第三話 アジの干物(脚本)
〇教室
星有紀「勝負・・・?」
矢的隆司「ああ。この俺と給食の王の座をかけて、な」
星有紀「ふふ。私のアレンジを目にして、危機感を抱いた、ということかしらね」
矢的隆司「・・・・・・」
星有紀「あら、図星ですの?」
矢的隆司「・・・御託はいい。勝負を受けるのか? それとも受けないのか?」
星有紀「ふふ、いいでしょう。面白そうですし、その勝負、受けて立ちますわ」
〇教室
そして翌日の給食の時間、すなわち勝負の時間。
俺と星有紀は、互いににらみをきかせていた。
佐藤亮「ま、まだお互いにアレンジすら行っていないのに、この殺気・・・」
佐藤亮「お互いが給食のアレンジに抱く、想いの強さが伝わってきますね・・・」
佐藤亮「しかし・・・今日の給食のメニューは・・・」
男子生徒「うえーっ・・・今日アジの干物かよ。俺、嫌いなんだよな。何だか生臭いし」
女子生徒「それに冷めてて固いから、食べづらいんだよね」
佐藤亮「・・・やはり今回の干物は、不人気のメニューのようですね」
佐藤亮「これを二人がどうアレンジをするのか・・・」
矢的隆司「では、早速勝負を始めるとしようか」
星有紀「お待ちになって。勝負の判定は、誰がつけるのかしら?」
矢的隆司「それは亮が行う。お互いのアレンジを亮が味わい、味、アレンジの斬新さ、調理工夫などを加味して判定する」
星有紀「構いませんが、彼は矢的さんのご友人でしょう? 贔屓などはありませんの?」
佐藤亮「ふっ。見くびってもらっては困りますね」
佐藤亮「いくら隆司くんと旧知の仲とはいえ、給食のアレンジに私情は挟みませんよ」
佐藤亮「僕とて、形は違えど味の探究者ですから」
星有紀「・・・なるほど。その言葉を使うのであれば、信じるといたしましょう」
矢的隆司「時間が惜しい。まずは俺がアレンジを行わせてもらおうと思うが、構わないな?」
星有紀「どうぞ。先行はお譲りしますわ」
矢的隆司「では・・・アレンジ開始だ!」
佐藤亮「・・・ほう。まずはアジの身をほぐしていくところから始めるわけですね」
矢的隆司「そしてほぐしたアジは、ご飯の上に乗せていく」
矢的隆司「アジを終えた次は、このサラダだ」
佐藤亮「サラダでどのようなアレンジを?」
矢的隆司「サラダというよりも、今回必要なのはこの中に入っている・・・」
佐藤亮「きゅうり・・・?」
矢的隆司「このきゅうり、それと持ってきたすりごまと顆粒だしを好みの量、ご飯の上へとかけていく」
矢的隆司「そして、みそ汁をぶっかけて、水筒に入れて持ってきた氷を添えれば・・・」
星有紀「冷や汁の完成、というわけですね」
矢的隆司「お嬢様がよく知ってるじゃないか」
星有紀「この程度、常識ですわ」
男子生徒「冷や汁? なんだそれ」
星有紀「日本の各所で見られる郷土料理ですわ。出汁と味噌で作る、冷たい汁物料理です」
矢的隆司「さあ亮。食べてみてくれ」
佐藤亮「わかりました。では、いただきます」
亮は箸を手に取り、冷や汁を口にする。
佐藤亮「これは・・・想定以上の美味しさですね!」
佐藤亮「きゅうりの食感、ごまの風味。そして冷たい味噌汁のおかげで、食欲のない日でもするすると食べられそうです!」
佐藤亮「しかし、このまろやかさは一体・・・」
矢的隆司「その正体は、こいつだ」
星有紀「それは・・・!」
女子生徒「ええ、牛乳ぅぅ!」
佐藤亮「ふふふ、なるほど、そうきましたか。味噌と牛乳・・・意外かもしれませんが、相性は抜群ですからね」
佐藤亮「この牛乳を入れることで、冷や汁の味を一段引き上げた、というわけですね」
星有紀「・・・まさか給食のメニューをここまで活用するなんて・・・やりますわね」
矢的隆司「さて、俺のアレンジは終わった。次はお前の番だ」
佐藤亮「隆司君のアレンジは、非常にレベルが高かった」
佐藤亮「これを超えるには、相当なアレンジ力が必要ですが・・・」
星有紀「そうですね。矢的くんが涼やかにアレンジをしてくれましたので、私は情熱的にいかせていただきますわ」
矢的隆司「情熱的・・・どういう意味だ?」
星有紀「それは見てのお楽しみ、ですわ」
星有紀「とはいえ、最初の工程は、矢的さんと同じですけれど」
矢的隆司「アジの身をほぐしていく、か・・・」
星有紀「ですが、ここからは大きく異なります」
星有紀は、いつものように持ってきていた二つ目の鞄を漁り出す。そして・・・
佐藤亮「ガスコンロに、フライパン・・・!?」
星有紀「まだですわ、さらにここに、今回のアレンジの最重要アイテムを──」
そういうと星有紀はまたバッグの中へと手を突っ込む。すると・・・
なぜか、取り出した手にはニワトリが握られていた。
ニワトリ「コケーーーッ!」
女子生徒「きゃああっ!?」
男子生徒「なんで、え、なんで!」
矢的隆司「・・・手品勝負をしていたつもりはないんだが・・・まさか、その鳥を捌くのか?」
星有紀「いえ、欲しいのはこれですわ」
ニワトリ「コケーッ!」
高らかに鳴き声を上げたニワトリから、卵が一つ産み落とされた。
佐藤亮「卵・・・」
佐藤亮「そ、そのためにニワトリを・・・?」
星有紀「やはりとれたてを使いたいではありませんか」
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