エピソード1(脚本)
〇宇宙空間
【注意】
こちらは『湖の女神』のネタバレを含む裏設定版です。
まだ本編をお読みでない方や、ネタバレがお嫌な方は×ボタンを押すことを推奨いたします。
それでは、さっそく参りましょう。
〇寂れた村
主人公・五郎太です。冒頭の彼の憎まれ口にブラウザバックした方も多いんじゃあないでしょうか。私もしたくなりました。
しかし、それは彼なりに理由があることでもあります。そう、両親の死です。
五郎太の父、善誠(よしなり)は村で鍛冶屋をしていました。しかしある雨の降る夜、病気がちだった五郎太が
いよいよ峠ということで・・・
きっと何もできない自分に腹が立ったのでしょう。何処かで聞いた万病に効くという薬を求めて山に入ります。
しかし見つかるはずもなく、雨で足を滑らせて崖から落ちてしまいました。猟師に発見されたのは一年と半月ほど経ってから。
山の獣らに喰われ、腐敗し、側には何も残っていなかったといいます。
五郎太の母、徳エ(とくえ)です。生きていた頃は村一番の美人と言われていました。病に寝込む息子、そして帰ってこない夫の間で
約1年、ずっと挟まれながら心配やら、看病をしていました。夫は帰らず薬代で貯金も減るばかりで、ついには俺と結婚するなら
面倒を見るなーんて言う男も登場しました。寝不足やら働き疲れ、けれど子を思う母親として息子のため、と一度は了承をします。
しかし、その男と接吻をした瞬間自分が守ってきていた理性や夫へ立てた操の誓いなど、全てが決壊してしまいました。
心が完全に病んだのは、ここからですね。それまではどれだけ大変でもずっと笑顔で懸命に息子に寄り添うとてもいい母親でした。
五郎太を連れて行くかは最期まで迷っていましたが、五郎太もまもなく逝くだろうから、母の絶望に濡れた顔は見せたくないと。
最期の手紙は『夫と死後の世界で一緒になり、あなたを待つ』という意味で書いた手紙でもありました。
〇寂れた村
それらの出来事を、子供ですから、"父と母はよくわからん非現実的な話を信じて死んだ"と考えていたのが五郎太が非現実を嫌う
理由でした。
彼が怪談が嫌いな割に怪談にやたら詳しいのは、非現実を証明するため人から聞いたり学んだりしたからではないでしょうか。
補足をすると、五郎太の病気は母が死んで一週間ほどしてからみるみる良くなっていきます。
五郎太からすれば自分が発端で両親が死んでしまったのに、どうして自分が生きているのかと自責の念でいっぱいでしょう。
五郎太が作中でずーっとムスっとした顔をしていたのも、自分が笑って過ごしていいはずがないという気持ちがあったんでしょうね。
口が悪いのも自分に寄った人は不幸になる、なんて考えていたからだと思います。根のところでは、非現実を信じていたんですね。
せっかくなので満面の笑みを。
〇寂れた村
次は、村人。五郎太に雨を教えてくれた2人です。
女性が貴子(たかこ)
男性が源次(げんじ)さんです。冒頭、フグに当たったのを女神の仕業と言われていた人ですね。
貴子さんは五郎太の母、徳エの実の姉で、たらい回しにされていた五郎太を引き取った人物でもあります。
五郎太の父、善誠(よしなり)の工房の端を使って小さな小道具屋をしています。五郎太が大きくなった時、もし父の跡を
継ぎたいと言った時のためにいつでも開け渡せるように、道具などはきちんと取ってあります。結局その道には進みませんでしたが。
そんな人情深い貴子さんが五郎太に本当のことを言わないのはまだ幼いからではなく、五郎太自身が聞き出すのを待っているからです
特に母は五郎太の治療費のため、他の男に嫁ごうとして亡くなったなんて自分が勝手に話すことではないと考えたんですね。
実際、成長した五郎太は自分から貴子さんに母の死の理由を聞き出しました。
本文中ではそっけないような態度も、今の五郎太を甘えさせては五郎太がダメになる、と判断したからです。
ライオンのような育て方!しかし、その根底には溢れんばかりの愛がある貴子さんでした。
源次(げんじ)さんは、五郎太と特に血縁関係があるわけではありませんでした。
しかしそこは田舎ならではのネットワークと言いますか。病気になる前の五郎太が可愛くてかわいくて、ずっと見守っている存在です
五郎太の両親が死に五郎太がグレてからも、村のおじいちゃん的ポジションでずっとハラハラしています。
五郎太がグレて半年くらいは五郎太まで死ぬんじゃないかと、不安でしょうがなかったでしょうね。雨の時も甘やかしたいとは
思っていたでしょうが、貴子さんに「絶対甘やかすな。やめろ」と口酸っぱく言い聞かせられていました。
作中で「おーい!ごろ・・・」と濁していたのも、本当は「五郎太!よかった、帰ってきていたのか!」などと言いたかったからです
フグには当たりましたが、ピンピンしています。
そんな源次さんですが、成長した五郎太・・・大人になって改名した徳誠(とくなり)が旅に出る前に息を引き取りました。
死因は老衰です。
「儂もお前の旅に連れて行っておくれ。」なんて言いながら渡された旅守りは、徳誠(五郎太)の旅セットに結えられています。