流し屋

敵当人間

不良の男子高校生の話(脚本)

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〇田舎町の駅舎
不良の男子高校生「いや、今日は真面目な話をしに来たぜ」
「珍しいですね」
「雪でも降るんじゃありませんか?」
不良の男子高校生「ひでーな、おい」
不良の男子高校生「これでも、マジで悩んでんだからな」
「失礼いたしました」
不良の男子高校生「いや、いいよ」
不良の男子高校生「流し屋も冗談言うんだなって分かったし」
「私をなんだと思ってらっしゃるんですか」
不良の男子高校生「悪ぃ、悪ぃ」
不良の男子高校生「で、だ」
「はい」
不良の男子高校生「俺が悩んでんのが、」
不良の男子高校生「今流行りの不良漫画についてなんだよ」
「へぇ・・・」
不良の男子高校生「なんだよ、その反応・・・」
「普通は自分達のことが取り上げられたら、嬉しいと感じるような気がして・・・」
不良の男子高校生「違うんだよ、流し屋」
不良の男子高校生「アレは全部、フィクションなんだよ」
「えぇ、まぁ・・・」
不良の男子高校生「そもそも俺達は、社会不適合者の集まりっていうか・・・」
「自分でおっしゃるんですか?」
不良の男子高校生「当たり前だろ?」
不良の男子高校生「一般人に馴染めないから屯ってんだよ」
「自覚があるとは意外です」
不良の男子高校生「今日はすげー毒吐くじゃねぇか」
不良の男子高校生「そこは流し屋らしく、流してくれよ」
「失礼いたしました」
不良の男子高校生「まぁいいや」
不良の男子高校生「そーゆー日もあるよな」
「・・・」
「まさか慰められるとは・・・」
不良の男子高校生「不服か?」
「いえ、ありがたいですよ」
不良の男子高校生「そっか」
「さて、続きを伺いましょう」
不良の男子高校生「あぁ」
不良の男子高校生「ぶっちゃけ、現実の不良なんて、」
不良の男子高校生「ネガティブの集まりなんだよ」
不良の男子高校生「俺もお袋が水で働いてて、将来に希望なんてねぇし」
不良の男子高校生「仲間だって貧乏だ、親父がDVだ、なんだって」
不良の男子高校生「家に帰るのが嫌になってさ」
不良の男子高校生「でも屯って、悪いことするとスッキリするからよ」
不良の男子高校生「”赤信号、みんなで渡れば怖くない”って言うだろ?」
不良の男子高校生「あんな感じで、一人で何かを成し遂げるような勇気がない奴らが集まってんだよ」
不良の男子高校生「昔みたいにシマがどうだ、縄張りがどうだ、みたいな抗争もねぇし」
不良の男子高校生「殴り合うっていうより、警察をいかにチョロまかすかっていう・・・」
不良の男子高校生「悪いことを成し遂げることで、自己主張する連中が集まってんだよ」
「なるほど」
不良の男子高校生「・・・それがよぉ」
不良の男子高校生「なんか、漫画に感化された陽キャたちが、」
不良の男子高校生「突然入りてぇなんて言うもんでよぉ・・・」
「・・・」
不良の男子高校生「俺、勉強は出来ねぇけど、」
不良の男子高校生「アイツらマジで頭悪ぃんじゃねぇか、って思う」
不良の男子高校生「なんで俺たちが悪ぃことをしてるのか、背景を見てねぇのよ」
不良の男子高校生「親って鬱陶しいですよね!?みたいなこと言ってご機嫌とってくる奴も」
不良の男子高校生「家に帰りゃおまんま食わせてもらってんだぜ?」
不良の男子高校生「は?ってなるじゃん」
不良の男子高校生「なんか、俺もあの漫画好きだから悪く言いたかねぇけどさ、」
不良の男子高校生「あの漫画の所為で、俺達の居場所がなくなってるのも事実なんだよな・・・」
不良の男子高校生「どっちかってぇと」
不良の男子高校生「夜回り先生とか読んで欲しいわ」
「え!?」
「夜回り先生の本、読んだんですか!?」
不良の男子高校生「驚き過ぎだろ!?」
不良の男子高校生「読んでねぇけど、高校の社会科の先生とマブダチらしくてさ、」
不良の男子高校生「一日だけ体育館で講義聞いたぜ」
不良の男子高校生「引ったくりの話聞いた時、分かりみが深過ぎて泣いたもんな」
「あぁ、あの話ですか」
不良の男子高校生「お、知ってんの?」
「私は本で読みましたから」
「フレンチトーストの話も泣けますよ」
不良の男子高校生「別に泣きたい訳じゃねぇよ!」
「荻島くん」
不良の男子高校生「んだよ?」
「普通の家庭に生まれていたら、大学へ行きたかったですか?」
不良の男子高校生「・・・」
不良の男子高校生「ま、普通に普通の人生って奴を」
不良の男子高校生「歩んでみたかったってのはあるよな」
「実は、君に渡したいものがあったんです」
不良の男子高校生「な、なんだよ、コレ!?」
不良の男子高校生「こ、こんなもん、貰える筈がねぇだろ!?」
不良の男子高校生「そ、それにお袋に全部パクられるに決まってる・・・」
不良の男子高校生「ただでさえ、店の経営が危ねぇのに・・・」
「君は、未来ある若者です」
「私は、その可能性を潰したくはない」
不良の男子高校生「・・・でも」
「僕は、君に、真っ当に生きて欲しい」
「話していて感じたんです」
「君は、人の心が分かる、素直な青年だと」
不良の男子高校生「・・・」
「そのお金は僕の名義になっています」
「ですから、税金等は全て僕にかかって来ます」
「臆さずに使いなさい」
不良の男子高校生「なんで、俺なんかのために・・・」
不良の男子高校生「こんな大金・・・」
「僕は罪深い人間です」
「お金だけは湯水のように湧いてくる環境ですが、」
「その所為で、未来の可能性を一つ、潰してしまいました」
「目の前にある可能性を見過ごせません」
不良の男子高校生「・・・」
不良の男子高校生「・・・あるかな?」
不良の男子高校生「俺みたいな人間でも、まだ希望はあるかな?」
「・・・えぇ、あります」
「きっとあります」
「高校を卒業したら、一人暮らしをなさい」
「私立でもなんでも良い、ひとまず大学に行くんです」
「そうすれば、君よりも酷い人間は五万と居ます」
「人に触れ、人を見て、人を学ぶんです」
「そうすれば自ずと道は開けます」
不良の男子高校生「あ、ありがとう・・・」
不良の男子高校生「ありがとう、流し屋・・・さん・・・」
「優秀である必要はありません」
「誰かより秀でる必要もありません」
「僕は荻島 功助、ただ君だけを信じています」
不良の男子高校生「泣かすなよ!」
不良の男子高校生「何者なんだよ、アンタ!!」
「流し屋ですよ」
「それで良いじゃありませんか」
「5年後ぐらいに、初任給で焼肉を奢ってくださいね」
不良の男子高校生「マジか!」
不良の男子高校生「留年は出来ねぇな」
「えぇ、許しません」
不良の男子高校生「マジか!!」
不良の男子高校生「でも、ありがとよ・・・」
不良の男子高校生「少し、希望が湧いたぜ」
「それは、何よりです」
不良の男子高校生「見つからねぇように頑張るわ」
不良の男子高校生「じゃあなー!」
「気を付けて帰ってくださいね!」
  どうやら今日は、これで店じまいの様です。
  明日はどんなお客様がいらっしゃるんでしょうか?

次のエピソード:介護疲れの女性の話

コメント

  • 夜回り先生の本、私も学生時代に読みまして、同じ年でもこんな境遇の子がいるんだってものすごくショックを受けた記憶があります。自分がいかに恵まれた環境に生きていたのか、ということを思い知らされました……。
    5年後、焼肉とともに成長した彼の姿が見られますように。

  • すっごく分かります。家庭環境は選べない。
    生まれた瞬間から学べないと決まってる子供って、実は世の中にたくさんいるんですよね😢考えさせられました😌

  • その不良漫画のアニメをおそらく私も見ていたのですが、単に「かっこいいな」と表面しか見ていなかった気がします。毎度のことですが、深い人間観察力に脱帽です。

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