第5章 坂口さんの昼食(脚本)
〇事務所
しばらくして、12時のチャイムが鳴る。
社員たちが引き続き仕事をする中、
部長たちが立ち上がる。
係長「腹へったな、飯にするか。 今日はどこ行きます?」
課長「そうだね、この前近くにできた 唐揚げ定食屋さんがいいな。」
部長「華ちゃんも一緒に行こうか!」
華「はーい、今行きます!」
彼女が部長たちの方へ向かう中、
私の席の前で一瞬止まる。
華「坂口さんもご飯行きませんか?」
こんな感じでいつも律儀に聞いてくれる。
でも、私は首を振ることしかできなかった。
部長「早く来ないと、置いてっちゃうぞ。」
華「分かってますよ。」
部長ら4人がオフィスを出ると、
至るところからため息が聞こえる。
皆やっと一息つける、というところだ。
坂口(私もさっさとご飯食べよ。)
〇備品倉庫
私が向かったのは備品の倉庫。
昼食はいつもここで手短に済ませている。
坂口「いただきます……。」
マスクを外し、パンにかぶりついた。
この顔のせいで家族以外の前で
食事をしたことがない。
どんなに頑張っても
大口を開けざるをえないから
人と食べるなんてことは絶対無理ね。
坂口「……ごちそうさま。」
〇事務所
オフィスに戻り、仕事を再開する。
しばらくして、部長たちが戻ってきた。
課長「あー、お腹いっぱい。美味しかったなぁ。 また行きたいねぇ。」
係長「お前ら、ちゃんと仕事してたか? やらないと、時間通りに帰れないよ?」
部長「なぁ、華ちゃん。 今日は呑みにも行かないか? 料理も美味しいお店知ってるぜ。」
華「そうですね……。 うーん、どうしようかな。」
彼女は悩んでいると、
私の席へ歩み寄ってきた。
華「私、坂口さんと一緒なら行きたいです。」
坂口「えっ……。」
部長「坂口か……。 坂口にはそういうの求めてないというか。」
部長「だいたい坂口はブスなんだよ。 だから、いつもマスクしてるんだろ。」
口を見られた、のか?
焦りから背中には冷や汗が流れる。
係長「部長、いくらなんでも直球すぎるでしょ。」
課長「そうだよ、ちょっと可哀想だよ。」
部長「冗談に決まってるじゃないか。 でも、可能性はある。」
部長「坂口の出身地って、 あの「巫女の呪い」の伝説があるところだろ?」