鮎川美保奈は友達に語る(脚本)
〇開けた交差点
〇テーブル席
美保奈「何であたしが落ち込んでるか知りたい?」
ともだち「別に」
美保奈「ついさっきさ、あたし、 異世界から帰ってきたばっかりなのよ」
ともだち「聞いてない」
美保奈「ここんとこ毎日行ってるのよ 明日はサボるけど」
ともだち「だから聞いてない」
美保奈「遊びにいってるわけじゃなくてさ 担当の編集さんが」
美保奈「いくらファンタジーでも小説を書くなら ちゃんと取材しろってうるさいわけよ」
ともだち「トラックで行くの?」
美保奈「じゃなくて魔法の鏡 通り抜けると異世界に行けるの」
美保奈「トラックよりもお手軽でいいわよ 日帰りできるし」
美保奈「向こうで何時間も過ごしても こっちでは時間がまったく経っていないし」
美保奈「まあ、向こうで日が暮れたら 強制的にこっちに戻されるのと」
美保奈「次に行ったら向こうでは 千年経ってるってのはメンドイんだけどね」
ともだち(ケーキおいしい)
美保奈「んでまあ、いつものように」
美保奈「これから魔王城へ乗り込もうっていう 勇者サマご一行に」
美保奈「突撃取材をかましたわけよ」
ともだち「ここふぁのかへふぁないの?」
美保奈「言葉の壁はないのかって?」
美保奈「このブレスレット 担当さんにもらったの」
美保奈「これさえつけてれば 宇宙語でも虫語でもぺーらぺら」
美保奈「いや、異世界語なんて 無理して勉強したってさ」
美保奈「ほら、言葉って時代で変わるから」
美保奈「こっちの一晩で 向こうでは千年経っちゃうから」
美保奈「下手に覚えても 余計にややこしくなるわけなのよ」
美保奈「取材には、こころよく 応じてくれたわよ」
美保奈「あたしって向こうでは」
美保奈「歴代の勇者の前に現れて幸運をもたらす 勝利の女神って扱いだから」
美保奈「あたしに逢った勇者って 全員、魔王を倒してるし」
〇開けた交差点
美保奈「ん? 何?」
美保奈「あー、つまり 行く度に千年経ってるんなら」
美保奈「前に逢った人はもう いないんじゃないかって聞きたいわけ?」
〇テーブル席
美保奈「いないわよ」
美保奈「それでも向こうの人には あたしがわかるのよ」
美保奈「あたしの石像とか バンバン建てられてるし」
美保奈「まあ、似てないモンも多いけどね」
美保奈「ポイントはこの眼鏡ね 向こうの世界にはない物だから」
美保奈「これさえかけてれば あたしが女神ミホーナーだって 認識してもらえるわけ」
美保奈「でねっ、向こうではなんと この眼鏡が宗教施設のシンボルに なってるのよ」
美保奈「レンズはうまく作れないみたい だけどね」
美保奈「なんかさ、何代か前に魔王の手先が」
美保奈「あたしに化けて勇者を 騙そうとした事件ってのが あったみたいなんだけど」
美保奈「レンズがゆがんでたせいで 視界がグニャグニャになって」
美保奈「ぶっ倒れちゃってバレたらしいわ」
美保奈「こんなボケボケなヤツでも ニセモノが出ると」
美保奈「やっぱりあたしも ゆーめーじんだなって感じになるわよね」
〇谷
美保奈「今回の勇者一行は 戦士に僧侶に魔法使いってゆー ベタベタなパーティーだったわ」
美保奈「ひかえに獣人の格闘家と ほぼ雑用係の商人」
美保奈「なんと勇者以外は全員女性の ハーレム・パーティー!」
〇テーブル席
美保奈「向こうの世界でもここ何代かは そーゆーのが流行ってるからねー」
美保奈「でもそれをツッコんだら 勇者クンったら慌てちゃってね」
美保奈「「そんなんじゃありません!」って 真っ赤になっちゃって、かーわいーの」
美保奈「言われてみればメンバーも トチ狂った露出合戦なんて してなくってね」
美保奈「もしやボクっ娘の 女勇者の百合パーティーでは!? と思ってたところに・・・」
美保奈「思ってたところにイイィィ!」
〇谷
美保奈「中ボスクラスの魔物が 不意打ちを仕かけてきてバトルになって」
美保奈「魔物の攻撃があたしのほうにまで 飛んできたもんだから」
美保奈「あたしってば、とっさに 「ルクスカーン」の呪文を 唱えちゃったわけよ」
〇テーブル席
美保奈「そしたら術が暴走しちゃって 勇者側のみんなまで巻き込まれちゃって」
美保奈「いや、大丈夫大丈夫 死ぬような術じゃないから」
美保奈「んでね、勇者クンが 「逃げろ!」って叫んで」
美保奈「実際、逃げるしかないよーな 状況になっちゃって」
美保奈「慌てて転んじゃったあたしを 勇者クンが抱きかかえて」
美保奈「それで勇者クンは 紛れもなく男の子だって確信できたの」
ともだち「ふむ。百合ではなかったわけか」
〇谷
美保奈「で、一行はちりぢりになっちゃって あたしは勇者クンと 二人きりになったの」
〇テーブル席
美保奈「勇者の名前は、ユノン、よ」
美保奈「ユノンは歴代の勇者の中では しっかりしているほうで」
美保奈「仲間とはぐれた場合の集合場所は あらかじめ決めてあったの」
美保奈「それすらちゃんとしてない勇者も 多いのよ」
美保奈「スマホもないような世界なのにね」
〇谷
美保奈「んでその集合場所に行く途中にも ザコモンスターが バンバン襲ってきたんだけどね」
美保奈「ユノンがまぁ、強い強い」
美保奈「ザシュ!ってやって バサー!ってなって ダン!よ」
〇テーブル席
美保奈「わかんない? ズガーでドガーでババーンよ」
ともだち「まったくわからん」
美保奈「・・・ん。あたしもわかんない 見てたけどわかんない」
いつの時代も強い男性ってカッコいいです。彼女から彼の話を聞いているだけで好きになってしまいそうでした。同時に、時間の流れが違うとなると恋は切ない感じになってしまうのかなと思ってみたり。それにしても非日常の世界を想像するのって楽しいですね♪
途中から友達の発言がなくなってきているのが、二人の間にある距離や空間を表しているみたいで笑えます! 作者の作品への意図とはずれると思いますが、私も人とは少し変わった趣味があって、それについて語り始めるとだんだん主人が遠い目で私をみるので、そんな分かち合えない何かって逆に誇れるものって私の勘違いが彼女と共通しているようでした。
まさかの異世界取材モノ!こちらの世界と異世界との温度差に笑ってしまいますね。語りたがりな子との女子会チックな会話の感じと相まって楽しくなってきます。