流し屋

敵当人間

介護疲れの女性の話(脚本)

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〇田舎町の駅舎
「今日は、風が強いなぁ・・・」
介護疲れの女性「あの・・・」
「はい?」
介護疲れの女性「どんな話でも聞いてくださると言うのは」
介護疲れの女性「本当ですか?」
「えぇ、その通りです」
介護疲れの女性「そうしましたら、私の話も聞いていただけますか?」
「はい、聞かせてください」
「立ち話もなんですから、どうぞ・・・」
介護疲れの女性「ありがとうございます」
介護疲れの女性「お恥ずかしい限りですが」
介護疲れの女性「・・・何から話して良いのやら」
「ゆっくりで構いませんよ」
介護疲れの女性「ありがとうございます」
介護疲れの女性「兎にも角にも、人生に疲れたと、そんな話を」
介護疲れの女性「こんなに若い方にするのも失礼なのですが・・・」
「いえいえ、とんでもない」
介護疲れの女性「・・・」
介護疲れの女性「どこでどう歯車が狂ったのか、」
介護疲れの女性「大事に育ててきた娘からも敬遠されてしまいまして、」
介護疲れの女性「こうして伺った次第です」
介護疲れの女性「まずは、私の身の上話しを聞いていただきますね・・・」

〇古いアパートの居間
介護疲れの女性「私たちは」
介護疲れの女性「どこにでもいる家族だったと思います」
介護疲れの女性「亭主関白で頑固者の夫と」
介護疲れの女性「少しワガママに育ってしまいましたが明るい娘・・・」
介護疲れの女性「私はそんな二人を陰ながら支えてきました・・・」
介護疲れの女性「・・・」
介護疲れの女性「支えてきた、つもりでした・・・」
夫「なんだ、この飯は!?」
夫「不味くて食えたもんじゃねぇ!!」
夫「これが一生懸命働いてきた亭主に対する飯か!?」
娘「おかーさん」
娘「お父さんをあんまり怒らせないでよぉ」
介護疲れの女性「・・・」
夫「もう良い!!」
夫「外で食ってくる!!」
「・・・」
娘「おかーさん・・・」
娘「専業主婦なんだからさぁ・・・」
娘「もう少し頑張ってみたら?」
介護疲れの女性「・・・」
介護疲れの女性「離婚、ですか?」
介護疲れの女性「今の若い人は出来るでしょうけど、」
介護疲れの女性「私たちの世代ではまだまだ離婚は家の恥でしたから」
介護疲れの女性「食器を投げつけられようが」
介護疲れの女性「家財を壊されようが」
介護疲れの女性「煙草で火傷させられようが」
介護疲れの女性「耐えるしかありませんでした」

〇古いアパートの居間
介護疲れの女性「転機が訪れたのは、娘が就職して家を出て行ってからでした」
介護疲れの女性「夫が脳梗塞を患ったんです」
介護疲れの女性「失語症といって、マトモに喋れなくなり、」
介護疲れの女性「時たま叫び声を上げるぐらいで」
介護疲れの女性「利き手である右手もマトモに使えなくなりましてねぇ」
介護疲れの女性「ふふっ」
介護疲れの女性「トイレもままならないんですよ?」
介護疲れの女性「最初はどうにか威厳を保とうとしていたんですけどね」
介護疲れの女性「私が手伝わないと何一つ出来ませんから」
介護疲れの女性「床に額を擦り付けてお願いするようになりました」
介護疲れの女性「可笑しな話ですよね?」
介護疲れの女性「散々虐げて置きながら、」
介護疲れの女性「自分が動けなくなると掌を返してきたんですよ」
介護疲れの女性「謝れば私が許すとでも思ったんでしょうかね?」
介護疲れの女性「その度に見せつけるんです」
介護疲れの女性「あの人が私の腕や腰に付けた火傷の痕・・・」
介護疲れの女性「割れた茶碗の所為で14針も縫った額の傷口・・・」
介護疲れの女性「おむつが気持ち悪いのぐらい、もう少し我慢出来るわよね?」
介護疲れの女性「だって痛い訳じゃないじゃない・・・」
介護疲れの女性「喉が渇いたのだって、今すぐじゃなくて良いわよね?」
介護疲れの女性「だって、別に意識が朦朧とした訳じゃないでしょ?」
介護疲れの女性「私は自然と夫にそう毒吐く様になりました」
介護疲れの女性「久しぶりに帰省した娘は、私のネグレクトの様を見て、」
娘「お母さん、何やってんのよ!?」
介護疲れの女性「と、夫の肩を持ったんです」
介護疲れの女性「その時に気が付きました」
介護疲れの女性「あぁ、あの子の目から見て」
介護疲れの女性「私より夫の方が可哀想だったんだ・・・」
介護疲れの女性「そう感じる様に育ててしまったんだ・・・」
介護疲れの女性「そう思いました」
介護疲れの女性「娘は市役所に行って、夫の介護保険を申請して、」
介護疲れの女性「夫の入所の手続きを最も容易く終えてしまって」
介護疲れの女性「そこからは疎遠になってしまいました」
介護疲れの女性「でも、娘は手続きを踏んだだけで」
介護疲れの女性「洗濯物や施設への支払いは全て私・・・」
介護疲れの女性「夫はのうのうと施設で過ごしているでしょう?」
介護疲れの女性「なんだか、何もかもが馬鹿らしくなってしまって」

〇田舎町の駅舎
介護疲れの女性「ごめんなさいね、こんな話・・・」
「いいえ」
介護疲れの女性「・・・」
介護疲れの女性「馬鹿な話よね、復讐なんて・・・」
介護疲れの女性「みんなに言われるのよ」
介護疲れの女性「もっと早く逃げ出せば良かったのに、って」
介護疲れの女性「でも、私が選んだ選択は、全部否定されるの」
介護疲れの女性「死のうとしても」
介護疲れの女性「生きようとしても」
「そうですね」
介護疲れの女性「貴方にも同じようなことがある?」
介護疲れの女性「選択を迫られた時、どちらに転んでも批難される、なんてこと・・・」
「ありましたよ」
「妻と結婚した時に」
「金を稼いでも」
「金を稼がなくても批難されました」
介護疲れの女性「笑ってしまってごめんなさいね」
介護疲れの女性「でも、少し微笑ましくて・・・」
介護疲れの女性「・・・」
「否定されるのが、恐ろしいのですか?」
介護疲れの女性「・・・えぇ、そうね」
介護疲れの女性「きっとそういう性格なんだわ」
「では、誰も貴方を知らないところへ逃げてみたらいかがですか?」
介護疲れの女性「知らないところ?」
「そうです」
「知っている人の前だから、良い自分を演じようとしてしまう」
「ならば、貴方のことを知らない人ばかりの街へ足を運んでみたらいかがでしょうか?」
介護疲れの女性「・・・」
「どこか、行ってみたいところは?」
介護疲れの女性「・・・ハワイ」
介護疲れの女性「そう言えばハワイに行ってみたかったの」
介護疲れの女性「気候も温かくて、海が綺麗で、」
「海が綺麗なところが良いんですか?」
介護疲れの女性「えぇ、なんとなく・・・」
介護疲れの女性「浄化されそうじゃない?」
「でしたらワイキキはおすすめ出来ませんね」
介護疲れの女性「それは知らなかったわ」
「一度、ご自身で調べて行ってみてください」
「きっと、全てが馬鹿馬鹿しくて、」
「何もかもがどうでもよくなります」
「そんな幸せを感じられる場所ですから」
介護疲れの女性「ありがとう」
介護疲れの女性「貴方に話せて良かったわ」
介護疲れの女性「素敵なお仕事だから、是非とも続けて頂戴ね」
「ありがとうございます」
介護疲れの女性「それじゃあ、お元気で」
「貴方も、お気をつけて」
「・・・」
育児疲れの男性「あ、あの・・・」
「はい?」
育児疲れの男性「僕の話も聞いてくれませんか?」
「もちろんですよ」
「立ち話もなんですから、どうぞ・・・」
育児疲れの男性「ありがとうございます」

次のエピソード:育児疲れの男性の話

コメント

  • 一回見出したら永遠に見てられますねコレ😂
    アマゾンプライムでクレヨンしんちゃん一回流したら永遠に見れる時と同じ感覚です🤩w
    でももったいないのでちょこちょこ読んでいきますよー😆👍

  • 作品には、自分の体験が反映しますよね。とてもよく分かります。
    このエピソードは、家族って何だろうと考えさせられる内容だなと私は受け取りました。
    あんな酷い父親なら、娘はお母さんの味方はしないのかなとも思いましたが、娘に映るお母さんはまた違う印象なんですね。
    次回は男性の育児!興味深い内容で、気になりますね。

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