エピソード9(脚本)
〇電気屋
店番をしている郁美。その足元には、大量の段ボールが積まれている。
『百変化! 変装マスク』
久保田郁美「どうすんだよ、これ・・・」
段ボールの中には渋い男のマスクがある。
ひとつ手に取って、顔にかぶる郁美。
久保田郁美「おう、ボウズ。 いらっしゃい」
久保田光「何やってんの、母さん」
久保田郁美「・・・・・・」
黙ってマスクを脱ぐ郁美。
戸村龍也「こんにちは、お邪魔します」
久保田郁美「え、あ、はい、いらっしゃい。 えっと、お客さん?」
戸村龍也「いえ、初めまして。 戸村龍也と申します」
戸村龍也「光君とはクラスは違いますが、仲良くさせて頂いています」
久保田郁美「あら、へぇ、そうなの」
久保田光「こっち」
光が店内の奥の階段を指差す。
戸村龍也「うん」
戸村龍也「すみません、お邪魔します」
久保田郁美「はいはい、どうぞどうぞ」
久保田郁美「あ、戸村くん」
戸村龍也「はい」
久保田郁美「んー、まあネチッこい奴だけどさ、悪い子じゃないんだ。仲良くしてやってよ」
戸村龍也「・・・ええ、もちろん」
戸村龍也「じゅあ、僕行きますね」
久保田郁美「うん、後でお菓子でも持ってくよ」
〇男の子の一人部屋
久保田光「やっぱり変声機は無理」
久保田光「録音した音声のピッチとか変えるぐらいなら何とか・・・」
戸村龍也「事件のこと、父ちゃんや母ちゃんには相談しないの」
久保田光「・・・話せないよ」
戸村龍也「なんで、いい母ちゃんじゃないの」
久保田光「父さんと母さん、あんまり仲良くなくて、いっつもケンカしてて」
戸村龍也「いっつもケンカ、ねえ・・・」
久保田光「僕が盗聴してるとか、人殺しを見たとか、あんまりそういうのは・・・」
戸村龍也「ふむふむ、そっか、そっかー」
久保田光「戸村?」
戸村龍也「心配かけたくないよなー」
久保田光「え」
戸村龍也「子供ってさ、親が思ってる以上に、親に気遣ってんだよなー!」
久保田光「ちょっと、声うるさい、静かに!」
戸村龍也「ちょーい、人がいい感じのこと言ってんだから、声量を注意するな、声量を」
久保田光「だって、うるさいから・・・」
笑う龍也に、光も小さく微笑み返す。
〇明るいリビング
室内に電話の音が鳴り響いている。
佐々部香苗「はい、もしもし」
「佐々部香苗だな」
受話器から流れたのは、渋い男の声。
佐々部香苗「え、ええ、あの」
「旦那の秘密を知っている」
佐々部香苗「え」
「駅前のドドールコーヒーに来い、全てはそこで教える」
佐々部香苗「あの、誰ですか」
「すべてはドドールで教える」
佐々部香苗「イタズラですか」
「すべてはドドールで教える」
佐々部香苗「誰でもいいけど、主人の浮気の件はもうケリがついてるの」
「すべてはドドールで教える」
佐々部香苗「ねえ、なんなの」
〇通学路
「馬鹿にしないで」
ノートパソコンから、「すべてはドドールで教える」と音声が流れる。
戸村龍也「久保ちゃん、セリフのバリエーション少ねぇって」
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ピッキングと盗聴……名コンビやん