなく、単に業務の一環だと思っているからだ。
  一度屠殺場などを見学してると良い。
  レールにぶら下げられた牛や豚がとても丁寧に、事務的に『処理』されていく。
  まあ食糧難時代にそんな施設は存在しないが。
  取敢えず、今から起きる事は『そういう事』だと認識して欲しい。
  まずは少年兵達を先行させ、次にムルアが続く。
  僕は後方支援だ。
  ARコンタクトは、体内の塩分を伝導媒介にして携帯端末と情報をリンクさせている。
  比較的安価であり、数さえ揃えば現地の兵とも簡単に意思の疎通が可能になる。
アメタ「第一陣、発射」
「はっしゃー!!」

〇組織の本部
  『挨拶』を済ませると、騒ぎを察知したアメジスト・アーマーの社員達が殺到して来る。
  しっかり統率が取れている。流石にプロの傭兵だ。
アメタ「止まるな。そのまま突っ込め」
「つっこめー!!」
  第三世界では今もこんな事が繰り返されている。
  先進国では自由を代償にして、退屈なくらいの平和を享受している。
  嘗ては満遍なく平和で、満遍なく戦争をしていたが、今は見事なくらい棲み分けが出来ている。
  秩序と混沌の二極化。いい加減なのも問題だが、極端過ぎるのも考えものだ。

〇オフィスの廊下
アメタ「展開」
「てんかーいっ!!」
  内部に入るとハイになった子供達を散開させる。
  殆どが陽動だ。
  制圧は二の次。何より敵意を喪失させるのが目的だ。
  まともにやりあっても勝てないのは目に見えている。

〇武器庫
アメタ「恐らくこの辺りか・・・・・・」
  ビンゴだ。
  何の事はない。弾の代わりに肉が詰め込まれている。
  剣に鞘。弓に矢。銃なら弾だ。
  そこに銃があるなら、弾倉に入っているのは弾薬だろうと誰だって思う。
  確証があった訳じゃないが、まあいつもの勘というやつだ。
  昆虫食はフェイクだろう。
  白っぽい外観にゴムの様な弾力。全く食欲を唆らない人工肉だ。
アメタ「・・・・・・妙だな」
  数が多すぎる。
  PMSCsと言ったって、要するに昔から変わらない戦争屋だ。
  需要があるからこそ成立する職業だが、国際的には認められていない。つまり犯罪者と大差ない。
  僕の様な公僕ならいざ知らず、戦争を生業とする無法者がどうしてこんな大量の人工肉を入手出来たのか。
  肉食はエネルギー効率が悪い。
  例えば牛肉を1キロ生産するには、トウモロコシが8キロは必要になる。豚なら4キロで、鳥なら2キロの計算だ。
  穀物の生産は半分以上が家畜の飼料となり、その結果途上国には食糧が行き渡らず、逆に先進国では飽和状態となった。
  人口爆発と土壌の劣化による農地面積の減少、水害、異常気象などの影響によって、
  生産より消費が上回る様になると人工肉の開発が始まる様になった。
  しかし味は悪いし、コストがかかる事で一般には普及せず、専ら政府が緊急用に備蓄する程度に留まっていた。
  今は肉体労働を担当するPKO部隊、各政府(というより自治体)の軍隊、警察などに支給されている。
  つまり正規の恩恵を受けられない連中が人工肉を手に入れるのは極めて困難なのだ。
  まあ、兎に角これで物証は得た。後は無事に脱出すれば万事Okだが、それではムルア達が納得しないだろう。

〇流れる血
  子供達が『ハイスコア』を出して喜んでいる。
  とても優秀な子達だ。もう二度と社会復帰は出来ないだろう。
  これもよくある事だ。
  正規の軍人に死傷者が出れば世論が煩い。かといってPMSCsを動かすには多額の予算が必要になる。
  子供を『使う』のが一番コスパに優れているのだ。
  吐き気がする程理にかなっている。資本主義社会の末路。
  子供ならば『教育』も簡単に出来る。
  銃口を突きつけて、こう言えば良い。
  母親の両腕を切り落とせ。妹を犯せ。友達を焼け。
  抵抗したら引き金を絞れば良い。どうせ掃いて捨てるほど居るのだ。
  『穴』が空いているなら産卵機にでもしたらいい。
  無政府状態の国ならば戸籍なんてない。自由に使える。なんて素晴らしいのだろう。
アメタ「もうやめろ」
「!?」
  僕はなるべく抑揚を込めずに言う。感情的になれば彼らは面白がって行動をエスカレートさせるだろう。
少年兵「ごめんなさい・・・・・・」
少年兵「ごめんなさい・・・・・・」
  謝罪は蛮行に対する改悛などではない。単純に叱られた悲しみ、恐怖でしかない。
  この子等に罪の概念はない。
アメタ「付いてこい。ムルアを探して離脱する」

〇組織の本部
アメタ「ムルア! 脱出するぞ!」
ムルア「駄目だ! まだ戻って来てない子がいる!」
アメタ「もう無理だ。諦めろ。これ以上戦ったら全滅する」
ムルア「駄目だっ!」
アメタ「ムルアッ!」
ムルア「国からも、親からも見捨てられた子達なんだ!」
アメタ「知ってるよ!」
ムルア「知ってるなら何で放っておくんだよっ!!」
アメタ「っ!!」
ムルア「ウォーボット!?」
  優に5,6メートルはあるだろうか。下手に何十メートルもあるより、恐怖を煽る大きさだ。
  『口』に当たる部位で、下敷きになった子供を器用に咥えると、噛み砕き、飲み干した。
ムルア「なんだ、アレは・・・・・・」
アメタ「『Eater』・・・・・・」
  エネルギー自立型戦術的食餌ロボット(Energy automatic tactical eating robot  )
  戦場に最も多い有機物、即ち人間の死体をバイオマス燃料として動くエコロジーなロボット兵器だ。
ムルア「そんな・・・・・・ ものが・・・・・・」
  流石の僕でも困惑する。
  人間が食べ物に困っている世の中だというのに、ロボットが食糧に事欠かないなんて冗談にも程がある。
ムルア「畜生・・・・・・」
ムルア「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
アメタ「落ち着けっ!」
ムルア「あ・・・・・・」
アメタ「僕が時間を稼ぐ。その間に逃げろ!」
ムルア「でも・・・・・・」
アメタ「いい加減にしろっ!」
ムルア「・・・・・・」
アメタ「・・・・・・」
アメタ「わかったよ! さっさと連れ戻して来い!」
ムルア「・・・・・・済まない」
アメタ「ったく・・・・・・ 僕の心配はなしか」
アメタ「ちょっと本気出すか・・・・・・」

〇野営地
ムルア「あ・・・・・・」
アメタ「ふう・・・・・・」
ムルア「アメタ・・・・・・」
ムルア「倒した、のか?」
アメタ「無理だよ。手持ちの火器じゃ火力が足りない」
アメタ「只管攻撃を避けてただけ」
ムルア「そんな事が・・・・・・」
アメタ「そんなに難しい事じゃない。疲れはするけどね」
アメタ「君らが脱出したのを確認して、逃げてきた」
ムルア「そうか・・・・・・ 済まなかった」
  丁度埋葬を終えた所だったのか、キャンプの片隅には見慣れない簡素な墓があった。
アメタ「葬送か?」
ムルア「ああ。ああやって笑顔で見送るんだ」
ムルア「本当は祈ってやりたいけど・・・・・・」
  こういう土地では日常茶飯事なのだろう。
  明日は我が身。楽しくなければやってられない。そういう事なのだろう。
ムルア「それにしても、何故武器庫に人工肉があるとわかったんだ?」
アメタ「臭いだよ。人工肉には独特の臭いがあるんだ」
ムルア「そんなに臭いのか?」
アメタ「強く香るものじゃない。食糧に乏しい生活を送っていると、嗅覚が発達するんじゃないかな?」
アメタ「あと君らはマリファナの吸いすぎだ」
  大麻には強烈な臭いがある。ヤニの量もタバコとは比較にならない。日常的に吸引していれば、当然嗅覚も鈍ってくるだろう。
ムルア「そうか。アメジスト・アーマーの連中も吸っていたから・・・・・・」
アメタ「気が回らなかったんだろうね」
  先進国には匂いがない。食べる物も少ないし、人工物だらけだ。自然が残っている場所とはそもそも空気が違う。
  それに比べれば、アラムスタンに降り立った時から感じている匂いはむせ返る程だ。
  太陽の匂い。大地の匂い。命の匂い。
ムルア「兎に角、ありがとう、な」
ムルア「今日は大いに食べて、呑んでくれ」
アメタ「悪いけどホテルに帰る。明日はFAOの査察があるし、僕も同席しないと」
ムルア「そうか。残念だな」
  スケジュールを確認しようと携帯端末を取り出すと同時に一件のメールが届いた。
  発信元は日本の病院からだった。
  至急帰国して下さい。
  お母様が危篤状態です。

次のエピソード:第6話 母親

コメント

  • ピュアだからこそ残酷になれる少年兵たち……
    ううぅ……悲しいけど、ひどいけど、心は痛むけど、はっきり言って性癖です!(頭抱え)

  • 私にクリティカルヒットしました。好きです。こういう悲しい展開はとても好きです。残酷で救いがなくて切なくて、それでも生きていくしかないような物語をとても愛おしく思います。
    こういう悲劇は、フィクションの中だけのものにしてほしいですね。

  • オカリさんへのコメント読んで検索してみたら、“戦術的エネルギー自律型ロボット(EATR)”これのことですか
    人類が滅亡しても、死体をエネルギーとしてこのロボットが動き回る世界を想像したら、身震いしてしまいました😨

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