第二話 ミートソースのソフト麺と冷凍みかん(脚本)
〇大きな木のある校舎
星有紀「ふふ、お察しの通り、私は味の探究者です」
星有紀「そして、それを聞くということはあなたも私と同じ、ということですわね」
矢的隆司「いや、少し違う」
矢的隆司「俺はお前以上の、味の探究者だ」
星有紀「私以上の、ときましたか。鞄を二つ持ってらっしゃったから、もしやとは思っていましたが・・・大した自信ですわね」
矢的隆司「そんなことはどうでもいい。星有紀、あの大層な調理機器はなんだ、なぜあんなものを持ち込んだ」
星有紀「当然、給食をおいしくするため、それだけですわ」
矢的隆司「それだけのためにわざわざ・・・?」
星有紀「私の祖父はこの学校の理事長をしていますの。でも、給食のセンスは壊滅的。 だから、自分でアレンジをしていますの」
矢的隆司「・・・なるほど、理事長の孫だから、あんな非常識なもの持ってきてもお咎め無しというわけか」
星有紀「そういうあなたはなぜアレンジを?」
矢的隆司「俺の家は、料理屋を営んでいてな。そんな俺にとって、この学校の給食は、美味くない」
矢的隆司「だからアレンジをしているだけだ」
星有紀「ふふっ、貴方も私と同じでしたのね」
星有紀「さて・・・もう少し話したいところでしたけど、この辺りで時間切れですわね」
矢的隆司「何・・・?」
俺が疑問に思っていると、校門の前にリムジンが横付けられた。
黒服「お嬢様。お迎えに上がりました」
星有紀「ご苦労様」
星有紀「そうだわ。最後に、貴方の名前を聞いてもよろしいかしら?」
矢的隆司「・・・矢的隆司(やまとたかし)だ」
星有紀「その名前、憶えておきます」
星有紀「ごきげんよう、矢的さん」
そう言うと、星有紀は悠々とリムジンへ乗り込み、去っていった。
〇教室
星有紀との会話の翌日。再び給食の時間がやってきた。
佐藤亮「・・・今日の彼女も、昨日と同じように何か持ってきているようですね」
矢的隆司「だが、昨日よりも持ってきている鞄が大きい。 一体、何を持ってきているのやら・・・」
疑問に思っていると、星有紀は鞄を開き、中から大きな機械を取り出した。
佐藤亮「あれは・・・電子レンジ!?」
矢的隆司「あんなものまで持ち込むとは・・・もはや、何でもありだな」
佐藤亮「しかし、今日の給食はミートソースのソフト麺と冷凍ミカンです」
佐藤亮「一体、レンジでどのようなアレンジを行うというのでしょう・・・」
星有紀「・・・・・・」
矢的隆司「ソフト麺をそのままレンジに・・・? あれが、今回のアレンジのつもりか?」
佐藤亮「隆司君。あれにはどのような意味が?」
矢的隆司「ソフト麺は、固い上に蒸された臭いがキツイなどの理由から、一部の生徒に嫌われている」
矢的隆司「だが、レンジで麺を温めれば・・・」
佐藤亮「その固さと臭いは薄くなる・・・!」
矢的隆司「それだけじゃない。麺がほぐれることで、ミートソースと絡み、より美味しく食べられる」
矢的隆司(だが、大げさな調理機器を持ってきた割に、この程度のアレンジとはな・・・)
佐藤亮「それで、隆司君。彼女のアレンジを見た後ですが・・・君は今回、どのようなアレンジを行うのですか?」
矢的隆司「今回の俺のアプローチは、あいつとは違う」
佐藤亮「と、言いますと?」
矢的隆司「俺がアレンジするのは、麺じゃない。ミートソースの方だ」
秘蔵の鞄に手を伸ばし、いつものように中から調味料を取り出していく。
矢的隆司「給食で配られるミートソース。これは、器の大きさや、麺の固さなどの理由から、混ぜるのが難しい」
矢的隆司「ゆえに麺はたいして絡まず、よりソフト麺のダメな部分をダイレクトに味わうこととなってしまう」
矢的隆司「だが、このようにニンニクやソースを追加すれば・・・」
佐藤亮「ニンニクの強い香りで臭いは緩和され、麺が絡まないことで味が薄い部分をソースで補うことができる・・・」
佐藤亮「ふふっ、いつもながら見事なアレンジです」
矢的隆司「ふん。この程度、大したアレンジじゃない。誰でも簡単にできるものだ」
亮と会話をしながら、給食を食べ進めていく。
そして、ソフト麺を食べ終わった俺は、デザートの冷凍みかんに手をつけた。
佐藤亮「隆司君。その冷凍みかんにも何かアレンジを行うんですか?」
矢的隆司「いや、これはシンプルにそのまま──」
ギュウウウウウンッ!
矢的隆司「! な、なんだいまの機械音は!?」
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