エピソード5(脚本)
〇ビジネス街
出会いは不思議
例えばその人が生まれた場所
進学先や就職先
それが変わると・・・
そう・・・
全く違った絆が生まれる
エピソード5
──ズレていく思い──
〇小さい会議室
芸能プロダクション「F」会議室
前田美里「もう一度話を整理しますよ!マリンには会ったが詳細は覚えてない」
梶山厚志「はい」
前田美里「信雄とマリンの会話も聞き取れなかった」
山田孝雄「聞き取れなかったというかその時は既に酔っ払ってまして」
前田美里「お二人とも何しに行ったのですか?子供のお使いじゃないんですよ!」
前田美里「部長。そんな事なら会社の経費ではなく、自腹で行かれたら良かったのではないですか?」
梶山厚志「前田君が言いたい事も分かるが、君だってまだ彼氏から何も聞いていないんだろ?お互い様だと思うが」
前田美里「責任転嫁ですか?」
山田孝雄「お二人とも喧嘩はやめましょうよ。木本さんかマリンさんどちらか直ぐ連絡入りますよ」
〇お台場
日の丸テレビ
〇撮影スタジオのセット
木本信雄「・・・」
タレントA「木本さんお疲れ様でした」
木本信雄「おう!お疲れさん。明日の収録も宜しくな」
タレントB「木本プロデューサー。本日もお疲れ様です」
木本信雄「ご苦労様。今日もキラキラ輝いて素晴らしかったよ」
タレントB「ところで木本さん。今日は元気なかったですね。何かお悩み事ですか?」
木本信雄「えっ?」
タレントA「私もそう感じました。体調が良くないのかなと」
木本信雄「そんな事ないよ。気にしないで」
満里奈からのメ―ル
美里さんのプロダクションで契約するわ
〇休憩スペース
〇ビジネス街
〇オフィスのフロア
前田美里「誰かと思えば彼女に連絡を怠る薄情者か」
〇休憩スペース
木本信雄「今晩時間あるか?会って話そう」
〇オフィスのフロア
前田美里「分かった」
〇渋谷のスクランブル交差点
〇更衣室
〇ネオン街
木本信雄「もしもし。これから美里に会って君の契約話をするよ」
〇更衣室
マリン「分かりました。それと契約にはもう1つ条件がある。その条件を木本さんが断るなら今回の契約は無効よ」
マリン「その条件だけど・・・」
〇ネオン街
木本信雄「・・・分かった。君の条件に従うよ」
〇シックなバー
マスター「おっ!来た来た。いらっしゃい信雄君」
木本信雄「どうも」
マスター(機嫌悪そうだな)
前田美里「連絡出来なかった理由は?」
木本信雄「春斗の両親・・・離婚してたのか?」
前田美里「えっ?・・・ごめんなさい」
木本信雄「満里奈が言っていた事は本当なのか」
前田美里「ゴメン。怒らないで聞いて欲しい」
木本信雄「春斗の家族はみんなででフォローしようと誓ったよね。春斗は君の恋人だったけど俺の友人でもある。何で黙っていたの?」
前田美里「ごめん」
木本信雄「満里奈が言ってた。自分と俺を会わせないように美里さんが黙っていたと」
木本信雄「もしそれが本当なら非常に残念だけど」
前田美里「・・・」
木本信雄「言葉が出ないという事は本当の話か」
〇ネオン街
〇シックなバー
木本信雄「と、言うことで満里奈は君のプロダクションからデビューする」
木本信雄「春斗もそれを願ってると思うし」
前田美里「分かった」
木本信雄「伝えておきたかったのはそれだけ。今日はもう帰るよ」
信雄は店を出ていく
マスター「信雄君を引き留めてもっとお互いの気持ちを言い合ったほうが良かったのでは?」
前田美里「マスター。ウイスキーおかわり頂戴」
マスター「美里ちゃん飲み過ぎだよ。今日はもうこのぐらいにしておいたら?」
前田美里「マスター」
マスター「そんな悲しい顔しないで」
前田美里「私、満里奈の両親が離婚した事。あの時は満里奈に信雄を取られそうで言えなかった。それぐらい満里奈は魅力的だった」
前田美里「あの頃の私にとって信雄はかけがえのない人。失うのは絶対無理だったから」
マスター「僕じゃなくてちゃんと信雄君に話せば分かってくれるよ。信雄君だってもう美里ちゃんはかけがえのない人だろ」
前田美里「分かってくれるかな?」
〇飲み屋街
〇大衆居酒屋
居酒屋「寄り路」
渋谷建造「あれ?木本さん」
木本信雄「また来ちゃったよ」
渋谷建造「うちはありがたいですよ」
〇飲み屋街
〇大衆居酒屋
渋谷建造「連日ここに来るって事は何か悩み事?」
木本信雄「えっ!顔に出てる?」
渋谷建造「すぐ分かりますよ」
木本信雄「俺の顔は隠し事出来ない顔なのね」
渋谷建造「それに悩みがある時はいつも一人で来るでしょ」
木本信雄「男ってさ、誰にも発見されたくない時ってあるでしょ!ここは俺にとって秘密の隠れ家みたいな場所だから」
渋谷建造「それは店としても誇らしいですな。木本さんのためにも益々頑張らないといけませんね」
木本信雄「そうだよ。絶対閉店は許さないよ大将!」
〇ビジネス街
〇小さい会議室
氷室幸治「こちらの条件を書類にしましたので後ほどご確認下さい」
梶山厚志「氷室さん。早々に確認して返答いたします。前田君他に何か質問はないか?」
前田美里「ありません」
梶山厚志「マリンさん。こちらも前向きに検討しますので契約宜しくお願いしますね」
マリン「最後に美里さんと二人で話がしたいから氷室さんも先に出ていてくれる」
氷室幸治「承知しました。受け付けで待ってます」
〇ビジネス街
〇小さい会議室
マリン「さてと・・・何から話そうか?話す事が多すぎて困っちゃうね」
前田美里「言いたい事があるなら早くして」
マリン「私、キャバクラ辞めたから今後お店で信雄さんに会う事はないわ。でもこれからは仕事の打ち合わせで頻繁に会うけどね」
マリン「ここでの契約が決まったらすぐにデビューして信雄さんの音楽番組に出演する予定よ」
マリン「あなたが信雄さんから私を遠ざけた時間。これからたっぷり返してもらうから」
前田美里(ふざけるな)
マリン「それとこれから音楽雑誌の「エレガント」と「プレステージ」で打ち合わせがあるわ」
前田美里「えっ?それって典子が執筆してる雑誌社じゃない!」
マリン「そうね。当時「J」のべ―シスト倉田典子さん。兄がお世話になった分彼女にも恩返ししないと」
前田美里「あなた何を企んでるの?典子は関係ないでしょ!」
マリン「ただの恩返しよ。心配いらないわ」
前田美里「・・・」
〇ビジネス街
〇混雑した高速道路
〇走行する車内
氷室幸治「マリン。いよいよスタートラインに立ったね」
マリン「これも氷室さんが助けてくれたおかげ。感謝してるわ」
マリン「今から行く雑誌社の交渉も上手くいっているの?」
氷室幸治「ご心配なく。至って順調ですよ」
マリン「これであなたと私が復讐したい倉田典子もダメージよね。笑える」
氷室幸治「この流れで次は倉田典子の彼氏ですね。すでに手は打ってありますが」
──回想──
〇大学の広場
大学時代の氷室
大学の広場
里美「氷室君。ゼミのレポート終わった?」
氷室幸治「そんなの瞬殺で終わってるよ」
里美「あっ!倉田さんだ」
氷室幸治「誰?知り合い?」
里美「えっ!知らないの?この大学の有名バンドなのに」
里美「彼女はそのバンドのベ―シスト。音楽一筋だから男性に全く興味ないらしいけど」
氷室幸治(そうかな?簡単に落ちそうな女に見えるけど)
里美「有名になる前にサインもらっておこう」
里美「あの・・・サインいいですか?」
倉田典子「えっ?私の?」
里美「はい」
典子。紙にサイン
倉田典子「これでいいかな?サインなんてしたことないから自信ないけど」
里美「ありがとう!バンド頑張って下さいね」
氷室幸治「ねぇ君!今度俺とデ―トしない?」
倉田典子「はぁ?」
氷室幸治「変なヤツじゃないから安心しなよ。音楽しか興味ないなんて人生損してるよ」
里美「彼は私たちゼミのホ―プです。人気者だからデ―トのお誘いはラッキーですよ」
大宮和英「典子殿──!待った?」
倉田典子「遅い!」
大宮和英「ゴメンゴメン!昼飯おごるからさ。機嫌直してね」
倉田典子「それより春斗の新曲ちゃんと練習してきた?」
大宮和英「バッチリだよ!ギターソロも完璧さ」
倉田典子「昼ごはん終わったら一緒に合わせるよ。いい?」
大宮和英「OK!さあ昼飯に行こうぜ」
倉田典子「おもいっきり食べてやるから!財布空になるかもよ」
大宮和英「怖っ!いいよ。好きなだけ食べな」
氷室幸治(無視?この俺を無視!)
〇走行する車内
氷室幸治(まああの時の屈辱が俺を成長させてくれたけどな。だけどたっぷりお仕置きはしないと)
〇ビジネス街
芸能プロダクション「F」
〇オフィスのフロア
只今電話に出る事が出来ません
前田美里(このまま出ないつもり?)
〇マンション群
〇マンションの共用廊下
信雄の住むマンション
ドアが開く
木本信雄「んっ?どうした?」
前田美里「ゴメン。電話に出ないから来ちゃった」
木本信雄「上がれよ」
〇シックなリビング
木本信雄「交渉はうまくいきそうか?」
前田美里「会社としてはどうしても交渉成立したいから満里奈の言いなりでデビューが決まりそうよ」
木本信雄「そうか」
前田美里「ねぇ、まだ怒ってる?ちゃんと説明したいけどダメ?」
木本信雄「言わなくても分かってる。俺も隠し事がなかったわけじゃないし美里の隠し事を非難出来る立場ではない」
木本信雄「でもさ・・・何だろう?この気持ち。ちゃんと整理出来る時間が欲しいかな」
木本信雄「それまで少し時間を置かないか?その間俺たちが出来なかった事を満里奈に返してやろうよ」
木本信雄「それが春斗に対しての償いにもなるし、美里と俺がこの先変わらぬ信頼関係を築くためにもそうしたほうがいいと思う」
前田美里「しばらく私とは会わないって事?」
木本信雄「ああ」
木本信雄(ゴメン美里。それが満里奈と約束した条件なんだ)
木本信雄(その代わり満里奈と美里の関係がこの先改善するよう俺も努力するよ)
〇マンション群
春斗の死からそれぞれの道を歩んだ
「J」メンバー
そのメンバーの強い絆が満里奈の出現で少しずつ壊れていく事を、この時はまだ誰も気づいてはいなかった
エピソード6へ