1 知らぬそれは小さな罪と記憶する(脚本)
〇小さな小屋
遠くには波の音が聞こえ、近くには風の吹き荒ぶ音のする小さな家の中に、一人の老婆が居た
安楽椅子に預けられた身は痩せ、皺の多い顔は片目をずっと閉じている
その家の中に他は誰も居ないが、老婆は窓の方を向いて話し始める
老いた魔女「──そうさね、お前さんが聞いてくれるのなら、アタシの罪を告白しようか」
どうやら窓の外に聞き手が居る様子だ
老いた魔女「あの子にどこまで話すべきか、もうすぐくたばるって今の時までアタシは決めかねて居るのさ」
老いた魔女「お前さんならアタシの話しを受け止めてくれそうだからねぇ」
〇黒
──さて、何から話そうか?
今夜はあの子も帰らないハズだからね
時間はたっぷり有る
やはり、最初の罪から話そうか
〇古書店
アタシの若い頃──魔女の館から話そう
──アン? 何?
容姿を盛るなだって?
別に盛っちゃあいないよ
アタシだって若い頃はあったし、これでも美人の呼び名を欲しいままにしていたのさ
悪いけれども、アタシはあの子よりも顔は良かったよ
顔だけは、ね──
心根なんて、深く付き合うホンの一握りの者だけにしか分からないもんさね
だけれども、お前さんにとっちゃあ人間の美醜なんてどうだって良いだろう?
そろそろ昔話に移ろうか──
〇古書店
──そこは『魔女の館』と呼ばれる巨大な屋敷
その屋敷の最も大きな部屋『図書と講義の間』には20人程の若い女が集められていた
???「──そして、虐げられていた我らの中より、偉大なる始まりの魔女が現れたのだ!」
魔女(──退屈だねぇ)
若い女達の年齢にはいくらかバラつきがあり、上は20歳の半ば頃、下の娘は10歳に満たない
魔女(──寝るか)
この眠り始めた娘は20歳の手前位だろう──
???「始まりの魔女は、聖職者を名乗る肥えた豚より、魔法の秘技を奪った!」
偉大なる始祖の伝説を語る教師役の老婆は、今日もまた眠り始めた生意気な娘の耳に叩き付ける様──
講師役の魔女「奪った魔法はァ! ゴォーーンッ!! と音を立ててぇッ! 醜い豚をォ!! 砕いたのさあ!!」
明らかに、至近距離で叫んだ
幼いころから何度も聞かされた逸話は耳にタコができる程なのだ
そのタコで話を塞ぎ昼寝が出きるとたかを括っていたが、どうやらそのタコはこの老婆に潰されていたらしい
魔女(しょうがない・・・ 聞いてるフリして、魔術の思索をしよう)
講師役の魔女「そして偉大なる始祖はァ!!」
魔女(毛髪をそのまま混ぜるのではなく──)
魔女(胎盤を子や子孫に継がす呪法的な繋がりとして利用する事で、毛髪や血より濃く──)
講師役の魔女「卑劣な男どもめ! 真の知性を目の当たりにして、貴様らの愚を理解するが良いッ!!」
そうして、何度聞かされたかも数えられない退屈な話を、娘は今日も遣り過ごしていた
〇古書店
???「さて、皆、続きも気になるだろうけれどそろそろ夕飯の時間だ! 今日はここまでにしようかね!」
魔女(神聖な生物の爪牙を──)
魔女「──おや? 終わったみたいだね」
講師役の魔女「──いいや、始まりさ」
講師役の魔女「説教のね!!」
〇おしゃれな廊下
説教と夕飯を終えた少女は、一人自室への帰路を辿る
魔女(唐揚げは冷めてもウマかったけれど、あの脂の多いスープは冷めると最悪だ)
???「『今すぐに学長室に来なさい』」
少女以外に誰も居なかった、数歩前に通り過ぎた廊下から呼ぶ声がした
魔女「──チッ」
振り返ると、足元に──
可愛らしい一体の人形がひとりでに立ち、娘を見上げている──
魔女「夜更かしは美容の大敵だよ」
何者かが魔法で操っているのだろう
気安く言葉を返す彼女には、その相手に心当たりが有りそうだ
???「それは良い、もう少し後で呼び出そうか?」
魔女「──それには及ばないよ、今から行ってやる」
可愛らしい人形の顔を片手で鷲掴みにし、反対の手で窓を開け外へ投げ捨てる
魔女「ここらが潮時かね?」
『すぐに行く』と答えた娘はその言葉に反して学長室のある方ではなく、自室に向かう
そしてしばらく自室で物音をたて──
着替え、武装し、僅かな荷物を持った姿で廊下へと帰って来た
そうして娘は今度こそ、学長室へと向かう
〇屋敷の書斎
魔女の長「入りなさい」
魔女の長「遅かったじゃ──」
机の上の書に目を落としていた老婆が顔を上げると、娘が刀を引き摺りながら入室して来た
魔女の長「仰々しい格好だね──何のつもりだい?」
魔女「呼び出したのはアンタだろ? 先にそっちの用件を済ましておくれ」
魔女の長「──最近講義での態度が随分と悪いそうだね?」
魔女「どうしてだと思う?」
魔女の長「・・・」
魔女「もうアタシには催眠も洗脳も効かなくなったからさ」
魔女「それは何時からだったと思う?」
魔女の長「──最近ってワケじゃあなさそうだねぇ よく隠していたもんだよ」
魔女の長「呼び出した件はもう終いで良いよ ・・・で、その格好は何だい?」
魔女「旅装」
魔女の長「『館抜け』は重罪だよ」
魔女「足の指全てと鼻を削ぐんだっけ? おぉ、怖い」
魔女「んで、誰がアタシの指を削ぐんだい?」
魔女「教えてみろよクソババア 先にソイツを殺してから出て行ってやるからさ」
魔女の長「アンタの後ろに居るヤツだよ」
娘は瞬時に後ろを振り返り──
だが振り向いた先には何者の影も無い
そして、向けた背と長との間に異形の傀儡が現れる
魔女の長「──まさか、ここまで」
魔女の長の傀儡「キシッ──」
娘の背後で傀儡はなぜかその場に崩れ、そして娘はゆっくりと振り返る
魔女の長「そのコート、随分と手の込んだ品だねぇ」
はためいたコートの裾は鋭く伸び、背後に忍び寄った傀儡を切り裂いたのだ
魔女「さすが長、ご明察 コレはアタシの毛髪と血にまみれた逸品さ」
魔女の長「独学で秘術を修めたのかい?」
魔女「そして、この刀もね」
娘は一度振り向いた先、そこで腰の刃を抜き放っていた──
〇屋敷の書斎
魔女の長の傀儡「コアァ──」
何者も居なかった空間に両断された傀儡が姿を現し、そして崩れ落ちる
魔女「他に卑怯な手は────使わないのかい?」
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なんだか悲しいような、怖いような…。
人を殺めることに快楽をおぼえる人は、それを繰り返してしまうんですよね。
最後に娘に謝ることも許されなかった彼女が不憫でした。
この作品は、某作品とリンクしているのでは?と深読みしてしまう私です( ´ ▽ ` )つ
続きが気になります!
愛するがゆえに嘘をついていたことが、大きな誤解を招き仇になってしまった切ないパターンですね。秘術をすべて覚えるほどの才能はやはり受け継いたものだったのでしょうか。