天使の歌声

Akiyu

エピソード1(脚本)

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〇魔王城の部屋
クリス「お願いです。妹を助けてください!」
  双子の妹のクレアが不治の病にかかったことを知ったクリスはとある高名な魔女に救いを求めた。
魔女「いいだろう。その代わりお前さんの声を貰うよ。それこそ全ての声をね。それでもいいかい?」
  クリスは絶句した。歌手である彼女にとって声を失うことは命を失うことに等しい。
クリス「他のもので支払えませんか? お金ならいくらでも」
魔女「だめだね。私は珍しいものがほしいのさ。天使の声と言われるお前の声とかね。まあ、よく考えるがいいさ」
  クリスはありとあらゆる名医をあたったが、どの名医も首をふるばかり。そうこうするうちにクレアはどんどん衰弱していく。
  やはりクレアを救えるのは魔女しかいない。しかし、声を失いたくない。
  しかし、何度交渉しても何を差し出そうとしても魔女はがんとして欲しいのは彼女の声だけとつっぱねる。
  結局、クリスは魔女の要求に従うことにした。医者から「もってあと数日」と宣告されてはもうどうしようもなかったのだ。
  こうしてクレアは魔女の力によって奇跡的な回復をみせるようになった。その代わりクレアの天使の声は永久に失われたが。
  もっともクレアは魔女の要求に従う前に策を考えていた。
  自分の日常会話から歌声までありとあらゆる声を録音して残しておくこと。
  これから発表する予定だった新曲も数年分録音し残しておいた。
  だが録音データそのものが『無くなってしまったため』無駄になってしまった。
  魔女が「それこそ全ての声」を貰うといったのはそういうことだったのだ。

〇城の客室
  呆然自失するクレアだったがそれを救ったのはクリスだった。
クリス「私に歌を教えてください」
  最初クレアは自分の耳が信じられなかった。なにしろ妹が歌っているのを聞いたことがなかったのだ。
  妹に試しに歌わせた所。あまりの酷さに聞くに耐えなかった。
  しかし妹は言う。私と姉さんは同じ声を持っている。酷い歌なのは私が歌い方を知らないせい。
  妹の熱意に負け、妹に歌い方を教えることになったが徐々に歌がうまくなり、最終的には自分が歌っているかのような歌声になった。
  この世に「天使の歌声」が蘇ったのだ。

〇劇場の舞台
  数年後、妹は歌姫として世界中を旅しては天上の歌声を響かせていた。
  そしてその度に姉はマネージャーとして付き添い日程調整やさまざまな手続きをおこなっている。
  時には妹の歌にあわせて楽器を演奏もするようだ。
  もし彼女たちの公演をみかけたらぜひ行ってみてください。
  運が良ければ彼女たちの演奏に合わせて踊る天使や妖精たちの姿がみえるかもしれません。

〇魔法陣2
  そんな歌手がいるという噂を聞いた私は、早速彼女たちの公演を見に行く事にした。
  魔女も欲しがった天使の歌声を持つという歌手の歌ならば、聞ける時に聞いておかなければ損をする。
  都合をつけて彼女たちの公演を見に行った。

〇劇場の舞台
  彼女たちの公演は大盛況で人気だった。故にチケットを取るのに苦労した。
  ステージに颯爽と現れたのは、姉のクレアと妹のクリスだ。
  姉のクレアというのが天使の歌声を失って演奏しているほうだね?
  そして姉のクレアから歌を教えてもらい、努力して天使の歌声を手に入れたのが妹のクリスか。
クリス「皆様。今日は私たちの公演に来て下さり、本当にありがとうございます」
クリス「姉は魔女との契約により、声と引き換えに命が助かりました。だから声が出ません」
クリス「ですから姉の言いたい事は、全て私が代わりに話させて頂きます。姉は感謝しています」
クリス「形は違えど、皆様に天使の歌声を届ける事ができる。その事を誇りに思っています」
クリス「今日はお越し下さった皆様の為に、私と姉は精一杯歌わさせて頂きます」
  クリスは歌った。その声は、聞いた者全てを魅了する歌声だった。
  公演は盛り上がった。彼女たちの演奏に合わせて踊る天使や妖精たちの姿も見えた。
  公演が終了した後、私は彼女たちの控室に行った。

〇ライブハウスの控室
白き魔女「こんばんは」
クリス「こんばんは。えっと・・・どちら様ですか?ここは関係者以外の方は立ち入り禁止なんですけど」
白き魔女「ああ、私かい?私は白き魔女」
白き魔女「クリスさんの声と引き換えに命を救った魔女の、なんだろう。友人じゃないな。まあ知り合いみたいなものだよ」
クリス「えっと、白き魔女様が何の御用でしょう」
白き魔女「天使の歌声を聞いて感動してね。クリスさんの声が失われてしまったのは、とても残念だ」
クリス「ええ。ですが命は助かりましたから」
白き魔女「私はね、あなた方の公演を見て思ったんだよ」
白き魔女「クリスさんも歌えたら二人で、それはもう美しいハーモニーを奏でられるのになと。そう思ったわけ」
クリス「ありがとうございます。ですがそれは夢物語です」
白き魔女「いやいや。夢物語ではないんだよ。歌声を取り戻せばいい」
クリス「あるんですか?そんな方法が!?」
クリス「魔女は何度言っても歌声以外のものでは、首を縦には振りませんでした。無理なんですよ・・・」
白き魔女「そうだねえ。あの魔女は頑固だ。だから声を返してくれる事はないでしょうよ。でも別の方法があるんだよ」
クリス「教えて下さい!!どんな方法なんですか?」
白き魔女「クリスさんの歌声を複製して、クレアさんの声にするんだよ。双子のあなた方だからこそ出来る方法さ」
クリス「それはどうすればいいのですか?」
白き魔女「この薬を使いなさい。私のとっておきの秘薬です。これをクレアさんに飲ませるのです」
クリス「白き魔女様。でもこの薬の対価に私たちは、何を払えばいいでしょうか」
白き魔女「ヒヒッ。そうだね・・・・・・。私に最高のステージを見せてくれたら、それでいいよ。魔女も娯楽に飢えていてね」
  そう言って、私はニヤリと笑った。
クリス「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
  そしてクレアは、私の調合した薬を飲んで歌声を取り戻した。
クレア「ううっ・・・白き魔女様。なんとお礼を言えばいいか。本当に本当にありがとうございます」
白き魔女「ヒヒッ。泣くんじゃないよ。泣いてちゃ良い歌は歌えんだろ?次の公演楽しみにしとるよ」
クレア「はい」
白き魔女「おっとそうだ。公演のチケットは取るのが大変だから、関係者扱いにしてくれるように便宜を図ってくれるとありがたいね。ヒヒッ」
クレア「そんな事お安い御用ですよ」
白き魔女「そうかい。じゃあ次の公演、二人のハーモニーを楽しみにしてるからね」

〇劇場の舞台
  次の公演、私は関係者として二人の公演を楽に見る事ができた。
  天使の歌声を聞けるんだ。薬の調合なんてお安い御用さ。
  あー、でもあの魔女には怒られるかね。まあどうにかなるだろう。
  あれとはもう百年以上の長い付き合い。古い知人だし。ヒヒッ、今日も特別席で天使の歌声を堪能するとするかね。
  今日も二人の歌姫のハーモニーが公演を盛り上げる。
白き魔女「ほう。姉のクレアの方は、演奏しながら歌えるようになったんだね」
白き魔女「ヒヒッ、器用だねえ。声を失ってから更に成長したね。まだまだこれから歌姫としてレベルが上がっていくね。今から楽しみだ」
  そこに現れたのは、声を奪った魔女だった。
魔女「なぜだ!?なぜ声が戻っている。私が奪ったはずなのに。あの歌声は私だけの物だったのに」
白き魔女「ヒヒッ。残念だったねえ。歌声ってのは、独り占めするものじゃない。皆で楽しむ為のものさ」
魔女「白き魔女っ・・・!!お前の仕業か!!」
白き魔女「ヒヒッ。さあね。私とやり合うかい?」
魔女「・・・やめとこう。お前とは百年経っても決着が付かないからな」
白き魔女「ヒヒッ、そうかい。それが賢明だよ」
白き魔女「あの双子の歌姫は私のお気に入りだからね。手出ししたら私が黙ってないよ」
魔女「どうやら厄介な虫がついたみたいだね」
白き魔女「あんたも大人しく天使の歌声を楽しめばいいのさ。ヒヒッ」
クリス「ラララーラララー♪」
クレア「ラララーラララー♪」
  今日も二人の美しいハーモニーが響き渡る。

コメント

  • 壮大なる姉妹愛、素晴らしい歌声が魔女の心をも動かしたんですね。この世における善悪の融合のようなお話に感動です。良心の連鎖で平和が訪れますように。

  • 声を失う覚悟って、相当なものだと思うんですよ。
    それを失ってまで妹を助けようとする姉妹愛が素敵です。
    でも、魔女も粋なことをしますね!
    二人の天使の歌声って美しいんでしょうね。

  • 自分の声を封じられても、妹がきれいな歌声を出せるようになったことを喜んでくれる、なんて純粋なお姉さんなんでしょう。美しいものはみんなで分かち合うべきだという意見にはっとしました。二人の生き様はそれを体現していますね。美しいものを素直に楽しんでいる姿はそれ自体が美しいのだなあと感じ入りました。

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