第4章 坂口さんの後輩(脚本)
〇事務所
彼女は「百合野 華」。
数ヶ月前に入ったばかりの新人だ。
そして、私以外では
唯一の女性社員である。
部長「おはよう、華ちゃん。 今日も一段とキレイだねぇ~。」
華「もう、部長ったら。 褒めても何も出ませんよ。 それで、何かお仕事ありますか?」
部長「うーん、それじゃあ 熱いお茶を一杯もらおうかな?」
課長「僕はコーヒー、砂糖は3つね。」
係長「紅茶、ダージリンを頼むよ。」
華「はーい、分かりました! 今すぐ持ってきますね。」
事務で入社してきた彼女だが、
結局その仕事は部長らが
私たち社員に押し付けたのだ。
今の彼女の仕事は
上司のお茶汲みや話し相手が主だった。
華「はーい、お待たせしました!」
それぞれを部長たちに渡していく。
しかし、お盆の上には、
まだ湯飲みやカップが残っていた。
部長「いくら何でもお茶作りすぎだろ~。 嬉しいけど、そんなに飲めねぇよ。」
華「部長のじゃありませんよ。 他の皆さんの分ですよ。」
係長「別に君が気にすることないのに。 自分たちで勝手に休憩とるから、 仕事が終わればね。」
課長「華ちゃんは本当に優しいね。 まるで女神様みたいだ。」
彼女はオフィスを周りながら、
社員のデスクにお茶を置いていく。
確かに配る彼女の姿は、
施しを与える女神のようだった。
社員たちの顔も僅かにほころぶ。
性格だけでなく、見た目も綺麗な人だ。
服も化粧も、とてもよく似合ってる。
何より珊瑚色の口紅がひかれた
形の良い唇が羨ましかった。
そして、ついに私の前にも彼女は来る。
坂口「ごめん、せっかく用意してもらって 悪いんだけど、私の分は……。」
華「坂口さんはこっち。」
坂口「ペットボトル……?」
華「坂口さんが職場でお茶とか飲むところ 見たことなかったので。 職場では飲みにくいのかなって。」
坂口「……ありがとうございます。」
お礼を言うと、
彼女はまさに女神のような微笑みを見せた。
見た目も性格も正反対の彼女だったが、
こんな私にさえ優しくしてくれる彼女を
嫌いにはなれなかった。