煩悩の塊

ましまる

煩悩の渉(脚本)

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〇神社の本殿
渉「うゎー、何だか緊張するなー」
  休日を利用して、近所のお寺さんの「日帰り坐禅体験」に参加することにした渉。
  お寺なんて、8年前の法事のとき以来だ。
  しかもその時と宗派の違うお寺だ。
渉「やっぱ一度は、あの棒みたいなヤツでシバかれてみたいし!」
渉「間違いなくネタになるよなー!」
  ・・・と、罰当たりなことを言いながら境内へと歩みを進めていった。

〇畳敷きの大広間
渉「ええと、右足をまずこうして・・・」
  説明を受けたとおりに足を結跏趺坐(けっかふざ)に組み、姿勢を整える。
  手も、法界定印(ほっかいじょういん)を組み、準備万端だ。
  なお、最初に法界定印と聞いた感想が、
  
  「厨二病くさくねっ!?」
  
  だったのは秘密だ。
渉「心を無に! 煩悩を捨て去ろう!」
  ──そうして、坐禅が開始された。

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「あっ、近所のトンカツ屋の100円割引券の期限って今日までだった!?」
渉「やべー、これ終わったら行かなきゃ!!」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「あー、ビール飲みたくなってきた・・・」
渉「健康診断でγ-GTPの値が高いって言われたけど、やっぱ我慢できないよな!」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「そういえばさ、先週の俺の誕生日、美咲は結局お祝いしてくれなかったな・・・」
渉「結婚して3年経つけど、こんなの初めてだな・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「来週の同窓会の会場の居酒屋だけど、 あの店、肉の産地偽装やらかしたから、会場変更しないとな!」
渉「リークしたの俺だから、自業自得といえばそうかもな・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「そういえば、職場の後輩の阿部ちゃん あのキャラメルを食ったときのリアクションが良かったな・・・」
渉「ニコニコしながら口に入れたけど、すぐに涙目で吐き出してたよな! やっぱりジンギスカン味は無理か・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「やばっ、今朝宅配で届いたロールケーキ、 冷蔵庫にしまうの忘れてた!」
渉「美咲の大好物なんだけど、 要冷蔵だからもうダメか・・・」
渉「絶対にキレて暴れるだろうな・・・ でも、しょーがないよな!」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「あっ、仕事で注文品の誤発注やらかしたヤツ、修正するの忘れてた・・・」
渉「今頃はお店に大量納品されてしまってるな・・・もう間に合わないか・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「そういえば、職場の後輩の阿部ちゃん あげたキャンディをちゃんと食ったのかな?」
渉「満面の笑みでお礼言ってくれたけど、 あれサルミアッキだぞ! 世界一マズい飴って言われてるのに・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「もう先週のことか・・・ 美咲が「妊娠した」と言ってきたのは・・・」
渉「表面上は喜んでおいたけどさ、 俺ら数か月も”レス”じゃん!」
渉「いったい誰の子なんだか・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「そう言えば、職場の後輩の阿部ちゃん 出世魚の話をしていた時、ブリにまつわるウソ話を信じてたな・・・」
渉「ブリの幼魚を「小ぶり」、成魚を「大ぶり」」
渉「大きさを示す言葉として、今や一般的に使われるようになったって説明したら、大興奮でメモってたな・・・」
渉「兄貴が居酒屋やってるんだから、そんなのウソだと気付けよな!」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「昨日か、興信所から電話が入ったのは・・・」
渉「「美咲さんの浮気の証拠が揃いました、写真も記録もバッチリです!」って、ちょっと誇らしげだったな・・・」
渉「相手については前々から気付いていたけど、ようやく証拠固めができたか!」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「これで慰謝料も取れるか! 美咲からも、不倫相手からも!」
渉「不倫相手、経営する居酒屋で食肉偽装やらかして、経営も火の車だというのに・・・」
渉「さらに偽装クズ肉を大量納品されたばかりで、この件は完全に言い逃れもできないしな!」
渉「そんな状況で、俺への慰謝料をちゃんと払えるのか?」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「職場の後輩の阿部ちゃん 来月で退職か・・・」
渉「「家庭の事情」って言っていたけど、 兄貴の居酒屋の不祥事が大っぴらになっちゃったからだよな!」
渉「阿部ちゃんも、あんなクズ肉を”黒毛和牛フィレ”と本気で信じていたみたいだし 味覚以外もちょっとズレてる子だったよな・・・」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの。 捨て去ろう、心の中から!」
渉「合掌!!」

〇畳敷きの大広間
  ・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・・・・
渉「さて、美咲にどうやって離婚を切り出してやろうか!」
渉「これだけ証拠を固めたから、逃がしやしないからな!」
渉「裏切り続けたこと、絶対に許さないからな!」
渉「・・・心が乱れていたようだな」
渉「これは煩悩、心を乱すもの」
渉「捨て去ってやる、あんな女!! 金輪際、永遠に!!」
渉「合掌!!」
渉「あー終わった!!」
渉「さーて、メシ食いにいくかー!」
渉「やっぱココは・・・」
渉「トンカツとビールで決まりだな!」

コメント

  • 不思議な読後感に浸れました。
    主人公くん、ニコニコしてるのに全然平和じゃなかった😂
    ジンギスカンキャラメル食べたことないです🤔
    そんなにヤバいのか…。

  • シンプルながらテンポが良くて見てるこっちまで身が引き締まる思いでした。それにしても煩悩が次から次へと出てきますね。その繰り返しの中で、奥様や後輩やそのお兄さんの関係性がどんどんあらわになっていく様子がおもしろかったです。

  • 私達の脳裏には常に色々な想いが重なりあっているのでしょうね。きっと私も座禅体験しても、この主人公と内容は違うものの、次々思いの引き出しを開けていくように思います。それにしても、奥さんが不倫・妊娠、こうしてゆっくり座禅している場合ではないですね!

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