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サトJun(サトウ純子)

通訳と膨らむモノ(脚本)

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〇通学路
矢島幹夫「僕は人が嫌いだ」
矢島幹夫「いや、実際は嫌いでは無い。 ただ、人が発している膜に触れると、全身がビリビリ痺れるのだ」
  僕は、これを「マンバブル」
  と呼んでいる。
矢島幹夫「いい天気だな」
  この一本道を真っ直ぐ行けば、商店街にでることができる。
矢島幹夫「この時間だと、いつもの排気ガスとホコリ臭さはまだ酷くないな」
  幹夫は目を閉じて大きく深呼吸した。
  微かに香ばしい甘い香りが漂ってくる。

〇店の入口
矢島幹夫「お、おはようございます!」
望月妙子「あら、幹夫さん。おはよー」
矢島幹夫「壁に寄りかかりながら、けだるそうに煙草を吸っている姿。相変わらず朝のさわやかさを全く感じない」
望月妙子「今日は朝からだった? おつかれさーん」
矢島幹夫「は、はい! よろしく・・・お、ねがいします!」
  幹夫は軽くお辞儀をすると、クリーム色の壁に擦らないように体を横にして店の裏側へ回った。

〇事務所
矢島幹夫「お、おはようございます!」
三ツ橋榎月「え、え、えっーっ!? ミッキー!? なにぃ!その髪色!」
矢島幹夫「あ、か、榎月さん。来て・・・たんですね」
月岡紘子「幹夫さんは元々黒髪メガネですよ」
三ツ橋榎月「マジかぁ。 金髪とカラコン似合ってたのにー」
矢島幹夫「ぼ、僕は、こ・・・れが、落ち、着きます」
三ツ橋榎月「あっちの方がキラキラしてたんじゃ?」
月岡紘子「キラキラしていたように見えたのは、燃えていたからでしょう」
「それかっ!」
矢島幹夫「いや、そうじゃないと思うけど・・・」
月岡紘子「三ツ橋さん。ギャラの話しですよね? 芳江さんが待ってますよ」
三ツ橋榎月「了解ー!」

〇事務所
  ここは手作りパン屋、Deニッシュの事務所。
  しかし、ここはただのパン屋ではない

〇謎の扉
  ここで働いている従業員は全員
  重厚な扉の向こう側にある
  クレセントムーン・プロダクションの
  所属タレントでもある。

〇渋谷のスクランブル交差点
  ── 1週間前
  僕は、60万の仕事を引き受けた
  幹夫が受けた60万の仕事というのは
  海外映画のスタントだった。

〇事務所
月岡紘子「火だるまになってプールに落ちるシーン。 よく、引き受けましたね」
矢島幹夫「い、いや。 か、考えている・・・時間が、なかった、からですよ」
月岡紘子「しかーし!あの、有名なアクション映画のスタントだなんて。知らなかったー!」
月岡紘子「コッソリ見に行けば良かったなぁ」
矢島幹夫「ぼ、僕だって、あんな、こと・・・ できる、とは、思いませんでした」
  ──あの時までは

〇校長室
月城芳江「あら、良いじゃなーい!」
矢島幹夫「ど、どうして、金髪、カラーコンタクトに・・・」
月城芳江「海外映画だからー!」
月城芳江「日本でのシーンが少しだけあるらしいんだけど、予定していた人が急病で出れなくなったらしくてねー」
月城芳江「バタバタ、慌てていたところに、たまたま私がいたわけ」
矢島幹夫「い、イベントか、何か・・・ですか?」
月城芳江「うなぎ屋さんよ。 ”気持ち良い食べっぷりだ”って声かけられてー」
月城芳江「あの店の、うな重。ホント美味しかったわー」
矢島幹夫「い、勢いで、受けて・・・来たので、すか?」
月城芳江「ギャラが高額だったからに決まっているじゃなーい!」
月城芳江「でも、うちにはスタントマンはいないから、困っていたのよね」
矢島幹夫「ぼ、僕も、スタント・・・マン、では、ないです!」
月城芳江「・・・」
月城芳江「幹夫チャーン、駅のホームから落ちた時、あったじゃない」
月城芳江「あの高さから落ちて、怪我ひとつないって、よっぽど運が良いか、身体が知っているか、どちらかだと思ってー」
月城芳江「目撃していた人に聞いたのよー」
月城芳江「そしたら、ホームからよろけて落ちたのに、着地は驚くほど綺麗だったって。その後すぐ倒れちゃったらしいけど」
矢島幹夫「・・・全く覚えていない」
月城芳江「・・・高校まで体操やっていたんですって?」
矢島幹夫「ど・・・どうして、それ、を・・・」
月城芳江「幹夫チャーンが、カレーパンを取りに行っている間に調べちゃったー」
矢島幹夫「た、確かに、小学生の時から、や、やってましたけど、た・・・単なる田舎の教室で・・・」
月城芳江「聞いたわよ。 幹夫チャーンてば、田舎ではわんぱくだったってー」
月城芳江「裸足で山登りしたり、滝から飛び降りて遊んでいたらしいじゃなーい」
矢島幹夫「そ、そんなの・・・は、田舎では、あ、当たり前です・・・」
月城芳江「ま、やってみればわかるわよ。 どうせ、あの時”このまま死んでもいい”って、思ったんでしょー?」
月城芳江「どうせ死ぬなら、何かの役に立つっていうのもいいんじゃなーい?」
矢島幹夫「・・・確かに」
月城芳江「じゃ、決まりね!」
  最後の賭け、のつもりだった。

〇事務所
三ツ橋榎月「いやぁ、相変わらず芳江さんは手厳しいねぇー」
月岡紘子「芳江さんは、儲ける事と、食べる事しか考えていないですからねー。 ・・・はい。アイスティ、お塩入り」
三ツ橋榎月「お!サンキュー!」
矢島幹夫「か、榎月さんのおかげで、現場で・・・困らずに済み、ました。ありがとうございました!」
三ツ橋榎月「ミッキー・・・ いや、幹夫はさぁ。英語だけじゃなくて、日本語の通訳も必要だかんなー」
矢島幹夫「・・・」
矢島幹夫「榎月さんは、最近まで海外で活動していた、元スタントマン」
矢島幹夫「結婚を機に、スタントマンを引退したらしいけど」
矢島幹夫「つ、通訳として、アクションの説明をしてくれている・・・榎月さんは、本当に、格好良かった・・・です!」
月岡紘子「お二人って、そんなに仲良しなんですか! 三日間しか一緒にいないのに!」
三ツ橋榎月「死ぬか生きるかの打ち合わせだかんな! 遺書を受け取るつもりで、腹を括って寝食共にしたさ!」
矢島幹夫「榎月さんのマンバブルは、不思議と通電する感じで、むしろ元気を貰える!」
三ツ橋榎月「今は当たり前のようにCGとか使う世の中だかんなぁ。スタントマンの需要が無くなってきてん」
三ツ橋榎月「確かに、スタントマンや現場の準備に高いギャラ出すより、CGの方がよっぽど効率良いしなー」
月岡紘子「実際はもっと貰ってますよね。芳江さん」
三ツ橋榎月「だろうな。あの内容だったら、余裕で100万は越すかんな!」
三ツ橋榎月「でも、それを払ってまでスタントマンを使うのは、関わったスタッフの緊張感や想いが、作品のスパイスになるからなんよ」
矢島幹夫「想い・・・が、スパイス?」
三ツ橋榎月「なんて言えばいいかな・・・ 膨らんで行くんよ。 作品を観た人も、身体で感じられるモンなんよな!」
矢島幹夫「ふ、膨らんでいく?」
三ツ橋榎月「あー、ごめん、ごめん。 わかりにくいよな。 でも、おまえの身体はわかってんよ」
月城芳江「だ、誰かぁーっ!お茶入れてーっ!」
矢島幹夫「・・・朝から、カツ丼!? どんぶり片手に、いきなりスプーンで二切れ口に押し込んでる」
三ツ橋榎月「カツの横に食べかけのカレーパン。さすが芳江さんだ」
如月弥生「全く、芳江さん。どこ行ったのかしら」
如月弥生「あ、幹夫さん。 朝早くにすみませんね。 早速ですが、私に着いてきてください」
矢島幹夫「・・・は、はい!」
三ツ橋榎月「じゃあ、幹夫。まったなー!」
  幹夫は、榎月に向かって軽くお辞儀をすると、そのまま弥生と一緒に事務所の外に出た。

〇謎の扉
  榎月さんが言っていた
  膨らんでいくものって・・・?
  ”僕の身体は知っている”って・・・
  なんだろう。
  そして、気がつくと、僕は。
如月弥生「さあ、行きますよ」
矢島幹夫「また、このパターンか・・・」
  別人のようになっていた。

次のエピソード:言い訳はマンバブリー

コメント

  • キャラが濃くてグイグイ読めます!これドラマ化できそうですねー。深夜ドラマから声かかるかも✨

  • ミッキー、すごい変身ぶり😊次は何のお仕事ですかね?楽しみ~♥️
    というか芳江さん、食べすぎですよね(笑)間違いなく飯テロですって。うなぎとカツ丼が食べたくなってきました😋

  • あらま。幹夫チャーン何気に凄い人ですか?
    どんどん才能が開花していく……

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