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サトJun(サトウ純子)

会社辞めました(脚本)

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〇店の入口
矢島幹夫「僕は人が嫌いだ」
矢島幹夫「いや、実際は嫌いでは無い。 ただ、人が発している膜に触れると、全身がビリビリ痺れるのだ」
  僕は、これを「マンバブル」
  と呼んでいる。
  今日も暑い。
  家並みと電信柱で囲まれた隙間から、眩しい陽の光が差し込んでいる。
矢島幹夫「お、おはようございます!」
望月妙子「あ、おはよー」
望月妙子「あれー、髪、少し切った?また男前になったわねー」
矢島幹夫「妙子さんの、『煙草を手に横目で気だるく流し目をする姿』は、まるで明け方の歌舞伎町だな」
矢島幹夫「本当にパン職人には見えない」
矢島幹夫「あ、ありがとう、ございます」
  幹夫は軽くお辞儀をすると、クリーム色の壁に擦らないように体を横にして店の裏側へ回った。

〇事務所
矢島幹夫「・・・お、おはようございます!」
月岡紘子「しーっ!しゃがんで!」
矢島幹夫「いきなり、なにっ!? 焼きそばパン片手に、机に隠れているようにみえるけど・・・」
矢島幹夫「ど、ど、どうしたので・・・すか?」
月岡紘子「こっち、こっち!早く!」

〇謎の扉
  紘子の目線の先には
  あの、重厚な扉があった。
如月弥生「だから、芳江さん!どうして色物と白いものを一緒に洗濯機に入れるんですか!」
矢島幹夫「中から扉を誰かが押さえているのか。少し開いている扉の隙間から大きな背中がチラチラ見える」
矢島幹夫「このマンバブル・・・」
如月弥生「それ以前に、家の洗濯物をこっちに持ち込まないでくださいー!何回言ったらわかるんですかぁ!・・・・・・あぁああああーっ!」
矢島幹夫「うわぁ。急に扉が開いた!」
月城芳江「だってぇ、弥生チャーンがたたんでくれると、引き出しにピッタリ収まるんだもん」
矢島幹夫「・・・ですよね」
月岡紘子「芳江さん。洗うだけでなく、乾かしてたたむところまでやってもらうことを軽く宣言してますよね」
矢島幹夫「机の陰に隠れて、焼きそばパンを食べながら半笑いして見ているこの子って・・・」
如月弥生「もぉーっ!私は芳江さんの奥さんではないですからねーっ!」
  弥生は両手で膝の辺りを叩きながらも、半ば諦めた様子で芳江に背を向けた。
月岡紘子「なーんだ。もう終わっちゃったー」
月岡紘子「あ、もう行っていいですよ」
矢島幹夫「え?え? どういうこと!?」
  幹夫は椅子に足をぶつけながら立ち上がった。
矢島幹夫「で、出直した方がいいですか?」
月城芳江「あら、幹夫チャーン。来てたのー?」
矢島幹夫「あ、あ、はい。つ・・・つい、さっ・・・」
月城芳江「大丈夫よ!入ってー」
  芳江は新聞紙を片手に、扉を肩で押し開けた。

〇事務所
  ここは手作りパン屋、Deニッシュの事務所。
  しかし、ここはただのパン屋ではない。

〇謎の扉
  ここで働いている従業員は全員
  重厚な扉の向こう側にある
  クレセントムーン・プロダクションの
  所属タレントでもある。

〇校長室
月城芳江「で、今日はどうしました?」
矢島幹夫「わ、私のような、まともにひ、人と話せ・・・ない人が、で、できるでしょうか」
月城芳江「・・・なにが、です?」
矢島幹夫「は、俳優、や、やれる、か・・・と」
月城芳江「いやぁ、無理でしょう」
矢島幹夫「・・・・・・」
月城芳江「・・・・・・」
月城芳江「・・・?」
矢島幹夫「み、見返し・・・たいんです!」
矢島幹夫「こ、このまま・・・では」
月城芳江「・・・」
月城芳江「そういう理由じゃ、なおさらうちでは無理よ」
月城芳江「自分の事は二の次で、キッチリ稼いでもらうのがうちのやり方だから」
矢島幹夫「あ・・・あんな、会社、辞めちゃえって言ったじゃないですか!」
月城芳江「え?なにぃー?本当に辞めちゃったの? なんでー!もったいない・・・」
矢島幹夫「わ・・・”私が営業してあげる”って・・・」
月城芳江「え?そんな事、言ったかしら・・・ 覚えてないわー」
月城芳江「あ!あの時いただいたチーズケーキの味はしっかり覚えてるっ! あれは本当に絶品だったわー」
矢島幹夫「が、頑張って稼ぎま、す! こ・・・ここで、は、たらかせて、ください!」
月城芳江「・・・」
矢島幹夫「・・・」
月城芳江「・・・ま、いっか。 じゃ、とりあえず雑用で採用ー!」
月城芳江「じゃあ、早速だけど・・・」
月城芳江「店からカレーパン持ってきて」
矢島幹夫「か、か、カレーパン、ですか?」
月城芳江「そそっ。籠ごとねー! ほらっ!走ってぇー!」
  幹夫は、芳江の言葉とマンバブルに押されて小走りで扉を開けた。

〇オフィスのフロア
  僕は会社を辞めた。
  正確に言うと”辞めさせられた”
高学歴の年下上司「お前さぁ。駅で線路に落ちたんだって?」
高学歴の年下上司「パワハラじゃないか。過重労働させてるんじゃないかって、疑いかけられて困ってるんだよなー」
同僚A「無理しない方がいいんじゃないか? 少しまとまった休みを取るとか」
同僚B「データさえ送ってくれれば、俺たちがなんとかするから」
高学歴の年下上司「あ、そんな必要はないよ。 こいつ、今日でクビだから。 はい。辞令。お疲れさん」
  ”駅で気絶している間に、社外秘情報がスマートフォンから抜かれていた”
  という内容の調査書が添付されていた。
  幹夫が勝手に情報を持ち出した、という事になっていた。
  そんな嘘の情報で
  簡単に辞めさせられてしまうのか・・・

〇事務所
月岡紘子「あの会社、辞めちゃったんですねー」
矢島幹夫「えっ、もう知ってるの? それも、ずいぶん嬉しそうに・・・」
矢島幹夫「そ・・・そうなんですよ。 じ、自分でも、驚いて・・・い、ます」
月岡紘子「あっ!しゃがんで!早くっ!」
矢島幹夫「なになにっ? カレーパンが落ちちゃう!」

〇謎の扉
  紘子の目線の先には
  あの、重厚な扉があった。
望月妙子「芳江さーん。 いますよね?いるのわかってますよー」
矢島幹夫「扉を向こう側から誰かが押さえているようだ。扉の隙間からチラチラと背中が見えている」
矢島幹夫「・・・あれ? この光景、さっきも見たような・・・?」
矢島幹夫「うわぁ。いきなり扉が開いた!」
望月妙子「・・・・・・」
矢島幹夫「おおっ!扉が開くと共に後ろに一歩下がった!なんて華麗な動きなんだ!」
月城芳江「やっぱり妙子チャーンには、この手は通用しないかー」
月岡紘子「店のカレーパン、勝手に持ってきちゃったの、バレたんじゃないですかねー」
矢島幹夫「そういう紘子さんは、今、手にしている焼きそばパン。いくつ目なんだ?」
望月妙子「その新聞紙、どけてください」
月城芳江「な、なになに。妙子チャーンってばー。 新聞読んでいただけだってばー」
矢島幹夫「あ、妙子さんが芳江さんを押し退けて中に入って行った」
望月妙子「これはなんです?」
月城芳江「あ、あら、何かしら? 誰ぇ?私のデスクにボール置いたのぉー」
望月妙子「また、勝手に店の冷蔵庫に入っている業務用のアイス食べましたね?」
月城芳江「えーっ!やだー。人聞きわるいー。 アイスが勝手に私の口の中に入ってきちゃっただけよー」
月岡紘子「なーんだ。 見つかったのはアイスの方か」
矢島幹夫「か、カレーパンは、持ち・・・出したのが分かりにくいように、店、に、3個ほど、残してき、きましたから」
月岡紘子「へぇー。とっさの事だったのに、よく頭が回りましたね」
矢島幹夫「え?べ、別に普通、で、すよ・・・」
月岡紘子「・・・そっか。 あなたの発しているヤツは普通じゃないですけどね。普通だけど普通じゃない」
矢島幹夫「ぼ、僕がは・・・発している?」
月岡紘子「あ、出てくる!しゃがんで?」
望月妙子「全く、油断も隙もありゃしない・・・」
月岡紘子「ディッシャーでアイスを食べていたのか!さっすがー!芳江さん!」
月岡紘子「あ、もう行っていいですよ」
矢島幹夫「な、なんなんだ。この子は」
  幹夫はカレーパンの入った籠を手にしたまま左右を見渡すと、重厚な扉を押し開けた

〇校長室
月城芳江「え?540万は高すぎるって?」
矢島幹夫「芳江さん、電話中だ。 唾を飛ばしながら大声でスマホに向かって叫んでいる」
月城芳江「もっと値段を下げろって事ですか? まぁ、あなたほどの方が、こんな小さいことでグズグズと」
月城芳江「あ、器の小ささは昔からでしたねー! しつれーい!」
矢島幹夫「大声で笑いながらテーブルをガンガン叩くたびに頬の肉が揺れてる・・・」
月城芳江「では、お話しになりませんね。 他をあたってくださーい」
矢島幹夫「・・・いや、間違いなく相手の話を聞かずに切っているだろう」
月城芳江「あ、幹夫チャーン! おかえりー!」
矢島幹夫「お、お電話・・・中とは知らず、し・・・つれいし、ましたっ!」
月城芳江「いいの、いいの。 それよりカレーパン、上手くやったわねぇ。 ごうかーく!」
月城芳江「じゃ、とりあえず今から家に帰って、三日間くらい泊まる準備してきてー」
矢島幹夫「い、今から・・・で、すか?」
月城芳江「そそ。幹夫チャーンには手始めに60万の仕事してもらうわ」
如月弥生「では、後は私が指示しますので」
矢島幹夫「・・・は、はい?」
如月弥生「これから分刻みの行動になりますから、余計な事は考えずに言われた通りに動いてくださいね」
月城芳江「よろしくねーん。 60万の仕事だから、失敗は許されないからねー」
如月弥生「外に車用意してますから。 ほら!行きますよ!」
月城芳江「60万、いってらっしゃーい!」

〇謎の扉
  何も考える暇はなかった。
  再びあの重厚な扉を開ける時には
  僕は
如月弥生「まあ、こんなもんでしょう」
矢島幹夫「これが・・・僕?」
  全く別人のようになっていた

次のエピソード:合言葉は60万

コメント

  • 相変わらずキャラが濃いですね、この事務所は❤️
    芳江さんが豪快で突っ込みどころ多すぎです😁
    イケメンみきお君、これからどうなるのでしょう⁉️
    60万の仕事、楽しみにしてます。

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