第二話 人魚の肉(脚本)
〇山道
胡蝶「四十里か~、けっこうあるよね」
作蔵「そうそう、胡蝶。知ってるか?」
作蔵「くノ一は、敵に捕まったらイヤらしい拷問にかけられるんだぞ」
胡蝶「ウソばっかり。男が考えた艶本の話でしょ」
作蔵「知ってたか。中でも、山風太郎(やまかぜたろう)のくノ一ものは大人気だからな」
作蔵「女の肉体を駆使した淫猥な秘術を次々と繰り出して、敵の男たちを翻弄するんだ」
又郎「グヒヒッ」
胡蝶(しょ~もな)
〇草原の道
胡蝶「街道は気持ちいい~」
作蔵「茶店の一つもないのかよ」
〇森の中
胡蝶「野宿だって、へっちゃら!」
作蔵「木賃宿の一つもないのかよ」
作蔵「この兵糧丸、クソ不味い」
〇草原の道
胡蝶「あ、お城が見えてきた!」
胡蝶「あそこに城下町もあるのね」
作蔵「ヒーヒー!! ちょっと待ってくれ」
胡蝶「もう、体力ないわね~」
〇城下町
胡蝶「うわぁ、すごい人!!」
胡蝶「今日はお祭りじゃないんでしょ?」
作蔵「田舎モン、丸出しだな」
作蔵「城下がこれだけ栄えてるってことは、名君の殿様なんだろう」
又郎「グヒヒッ」
胡蝶「道草食ってる暇はないわ」
胡蝶「お城にむかいましょう」
〇城
城を訪ねた三人は、丁重に応接の間に通された。
〇屋敷の大広間
胡蝶「広い!」
胡蝶(惣領のお屋敷なんか、目じゃないわ)
信隆「お三方、よく参られた」
胡蝶「ど、どうも! 里から推参・・いえ、見参しました胡蝶です」
胡蝶「この二人は、同じく里の者です」
作蔵「作蔵と又郎でございます」
又郎「グヒ」
信隆「私が当主の信隆(のぶたか)だ」
信隆「そこに控えているのは、譜代の家臣である満種(みつたね)」
信隆「私の信頼できる片腕だ」
信隆「そなたらに頼みたいのは、私の側近の一人である麟太郎(りんたろう)の病の治療だ」
信隆「元来は壮健であったのに、半年前に倒れて以来、長患いが続いておる」
信隆「容体は日々悪化していき、このままだと、あと一ヵ月と持たぬ」
信隆「彼の者は、まだ若輩ながら才知に秀でており、政事において我が国の要なのだ」
信隆「もし彼が死んだら、この国はたちまち近隣の大国に侵されてしまうだろう」
胡蝶「あの、あたしたちは忍びで、病気の治療はちょっと・・・」
信隆「それは承知しておる。すでに何人もの高名な医師、薬師、祈祷師に頼んだが、すべて無駄だった」
作蔵「病名を伺っても?」
信隆「不明だ。医師によっては、毒を盛られたのではと・・・」
作蔵「麟太郎殿と会えますか?」
信隆「今も奥の部屋で伏せておる」
〇屋敷の寝室
満種「ここだ」
床には、死人のような顔色の麟太郎が横たわっていた。
作蔵「又郎、どうだ?」
又郎「珍しい・・・」
又郎「槌乃子(つちのこ)の毒を薄めて飲まされた症状」
作蔵「治療法は?」
又郎「ない。ゆっくりと死が迫って来るだけ」
満種「何故、さような奇怪な毒が!?」
作蔵「敵対する国の忍びに盛られたのかもしれません」
作蔵「どちらにしても、残念ながら・・・」
胡蝶「ちょっと作蔵!! なんてことを・・・」
作蔵「毒に関して、又郎の見立て違いはないからな」
信隆「いや、治す方法は一つだけある」
胡蝶「信隆様」
信隆「人魚の肉から作る薬だ」
作蔵「人魚の肉? 食べると不老不死になると伝わる幻のあれですか?」
信隆「さよう。不老不死云々は迷信だが、肉から万病の秘薬が作れるのはまことだ」
信隆「それを飲ませるしか、麟太郎を救う方法はない」
胡蝶「でも人魚って、そんなの・・・」
信隆「人魚はいる」
信隆「かつて、亡き父上の臣下に、大俵一族なる者たちがいたが──」
信隆「彼らは自分たちの領内で、偶然にも生きた人魚を発見していた」
胡蝶「え!?」
信隆「一族は人魚の存在をひた隠し、長きにわたって秘薬を独占していたのだ」
作蔵「たしか大俵一族といえば、敵国と通じてるのがバレて・・・」
信隆「さよう、父上の逆鱗に触れて滅ぼされた」
信隆「そのとき接収した城に、人魚に関する文書が残されており、われわれもその存在を知ることとなったのだ」
信隆「父上も私も、魑魅の類いには関心がなく、今まで捨て置いていたが──」
信隆「こたびの麟太郎のことで、初めて私は、人魚の棲家があるという場所に兵を送り込んだ」
信隆「だが、あれから三ヶ月。今に至るまで、誰一人として生きて帰っては来ていない・・・」
作蔵「何があったんですか?」
信隆「人魚の棲家は、迷路のようになった洞窟の最奥にあるらしいのだが──」
信隆「大俵一族は他の者に盗られぬよう、道筋に奇怪な罠をいくつも仕掛けていたらしい」
信隆「おそらくそれらが、今でも機能しているのだろう」
信隆「そこで、そなたらの里に依頼したのだ」
信隆「屈強な武士よりも、身の軽い忍びのほうが迷路の攻略にむいているのではないかと考えてな」
信隆「やってくれるか、胡蝶殿」
作蔵「とてもおれたちでは無理だ。胡蝶、丁重に断れ」
胡蝶「もちろん、お引き受けします!!」
信隆「おお、ありがたい!」
作蔵(あ~あ)
作蔵(俺は降りるけどな)
又郎「ゲヒゲヒヒ」
作蔵「ああ、そうだったな」
作蔵「あの、信隆様。ちなみにお尋ねしますが、成功した場合の報酬はいかほど・・・」
信隆「うむ。その者には金百貫を与えるつもりだ」
作蔵「金百貫!!」
作蔵(幸い、うちの里はブラックじゃない。報酬の受取額は、里と忍びで五:五の割合──)
作蔵(俺の取り分は、さらにその半分の25貫だが、それでも莫大な額だ)
作蔵「よし、胡蝶。やるぞ!!」
胡蝶「だから、やるって言ってるじゃない」
〇大きな日本家屋
胡蝶「いよいよ、出発か~」
満種「胡蝶殿」
満種「洞窟の入口までは、わしの部下が案内いたします」
胡蝶「ありがとうございます、満種様」
家臣「馬を引いてまいりますので、お待ちください」
胡蝶「あ、木刀が落ちてる」
胡蝶「うおおおーっ!!」
作蔵「気合が入ってるな」
胡蝶「当然よ。この任務が成功したら、くノ一になるっていう夢が叶うんだから」
殿「胡蝶殿は、溌溂としていて小気味が良い」
胡蝶「殿!!」
胡蝶(はしたないところを見られちゃった・・・)
信隆「淑やかなだけの生白い姫より、ずっと好ましい」
胡蝶「そ、そうですか? ありがとうございます」
作蔵「殿自らのお見送り、身に余る光栄です」
胡蝶「あ、はい。あたしも、光栄でございます!」
信隆「うむ。武運を祈っておるが、命だけは落とさぬようにな」
胡蝶「は、はい!」
胡蝶(は~・・・やっぱり高貴なお生まれの方は、立ち居振る舞いが優美でいらっしゃるわ)
胡蝶(おまけに美丈夫であらせられて、里の雑で下品な男どもとは大違い)
胡蝶「命に代えても、人魚のはらわたを奪ってまいります!!」
作蔵「肉だ、肉」
〇黒
つづく
次回
第三話 ダンジョン攻略
お楽しみに!
モザイクを退かしたい。(煩悩丸出し)
三人は人魚の肉を、くノ一の肩書きを、お金を得られるのか。
続きを待ってます!
艶本wwしかもモザイクww
時代背景やその用語にも配慮したストーリーと、クセが強すぎるキャラクターの取り合わせが、とにかく楽しいです!