第1話 怠惰ちゃん(脚本)
〇女の子の一人部屋
  ふと、思い出すたび、最悪な気持ちになる
怠惰ちゃん「・・・」
  こうやって何もせずにぼーっとしている間にも、私の若さは失われていく
  人生で一番可愛い時期が過ぎ去ってしまう
  そんな当たり前の事実を思い出すたび、私は頭を掻きむしりたくなるほどに強い悪感情に包まれた
怠惰ちゃん「あ」
  これは単なる不安や焦燥感ではない、もっと醜い別の感情──
怠惰ちゃん「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
怠惰ちゃん「めんどくさいめんどくさい考えたくない考えたくない」
怠惰ちゃん「もう何もかもがどうでもいい」
怠惰ちゃん「どうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいい死ねばいい死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
  私はその“醜くもやり場のない感情”をカッターに込めて手首を抉る
  痛みによって全てを忘れるため、あるいは脳を別の刺激で上書きするため、私は一心不乱に手首に刃を突き立てていった
怠惰ちゃん「ふう」
  血が流れるさまを見つめていると、だんだんと冷静さを取り戻せる。頭の中がクリアになっていく
  さっきまでの感情が嘘かのように、全部なくなる
  全部が──
怠惰ちゃん「どうでもよくなった」
〇教室
  私は可愛かった
  小学生の時なんて、学年で一番可愛かった
  大抵の男子が私のことを好きだったし、女子もみんな私に憧れてた
  私にとってそれは“当たり前”だった
  私は誰よりも可愛くて、何もしなくてもチヤホヤされる
  それが世界の条理であり、不変の真理だと思っていた
〇大学の広場
  しかし大学生にもなるとそうもいかなくなった
  周りの子がメイクをする中、私はすっぴん。服も中学生の頃から着てるやつ
  いくら顔が可愛くても、可愛くなる努力を怠る私に誰も見向きしなかった
  顔だけ可愛くてもしょうがなかった
  世界が加速する中、私だけ過去に取り残されている気分だった
〇大学
  みんな私ほど顔の造形は綺麗じゃないけど、その表面は鮮やかに彩られていた
  そこには努力や熱意を感じられた
  最初は「よくやるなあ」と感心していたけれど、次第に「私がやってないだけ」と気付かされていく
  それが私には、あまりにも理不尽に感じられた
〇黒
  ちょっと前まで私が一番だったのに
  素のポテンシャルなら誰にも負けないのに
  他人の「努力」によって私の「才能」が霞んでいく
  可愛さの定義がだんだん歪んでいく
  素材よりもファッションセンスやメイクばかり評価されていく。外見を評価しているようで、その外見を形作る中身を見られている
  小学生の時にあった、私とお前らの明確な差。それがなくなるばかりか、逆に努力の有無で差をつけられてしまっている
  クソだと思った
  可愛い私は可愛いままで、ブスなお前らはブスなままでいるのがこの世の条理のはずなのに
  努力が報われるなんて、そんな不条理あってはならない
  生まれ持ったものが全ての世界じゃないと、私は素直に生きることができない──
〇女の子の一人部屋
怠惰ちゃん「・・・」
  また思い出しそうになる
  変わらないものなんてないことを。全てのものは移ろい、変化していくことを
  私もいずれ可愛くなくなることを。劣化していくことを──
怠惰ちゃん「・・・」
  私にだけあった“ソレ”が失われてしまう
  私のアイデンティティーとも言える“ソレ”がなかったことにされてしまう
怠惰ちゃん「でも・・・」
  それを防ぐ努力。化粧にアンチエイジング
  日々のスキンケアやその他諸々美容に関する一切合切が──
怠惰ちゃん「めんどくさい」
怠惰ちゃん「どうでもいい」
怠惰ちゃん「どうでもいいって言ってんだろおおおおおおおおおおおお!」
「いい加減にしなさい美沙!」
「今何時だと思ってるの!」
怠惰ちゃん「うるさい」
怠惰ちゃん「寝る」
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否定や負の感情、ぶちまけながら、理屈で自然につながって体の中に入ってきます。
いや~最高!この作風😆
怠惰ちゃんの事は笑えないな~…「何もかもどうでもいい」って感情、けっこう色んなルートから行き着いちゃいますよね
そして一見ダメージ回避したようでいて、後でまとめてお支払い…怠惰ちゃん、生きて😭
でもなんか天国の香りがしますね!普通に生きてたって何も起きやしないんだから、こういうはみ出ちゃった人達じゃないと天国には辿り着けない気がします
それがどんな所かは知らんけど😇
なんというか。。闇金ウシジマくん第一話を読んで即離脱したあの時の気持ちを思い出しました(褒め言葉)。ちゃんとスキンケアしよ。。