第八話 決壊(脚本)
〇ボロい校舎
鮎田塾は当別下川通りに校舎を建築し、当別教育所から当別小学校となった。
村の子供「新しい学校は大きいね!」
村の子供「運動場もあるんだって!」
村の子供「知ってる?」
村の子供「ここには旧土人の子供も通うんだって母上が言っていたよ」
村の子供「やだあ・・・」
村の子供「旧土人は石投げたり、ツバかけたりしてくるんでしょ!」
村の子供「だいたいあいつら、和人語通じるのかよ?」
兼継(かねつぐ)「おまえら、陰で人の悪口を言うのは止めろよな!」
村の子供「なんだよ、兼継は和人のくせに、旧土人の肩を持つのかよ!」
兼継(かねつぐ)「みんな同じの日本人になったんだよ!」
兼継(かねつぐ)「日本政府がそう決めたって、鮎田センセイから学んだだろ?」
村の子供「あーあ」
村の子供「朝から嫌な気分」
村の子供「学校来るの、嫌かも〜」
兼継(かねつぐ)「俺もこの前、サクアがアイヌだって知ったばかりなんだ」
兼継(かねつぐ)「だから、アイヌは悪い奴らじゃないって分かってるけど・・・」
兼継(かねつぐ)「ちょっと怖い」
兼継(かねつぐ)「だからといって、陰口は武士として卑怯た!!」
〇ファンタジーの教室
村の子供「なんのニオイかな・・・」
村の子供「この教室、ドブくさくないか?」
村の子供「たぶん・・・クサイのはあの子だよね」
村の子供「旧土人は風呂入らないんじゃない?」
村の子供「ヤダヤダヤダ!」
村の子供「汚いから、こっち来ないで!」
兼継(かねつぐ)「お前ら、いい加減にしないか!」
兼継(かねつぐ)「俺が相手になってやる!」
兼継(かねつぐ)「うおおおお~~~!」
鮎田先生(あゆた)「フムフム・・・やはりな!」
〇古風な和室(小物無し)
尚継(なおつぐ)「早速、小学校で揉め事が起きたということか」
尚継(なおつぐ)「しかも、兼継と他の生徒が喧嘩するなんて意外だな」
兼継(かねつぐ)「だってあいつら、卑怯なんだもの!」
兼継(かねつぐ)「アイヌの子供のこと、 言葉が分からないからって、ずっと差別発言するんだ!」
兼継(かねつぐ)「サクアがあんな風にからかわれたら、俺許せないよ!」
尚継(なおつぐ)「兼継・・・」
鮎田先生(あゆた)「尚継さま、今回の件は子供の喧嘩だけじゃ済まないかもしれません」
鮎田先生(あゆた)「子供の保護者たちからも不安視する声が出ていますよ」
サクア「ナオ、センセイ」
サクア「私がみんなの前でお話しします」
兼継(かねつぐ)「ダメだよ、サクア。 嫌な思いをすることはないよ」
兼継(かねつぐ)「サクアは、兄上と結婚するんだろう?」
サクア「ど、どこでそれを・・・!?」
サクア「それはまた、別の話!」
サクア「鮎田センセイ、お気づきかもしれませんが、私は半分アイヌの民で、」
サクア「アイヌの巫女として育ちました」
鮎田先生(あゆた)「そうであったか!」
鮎田先生(あゆた)「尚継さまには変わった生い立ちの娘であるとは紹介されたのだが、」
鮎田先生(あゆた)「なるほどな」
サクア「そもそも、私が居なかったらトウベツにアイヌと同席する学校を作ることにはならなかったはず」
サクア「アイヌでは、意見が分かれた時に何時間でも話します」
サクア「それを、ウコチャランケと言います」
サクア「トウベツの民もアイヌの民も」
サクア「日本人である前に同じ『ヒト』だから、話せば分かってもらえると信じています」
尚継(なおつぐ)「俺もみんなの前で話すよ!」
尚継(なおつぐ)「もう、隠しはしない!」
兼継(かねつぐ)「俺もみんなに言うよ!」
兼継(かねつぐ)「兄上がサクアを嫁さんにしたがってるって!」
尚継(なおつぐ)「オイ、それはやめろ!」
鮎田先生(あゆた)「やれやれ・・・逆賊の汚名返上のために、生死隣り合わせの土地で刀を農具に替え、」
鮎田先生(あゆた)「密林地帯をイチから開拓して、やっと士族として認められたというのに・・・」
鮎田先生(あゆた)「邦直さまといい、尚継さまといい、楽じゃない面倒な人柄だぜ」
鮎田先生(あゆた)「若さゆえの無鉄砲か・・・」
鮎田先生(あゆた)「いやさ!」
鮎田先生(あゆた)「俺も昔は若かったのよ!」
鮎田先生(あゆた)「ヨッシャー! 元岩出山藩の全勢力で、村人たちを説得してやるぜ」
鮎田先生(あゆた)「最古参の家老、鮎田如牛をナメんなよっ!!」
〇ボロい校舎
鮎田校長と元岩出藩の村人たちが各家庭を駆け回り、次の日には当別小学校の校庭に大多数の村人が集まった。
サクアは壇上に立つと、大きな声で自分自身について語った。
サクア「私は私の生い立ちを悲しんだり蔑んだりしていました」
サクア「だけど、トウベツでみなさんと共に暮らしたことで自分自身を見つめ直し、認めることが出来ました」
サクア「それはみなさんの優しさ、私を受け入れてくれた器の大きさです」
サクア「イレズミをしていても、カムイを天に返す儀式をしていても、悲しい戦争の歴史があっても」
サクア「アイヌも和人も見えない壁を破って、手を繋ぐことはできます」
サクア「お願いです。 お互いを理解するための学びを止めないでください」
サクア「そしてどうか、私と同様にアイヌの子供たちにも学問を、学ぶ機会を与えてください」
〇廃倉庫
ちよこ「ねえサクア、前に視察された開拓使の方が、アイヌもようの生地を作って欲しいっていうのよ」
ちよこ「ちょっとお試しに作って、欧米向けに商品化する予定なんですって!」
ちよこ「協力してね」
サクア「もちろんだ!」
ちよこ「そういえば」
ちよこ「学校での、アイヌへの差別やイジメも無くなったって?」
ちよこ「よくみんなの前に出て頑張ったね!」
ちよこ「えらいよ、サクア」
サクア「私を否定しなかったみんなのおかげだ!」
サクア「ちよこにも、兼継にも、父上、母上、センセイにも感謝だ!」
ちよこ「──で?尚継との祝言はいつなの?」
サクア「そっ、それはちよこには・・・」
ちよこ「ま、さ、か」
ちよこ「あたしの結婚を待っているわけじゃないわよね?」
サクア「ナオは、順番だと言っていたぞ」
ちよこ「私、今は事業が面白くてたまらないのよね〜!」
ちよこ「専業主夫なら募集するけど、主婦になるのはゴメンだわ」
ちよこ「まっ、父上には言っておくから、気にしないでいいわよ!」
サクア「結婚かあ・・・」
サクア「ナオと結婚して、しばらくしたら赤ちゃんを産んで、ご飯を作ったり洗濯したり」
サクア「子供が大きくなったら、また製線工場で働いて・・・?」
サクア「夢なら醒めないで・・・」
〇ファンタジーの教室
兼継(かねつぐ)「おはよう!」
アイヌの子供「・・・」
兼継(かねつぐ)「イランカラプテ!」
アイヌの子供「えっ・・・!」
兼継(かねつぐ)「サクアに教えてもらったんだ!」
兼継(かねつぐ)「俺、けっこーアイヌ語喋れんのよ。 カムイだろ、イオルだろ、イナウ、チセ」
兼継(かねつぐ)「スゴイだろ?」
兼継(かねつぐ)「『美しい村』は、アイヌ語でなんて言うの?」
アイヌの子供「・・・ピリカコタン」
兼継(かねつぐ)「じゃ、トウベツ町はピリカコタンだね」
兼継(かねつぐ)「俺、兼継。お前の名前も教えてよ」
アイヌの子供「・・・テイネプ」
兼継(かねつぐ)「テイネプ、宜しくな!」
村の子供「ねえ」
「ゴメンねってアイヌ語教えてよ」
〇湖畔の自然公園
アイヌの子供「遅くなってスマン! 母ちゃんが、妹の面倒みろってうるさくて」
兼継(かねつぐ)「気にすんなって! それより、ホントにここが魚釣りの穴場なのかよ?」
アイヌの子供「間違いないよ。 こら、背中であまり暴れるなよ」
兼継(かねつぐ)「え?何背負ってきたの」
兼継(かねつぐ)「うわあ、カワイイ赤ちゃん。 小っせー!」
兼継(かねつぐ)「何才なの?」
アイヌの子供「もうすぐ1歳だったかな? 魚釣りに行くって言ったんだけど、買い物行くから荷物になるんだと」
兼継(かねつぐ)「俺は構わないよ。 家族で俺が1番下だから、小さい子は好きなんだ」
アイヌの子供「カワイイもんか! 泣き止まない時は大変なんだぞ〜」
兼継(かねつぐ)「ハハハハ!!」
子供「・・・!」
子供「俺たちのナワバリに入りやがって・・・」
〇廃倉庫
村人「火事だー!逃げろ」
〇炎
アプフチカムイ「働かせるだけ働かせて」
アプフチカムイ「誰も私に感謝どころか、話しかけもしてくれない」
アプフチカムイ「久しぶりに思う存分、暴れるとするかーッ!!」
〇廃倉庫
六軒町の製線工場は不審火により全焼、廃業を余儀なくされた。
〇古風な和室(小物無し)
鮎田先生(あゆた)「なっ、なんだと!? 湖畔で兼継さまとアイヌの子どもが襲撃されて、背負っていた赤ん坊が傷を負った!?」
鮎田先生(あゆた)「どこのどいつだ、そのふてえ野郎は!」
兼継(かねつぐ)「ヒグッ、ヒグッ」
兼継(かねつぐ)「となりの町の子供たち・・・」
兼継(かねつぐ)「たくさん、石を投げてきた。 旧土人は、俺たちのナワバリに入るなって言われた」
兼継(かねつぐ)「トウベツ町の子どもたちは、もうアイヌに意地悪しないけど」
兼継(かねつぐ)「やっぱり、知らない奴らはダメなんだ」
鮎田先生(あゆた)「子どもか・・・! 大人よりたちが悪いな」
鮎田先生(あゆた)「製線工場の火事といい、最近は嫌なことばかりが起きるな・・・」
〇古いアパートの廊下
サクア「・・・!」
〇川沿いの原っぱ
製線工場の火事の爪痕が残るトウベツに追い打ちをかけるように
邦直(くにただ)「イシカリ・トウベツ川が溢れている!」
邦直(くにただ)「川辺の住民は、すぐに避難して、高台へ向えー!!」
3日間におよぶイシカリ川・トウベツ川の氾濫は、順調に開拓を進め、収穫を楽しみにしてきた村人たち一瞬で飲み込んでしまった。
この時の被害は流された家が14棟、潰れた家が61棟、床上浸水441棟浸水した田畑1.062ha
明治43年の治水工事まで、度々水害による被害が続いた。
〇古風な和室(小物無し)
サクア「悪いカムイが暴れている」
サクア「私が、悪い・・・」
サクア「私がここに居るからこんなことに・・・!?」
サクア「私がアイヌと和人の学校作りたいなんて言ったから!」
サクア「和人と共に暮らしたいって言ったから!」
尚継(なおつぐ)「なんの音・・・」
尚継(なおつぐ)「何をやっているんだ、サクア!」
サクア「悪いカムイが暴れているのは、巫女の仕事を怠った私のせい」
サクア「私は、もうここには居られない」
尚継(なおつぐ)「悪いカムイって・・・災害とか、事故のこと?」
尚継(なおつぐ)「そんなことで頭を柱に打ち付けるなんて、どうかしてる!」
尚継(なおつぐ)「だいたい、サクアにはカンケイがないじゃないか!」
尚継(なおつぐ)「額が切れて、血が出てるぞ!」
サクア「カンケイ無いわけ、ないじゃない」
サクア「ナオには分からないよ!」
サクア「──触らないで」
サクア「・・・・・・」
尚継(なおつぐ)「サ、サクア?」
サクア「悪いカムイと話し合うしかない」
尚継(なおつぐ)「何のことだ?」
サクア「返すね。使えなくて、ゴメンね」
尚継(なおつぐ)「・・・なんだよ、それ」
尚継は、その場から動けなかった。
〇黒背景
──tobecontinued
面白いです🤣
ネタバレ防止に名前は
書きませんが、某キャラの
「俺も昔は若かった」に大笑いしました❤️
あと、火事が家事になってます💧😅
一歩進んではまた後退といったところですね… 2人の結婚について、本人たちも家族も楽しみにしているというところで…最後の試練ですね。2人には幸せになって欲しいですが…
巫女としてカムイと向き合うことを決意したサクア、次回は後半戦の山場ですね。前半では和人ーアイヌが向き合う構造で、後半はヒトーカムイが向き合うことに。緻密な構成ですね!
人の心に潜む「異質な存在への排除心理」も描かれたこの第八話の中で、サクアの可愛い恋心には心底癒されますね!