私のお墓の前で泣いてください

Akiyu

読切(脚本)

私のお墓の前で泣いてください

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〇墓石
私「もう1ヶ月か・・・。私が死んでから」
  私は、なぜ自分が現世に留まっていられるのか理由は分からない。
  神様も仏様も死神も悪魔も迎えには来ない。死んだ後というのは、こんな感じなのだろうか・・・?
  だがこの状況もありがたいと思う。心残りである娘の姿を見る事ができるのだから・・・。
遥「お父さん。今日はね。学校で抜き打ちテストがあったんだよ。もう最悪。先生って本当にいじわるだよね」
私「そうか・・・。テストはどうだった?できたか?」
遥「テストの出来はね、もう最悪だった」
私「おいおい、普段からしっかり勉強していれば抜き打ちテストがあっても大丈夫だろう?」
遥「どうせお父さんの事だから、普段から勉強してるなら問題ないはずだろ?とか言うんでしょ?」
遥「わかってるよ。それにさ、数学なんて勉強しても訳分からないんだもん。英語ならまだいいんだけどな」
私「お前は英語の成績は良いもんな。その代わり、数学はさっぱりだ。得意を伸ばすのも良いが、悪い所も直していかなきゃだめだぞ」
遥「そろそろ行くね。今日、スーパーで夕方からタイムセールなんだ。食料品の買い物行かなきゃ」
私「お金は足りているか?私の生命保険で生活費は大丈夫だと思うが、無駄遣いはするなよ」
遥「分かってるよ。ちゃんと節約してるから。お父さん、お金は大切にしろよって口癖だったもんね」
遥「それじゃ、また明日ね」
私「今日も遥は泣かなかったな・・・」
私「本当に・・・・・・。お前は強い子だ」
私「お前は毎日、私の墓参りに来てくれる。それだけでも十分に嬉しい」
私「私の死後もこんなに想ってくれているなんて、私はなんて幸せ者なのだろうか」
私「・・・泣いてくれ。頼むから」
私「無理しないでくれ。弱いところを見せたっていいんだ」

  1カ月後

〇墓石
私「今日も・・・来てくれたのか・・・」
私「死んだ私に囚われすぎるな。もう前を向いて生きてくれ・・・。遥・・・」
遥「来たよ。お父さん。これお供え物ね。駅前にさ、和菓子屋さんが出来たんだよ。そこのやつ」
遥「お父さん。和菓子好きでしょ?」
私「ああ、美味しそうだ・・・。ありがとう・・・」
遥「今日ね、三者面談の用紙貰っちゃった。叔母さんが来てくれる事になったよ」
私「そうか・・・。春子さんが・・・。世話かけるな」
遥「進路なんだけどね。私は英語が得意だから英語を生かせるような大学に行きたいんだ」
私「そうか。いいじゃないか。自分の得意な分野で勝負するのは良い事だ。お父さんも応援する」
遥「私ね、子供も好きだから子供英会話教室の先生なんかになれたらいいなって思ってるの」
私「なるほどな。それは良いじゃないか」
私「お前のやりたいことをやればいい」
遥「お父さんはさ・・・。私が語学留学とかしたいって言ったら反対するかな?」
私「アメリカとかに行くのか?治安は大丈夫か?語学留学は、さすがに心配だ」
遥「まだはっきりとどこの国に行きたいとかはないんだけどね。一応、そういう事も考えてるんだ」
遥「だからね、お金貯めようと思うの。バイト始めようかなって」
私「すまないな・・・。本当ならお前の夢の為には、私が働いて稼げればよかったんだが・・・」
遥「でさ、カフェのウェイトレスのバイトに応募しようと思ってるの」
遥「制服が可愛いんだ」
私「留学費用を自分で稼ぐ・・・か。それも悪くないな。良い経験になるだろう」
私「頑張れよ」
遥「明日、面接があるんだ。受かるように祈っててね」
私「ああ、私にそんな凄いパワーはおそらくないと思うが、受かるように祈ってるよ」
遥「それじゃ、そろそろ行くね。また明日、どうだったか報告するからね」
私「本当に強い子だ。私の葬式の時から一度も涙を見せていない」
私「でもな・・・。遥、お前が本当は泣き虫なのを・・・。私は知ってるんだぞ・・・」
私「だから泣いてくれ・・・。我慢する必要なんてないんだ・・・」

  翌日

〇墓石
私「死んだ私の声が、お前に届くはずもない。でも言わずにはいられなかった」
私「お前はいつだって、悲しい気持ちをグッとこらえて平気な振りをしている」
私「だから・・・」
私「泣いてくれ。泣いたっていいんだ。お前は、心に辛い気持ちを溜め込みすぎている」
私「我慢しすぎだ。泣く事は、悪い事じゃないんだ」
遥「バイトの面接受かったよ。明日から働く事になったよ」
遥「お父さんが祈っててくれたおかげかな。ありがとうね」
私「そうか・・・。よかったな」
遥「働くってどんな感じかな?私、バイト始めてだからドキドキするよ」
私「働くってのは楽しい事ばかりじゃない。しんどい事も沢山あるんだ。頑張れよ」
遥「明日の為に色々準備しなきゃいけないから、今日はもう帰るね。また明日来るよ」
私「・・・・・・」
私「無理するなよ。泣いたっていいんだ」

  翌日

〇墓石
私「来たか・・・」
遥「初日から失敗しちゃった・・・」
私「誰にでも失敗はある。それに始めてのバイトなんだ。仕方ないさ」
遥「お料理ひっくり返しちゃった。お皿も割っちゃってさ」
私「緊張してたんだろ?少しずつ慣れるさ」
遥「私、ほんとダメだよね。料理もお父さんにしてもらってばかりだったし」
私「お前が美味しそうに食べてくれるから作るのは嫌いじゃなかったさ」
遥「お母さんが病気で死ぬまでの間に、色々料理教えてもらうんだったなって後悔してるよ」
遥「それで今度はお父さんに料理教えて貰えばよかったのに・・・。同じ失敗を二度もしてさ」
私「料理なんていつでもその気になれば覚えられる。気にする必要なんてない」
遥「だめだな。私」
遥「今日はもう帰るね。また来るよ」
私「まだ泣かないのか・・・。いつまで我慢するんだ」
私「泣いてもいいんだぞ・・・」

  翌日

〇墓石
私「遥・・・。昨日は暗い顔をしていたが、大丈夫だろうか」
遥「また失敗しちゃった・・・」
私「そんなにすぐ出来るようになるものじゃない。焦らずじっくりいくんだ」
遥「ねぇ・・・。お父さん・・・。答えてよ・・・。どうして死んじゃったの・・・?」
私「すまない・・・」
遥「なんでお母さんだけじゃなくて、お父さんも病気になっちゃうの・・・」
遥「私、誰にも相談できないじゃん!!一人で生きていくの辛いよ!!」
私「すまない・・・」
遥「・・・ごめん。病気だから仕方ないよね」
遥「八つ当たりみたいになっちゃった」
  遥はニコッと笑顔を見せた。
私「無理して笑うな。泣いていいんだ」
遥「あーあー、今日はご飯何にしようかな」
私「遥!!辛い時は泣け!!泣いていいんだ!!」
  この時、私は初めて遥かに怒った。
遥「うっ・・・ううっ・・・ぐすっ・・・。お父さん・・・ううっ・・・ううっ・・・うわああああああん」
遥「ぐすっ・・・。わ、私・・・。本当はね・・・。バイトもあんまりしたくなかったんだ」
遥「お父さんも死んじゃって・・・一人ぼっちだから・・・。ううっ・・・ぐすっ・・・」
遥「気を紛らわせたくて・・・それで・・・ぐすっ・・・バイト始めようと思ったの・・・。ぐすっ・・・ううっ・・・」
  やっと泣いてくれた。私はほっとした。
遥「・・・今ね。・・・お父さんの・・・声が聞こえたの・・・。近くで見ててくれてるんだね。ぐすっ・・・。ううっ・・・」
私「ああ、見てるぞ。ずっとお前を見守ってるからな」
遥「ありがとうっ・・・」
  もしかすると、私の声は届いていたのかもしれない。

コメント

  • 生きていれば言ってあげたいことも、死んでしまうとなにも言えなくなる。
    それは生きてる側も死んでる側も、後悔しないように伝えるべきは伝えようと思います。

  • 父親と娘が会話してる、ほのぼのとした風景。
    ただ違うのは、父が亡くなっているということ。
    泣かない娘を案じる父の愛と、寂しさを隠し頑張る娘の姿に涙。

  • 彼女とお父さんの気持ちを考えると切ないですね。
    彼女は必死でがんばっていたから、涙を見せる余裕もなかったのではないかと思います。
    最後に泣き出したところでは、私もうるっときました。

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