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サトJun(サトウ純子)

合言葉は60万(脚本)

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〇通学路
矢島幹夫「僕は人が嫌いだ」
矢島幹夫「いや、実際は嫌いでは無い。 ただ、人が発している膜に触れると、全身がビリビリ痺れるのだ」
  僕は、これを「マンバブル」
  と呼んでいる。
  空が高い。
  空を見上げると、真っ青に広がる空に真っ白な入道雲。そして、入道雲よりずっと手前に不自然な黒い雲のかたまりが見えた。
矢島幹夫「遠くで消防車と救急車の音が響いている。 何かあった?」
  この一本道を真っ直ぐ行けば、商店街にでることができる。
  道の向こう側に突如現れた大きな物体に気付いた幹夫は、咄嗟に細い路地に身体を押し込んだ。
  ・・・・・・芳江だった。
矢島幹夫「電動機付き自転車にのっているけど、雑談しながら歩いている中学生にどんどん抜かれているじゃないか」
矢島幹夫「・・・でも、どっかで見たことがある光景だな」
  幹夫は首を傾げながら、手にしていた缶コーヒーを勢いよく飲み干した。

〇店の入口
矢島幹夫「お、おはようございます!」
望月妙子「あら、ミッキー。おっはよー なんだか、たくましくなってきたわねー」
矢島幹夫「み、”ミッキー”って・・・」
矢島幹夫「あ、ありがとうございます」
矢島幹夫「しかし、妙子さんの『煙草を手に横目で気だるく流し目をする姿』。本当に様になっているよなぁ」
矢島幹夫「パン職人にしておくのはもったいない」
  幹夫は軽くお辞儀をすると、体を横にして店の裏側へ回った。

〇事務所
矢島幹夫「お、おはようございます!」
月岡紘子「あ、ミッキーさん。おはようございます」
矢島幹夫「だから”ミッキーさん”って・・・」
月岡紘子「芳江さん、見かけました? 通りの先で火事があったみたいで、野次馬根丸出しで飛び出して行ったんだけど」
矢島幹夫「あ、・・・はい。 さ、先ほど、自転車・・・に、乗って」
月岡紘子「あ、”クマの曲芸”で行きましたか。 歩いて行った方が早いって言ったんですけどねー」
矢島幹夫「あー!それだ!」
如月弥生「あ、幹夫さん。おはようございます。 しっかり下見してきました?」
矢島幹夫「お、おはようございます! はい。こ・・・んな、かん、じで、どうでしょうか」
如月弥生「さすが、仕事が早いですね。 ・・・で、その外見には慣れました?」
矢島幹夫「あ・・・、まだ、時々、か、鏡を見た時に、ビクッとし、ます」
如月弥生「そうですか。 まぁ、明日の本番が終わるまでの辛抱です」
矢島幹夫「は、はい! が・・・んばります!」
月岡紘子「60万、頑張ってくださいねー」
  幹夫は苦笑いすると、自分のデスクにノートパソコンを置いた。

〇事務所
  ここは手作りパン屋、Deニッシュの事務所。
  しかし、ここはただのパン屋ではない

〇謎の扉
  ここで働いている従業員は全員
  重厚な扉の向こう側にある
  クレセントムーン・プロダクションの
  所属タレントでもある。

〇ホテルの部屋
  ──三日前。
如月弥生「では、ここでまず、この資料全部にに目を通してください」
如月弥生「質問は現場の担当者に直接聞いてください」
如月弥生「このホテルにはジムもありますので、身体も動かしておいてくださいね」
矢島幹夫「こ、こんな急に、こ、心の・・・準備が・・・」
如月弥生「・・・」
如月弥生「救急で飛び込んで来た患者さんを目の前にして、お医者さんは”心の準備が・・・”なんて言いませんよね?」
矢島幹夫「そ、それは、お・・・医者さんの場合ですよね?」
如月弥生「・・・ま、似たようなものですから」
矢島幹夫「全然違うでしょう!」
矢島幹夫「なのに、なんか、”良い事言った風”のドヤ顔をしてる」
如月弥生「・・・」
如月弥生「正直、私も別に幹夫さんでなくてもいいと思うのですけどね」
如月弥生「”やる!”と、すぐに動いてくれる人なら他に心当たりがありますし・・・」
如月弥生「60万の仕事ですし・・・」
如月弥生「・・・やめます? 今なら間に合いますよ?」
矢島幹夫「・・・」
如月弥生「・・・」
矢島幹夫「や、やります!」
如月弥生「えー。本当にやれます? 無理しなくていいですよ」
如月弥生「正直言うと、グズグズしている人の相手をしている暇はないのですよ。後からあれこれ言ってこられても面倒ですし」
矢島幹夫「だ、大丈夫です!やります!」
如月弥生「では、今後一切泣き言を言わないように。 さっ。とっとと取り掛かってください」
  引き受けてしまった

〇ホテルの部屋
矢島幹夫「こんなに集中して打ち込んだのは 大学受験以来だった」
矢島幹夫「あの時は、田舎で八百屋をやっている両親が、背中を押してくた」
矢島幹夫「念願叶って進学した都心の大学では、いちいち出てきてしまう訛りや、方言で」
矢島幹夫「同級生から、田舎者扱いされ、からかわれ」
矢島幹夫「思い返せば、マンバブルを感じるようになったのは、その頃からかもしれない」
矢島幹夫「あの頃は、馬鹿みたいに”話し方教室”とかに通ったよなぁ」
  大企業に就職が決まった時も、”それがやりたい事ならば”と、幹夫の両親はとても応援してくれた。
幹夫の妹「店と父さん、母さんのことは 私に任せておいて!」
  妹が、そう笑いながら言ってくれた。
矢島幹夫「やりたい事を見つけたはずだった」
矢島幹夫「みんなの期待に応えようと 頑張ったはずだった」
矢島幹夫「それなのに・・・」
  ──僕は、その会社を辞めてしまった。

〇事務所
月岡紘子「あ、芳江さん。おかえりなさーい。 どうでした?」
月城芳江「駐車場で車のエンジンが焼けているだけだったわー。見に行って損したー」
月城芳江「あれだけ派手に煙が出てたから、放火とか事件だと思ったんだけどねー」
月城芳江「あ!ミッキーちゃーん♪ ミッキーちゃーんは明日、60万だったわよねー。どお?調子は」
矢島幹夫「だから”ミッキーちゃーん”って・・・」
月城芳江「先払いでもらっちゃってるから、よろしくねー」
矢島幹夫「”無理”、とか、”できない”、とか。 もう、言えないようなところに追い込まれたー」
矢島幹夫「・・・が、頑張ります!」
月城芳江「60万♪ 60万♪」
矢島幹夫「はぁー」
月岡紘子「ミッキーさん、60万にめっちゃ集中してますよねー」
矢島幹夫「も、もう、時間がなさ過ぎて・・・」
月岡紘子「・・・」
矢島幹夫「・・・?」
月岡紘子「最近、どうです? 前に言っていた”マンバブル”」
矢島幹夫「・・・あ、もう、そっちを気にしている場合ではないので、し、痺れても、無理矢理動いてます」
月岡紘子「そうなんですねー」
月岡紘子「・・・」
矢島幹夫「・・・?」
月岡紘子「・・・え? それだけですけど」
矢島幹夫「そ、そうでしたか」
矢島幹夫「な、なんなんだ。この子は!」
???「芳江さん!カレーパンはひとつにしてください!五個も持って行かれたら売るのがなくなっちゃう!」
月城芳江「あっ!ちょっと用事を思い出して。 外出てきまーす!」
望月妙子「芳江さん、見かけませんでした?」
月岡紘子「今さっき、出かけて行きましたよ」
望月妙子「・・・逃げられたか」
月岡紘子「だから、いつもカレーパンは多めにつくっておいた方がいいですよ!って言ってるのに」
矢島幹夫「ずいぶん嬉しそうに・・・ っていうか、紘子さんも焼きそばパン食べすぎだろ!」
矢島幹夫「あ、現場の責任者からのLINEだ」
矢島幹夫「えっと・・・健康保険証と、行きつけの病院の診察券と・・・なるほど!」
  幹夫は、慌てて引き出しからメモ帳を取り出した。
  同時に紘子もトートバッグから焼きそばパンを取り出す。

〇謎の扉
  そんな二人の様子を伺いながら
  気付かれないように
  後ろをコッソリと通り過ぎる者がいた。
  そして、籠を抱えたその黒い塊は
  左右をそっと見渡しながら
  背中からそっと
  重厚な扉の向こうに消えていった。
月岡紘子「・・・あっ」

次のエピソード:通訳と膨らむモノ

コメント

  • 60万円……ワイの手取り月収の……

    ウッ、頭痛が痛いくてアタマが!?

  • 遅れはせながら拝読しました。特異体質の主人公による現代ファンタジーという感じがして面白いです!60万の仕事とは? そしてマンバブルとは・・・? 謎要素満載で続きが気になります。

  • ミッキーの外見の変身ぶりに、今後を期待してしまう椎名です(笑)
    芳江さんのクマ芸、吹き出しました😁
    Junさんのストーリーは地の文に読みごたえがあって面白いです。
    次話も楽しみにしてます✨

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