狂人(クルイビト)(脚本)
〇ビルの裏
真山由花「飯島さん──!!」
飯島警部補は、誰にでも平等な人だった。
真山由花「しっかり・・・・・・!」
真山由花「しっかりしてください──!!」
真山由花(なんて、むごい・・・・・・)
真山由花「おのれ、狂人め──!!」
飯島の返り血を全身に浴びた子どもは、その場に立ち尽くし、小刻みに震えている。
真山由花「くそ、外した」
飯島雉鷹「撃つな──!」
飯島は真山の構えた銃を血まみれの手で掴み、ゆっくりと地面に向けさせる。
子どもの影はその隙に走り出した。
真山由花「──おい、待て!!」
飯島雉鷹「追うな──!!」
真山由花「しかし──!!」
飯島雉鷹「子どもだ──!!」
飯島雉鷹「──まだガキじゃねぇかよ・・・・・・!?」
真山由花「しかし、奴は飯島さんをその手で──!!」
飯島雉鷹「ああ・・・・・・」
飯島雉鷹「けどな、真山────」
飯島雉鷹「ガキに人間も、化物もねえんだよ」
真山由花「・・・・・・」
真山由花「また、”狂人も人の子”ってやつですか?」
飯島雉鷹「そうだ」
飯島雉鷹「奴らも好きで狂人になったんじゃない」
飯島雉鷹「皆等しく狂人になる可能性がある」
飯島雉鷹「俺も、お前も・・・・・・」
真山由花「それは、そうですが──」
飯島雉鷹「俺はな、見てみてえんだよ」
飯島雉鷹「狂人のガキが病に打ち勝ち、」
飯島雉鷹「大人になるところを──」
真山由花「・・・・・・分かりません」
真山由花「私は──・・・」
真山由花「──奴らに、家族を殺されました」
飯島雉鷹「ああ・・・・・・そうだったな」
真山由花「だから、」
真山由花「・・・・・・私には、」
真山由花「飯島さんの考えが分かりません」
飯島雉鷹「・・・・・・そうか」
真山由花「狂人を処すため、警察官になったんです!」
飯島雉鷹「ご立派なこったな」
真山由花「ですが──」
真山由花「──嫌いじゃないです」
真山由花「飯島さんの、夢物語は」
飯島雉鷹「けっ・・・・・・」
真山由花「だって、それって狂人がいなくなるってことですからね」
飯島雉鷹「お前らしい──」
飯島雉鷹「──それでいいさ」
飯島雉鷹「────けどよ」
飯島雉鷹「あるかもしんねえだろ?」
飯島雉鷹「夢物語」
真山由花「──はいはい、そうですね」
強い雨が地面に叩きつけられ、跳ね返る。
飯島雉鷹「なあ、真山──」
真山由花「はい?」
──あとのことは、頼んだぞ
飯島の呼吸がゆっくりと、止まった。
真山由花「──!?」
真山由花「飯島さん──!!」
真山由花「うそ、うそですよね──」
真山由花「飯島さん──!!」
真山由花「飯島さん────!!!!」
〇雑踏
狂人(クルイビト)────
20XX年を境に広まった狂人病である。
別名──脳を喰らう病。
人間を無差別に襲い脳を喰らう奇病。
その発症メカニズムや、治療法は見つかっていない。
発症患者は犯罪危険因子と見なされ、
即刻処刑対象とされる。
処刑執行人の条件は、警察官であること。
ただ、それだけである。
〇住宅街の公園
真山由花「──あの、すみません」
久宝水輝「はい?」
真山由花「この辺りで猫を見かけませんでしたか?」
久宝水輝「──猫ですか?」
真山由花「この猫なんだけど──」
久宝水輝「猫のストラップだ」
久宝水輝「飼い猫をストラップにするなんて、 よほど猫が好きなんですね」
久宝水輝「でもこれ、──あなたのですか?」
真山由花「あ、いや・・・・・・」
真山由花「友人の猫なの」
久宝水輝「ああ、だと思いました!」
真山由花「え?」
久宝水輝「お姉さん、そういう持たなそうだなあって」
久宝水輝「あ、すみません、失礼ですよね──」
真山由花「ううん、当たってるわ」
真山由花「──昨日、うっかり逃げてしまったみたいで」
久宝水輝「へぇ、」
久宝水輝「猫も大変ですね・・・・・・」
真山由花「え?」
久宝水輝「”逃げる”なんて──」
真山由花「逃げる?」
真山由花「あ、ああ!」
真山由花「それもそうねぇ──」
真山由花「猫にとっては、 お出掛けってとこなのかしら?」
久宝水輝「そうかもしれませんね」
久宝水輝「──それで、その猫なら」
真山由花「見たの!?」
久宝水輝「さっき、あっちに歩いて行きましたよ」
真山由花「え、本当に!?」
久宝水輝「はい」
真山由花「有力な情報をありがとう、探してみるわ」
久宝水輝「いいえ、見つかるといいですね」
真山は、少年に軽く頭を下げ公園を出た。
〇ゆるやかな坂道
真山由花(数値、異常なしか──)
狂人値計測器──心拍数、体温で狂人病の発症者を検知する。
真山由花(昼間から公園のベンチでぼーっとしないでよね、怪しいったらありゃしない──)
真山由花(まったく──!)
真山由花(ああいう、何考えているのか分からない子の行動は本当に予測できない!)
真山由花「って──!?」
真山由花「ダメダメ、私ったらすぐ仕事モードになるんだから──」
真山由花「夜までに猫を見つけないと!」
あちこちを探し回ったが、猫は見つからなかった。
真山由花「──もう、猫どこなの!!」
スマホの着信音が鳴った。
真山由花「はい、真山──」
真山由花「なに!?」
真山由花「すぐに向かう!」
〇屋上のヘリポート
真山由花「そこまでだ──!!」
???「・・・・・・」
降り止まぬ雨──屋上に立つ人影。
足元には複数の人間が転がっている。
真山由花「警視庁特殊事件捜査班だ!」
???「・・・・・・」
真山由花(襲ってこない──!?)
真山由花(死体に外傷が見られず、食脳の痕跡もない)
真山由花(何なんだこいつは──)
真山由花「そこを動くな!」
真山は、銃口を向け距離を詰める。
真山由花「狂人であるなら即刻、刑を執行する!」
狂人を見分ける計測器が、
異常値を示す警告音を鳴らした。
真山由花「数値が通常の狂人より高い──!?」
真山由花(こいつ、どれだけ殺めたというのだ)
真山由花「足元の彼らをやったのは、お前か?」
???「──忠告だ」
真山由花「狂人が喋った──!?」
???「──警察は狂人の処刑から手を引け」
真山由花「できるわけないだろ──!?」
真山由花「狂人の処刑は市民を守るために行うものだ!!」
???「──狂人を処すのは俺で十分だ」
真山由花「どう言うことだ!?」
???「──人間を救いたいなら・・・・・・」
真山由花「おい・・・・・・!!」
人影は途端に暗闇に消えた。
真山由花「待て!!!!」
真山由花「くそ、油断した──!!」
真山由花「こちら真山、狂人判定の被疑者が逃走」
真山由花(なんだアイツは──!?)
古賀大成「先輩、今のは──!?」
古賀大成「狂人・・・・・・なのですか!?」
真山由花「いや────」
真山由花「狂人が言葉を交わすなど、あり得ない」
地面に倒れた複数の人間の脈は、
すでに途絶えていた。
古賀大成「可哀想に・・・・・・」
古賀大成「何故、狂人は罪なき人間を襲うのでしょう」
真山由花「それが狂人病だ・・・・・・」
真山由花「だが、今回は違う──」
古賀大成「違うって、何が違うんですか?」
真山由花「恐らく、殺された彼らも────」
真山由花「”狂人”だ」
古賀大成「え!?」
真山由花「──争った形跡がある」
真山由花(それに、奴のあの言葉・・・・・・)
古賀大成「仲間割れということですか?」
真山由花「さあ・・・・・・」
真山由花「そもそも、狂人に仲間という概念があるのかも分からない」
古賀大成「ああ、それはなさそうですねぇ」
真山由花「同感だ」
真山由花「さっきのは何かの間違いだろう」
真山由花「この計測器を修理に出せ」
古賀大成「はい、備品部にクレーム入れておきます!」
真山由花(狂人が言葉を交わすことなど、)
真山由花(──あってはならない)
真山由花(理性の欠片もない奴らだ)
真山由花(だからこそ私は、迷わず執行できる)
真山由花(”狂人”だから、撃てる)
真山由花「でも・・・・・・」
真山由花「もしアイツが──・・・本当に、」
真山由花「狂人だとしたら────」
真山由花(人間との違いがあるのだろうか──)
謎の狂人は、他の狂人を殺めてきたんでしょうか。
言葉を話し理解する者を、殺すことはできませんよね。
刑の執行が警察官のみというのも少し怖く感じます。
狂人が言葉をもたないからこそまるで物のように処刑してきたのだろうが、もし彼らが言葉を理性をもってしまったら、その後は処刑ではなく、違う種族同士の戦争になってしまうのではなかろうか、、。真相が気になります。
狂い人に至る原因が何なのかとても気になりますね。ただもし自分自身が狂人になってしまい、意思とは逆に誰かを傷つけたりしなくなるのなら、ただ彼らを処刑してしまえばよいということではなさそうですね。是非、亡くなった飯島警部補の望みを叶えてほしいです。