トウベツピリカコタン

ゆきんこ

第一話 毛皮の少女(脚本)

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〇雪山の森の中
尚継(なおつぐ)「アッ!」
尚継(なおつぐ)「風もないのに笹薮が動いた?」
尚継(なおつぐ)「冬眠を仕損ねた熊かっ!?」
尚継(なおつぐ)「父上の教えどおり、先手必勝!!」
尚継(なおつぐ)「ど・・・どうだ!?当たったか?」

〇黒背景
尚継(なおつぐ)「倒れた・・・! 俺よりは小さい獲物だ。 子熊かも・・・!?」
尚継(なおつぐ)「・・・!」
尚継(なおつぐ)「ひ、ひと!?」

〇雪洞
  ──明治維新後の蝦夷地イシカリ
尚継(なおつぐ)「・・・日暮れの鐘」
尚継(なおつぐ)「日がな野山を駆け回って、野ウサギ一羽も獲れないなんて・・・」
尚継(なおつぐ)「このイシカリの地の冬は、いつも曇天模様でお日様が出ない日の方が多いんだよ」
尚継(なおつぐ)「俺が去年まで居た仙台も雪は降るが、ここの雪は今ついた足跡さえ、一瞬で消してしまう」
尚継(なおつぐ)「開拓どころか、春になる前に飢え死にだ」
  16歳になったばかりの尚継のカラダに厳しい寒さと空腹が襲いかかり、無性に故郷が恋しくなった。

〇先住民の村
  恐らく、私が帰るのは春になるだろう
  任せてください!
  岩出藩、藩主の父上の名にかけて、家を守ります
  安心して、トウベツを開拓地として申請してきてださい!

〇雪洞
尚継(なおつぐ)「伊達家の長男として、160人の家臣の指揮も取らなくてはいけないのに」
尚継(なおつぐ)「その日の食糧にも困る毎日・・・ 何やってんだよ、俺は・・・」
兼継(かねつぐ)「兄上〜、もう日が暮れるよ。 今日の狩りは辞めにしよう!」
尚継(なおつぐ)「いや・・・もう少しだけ俺はやるぞ!」
尚継(なおつぐ)「先に帰っていていいからな!」
  意地を張る尚継を引き留める者は居らず、一人、二人と仲間が帰り、
  とうとう白い大地に尚継は一人ぼっちになった。

〇雪山の森の中
毛皮の少女「・・・」
尚継(なおつぐ)「おい、大丈夫か!? 毛皮を着ていたから、獣かと思ったんだ!!」
尚継(なおつぐ)「しっかり、しっかりしてくれ!!」
尚継(なおつぐ)「糞っ!今、助けるからな!!」
  尚継は弓を腰回りに付けると、毛皮の少女を背負い、
  雪道をカンジキでしっかりと踏みしめながら住処の板蔵に戻った。

〇古民家の居間
毛皮の少女「・・・」
尚継(なおつぐ)「ああ、目覚めたか。 まったく、昨日は散々だったよ」
尚継(なおつぐ)「獲物は獲れないし、お前に矢を射掛けてしまうし・・・ おい、まだ起きちゃ駄目だ」
尚継(なおつぐ)「足に矢が刺さったのだ!無理はするな」
  布団をめくり、包帯に添え木された足を認めた少女は、顔をしかめてまた布団に横になった。
尚継(なおつぐ)「申し訳なかったよ」
尚継(なおつぐ)「暗がりだったので、そなたが羽織っていた毛皮を見て、ホンモノの子熊と見間違えた」
尚継(なおつぐ)「許してくれ」
毛皮の少女「ああ・・・」
毛皮の少女「フフ」
毛皮の少女「本当に私が熊だったら・・・君はもう、この世に居なかっただろうな」
尚継(なおつぐ)「なにっ!?」
毛皮の少女「罠もかけず、矢に毒すら塗らないで熊を仕留めようなんて」
毛皮の少女「赤子が熊の目の前に立つのと変わらないよ」
毛皮の少女「しかもこの毛皮は熊ではなく、鹿のモノだよ・・・それも分からないんだな!?」
  憎まれ口を叩く少女は、毛皮を脱ぐと可憐に微笑んだ。
尚継(なおつぐ)「生意気を言われているのに、不思議と腹は立たん」
尚継(なおつぐ)「おかしな気分になるオナゴだな」
尚継(なおつぐ)「見たところ、旧土人なのだろう?」
尚継(なおつぐ)「和人はそのような刺繍の衣服を着ないからな」
尚継(なおつぐ)「だが、言葉は話せるのは驚いたよ」
サクア「君たちの言う『旧土人』とは、和人の言葉が話せない、和人ではない人のこと?」
尚継(なおつぐ)「俺はちゃんと塾で教わったのだ」
尚継(なおつぐ)「旧土人は、言葉は話せず読み書きが出来ない、獣のような民族だと」
サクア「そうではないアイヌに会ったのは初めて、ということか」
サクア「その『塾』とやらは、ウソつきだな」
サクア「アハハ!」
尚継(なおつぐ)「アイヌ?」
サクア「『旧土人』ではなく、私たちは仲間を『アイヌ』と呼ぶよ」
尚継(なおつぐ)「アイヌか・・・」
尚継(なおつぐ)「俺は仙台から来た元・岩出藩藩主の長男、伊達尚継という」
尚継(なおつぐ)「お前の名は?」
サクア「サクアマツ。 みんなはサクアと呼ぶ」
尚継(なおつぐ)「アイヌのサクア。 キズが癒えるまで、ここに居て良いぞ」
サクア「・・・恩には着ないよ。 当然だろう、私が被害者なのだからな」
尚継(なおつぐ)「いちいち気に障る言い方をするヤツだなあ!」
サクア「君こそ、初対面の人間にケガを負わせた割には、上から目線でモノを言うじゃないか?」
尚継(なおつぐ)「ったく、変なやつ!」
尚継(なおつぐ)「もし、起き上がることができるのなら、朝餉を用意させる」
尚継(なおつぐ)「食材が少なくて、大したモノはできないがな」
  サクアは顔まで布団を引っ張り上げると、急に肩を震わせた。
尚継(なおつぐ)「どうした?」
サクア「クク・・・だって・・・あの狩りの出来では・・・食材は期待できないと思って・・・プププ・・・」
尚継(なおつぐ)「笑っていたのか! もう、いい加減にしろっ!」
尚継(なおつぐ)「本当に失礼なヤツを拾ってしまった」
尚継(なおつぐ)「だが」
尚継(なおつぐ)「何時も圧し殺していた感情を出して、人と喋ったのは何時ぶりだろう・・・」
  板蔵を去った尚継は、久しぶりの日の光に目を細めた。

〇雪山の山荘
  3日ほど経つとサクアが立てるほどに回復し、尚継は母たけのいる板蔵を訪れた。
たけ「旧土人の娘ですって?」
たけ「それにしては、入れ墨が無いのね!」
サクア「──私は特別なんだ。とある事情で結婚ができないので、墨を入れる必要がない」
たけ「それに、和人語も話せるのだな!」
サクア「私の父は和人だ」
サクア「母は和人と交易のある家で育ったので、幼いころから和人語を教えられてきた」
尚継(なおつぐ)「ほら、見てみろ。出来たぞ」
尚継(なおつぐ)「トドマツでこしらえた松葉杖だ。仕上げになめし皮で擦り上げて・・・完成!」
サクア「わあっ!」
  サクアは両脇に松葉杖を挟むと、早速、歩き回ってみせた。
サクア「なかなかいいね!歩きやすいよ」
サクア「ナオは狩りより、こういうのが向いているんじゃないか?」
尚継(なおつぐ)「コイツ、母上の前で馬鹿にしやがって!」
サクア「アハハハ! 鬼さんこちら!」
尚継(なおつぐ)「待て、コラ!」
たけ「誰にでも、信義を持て」
たけ「我が家の家訓よ。 旦那様が居られても、同じことを仰るでしょう」
たけ「サクアは傷が癒えるまで、ここで暮らすといいわ」
たけ「ただし、ここにいる間は私たちと同じようにしなければなりません」
たけ「旧土人ということは、私たち以外には秘密になさい」
たけ「わかるわね?」
サクア「うん。分かった!」
たけ「元気の良い娘ね。 周りを明るくさせる力があるわ。 尚継の笑顔も久しぶりに見た気がする」
たけ「背丈はちよこよりも小さいようね? 箪笥の奥の着物を調べてくるから、少しここで待っていてね」
尚継(なおつぐ)「良かった。母上はサクアを気に入ったようだ」
サクア「良い母上だな!」
尚継(なおつぐ)「・・・うちの者はみな、良い人すぎるんだ」
尚継(なおつぐ)「そのせいでこんな辺境の地を、開拓することになった」
尚継(なおつぐ)「戊辰の役で敗れた時にもっと上手く立ち回っていれば・・・」
尚継(なおつぐ)「もしくは、家臣など捨てて残った家財を売りはらって夜逃げでもしていれば」
尚継(なおつぐ)「私たち家族が苦労することはなかったと、いつも恨めしく思っている」
サクア「ナオは・・・」
サクア「ナオは、家族が嫌い?」
尚継(なおつぐ)「馬鹿な」
尚継(なおつぐ)「嫌いになれないから、苦労しているのだ」
サクア「一瞬、私と一緒かと思っちゃったよ・・・」
サクア「──私は・・・家族も、私のアイヌの仲間たちも嫌い」
尚継(なおつぐ)「えっ、なぜだ?」
サクア「私が・・・混血だから。 アイヌでも、和人でもない」
サクア「父上は私が幼い時に失踪した。 母上も、私を腫れ物扱いする」
サクア「居るのに、居ないもののように扱われるなら、いっそアイヌがやらないことをしようと思った」
サクア「だから、和人を見ると近づいて、本州のいろんな話しを聞いていたんだ」
尚継(なおつぐ)「それであの狩りの時に、俺の背後に潜んでいたのか!?」
サクア「・・・まさか」
サクア「あまりにも狩りが下手くそな和人だから、」
サクア「面白くてつい、後をつけただけだよ!」
サクア「私を射抜くとは思わなかったがな!」
サクア「アハハハ!」

〇雪山の森の中
ユワレ「サクア・・・!」

〇怪しげな祭祀場
首長「サクアが和人の家で暮らしていると?」
ユワレ「はい、きっかけはケガをしたせいなのですが、どうやら自分の意思で留まっているようです」
ユワレ「もう1ヶ月経ちます」
ユワレ「開拓なんて言いながら、和人はアイヌモシリ(北海道)を侵略しているにすぎない!」
ユワレ「拐かされたサクアを早く、連れ戻すべきでしょう!」
首長「サクア・・・ただでさえ厄介な身の上なのに、次々と問題を起こしよって・・・」
アイヌの民「だが、シャーマン(巫女)としての力は母のコンベッキノよりも上だ」
アイヌの民「あと3ヶ月後のイオマンテ(熊送り)の儀式には、サクアが必要でしょ?」
首長「少し奔放にさせすぎたのう」
首長「イオマンテまでは、まだ日がある。 ユワレよ、引き続き監視を続けてくれ」
首長「サクアは然る後、連れ戻して私自らがシャーマンとしての再教育をする」
首長「よいな?」
ユワレ「──承知しました」
ユワレ「老人たちは、動きが遅すぎる! サクアの身に何かあったら、タダじゃすまさんぞ・・・」

〇黒背景
  ──tobecontinued

次のエピソード:第二話 生命讃歌

コメント

  • ごめんなさい、北海道のことは何一つワカラナイのですが、混血というだけで除け者にされてきたと笑うサクアに泣けてしまいました。けれど、実はシャーマンの末裔? アイヌたちはサクアが拐われたと思っている? 
    先の読めない展開に、続きがとっても気になりました!
    サクアが自分の存在を認められるようになるといいなぁ

  • 明治開拓期の北海道の空気感を漂わせながらのヒューマンファンタジー、とても面白いですね。壮大なテーマに胸が躍ります!

  • 実在の話かと思わせるほどの話の説明でした。いろいろと社会的にも考えさせられる話にもなりそうですが、純粋にファンタジー作品としても楽しめるストーリー展開になりそうで楽しみです。

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