第四話 アレンジの原点(脚本)
〇古いアパートの一室
矢的隆司「・・・・・・」
矢的隆司「再戦、か・・・」
矢的隆司(まさか俺の中で会心の出来だと思っていた冷や汁で、引き分けにしか持ち込めないとは・・・)
矢的隆司(わかってはいたことだが、星有紀のアレンジのクオリティは、相当に高い)
矢的隆司(生半可なアレンジじゃ、あいつに勝つことは出来ない!)
必ず、勝利を収めてみせる。そう意気込みながら、俺は勝負の日のアレンジを考えるのだった。
〇教室
しかし、それから数日が経過したが・・・
矢的隆司「ダメだ・・・!」
矢的隆司(どれだけ考えても、あいつを打倒できるようなアレンジが思い浮かばない・・・!)
佐藤亮「苦戦しているようですね、隆司君」
矢的隆司「亮・・・」
佐藤亮「まあ彼女を見ていると、その気持ちもわかりますが」
星有紀は、連日持ってきている調理器具を、教室の空きスペースへと設置している。
佐藤亮「今回は、トースターですか」
矢的隆司「今日までに持ってきた物は、他にコンロ、レンジ、ミキサー・・・」
矢的隆司「他にも細々とした物をいくつも持ってきているようだが、これら全てを使うつもりか?」
星有紀「当然、そんなつもりではありませんわ」
矢的隆司「では、なぜ?」
星有紀「給食のアレンジは、クオリティはもちろんですが、その日のコンディションも重要ですわ」
星有紀「ですが、コンディションは当日になるまではわからない・・・」
星有紀「がっつりとしたものを食べたいかもしれませんし、逆にさっぱりとしたものを食べたい可能性もあります」
星有紀「ゆえに、どのようなコンディションだとしても、美味しく食べられるアレンジを行うための準備をしているだけですわ」
佐藤亮「ものすごいこだわりですね・・・」
矢的隆司「ああ・・・」
星有紀「では、まだ準備がありますので、失礼いたしますわ」
矢的隆司「きっと、勝負当日も生半可なアレンジは行わないはず」
矢的隆司「くっ・・・俺は、どうすれば・・・」
〇狭い畳部屋
矢的隆司「ただいま・・・」
隆司の父「おかえり」
矢的隆司「父さん・・・? そうか。今日は、店は休みか」
矢的隆司「・・・む?」
リビングの机の上を見ると、そこには多種多様な高級食材が広げられていた。
矢的隆司「父さん、これは?」
隆司の父「レストランで出す、新作のメニューを考えようと思ってな」
矢的隆司「何品作るつもりなんだ・・・」
隆司の父「せっかくだから、色々と試してみたくなったんだ」
矢的隆司「だとしても、これは買いすぎじゃないか・・・?」
隆司の父「客に出す料理だ。いくらこだわっても足りないだろう?」
矢的隆司「こだわり、か・・・」
隆司の父「どうした、ジッと机の上を見て。何か気になる食材でもあったか?」
矢的隆司「いや・・・」
矢的隆司(この中の食材を使わせてもらえれば、星有紀に負けないアレンジを行うことが可能なんじゃないか?)
矢的隆司「・・・・・・」
矢的隆司「・・・ダメだ」
矢的隆司(たしかに、ここにある食材を使えば、今までできなかったアレンジを行うことはできる)
矢的隆司(だが、できれば高級食材に頼るようなことはしたくない)
隆司の父「隆司、どうかしたか?」
矢的隆司「何でもない。試作、頑張ってくれ」
〇古いアパートの一室
矢的隆司「さて・・・」
自室に戻った俺の目に、机に置いたままだったノートが映った。
矢的隆司「これは・・・」
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